廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

永遠のポーギーとベス

2023年09月24日 | Jazz LP (Bethlehem)

Bethlehem Presents George Gershwin's Porgy And Bess ( 米 Bethlehem Records EXLP-1 )


ジャズと親和性が高いフォーク・オペラとしてアルバムはたくさん残されているが、ジャズの世界ではマイルス、エラ・フィッツジェラルドに
並んで、このベツレヘムが制作した全曲盤がトップ3だ。マイルスやエラのアルバムはエッセンスだけを抽出してまとめられたが、こちらは
ナレーションもきっちりと入った3枚組で、とにかく素晴らしい仕上がり。

当時のレーベル契約アーティストの主要なメンバーが集められており、よくもまあここまで、と感心してしまう。そして何より音楽的に
極めてレベルが高く、ダレることなく聴き通せるところが凄いのである。クラシックの名だたるオペラ・セットにも引けをとらない出来
と言っても決して言い過ぎではない。何しろ、マイルスがコロンビアに吹き込む2年も前にこれが制作されているんだから、このレーベルの
音楽的な見識の高さには恐れ入る。当時のレコード会社は本気で音楽に取り組んでいたのだ。

歌を歌う人たちの個性が生かされながら役どころをきっちりと抑えた配置がなされていて、内容がわかりやすい。楽器の演奏もツボを押さえた
過不足の一切ないもので、それでいて上質感が漂っている。各々のミュージシャンたちのアルバムからは想像もつかない音楽が披露されている。

ハワード・マギーのオブリガートをバックに "I Loves You, Porgy" を歌うベティ・ローシェの素晴らしさ、デューク・エリントン・オーケストラを
コアに形成されたオーケストレーションの背景の深さ、クラウン役のジョニー・ハートマンの男っぷりの良さなど、どこを切り取っても聴き処が
満載で、レコード3枚があっという間に終わってしまう。

ベツレヘム・レーベルの集大成としてこのアルバム・セットの価値は不滅であり、やはり "ポーギーとベス" は永遠の音楽なのだ。









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

4人の巨匠の曲はやはり名曲だった

2023年08月27日 | Jazz LP (Bethlehem)

Sam Most / Plays Bird, Bud, Monk & Miles  ( Bethlehem Records BCP 75 )


私はベツレヘムのレコードにはあまり興味がなく、思い入れもない。白人メインのラインナップで、その影響で退屈なアレンジのものが多く、
ジャズにとって大事な何かが欠けているような演奏が多い。レーベルを興したのがスイスからの移民だったことの影響かもしれない。
レコードのモノとしての品質がいいのはドイツ人のアルフレッド・ライオンなんかと共通しているが、他の本流レーベルが見向きもしなかった
アーティストばかりと契約してレコードをたくさん作った。既に一流どころは別レーベルとの契約で縛られていて、手が出せなかったのだろう。
ただそのおかげでジャズ・レコードの裾野は広がって、50年代のより多くのジャズの記録が残ることになったのはとてもよかったと思う。

そんなアーティストの一人にマルチ・リード奏者のサム・モストがいた。デビューやヴァンガードにも10インチが残ってはいるけど、彼の50年代の
演奏は基本的にこのレーベルに残された。クラリネットやフルートがメインなので音楽は軽くて印象に残るものはないけれど、このアルバムだけは
異色の出来の良さで聴き応えがある。

タイトル通りの4人の巨人が作曲した曲をラージ・アンサンブルで演奏しているが、このアンサンブルが見事にスイングしており、驚かされる。
サックスにマイルスとの共演で知られるデヴィッド・シルドクラウトがいるし、ドラムはポール・モチアンと渋いメンツだが、このバックの
演奏がキレが良くて素晴らしい。その間隙を縫って現れるサム・モストのクラリネットもサックスのようななめらかさで高度な演奏をしている。

この時点で既にパーカーやパウエルの曲は名曲として認知されていたということで、こうして聴くと楽曲の素晴らしさが身に染みてわかるけど、
演奏の良さが曲の良さを最大限に表現している稀有な事例となっている。アレンジも控えめでクセがなく、適切なオブリガートとして機能して
いて、まったく気にならない。また、このレコードは音も素晴らしく、文句をつけるところがどこにもない。隠れた名盤に認定しよう。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

実は大傑作(2)

2023年02月25日 | Jazz LP (Bethlehem)

Australian Jazz Quintet + 1  ( 米 Bethlehem BCP-6015 )


