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和歌山街道の珍布(めずらし)峠までほんの1500mというので、それでは歩いてみようと街道をテクテク上っていきました。集落はどれくらい続いたのかな。400mくらい、いや、もっと短かったかも、とにかく集落の最後におうちがあって、そこには宿場の木戸口になってたというし、そこから松林が続いていたとか書いてありましたけど、もちろん松はやられてしまって、杉などの針葉樹林の森になっています。自然林みたいなところは、全く見られません。
だから、薄暗い森ではあるけれど、クマとか、シカとか、イノシシが生活する場ではないような感じです。とはいうものの、おっかなびっくりで歩いているので、変な鳴き声がして、「これはサル? まさかシカ?」と、鳴き声が近づくのを待つんですけど、足音はしなくて、まわりのあちらこちらから、不思議なケモノのささやきが聞こえます。
サルでもないし、動きもないし、四方八方から聞こえるこの声は何? カエルなら、聞いたことがあるけれど、カエルの鳴き声ではないような……。
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とにかく、すぐに行けるはずの峠の切通しのところまで行きたいと思っていました。何年か前の夏にひとりで行ったことはあります。その時も、不思議な光景に驚きもしたけれど、反対側から来たので、もう途中で完全に怖気づいて、いつ野生生物に襲われるかもしれないとビクビクで、まともに見られなかったので、正規ルートで、みんなが歩く道なら、ビビらなくてもいいだろうと歩いてましたけど、もちろん誰もいませんでした。
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途中で見つけたこの草花、シャガという花みたいだった。不思議な形で、生き物の顔見たいな花でした。ショウブなどの仲間らしくて、アヤメ科ということでした。勝手に咲いているんですね。
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そして、やっと峠の門にたどり着きます。どうしてこんなところに切通しを作ったのか。そりゃ、トンネルより楽だから、なんだろうし、わりとスパッと崩れる岩だったのか、何といっても中央構造線の上の山だから、岩の組成も東西に流れているんでしょう。トンネルは崩れるかもしれないけど、人が通れる分くらいを切り出せば、少し楽じゃないですか。
木は、こんなになかったと思うけど、時間が経過して、切通しの上にも覆いつくす木が生えて来たみたい。ここは杉だったかな。たぶん、違ってたと思います。
東側の入口に立つと、西から切通しを抜ける風がスーッと間断なく流れていきます。風の通り道を歩かせてもらえる。自然の神様が、「少しここを抜けてみる?」と迎えてくれています。
ありがたく西側に抜け、元来た道を引き返しました。ここから別のルートもあります。それは知っていますし、歩いたこともあります。でも、膝の弱いボクは、今来た道なら、すぐに帰れるだろうし、もうケモノたちには遭わないだろうと思えたのです。
表紙の木、ガクウツギというみたいです。間違ってるかもしれないけど。それから、やはり、ケモノのささやきみたいなのは、たくさんの岩の穴に隠れているカエルたちなんだろうということにしました。もう、どこからでも聞こえるし、小さな隙間にいるようでした。何という名前のカエルかはわからないけど、山に住んでいるヨーダみたいなカエルもいるんでしょう。そう、納得しながら帰ってきたんです。
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こっちは峠の西側です。ここで引き返しました! 賢かったね!