万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イスラエル・ハマス紛争の不可解

2023年10月10日 12時48分02秒 | 国際政治
 パレスチナのイスラム過激派組織ハマスによるイスラエル攻撃は、既に始まっている第三次世界大戦の一幕とする見方もあります。その一方で、全世界の諸国を巻き込む世界大戦へと向かうシナリオには、いささか無理があるように思えます。否、第三次世界大戦シナリオは無理を通さなければ実現せず、それ故に、大戦へと導こうとする人々の発言や行動には、どこか怪しさが漂うのです。

国際社会においてテロ行為が批判されるのは当然のことなのですが、その一方で、テロリストの戦いが戦争を拡大させる口実となるとしますと、もう一つの道徳・倫理問題が持ち上がります。平和や人々の命を護ることも、犯罪や侵害行為の撲滅と同じくらい、人類にとりまして実現すべき価値であるからです。言い換えますと、‘平和を保ちながら暴力を排除する’という難題に直面することとなるのです(この難題は、警察力が暴力に対して圧倒的に優位な場合に解消される・・・)。今般のハマスの件についても、少なくとも、地域紛争を世界戦争に拡大させるメカニズムを発動させてはならないことは言うまでもありません。ところが、現実には、アメリカをはじめとした各国が過剰反応を示しており、上述したように、世界大戦誘導作戦が動き始めている気配があるのです。

世界大戦に誘導したい勢力、即ち、過去の二度の世界大戦をも裏から操ってきた世界権力が、地域紛争を世界大戦に拡大させる方法として、おそらく幾つかの経路を考えているはずです。

第一の経路は、二国間あるいは多国間の軍事同盟の発動です。多国間条約にせよ、二国間条約にせよ、軍事同盟条約には有事に際しての軍事的な相互援助の規程が設けられています。イスラエルとアメリカとの間にも「アメリカ・イスラエル戦略パートナー法」が存在していますので、両国間にあっては準軍事同盟という関係があります。実際に、バイデン大統領は、昨日10月9日にイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談でイスラエルに対する武器供与を始めたことを明らかにしています。考えてもみますと、議会での議論もなく武器供与が決定されていますので、大統領や首相の独断が横行する独裁化の傾向は、自由主義国でも共通のリスクとなっているようです。こうした世界大での独裁体制化は、世界権力の未来ヴィジョンに既に書き込まれているのでしょう(オーウェルの『1984年』を参照・・・)。

 いささかお話が本筋から外れてしまいましたが、軍事同盟を発動させる場合、現代の国際法にあっては、国連憲章第51条の条文が示すように、集団的自衛権の行使には、正当防衛が条件とされています。つまり、法的な根拠が一切なく、かつ、国際法を無視する形での、相手国から一方的な攻撃を受けた被害国である必要があるのです。そこで、ハマスによる攻撃についても、集団的自衛権の行使の是非が検討されるならば、国際法に違反する‘侵略’、あるいは、違法な攻撃なのか、という問題が提起されることとなりましょう。

 この点、パレスチナ紛争は、イスラエル建国の仮定からして双方に言い分がある所謂‘領土問題’であることは明白です。第二次世界大戦後における同国の建国に際しては、第一次中東戦争が起きましたが、この時、アラブ諸国の攻撃をイスラエルに対する‘侵略’や違法な武力行使と見なす見解はありませんでした(第4次中東戦争までこの認識は変わらない・・・)。それどころかイスラエルは、その後、法的にはパレスチナの領域であるヨルダン川西岸地区などを軍事占領し、自国民を入植地させています。2016年12月23日には、国連安保理においてイスラエルの入植活動を国際法に違反する行為と認定し、同活動の停止を求める決議も成立することとなりました(アメリカは棄権・・・)。つまり、法的には、‘侵略’を行なっているのは、むしろイスラエルとも言えるのです(ただし、ガザ地区の入植地については2005月に自発的に撤収・・・)。

 パレスチナ問題が極めて複雑であり、イスラエルがパレスチナの法的領域を占領している現状からしますと、ハマスの行為を‘侵略’と認定することは難しくなります。このため、ハマスが国境を越えてイスラエルを攻撃することが批判される一方で、イスラエルがハマスによるテロを理由としてパレスチナを正規軍で空爆することは許されるのか、テロリストの側が正当防衛を主張する場合、どう対処するのか、といった様々な問題を議論する必要がありましょう。また、ハマスが攻撃を加えたのは、あくまでもイスラエルであってアメリカではありません。9.11事件に際しては、NATOも集団的自衛権の発動を宣言しましたが、今般のイスラエル攻撃については、少なくともハマスが直接にアメリカを攻撃しない限り、紛争拡大の要因とはならないはずなのです。

 何れにしましても、国連安保理をもってハマスに対して軍事力の行使を容認する決議が成立するとは思えないのです。このことは、第二の経路、即ち、国際法秩序の維持を根拠とした国際法違反行為に対する制裁戦争として全世界の諸国を巻き込むという手法も、断念せざるを得ないことを意味しましょう(つづく)。

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