オーストラリアン・ジャズ・カルテット(クインテット)のことを真剣に聴こうなんて人はいないようで、中古も大体ワンコインで転がっていて、
総じてクズレコード扱いとなっている。オーストラリアとジャズが結びつかないということもあるだろうし、ジャズの世界は個人名ではなく
グループ名を名乗るようになると、途端に人気が無くなる傾向がある。こういうところはロックなんかとはずいぶん事情が違うようである。
ジャズは個人の顔やプレイが連想できないと、なぜか魅力が減じるらしい。

私がこの人たちの良さを認識したのは、ジョー・デライズの12インチ盤を聴いた時だった。デライズは歌手としては3流以下の魅力に乏しい人だが、
それでもレコードは飽きることなく最後まで聴くことができて、それはバックで演奏するこのグループの質の高さに耳が奪われたからだった。
元々はクリス・コナーのライヴでバックを務めたりしていたらしいから、歌伴には慣れていたのかもしれない。

レコードはベツレヘムに数枚残っているだけだが、その中でもこのアルバムは際立って出来が良く、傑作と言ってもいい仕上がりになっている。
特にA面のビル・ホルマン作曲の組曲はマイナー・キーの翳りのある曲調をドラマチックに演奏していて、これが物凄くいい。
アルトとテナーが深みのある音色で素晴らしく、この曲の魅力を最大限に引き出す。アルトがフルートに、テナーがファゴットに持ち替えられる
パートになっても演奏の魅力はまったく落ちることなく進んで行く。ピアニストも非常にセンスのいいフレーズを弾くし、このアルバムだけに
参加しているオジー・ジョンソンのブラシが強烈にスイングするし、とメンバー全員が一丸となって演奏する様は圧巻の一言。
なぜ、こんなにも素晴らしい演奏が評価されないのかがさっぱりわからない。

B面に移ってもレイ・ブライアントの "Cubano Chant" から始まるなど、クオリティが落ちることはない。全編を通して演奏レベルの高さに
驚かされる。ファゴットを多用するところが食わず嫌いされるかもしれないが、彼らのやる音楽のスジの良さがそういうハンデを軽く一蹴する。
扱う楽器から2人の管楽器奏者にはクラシックの素養があるようで、それがこのグループの音楽の品質に一役買っているように思える。
最後に置かれた "You'd Be So Nice~" の素晴らしさはどうだ。この曲はアート・ペッパーやヘレン・メリルだけではないぞ、という感じだ。

グループとしての活動は4年ほどで、1958年には解散している。おそらく経済的な理由からだろうけど、何とも惜しいことだった。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

"ジャズの街" に集まった Various Artists

2020年08月01日 | Jazz LP (Bethlehem)

V.A / Jazz City Presents・・・・・  ( 米 Bethlehem BCP-80 )


エサ箱のアーティスト名を書いた仕切りはたいていアルファベット順に並んでいるけれど、その末席に "V.A" というのがある。これは Various Artists の略で、
誰かのリーダー作ではなく、複数のアルバムからの寄せ集めだったり、ベスト盤のようなアルバムがここには入れられることになるんだけれど、その性格上、
再発盤が多いことや作品としての統一感がないことから、マニアからは相手にされない一画になっている。

でも、それにしか収録されていない楽曲ばかりで構成された立派なオリジナル作品も中にはあって、それはそれで面白い。人気がない分野だからレコードが
出回ることが少なく、今度いつ出会えるかわからなかったりするものだから、見かけたらこうして拾うことになる。

これはベツレヘムと契約していたアーティストたちが一堂に会して、ジャム・セッション的に録音した楽曲で構成されたアルバムで、珍しい顔ぶれとなっている。
セールスなど気にすることなく、やりたいことをやりたいようにやった感があって、これがなかなかいい。

冒頭、ドン・ファガーキストがラッセル・ガルシア指揮の弦楽四重奏団をバックにワンホーンで歌う "I'm Glad There Is You" で始まる。ファガーキストは一流とは
言えないトランペッターかもしれないが、これが大変味のある演奏をしていて、心に刺さるのだ。ビッグ・バンドでの活動がメインだったのでリーダー作は少ない
けれど、ワンホーンのアルバムを聴いてみたかったと思わせるとてもいいプレイだ。こういうアルバムでしかその実像を覗くことはできないのかもしれない。

