万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

地球温暖化問題と軍事力との関係は?

2020年12月24日 13時54分40秒 | 国際政治

 地球温暖化問題と申しますと、国際協力を要する平和的な問題領域として扱われています。このため、地球環境問題と軍事力との関係が人々の関心を集めたり、メディア等にあって盛んに論じられることもないのですが、石油というものが‘戦略物資’である点を考慮しますと、この側面も無視できないように思えます。歴史を振り返りますと、日米開戦のきっかけは石油禁輸措置でしたし、今日にあっても、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止する制裁措置として、国際社会は国連決議を以って石油禁輸に踏み出しています。

 

 温暖化ガスを排出しない社会とは、脱炭素社会、あるいは、カーボンニュートラルとも称されています。つまり、燃焼に際して二酸化炭素を排出する石油、石炭、天然ガスといった化石燃料は、全て規制の対象となるのです。もっとも、燃焼や製造過程で二酸化炭素を排出しても、それを固形化して地中に埋蔵したり、他の用途に再利用するといったテクノロジーが確立すれば、必ずしも化石燃料の使用量をゼロにする必要はないそうです。政府は、二酸化炭素の再処理方法の開発を急いでいるとも報じられています。

 

しかしながら、大型プラントではこうした方法も可能なのでしょうが、小規模、かつ、即時的なエネルギーとして使用する場合には、この方法を採用するハードルは格段に高まります。研究・開発が先行した自動車については、ハイブリット車やEVを普及させるそうですが、大型エンジンを搭載している航空機ともなりますと、電化には強力な磁力発生方法の開発などから始める必要があるそうです。そしてこうした側面は、戦闘機といった高度で複雑なエンジンを搭載したあらゆる種類の兵器についても言えます。

 

ミサイルも含めて兵器の殆どが燃料充填型ですので、戦争に際しては莫大な量の石油が必要となりますし、平時にあっても訓練や軍事演習のために石油燃料は必要不可欠です(もっとも、潜水艦等につては原子力も使用されている…)。今日にあって、石油依存度が極めて高い分野なのですが、2050年までにこれを全て電化するとなりますと、ハイテクであれ、ローテクであれ、これまで保有してきた燃料使用型の兵器の殆どを買い替える必要が生じてきます(有事の際の電力不足によって、国家崩壊も起こり得る)。防衛力を落とさずにゼロ目標を実現しようとすれば、軍事費の予算は跳ね上がることとなりましょう。

 

 もっとも、未来型の兵器として目されているのは、レーザー兵器やレールガンなどです。これらの兵器は電力が用いられる‘電化兵器’なのですが、それらの兵器の実用化には電力供給を要します。軍船に搭載するレールガンについては、大型ガスタービンによって発電する方法が検討されているそうですが、‘電化兵器’もまた、それを脱炭素とするならば、再生エネや原子力など、何らかの方法で大量の電力を造り出さなければならないのです。因みに、中国では、先日、大型の停電が発生したそうですが、その原因として、米中対立を背景として中国が臨戦態勢を整えているとする情報もあり、新型兵器の‘電化兵器’の使用をも視野に入れた軍事部門への優先的な電力供給が実施されたからなのかもしれません(公式には、‘送電線の故障’とされているものの、オーストラリアからの石炭禁輸原因説や三峡ダム水力発電量減少説なども…)。なお、災害時と同様に有事にあっては、‘オール電化’は、電気系統に対する攻撃を受けた際に全活動の停止を意味しますので、致命的な弱点ともなりましょう。

 

  何れにしましても、地球環境問題とは、それが戦略物資と不可分にかかわるだけに、その影響は軍事部門にも及びます。菅政権が全ての影響範囲について十分に検討した上でゼロ目標を掲げたとも思えず(見方によっては自国に禁輸措置をとることに…)、防衛コストの上場等、マイナス面にも目を向けた反対論や慎重論があって然るべきなのではないかと思うのです。

 


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