ものすごく昔、何かの講演会で何百人いる中で、まだ若いその人は言いました。
「そんなのは日常チャハンジです。……」
聴衆は少しだけ気持ちがザラッとしましたが、そういう気配は見せないで、みんな平気な顔をして聞いていました。
ボンクラの私は、「あの言葉は、日常チャハンジって言うんだ。フーン」と感心していたくらいです。
講演会の後で、私の友人は、「あれは日常サハンジっていうんだよね」と、私に訊いてきました。私は「うん、そうだよね」と適当に返事をしていました。
私は「日常茶飯事」というコトバをあまり意識したことがなくて、ほとんど使ったことも、聞いたこともなかったのだと思われます。なんという無知!
せっかくのいいお話も、そこからは聴衆のみなさんは心がうつろになってしまい、ちゃんと聞けなかったかもしれません。言葉の選択って、ほんのささいなことから、波紋は広がっていきます。中身よりも言い方が気に食わないと、感情が先に来てしまいます。
それくらいコトバ選びって、大切なのだと思わされたできごとでした。
昨日だったか、広島が三連覇を達成しました。今までマツダスタジアムで優勝を決めることができなかったそうですが、三度目の正直で地元で優勝することができたそうです。
セリーグでは、一番日本一から遠ざかっているそうで、最後の日本一は1984年だったそうです。ということは、私のごひいきチームは、2番目に日本一から遠ざかっている。最初で最後の日本一が1985年でしたもんね。
広島は違います。現在、黄金時代を迎えており、これから10年間でも何度も優勝することでしょう。
それで、昨夜、緒方監督は言いました。
「ファンのみなさま、三連覇、おめでとうございます!」
私は、このニュース映像を見て、違和感を感じました。
「普通は、ファンのみなさま、三連覇できました。ありがとうございます、じゃないのか?」というふうに感じたんだと思います。
そこを飛び越えて、緒方監督は「おめでとうございます」を選んだ。
こういう例があるのかなと、考えてみたら、海老一染の介・染太郎さんたちのお座敷芸で、番傘を回転させて、その上にいろんなものを載せて回してしまい、締めくくりに「おめでとうございます」をぶつけていたあれです。
あそこでは、彼らが芸を見せて、観客を祝福する意味で、「うまく芸が成功しました。みなさま、良かったですね。みなさまも、きっといいことありますよ」というような意味合いで、使っていたような気がします。
あれと同じで、観客やあらゆるファンと観客に向けて、どういうメッセージを発せばいいのか、少し考えて、これを選んだような気がします。
確かにめでたいことなのです。でも、緒方さんは当事者であって、芸人ではないんじゃないの? という違和感があったんだと思われます。
すぐに消えていく言葉だけど、当事者感覚で話してほしかった、という気持ちはあります。広島ファンのみなさんは、どうだったんだろう。
今朝、ラジオをつけると、ニューヨークから日本の総理のインタビューがそのまま流れていました。やられてしまった。また、この人の浅い、気持ちの入らない、適当な言葉を聞かされるのかとウンザリしました。
でも、仕方がないし、アメリカの記者さんたちがびっくりするような質問してくれないかなと、それだけを楽しみに聞きました。でも、そちらも用意された質問に、用意された答弁を聞かされるだけでした。
帰国後の内閣改造の質問も当然用意され、その答えももちろん用意されていた。
「自民党は多士済々であります。ですから、いろんな役職を担える人がたくさんおるのであります。」と、そう言いたかったんだと思うし、そのような原稿またはメモがあったでしょう。
日本の総理は、外国の人たちに四字熟語を教えたいわけではなくて、選挙を意識して、人材が豊富で、仲間割ればかりしている不安定な野党とは違うと言いたかったんです。
そこで「自民党は多士サイサイであります。」とやってしまいました。
私は運転していて、ズッコケそうになりました。前の車にぶつかっていくのではないかと、危なくなりましたが、どうにか持ちこたえました。
「あれ、タシサイサイという四字熟語あったっけ? まさか、読み間違えではあるまいし、自信をもってタシサイサイとおっしゃったんだろうから、私の記憶が間違っているんだ。」と、世の中がひっくり帰るような不安に襲われたのでした。
辞書で調べてみたら、「タシサイサイ」ではなくて、「タシセイセイ」だった。誤用を推し進めて、四字熟語世界を自分たちのものにするという戦略があるのかもしれないけど、まだそれはして欲しくないな、という気がします。
誰も気にしていないと思うけど、何だかイヤなのです。誰も何も言わないだろうし、すぐに消えていく言葉ではあるのですが、私のズッコケた思いは、朝の通勤でしばらくジワッと続きました。どうしてくれるんだよ! Aちゃん!