チャーリー・マリアーノとフランク・ロソリーノのクインテット、ペッパー・アダムスとハービー・ハーパーのオクテットなどが続くが、どれもその場の即席チーム
ながら、ゆるくも朗らかな演奏をしており、なぜかすべてが心に残る。不思議なものだ。

名も無きレコードだけど、聴くことが出来てよかったな、と思わせてくれる。こういうのが拾えてラッキーだった。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音色の美しさで仕上げられた傑作

2019年05月18日 | Jazz LP (Bethlehem)

Charlie Mariano / Charlie Mariano  ( 米 Bethlehem BCP 25 )


チャーリー・マリアーノが32歳の時に吹きこんだワンホーンの傑作。 聴いていると、やはり白人アルトというのは黒人アルトとは全然違うなと思う。

何よりも魅力的なのはその音色で、ちょうどフィル・ウッズとアート・ペッパーの間のような感じだ。 きらびやかで艶やかな輝きがありながらも彫りの
深い陰影感で聴かせるところが特徴で、ウッズとペッパーのいいところを併せ持ったようなところが珍しい。 アドリブ・ラインは弱くプレイそのものも
たどたどしいところがあり、演奏力で圧倒されることはないけれど、その弱点を音色の彩で大きくカヴァーしている。

黒人アルト奏者はこういう建付けを好まない。彼らは自己表現のために何よりも楽器の習熟を最優先にするし、自身のプレイに自分のすべてを委ねようと
するけど、白人アルト奏者は全体と個を相対化して見ているようなところがある。 調和を乱すような行き過ぎたアドリブは取らないし、音の大きさよりも
サックスの音色が音楽とうまく溶け合っているかにも随分気を配っているような感じがある。

マリアーノもただ吹きまくればいいんだという演奏はせず、全体をリードしながらも最終的には音色の美しさで音楽を仕上げてみせる。 このあたりは
同時期のソニー・クリスなんかと比較してみれば、その違いは明白だろうと思う。 ソニー・クリスはその音色も十分美しいけれど、あくまでもアルトの
プレイそのもので音楽を構築している。 だから、マリアーノのこのアルバムを聴いてもちょっと喰い足りないな、もっと聴きたいな、という腹八分な
印象が残るけれど、ソニー・クリスやソニー・スティットのアルバムは聴いている途中で満腹感が襲ってくることになる。 

こういう音色の陰影美で聴かせる人は多管編成よりもワンホーンがいい。 若い頃のフル・ワンホーンはこれしかなく、人気があるのもよくわかる。
スタンダードをメインに美しく仕上げたところが素晴らしい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

短信~クラリネットが映える演奏

2019年04月24日 | Jazz LP (Bethlehem)



クラリネット、アコーディオン、ギター、ベースという構成で、こういうのはまず相手にされない。

でも、実はこれが傑作。 とにかく、クラリネットの上手さにうっとりする。

まるでクラシックのクラリネットを聴いているかのよう。 

そのせいか、基礎のしっかりとしたジャズという感じで、これが何とも素晴らしい。

音質も良好で、いいレコードだと思う。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

硬質なアルトとうまいギターが絡むと

2019年02月23日 | Jazz LP (Bethlehem)

Hal McKusick / East Coast Jazz #8  ( 米 Bethlehem BCP 16 )


ジャズの世界にはアルバムは残っているけれど、実像が掴みにくいアーティストというのが大勢いる。ハル・マクシックもそういうタイプの人だ。
キャリアのスタートは有名なビッグバンドを渡り歩くことから始まり、50年代後半の数年間に複数のレーベルにリーダー作を集中して残して、
その後はスタジオ・ミュージシャンとして裏方にまわってしまった。マルチ奏者として1枚のアルバムの中で複数の楽器を吹き分けるし、
多管編成のものが多いということもあって、現代の我々には音楽家としての実像がわかりにくい。

そんな中でワンホーン・カルテットのアルバムが2枚残っていて、それらを聴くとこの人の素の姿が一番わかりやすい。 バリー・ガルブレイス、
ミルト・ヒントン、オジー・ジョンソンというピアノレスが趣味の良い伴奏で支える中、ハルのアルトやクラリネットが大きな音で鳴り響く。

