万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

地下シェルター設置の重大問題

2024年01月26日 11時26分33秒 | 日本政治
 東京都は、北朝鮮や中国からのミサイル攻撃を想定し、地下シェルターの整備に乗り出すと報じられております。しかしながら、このプロジェクト、費用対効果を含め、様々な角度からの検討を経ているのでしょうか。地下シェルターという避難方法は、以下の理由から、実のところ、殆ど実現不可能なのではないかと思うのです。

 第一に、地下シェルター方式では、ミサイル攻撃を受ける範囲にいる全ての住民を施設内に収容できないことは明白です。ミサイルは、発射から短時間で飛来しますし、予め攻撃地点が正確に分かるわけでもありません。このため、仮に、全員を確実に収容できる地下シェルターを建設しようとすれば、莫大な費用と労力、並びに、時間を要します。

 そこで、地下シェルター利用者の人数を限定する必要が生じるのですが、ここで、第二の問題点として、トリアージの問題に類似する収容者の選別が不可避となります。誰の命を救い、誰の命を諦めるのか、という命の選択の問題ですので、これは深刻です。‘早い者勝ち’とすれば、幼児、高齢者、女性、身体に障害のある人々を見捨てるに等しくなります。また、警報の発令と共にシェルターの入り口に人々が一斉に殺到し、将棋倒しで命を失う人もありましょうし、運良くシェルターに入れても、後から押し寄せる人々に押されて圧死してしまうかも知れません(実際に、東京大空襲の際に起きている・・・)。また、定員数に達した際には、涙を飲んで断腸の思いでシェルターの扉を閉じることになりましょう。東京都は、一体、何を基準として選別をしようとしているのでしょうか(ノアの箱船の逆パターンとなる可能性も・・・)。なお、予め選別を行なっていたとしても、いざ、ミサイルが飛んでくるとなりますと、同選別は無視され、暴力を手段としてもシェルターに入ろうとする人も現れるかも知れません。

 第三に、今般の能登半島地震における避難所の状況からも容易に推測できるように、長期に亘って地下シェルターで集団避難生活を送るとなりますと、一時的避難とは比較にならないほどの困難が待ち受けています。相当量の食料や飲料水の備蓄のみならず、衛生状態を維持する必要性も生じてきましょう。ましてや、より狭い空間となるシェルターでは、個々のプライバシーも守られず、閉所恐怖症に留まらず、長期に亘って極限状態に置かれることにより精神を病んでしまう人も少なくないはずです。また、極度のストレスから、避難民の間では些細なことからトラブルが発生したり、深刻な対立が生じるかも知れません。何れにしましても、長期避難を想定するとなりますと、さらに収容可能な人数が少人数となり、地下シェルターの設置のハードルも高くなるのです。また、人間が生存するには、シェルター内部が暗闇にならず、窒息しも避けるために、大型発電機を設置し、排気口等も設ける必要もありましょう。

 加えて、地下シェルターは、必ずしも安全ではないという重大なリスクもあります。今般のイスラエルが実行したガザ地区の地下トンネルの壊滅作戦も、地下シェルターの運命を予感させます。イスラエルは、地下トンネルに海水を流し込むという、極めて残忍な方法まで試みたのですから。仮に、敵軍に地上を占領された場合には、入り口から毒物や爆発物を投入されたり、出口を塞がれてしまう事態も十分に予測されます。また、今日では、地下深くまで到達するミサイル(大型貫通爆弾・・・)も開発されていますので、地下シェルターの建設は、全くもって無駄になりかねないのです。

 以上の諸点を考え合わせますと、東京都民の多数が地下シェルター設置を支持するとは思えません。自らは排除される可能性が極めて高い上に、たとえ使用できたとしても、命が保障されるわけでもないからです。これらの重大な問題に対して都民が納得するような説明が殆ど不可能な以上(収容人数と収用対象者を発表した時点で、落胆と反対の声が上がるのでは・・・)、地下シェルターの設置は断念すべきではないかと思うのです。

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