万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

現実は「君は祖国のために戦うことになる」なのでは

2024年01月29日 12時03分35秒 | 国際政治
 「若者に問う!君は祖国のために戦えるか?」という、ジャーナリストの櫻井よし子氏による若者への問いかけは、賛否両論を含めて大きな波紋を投げかけることとなりました。自らは安全地帯に身を置きながら、若者達を戦争へと扇動する発言として、批判的な意見が多数を占めたようなのですが、この問いかけは、現実を映してはいないように思えます。


 この祖国のために戦う覚悟は、若者への問いという形で提起されています。質問の形をとった背景には、いざ、日本国が他国から攻撃を受けた際に、闘わずして逃げる、あるいは、白旗を挙げる若者が続出する事態が予測されたからなのでしょう。実際に、同問いかけに対して、‘自分は戦うつもりはない’とする拒絶反応も少なくなかったはずです。言い換えますと、戦うか、戦わないかの選択は、問いかけられた若者の判断に委ねられていることとなります。


 しかしながら、現実において他国から攻撃を受けた場合、戦わない、という選択はあり得るのでしょうか。防衛戦争ですから、自衛隊が出動することは疑い得ず、日本国は、戦争当事国とならざるを得ません。戦争とは、一方の意思のみで始めることができますので、たとえ憲法第9条があろうとも、攻撃を受けた場合には応戦せざるを得ないのです。尖閣諸島問題に端を発した対日攻撃のみならず、日本国内には、日米同盟の下に米軍基地も設けられていますので、中国による台湾侵攻が米中戦争に発展すれば、中国から攻撃を受ける可能性は飛躍的に高まります。櫻井女史の発言も、その背景には近い将来において直接的な‘武力攻撃事態’や‘存立危機事態’の発生が想定されているからなのでしょう。


 否応なく日本国が戦争当事国となった場合、当然に、日本国政府の首相も、ウクライナのゼレンスキー大統領と同じように、国民に向けて祖国防衛を強く訴えることは想像に難くありません。それは、国民が感涙するような感動的で迫力のある演説かも知れませんし、どこか芝居がかっている凡庸な演説かも知れません。何れにしましても、マスメディアも総動員して国民の愛国心を鼓舞し、日本国内の空気も一変することが予測されるのです。それが、たとえ巨大な戦争ビジネス勢力による誘導、あるいは、シナリオであったとしても、自国が攻撃を受ける事態に直面しては、如何なる国民が、戦争反対あるいは即時降伏を唱えることは極めて難しくなるのです。


 この状況は、極めて強い‘同調圧力が社会全体に生じることを意味します。最近でも、ワクチン接種率と同調圧力との関係が指摘されています。日本国民の新型コロナウイルスワクチンの接種率が飛躍的に上昇した要因は、職場や学校などにおける集団接種方式が導入されるのと同時に、政府による同調圧力の利用があったからともされます。同ワクチンに対する異論やリスク指摘の声は殆ど消し去られ、ワクチン非接種者=反社会的人物という風潮が醸し出されるのです。おそらく、内心において疑問や反発を感じた人も少なくなかったことでしょう。一端、歯車が回り始めますとそれに抗することは難しく、結局は、足を波にすくわれるように巻き込まれてしまいます。先の戦争でも、アメリカを相手の戦争に勝算がないことを知りながら、祖国のために命を捧げた国民がどれほど多かったことでしょうか。内心の疑問を押し殺し、あるいは、心に葛藤を抱えながらも無理にも自らを納得させ、戦地に赴いた若者達が・・・。


 有事に際しては、国民の選択肢が失われてしまう点を考慮しますと、櫻井氏の問いかけは、若者達に戦争を意識させる切っ掛けとはなれ、若者たち、否、国民が置かれる状況からはかけ離れているように思えます。現実には、若者には選択の余地はなく、戦わざるを得なくなるからです(徴兵制も復活するかもしれない・・・)。このことは、戦争回避の努力は、戦争への歯車が動き出す前に全力でなすべきであり、かつ、平時にあってこそ、歯車が動き出さないようにしっかりと止めておく抑止力が重要であることを物語っているのです。


 台湾有事が予測されるからこそ、戦争回避のために議論を尽くし、そのための具体策を採るべきなのですが、マスメディアの政治関連の報道も、およそ自民党内の派閥解消及び‘政治とカネ’の問題で持ちきりです。一方の野党側にも、戦争回避のための議論を提起しようとする気配はありません。国民の命が危険にさらされていながら、日本国の政治家は、自らの責務を忘却している、あるいは、国民から戦争回避の要求が上がらないよう外圧によって放棄させられているかのようなのです。流れに逆らうことは難しいとはいえ、多くの国民が巨大な戦争ビジネスや背後の世界権力による戦争誘導シナリオに気がつき始めていますので、国民は、政治家に対して強く戦争回避を求めるべきと言えましょう。今の時点であれば、まだ間に合うのではないかと思うのです。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 地下シェルター設置の重大問題 | トップ | ミス日本問題から読む政治化... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事