この人のアルトは硬質で重みのある音で、奏法は力強くて音に覇気がある。演奏に隙が無く甘い情感で酔わせようという気配もないので、
聴き手がコロリと参るようなはところはなく、背筋のピンとした清潔感と生真面目さはリー・コニッツなんかよりもずっと徹底していて、
これを聴くとコニッツのサッスクは案外メロメロだったんだなと思ったりするくらいだ。そういう音楽に厳格さを求めるような人柄が
この業界には合わなかったのかもしれない。

強いアルトの音と同じくらい感心するのがガルブレイスのギターで、なんと上手いギターを弾くんだろうと驚かされる。こういう風にギター1本で
伴奏を付けるものは多いけれど、こんなに味わい深い演奏はちょっと他には思い当たらない。いつもジム・ホールやジョー・パスばかりが
称賛されがちだが、このガルブレイスも別格な演奏家であることがこれでよくわかる。

得てして「室内楽風な」と言われがちなところがあるけれど、これはそういうのとは違うだろうと思う。白人の腕利きミュージシャンが、
演奏家としての資質を最大限に生かすことができた非常に聴き応えのあるアルバムで、その核心には強いジャズのスピリットを感じることが
できる、実は静かに熱い演奏だ。

ベツレヘムの若い番号のレコードはローレル(月桂樹)のフラットディスクが初版だけど、この時期に製造されたものはプレスの状態が不安定で、
特にこのマクシックのアルバムはプレッシングバブル(凸)が目立つ盤がほとんどで、買うに買えないとマニアを泣かせるレコードだ。
私自身、まったく問題のない盤はこれまでに見たことがない。 手持ちの盤は凸はないけれど、フラット特有の外周部の細かいスレがあり、
少しノイズが出る。でもこの盤は音圧が高く楽器の音も太いので、盤面の多少の瑕疵は気にせずにゲットされてよいと思う。見た目の印象より、
実際の聴覚感がいいものは案外多い。これに関しては、経験上、問題ないものを待っているとおそらく日が暮れてしまうような気がする。


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レナード・フェザー推薦のワンホーン

2019年02月11日 | Jazz LP (Bethlehem)

Eddie Shu / I Only Have Eyes For Shu  ( 米 Bethlehem BCP 1013 )


レナード・フェザーは過小評価されていたり陽の当たらない所にいるジャズメンを擁護して広く紹介するなど、評論家としてやるべき仕事に熱心だった。
そういうところは、大物頼みだった日本の評論家と言われた人たちとはずいぶん違う。 そのおかげで今私たちがレコードを通して聴くことができるアーティストは
大勢いるわけだが、このエディ・シューもその1人だ。 おそらくは唯一のリーダー作であろうこのレコードのライナーノーツでレナード・フェザーはシューの
驚くべき多才さを詳しく紹介し、正しく評価されない状況を怒りを込めて嘆いている。 このレコードは彼の口添えがあって作られたのかもしれない。

そういう陽の当たらないミュージシャンたちの受け皿としてベツレヘム・レコードが果たした役割も大きかった。 セールスという意味では望み薄の人たちの
レコードをずいぶんたくさん作っていて、凝りに凝ったジャケット装丁などコストをかけることも厭わなかったので、後の時代のレコード・コレクターたちにも
広く愛された。 このレーベルが無かったら、中古レコードのエサ箱の中はずいぶん寂しい様相になっていただろうと思う。

そういう心強い味方をバックにしたシューの演奏はテナー・サックスのワンホーンで、その音色はスタン・ゲッツのようだ。 でもその音は力なく弱々しい。
フレーズはぎこちなく、メロディアスに聴かせるという感じではない。 各曲の演奏時間も短く、あっという間に音楽は鳴り止んでしまう。

ただ、これが本当にシューという人の実力だったのかどうかはよくわからない。 こういうのはこの時代の10インチのレコードに共通する話で、アーティストの
本当の力をどこまで上手く再現できているのかは怪しく、この1枚だけでは判断できない。 だからこそ、もっとたくさんレコードを残して欲しかったと思う。

モノラル時代の10インチは音楽を聴くという観点で言えば不十分なメディアだったけれど、ジャケットのデザインには時間やお金をかける精神的余裕があった時代
だったので秀逸なものが多い。 だから、こういうのは内容うんぬんではなく、まずはその雰囲気を楽しめればそれでいいのだと思う。 シューの場合は
これでしかまともに聴くことはできないのだから、なおさらである。 ジャケットを愛でながら、古い音をそのまま楽しく聴けばそれでいいのだろう。


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エリントンへの告白

2018年11月11日 | Jazz LP (Bethlehem)

