甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

宮沢賢治「津軽海峡」1923 その2

2015年09月12日 21時48分02秒 | 賢治さんを探して
 賢治さんは、あと少しで函館に到着するでしょう。そうしたら汽車を乗り換えて、稚内をめざせばいいのです。早く宗谷海峡を渡ってもらわなくちゃ!

 船の上で、向こうの船員さんに目を付けられたかで、少し緊張しているかもしれない。船はどんどん黒い海を渡っていきます。うれしいような、何か落ち着かないような、賢治さんの旅は続いています。



いるかは黒くてぬるぬるしてゐる。
かもめがかなしく鳴きながらついて来る。
いるかは水からはねあがる
そのふざけた黒の円錐形(えんすいけい)
ひれは静止した手のやうに見える。
弧をつくって又潮水に落ちる
 (きれいな上等の潮水だ。)



水にはいれば水をすべる
信号だの何だのみんなうそだ。
こんなたのしさうな船の旅もしたことなく
たゞ岩手県の花巻と
小石川の責善寮(せきぜんりょう)と
二つだけしか知らないで
どこかちがった処へ行ったおまへが
どんなに私にかなしいか。
「あれは鯨と同じです。けだものです。」




 船の中のスケッチはつづきます。これらのイメージを重ねて、賢治さんは何を伝えようとしたのでしょう。船の中ののびやかさでしょうか。それとも、こののんきさの下の沈痛な気分なんでしょうか。

 そんなに沈んではいなかったのでしょう。とにかく仕事で樺太・サハリンに向かっている。でも、まだとっかかりの津軽海峡の上だ。風景はしんみりしている。妹さんは、岩手と東京のわずかな場所しか知らずに亡くなってしまった。その短い、ささやかな生涯は、いくら悔やんでも悔やみきれない。その魂を追いかけて北の大地をめざしているけれど、何か話しかけないではいられない。

 楽しそうに見えるイルカたちも、確かに楽しいかも知れないけれど、それは野生の生き物としての楽しみで、人間は人間の世界の中で楽しみを見つけて行くしかないのです。

 船の旅も、野生の生物を見ることもできるけれど、人間の世界を追いかけていきたい気持ちでデッキ上を見回してみます。

くるみ色に塗られた排気筒(はいきとう)の
下に座って日に当ってゐると
私は印度(インド)の移民です。
船酔ひに青ざめた中学生は
も少し大きな学校に居る兄や
いとこに連れられてふらふら通り

私が眼をとぢるときは
にせもののピンクの通信が新らしく空から来る。
二等甲板の船艙(せんそう)の
つるつる光る白い壁に
黒いかつぎのカトリックの尼さんが
緑の円い瞳をそらに投げて
竹の編棒(あみぼう)をつかってゐる。
それから水兵服の船員が
ブラスのてすりを拭(ふ)いて来る。




 何か変わるチャンスを見つけた気がしたけれど、もう船を下りなくちゃいけません。さあ、いよいよ北海道です。汽車に乗り換えて、北の大地をめざすことでしょう。

 途中で何か見つけるんでしょうか。札幌で途中下車するんですか。私ならサッポロビール園に行きたいところだけれど、賢治さんはきっとそんな寄り道はしないんでしょうね。



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