万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政教分離を‘骨抜き’にする自民党の憲法第20条改正案-カルト国家化への道?

2022年08月17日 11時16分54秒 | 日本政治
 平成24(2012)年に公表された「自民党憲法改正案」を読みますと、天皇の神聖性が失われ、皇族の俗人化も急速に進む時代にありながら、天皇を中心とした‘神の国’の建設を目指しているように思えます。‘神の国’、あるいは、‘神聖国家’と申しますと、国民の多くは、日本国の伝統宗教である神道に基づき、現人神である天皇を国家祭祀の長とする戦前の国家体制を思い浮かべるのでしょう。しかしながら、世界平和統一家庭連合や創価学会等の新興宗教団体による活発な政治活動をからしますと、自民党が改正案で示している方向性は、必ずしも明治憲法下の国家体制への回帰ではないようです。

 それでは、自民党が理想とする国家像にあって、政治と宗教とは、どのような関係となるのでしょうか。「自民党憲法改正案」は、政教分離の原則を定めた現行憲法第20条についても、改正案を記しています。この改正、実のところ、政教分離原則の骨抜き案なのです。何故ならば、現行の憲法第20条に明記されていた「いかなる宗教団体も、・・・政治上の権力を行使してはならない」とする政教分離の核心となる箇所が削除されているからです。即ち、憲法が同草案通りに改正されるとなりますと、特定の宗教団体が政治権力を行使することが憲法上許されることとなり、近代国家の統治上の原則ともされてきた政教分離の原則が日本国から消滅してしまうのです。

 政治の領域を宗教的非合理性から守る防波堤の役割を担ってきた政教分離の原則が失われるのですから、この問題は重大です。国民も危機感をもってより強い関心を寄せるべきなのですが、マスメディアを始め、政治サイドにあっても同改正案については積極的に触れようとはしません。その背景には、‘寝た子を起こすな’と言わんばかりに、国民が睡眠状態にある間に改正案を通してしまいたい同党の思惑が推察されるのです。

宗教であれ、政治的イデオロギーであれ、権威の絶対化や洗脳は、国民を自らに服従させ、強力な支配の手段となるのは、中国や北朝鮮の国家体制を見れば一目瞭然です。神やイデオロギーを持ち出せば、如何なる人物でも権威を纏うことができますし、人々もその言葉に従わざるを得なくなるからです(凡庸な‘おじさん’でも、ひとたび教祖を名乗ると人々がひれ伏す権威となってしまう・・・)。それ故に、権威主義体制における儀式は、国民の心理操作のための舞台装置であり、大げさな演出が施されるのでしょう。

しかも、宗教的権威者の言葉が‘神の言葉’として発せられますと、人々は、世俗の政治問題や政策であっても、自由に議論することが難しくなります。今般、自民党の改正案が実現すれば、国民が民主的選挙によって選んでもいない人物が、宗教団体の長という立場から日本国の政治を左右する光景を目にすることとなりましょう。否、自民党と世界平和統一家庭連合、並びに、公明党と創価学会との関係を見れば、この懸念は、既に現実のものとなっています。公明党は、連立与党の一角として政治権力を行使していながら解散を命じられないのは、違憲訴訟が起こされ、違憲判決が下されていないからに過ぎないからです。図らずも、今般の自民党の改正案は、現憲法下にあって公明党や世界平和統一家庭連合等の活動が違憲であることを示すことにもなったのですが(改憲しなければ合憲性を得られない・・・)、この手法は、悪しき行為を犯罪と認定されないために犯罪リストから外し、同悪質行為を野放しにするようなものです。

人々を内面からも支配したい者の側からすれば、政教分離の原則は自らの目的達成には障害となるのであり、自由や民主主義と並んで取り除きたい原則の一つです。そして、この改正案は、保守政党の立場から自民党が伝統宗教である神道を重んじたいのではなく、公明党や世界平和統一家庭連合、あるいは、超国家権力体からの要請なのでしょう。公的団体による宗教活動の禁止については、社会的儀礼や習俗的行為の範囲を越えなければ許容されるとする一文が加筆されていますが、この基準はいかにも曖昧です。超国家権力体の‘工程表’には、第一段階において新興宗教系の宗教政党を既成事実化し、第二段階においてはこれらを合憲・合法化し(今般の改正案・・・)、最終段階では、これらの新興宗教団体が天皇家に浸透する、あるいは、乗っ取ることで‘神の国’としたいのかもしれません。実際に、‘天皇’という名称だけは継承されつつも、新興宗教団体等からカルト的要素が既に流入し、今日の皇室は、著しく変質した‘別物’となりつつあるようにも見えます。

憲法改正に際しては、自民党は、目下、「4つの変えたいこと」として「「自衛隊」の明記と「自衛の措置」の言及」、「国会や内閣の緊急事態への対応を強化」、「参議院の合区解消、各都道府県から必ず1人以上選出へ」、並びに、「教育環境の充実」の4項目を挙げています。国民の関心もこれらの項目に集まりがちですが、カルト国家への道となる政教分離の原則の骨抜きにつきましても、それが日本国の国家体制や独立性にも関わるだけに、日本国民は十分に警戒すべきではないかと思うのです。

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