Charlie Mingus / The Jazz Experiments Of Charlie Mingus  ( 米 Bethlehem BCP 65 )


ミンガスはサヴォイでの録音のすぐ後に、ジョン・ラ・ポータやテオ・マセロらを引き連れてピリオド・レーベルに同じようなコンセプトで10インチ2枚分の録音を行った。
その音源をベツレヘムが買い取り、リマスターして12インチとして切り直したのがこのアルバム。 再発かと侮るなかれ、これは恐ろしく音質がいい。
ピリオドの10インチは品質的に問題があることが多いし、きれいなものはもうあまり残っていないだろうから、これで聴くのが一番いいと思う。

ピリオド盤には "King Oliver" という変名で記載されていたサド・ジョーンズの伸びやかでノスタルジックなトランペットが全編を通じて非常に印象的だ。
更にチェロを1本入れて抒情的に弾かせていて、アルバム全体に郷愁感が色濃く漂う。 このアルバムを聴いてようやくわかったのは、ミンガスは結局のところ、
エリントンの音楽の "Reminiscent" な情感を自分の音楽を通して再現しようとしているのだ、ということだった。 いくらエリントンに心酔しているとは言え、
ここまでやるとこれはもう立派な愛の告白である。

この頃のテオ・マセロはいいサックス奏者だった。 音色は深く、幽玄な雰囲気で、ミンガスの音楽にはうってつけだ。 彼がこの中で果たす役割は大きく、
リードを取ること自体はあまりなくても、その深淵な音色を操ることでミンガスのコンセプトを確実に形にしていった。 この頃から既に誰かのために自身の才能を
使うことに長けていたのかもしれない。

サヴォイとこのピリオドの2つの録音はミンガス自身はどう思っていたのかはわからないけれど、私は圧巻の素晴らしい出来だと思っている。
デューク・エリントン本人には、彼の告白は届いたのだろうか?


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おそらく彼女は迷っていた

2018年08月18日 | Jazz LP (Bethlehem)

Nina Simone / Little Girl Blue  ( 米 Bethelehem BCP-6028 )


ベツレヘムのレコードは盤もジャケットもきれいなものが他のレーベルと比べて特に少ないような気がする。 カタログ内容のほとんどが私の興味の対象外だから
別に構わないんだけれど、それでも何枚か探しているものがあって、その1枚がこのレコードだった。 これは特にきれいなものがなくてもう半ば諦めていたけれど、
ようやくまともなコンディションのものが見つかった。 且つ、値段も今まで見た中では一番安かった。 今月は何だか怖いくらいツイてる。

この時、彼女は歌手としてやっていくか、それともピアニストとしてやっていくか、で迷っていたんじゃないだろうか。 ジュリアードに学び、カーティス音楽大学への
進学すら考えていた彼女のピアノ演奏の圧倒的な素晴らしさが全編で聴ける。 彼女は人の心を揺さぶる歌を歌うことができる稀有な歌い手だけど、このアルバムは
それ以上にピアノが凄い。 彼女のピアノトリオのレコードが残されなかったのは非常に残念なことだと思う。 もしそれが残っていれば、ジャズ史における
ピアノトリオの名盤のラインナップは今とは違ったものになっていただろう。 ここでは力の入れ様が、7:3くらいの割合でピアノの方が勝っている。 

"Good Bait" をこんな風にドラマチックに解釈して演奏した例が他にあるだろうか。 まるでホロヴィッツのピアノを聴いているかのようだ。
そして、続く "Plain Gold Ring" でのフォークテールの語り部のような歌。 更に "You'll Never Walk Alone" のクラシカルなピアノ。
この辺りはもう凄すぎて、眩暈がする。 決して大袈裟な話ではなく。

彼女はデビューの時点で、既に何もかも超えてしまっている。 これを聴いてしまうと、他のレコードがどれも色褪せて見えてくるから恐ろしい。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛という憂鬱と現ナマ

2017年01月28日 | Jazz LP (Bethlehem)

Herbie Nichols / Love Gloom, Cash, Love  ( 米 Bethlehem BCP-81 )


ハービー・ニコルズはとにかく録音が少なく、理解を深めるのが難しい。 1952年のサヴォイ録音、1955,56年のブルーノート録音、そして1957年の
ベツレヘム録音の3種類しか残っていない。 本人は常にレコーディングすることを望んでいたけれど、彼を支援してくれる人が現れなかった。
このあたりがモンクなんかと違うところで、どうやら人から好かれるところがあまりなかったようだ。 モンク自身、この人のことを評価しなかった。

