今月7日、パレスチナのイスラム過激派組織であるハマスが、国境を越えてイスラエルを攻撃したことから、‘第三次世界大戦は既に始まっている’とする見解が再びメディアに登場することとなりました。両者間の戦闘による死者数は、既に双方で1000人にも上るそうですが、かつて、人類の最終戦争、すなわち、‘ハルマゲドン’の場は中東とする予言もあり、中東での紛争激化は、国際社会においてより強い反応を引き起こしているようです。しながら、その一方で、今般の事件は第三次世界大戦の一環と見なす見解は、むしろ、世界大戦誘導という陰謀の実在を強く示唆しているようにも思えます。
それでは、ハマスによるイスラエル攻撃は、どのようなシナリオであれば、第三次世界大戦の一部に位置づけられるのでしょうか。同説に依れば、ウクライナこそ、第三次世界大戦の始まりとなります。ロシアのウクライナに対する‘侵略’認定が、武器供与のレベルであれ、アメリカをはじめとしたNATOの事実上の介入を招いたのであり、ここに、地域紛争が世界大戦へと連鎖する経路が開かれたと見なしているのです。
しかしながら、ウクライナ紛争と今般のハマスによる攻撃との間では、一先ずは、直接的な関連性を見つけることはできません。仮に、今般のハマスによるイスラエル攻撃が一連の第三次世界大戦の一環であるならば、どこかに両者を繋ぐ接点があるはずです。第三次世界大戦を主張する人々は、おそらくウクライナのケースと同様のアメリカがイスラエルを当然に軍事的サポートするものと見なしているからこそ、同説を主張しているのでしょう。実際に、アメリカは、1989年にイスラエルに対してMajor non-NATO ally (MNNA)の地位を与え(オーストラリア、エジプト、日本、韓国と共に指定)、2014年には「アメリカ・イスラエル戦略パートナー法」を制定しています。イスラエルこそ、中東におけるアメリカの軍事的拠点であり、米軍こそ駐留してはいないものの、米軍はイスラエルの軍事施設を使用する権利も有しているのです。
こうしたアメリカとイスラエルとの密接な軍事関係からすれば、ハマスによる攻撃は、イスラエル防衛を根拠としたアメリカの軍事介入の可能性を高めます。また、2001年の9.11事件に際しては、NATOは、北太平洋条約第5条に基づく集団的自衛権の発動を宣言していますので、アルカイダと同様にハマスに対してもテロ集団としての認定は重要な戦争拡大の要素となりましょう。実際に、アメリカのバイデン大統領やEUのウルズラ・フォンデアライエン委員会委員長は、ハマスをテロリストとして批難し、イギリスのスナク首相やフランスのマクロン大統領等もイスラエル支援で歩調を揃えています。また、ウクライナのゼレンスキー大統領に至っては、テロリストに対する共闘を訴えているのです。
しかも、ハマスの背後にはイランが控えているとされ、今般のイスラエル攻撃の裏でも、同国によるサポートがあったと指摘されています(イランのライシ大統領は、パレスチナのイスラム組織ハマスの指導者ハニヤ氏を賞賛・・・)。イランがハマスの後ろ盾ともなれば、中東のイスラム諸国内でも宗派対立に火も付き、同地域にあってイランを中心としたシーア派陣営と非シーア派陣営、あるいは、イスラム陣営対親ユダヤ陣営の対立が戦争を拡大させる導火線ともなり得ます。近年のイスラエルとサウジアラビアとの関係改善を考慮しますと、イスラエルはもとより、アメリカのMNNAの地位にある他のアラブ諸国、即ち、エジプト、ヨルダン、バーレーン、クウェート、モロッコ、カタール並びにサウジアラビアは、イスラム教国でありながらアメリカ陣営に加わることでしょう。
米軍がウクライナのみならず、イスラエル支援のためにユーラシア大陸の西方に兵力を割くとしますと、中国は、西方に米軍が釘付けとなっている今こそ千載一遇のチャンスとばかりに、台湾侵攻を決行するかもしれません。仮に東方の中国も軍事行動を起こすとしますと、ウクライナ⇒イスラエル⇒台湾という流れにあって、およそ全世界を二分する第三次世界大戦が現実のものとなるのです。
しかしながら、この一連の第三次世界大戦への連鎖拡大のプロセス、あまりにも出来過ぎているように思えます。何故ならば、今般のハマスによる攻撃の位置づけは余りにも‘逆算’的ですし、落ち着いて考察しますと不可解な点も多く、同シナリオ通りに事態が進展する可能性の方が、よほど低いように思えるからです。少なくとも、連鎖性を遮断するチャンスも根拠も数多あります。また何よりも、全力で戦争回避に務めることが政治家の国民に対する責務ですし、基本的な役割であるはずなのですから。先ずもって、申し合わせたかのように自らの責務を放棄して第三次世界大戦の道を先導する、あるいは、国民世論を好戦的な方向に扇動するような政治家達の存在こそ、第三次世界大戦のシナリオが既に存在している疑いを、より一層強めていると言えましょう(つづく)。