その奇妙な作風や演奏スタイルから常にモンクと比較されるけれど、モンクが多くの人から愛され、ニコルズがスルーされるのはやはりメロディーへの
こだわりの有無だろう。 モンクはとにかく自身の曲のAメロにこだわって作曲しているけれど、ニコルズの曲は主題が曖昧(というか、ないに等しい)。
ものすごく好意的に解釈すればニコルズのほうが現代音楽的だ、と言えなくもないけれど、さすがにこれは言い過ぎでちょっと苦しい。

サヴォイ盤は未聴なのでどんな演奏なのかはよくわからない。 3枚の中ではブルーノートが一番入手が簡単だが、私は今も昔もこの演奏をどうしても
愉しむことができなくて、結局レコードは処分してしまった。 それに比べて、このベツレヘム盤ははるかに聴きやすい。 スタンダードが2曲含まれて
いることもあるけれど、自身のオリジナル曲もブルーノート盤よりも楽曲としての纏まりが良く、耳に残るのだ。 この盤で演奏される曲には主題らしき
ものが比較的はっきりしているし、演奏の表情も明るい。 ダニー・リッチモンドのドラムが元気よくて、演奏全体もポップな感じだ。 音楽的にはこの盤の
ほうが明らかに優れていると思う。 無理にモンクの名前を持ち出さなくても、少しクセのある、それでいて聴き応えのあるピアノトリオとして愉しめる。
ニコルズのレコードを何か1枚手許に残すのなら、これがいいのではないか。

意味深なタイトル曲のワルツの拍子がなかなか優雅で、スイングしていないにも関わらず印象的だ。 ブルーノートでは聴けないそういう意外な側面が
この盤には刻まれている。 ただ、その声はとても小さく、聴き取るには普段よりも注意を払わなければいけないかもしれないけれど。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蒼い世界、というレコード

2014年09月23日 | Jazz LP (Bethlehem)

Mel Torme / It's A Blue World  ( Bethlehem BCP 34 )


昔(25年くらい前)はこのレコードは寺島本の影響で値段がそこそこ高くて、でもそれ以上にきれいなものが全然なくて困った盤でした。
当時私が持っていたのも盤質が今の感覚でB-~Cくらいの状態で、それでも8,000円くらいしたものでした。 でも、今じゃ値段は二束三文だし、
何より驚くのはきれいなものがたくさん流通していることです。 時代が変わったんだなあ、と思います。 これも500円でした。 CDより安い。

私は男性ヴォーカルが昔から好きでよく聴いていて、メル・トーメも好きでたくさん持っていました。 以前はレコードそのものがあまり出回らず、
トニーやヴィンテージマインに稀に入荷するくらいでしたが、今は安くてきれいなのがいつでも買えるので、いつも後回しになってしまっています。
だから、まだこれしか手元にはありません。 

男性ヴォーカルはジャズというよりはショウビジネスの印象が強いせいかジャズファンは敬遠するようですが、私は女性ヴォーカルよりずっと好きです。
でも、男性ジャズファンは、ほぼ例外なく、年をとって性欲が衰え出すと白人美人女性ヴォーカルに凝りだすので、私もそのうちにそういうレコードを
褒めるようになるのかもしれません。 そういうのを血眼になって求める人はシルビア・シムスやダイナ・ワシントンやメーベル・マーサのレコードは
買わない訳で、やってることはAKB48の周りに群がる若者と基本同じです。 いくつになっても、男は男だ、ということですね。

メル・トーメは声がハスキーで声量もなく、クルーナーが主流だった当時はかなりコンプレックスがあったようです。 でもそれを上手く逆手にとって、
聴いた人にヴェルヴェット・フォグと言わせるくらい歌が上手くなった。 アップテンポのノリの良さもシナトラの真似をしないスタイルを確立して、
男性ジャズヴォーカルの門戸を大きく拡げた人です。

このアルバムはかなり通好みな選曲をして全編バラード調で仕上げた内容で、バックのオケのアレンジはイマイチですが、歌の情感は素晴らしい。
珍しくヴァースから始まる "Isn't It Romantic" が特に素晴らしくて、この曲の一番の名唱だと思います。 
また、ボチボチと探さなきゃな・・・・



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする