廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

リーダー作がほとんどない人 ~その3~

2019年08月17日 | Jazz LP (Jazz Line/Jazz Time)

Dave Bailey Sextet / Bash !  ( 米 Jazz Line JAZ-33-01 )


フランク・ヘインズの場合はリーダー作がほとんどないどころではなく、1枚もない。 "Frankly Speaking" というタイトルのリーダー作を録音したが、
発売されなかった。 理由はよくわからない。 テープを探し出してディスクユニオンあたりから発売してくれないだろうか。 
そうすればちょっとした事件になる。 どうでもいいアート・ペッパーの再発なんかやってる場合じゃないだろうと思うんだけれど。

共演で参加したアルバムがさほど多くないにもかかわらずマニアの間でその名前がよく知られているのは、デイヴ・ベイリーの稀少盤に参加している
からだ。 稀少な高額盤にメンバーとして入っているからそれに引きずられて演奏もなんだか良く聴こえるというパターンで、過大に評価されがちな
ところがあるのがちょっとどうかとは思うが、例えばこのアルバムの場合だとドーハムやフラーがショボショボのプレイをしているせいで骨太で
しっかりしたテナーの音色が1番立派に聴こえる。 ロリンズの曲をやっていることもあり、無意識のうちにロリンズの影がちらついたりもする。

プレイは非常に安定していて、音色もテナーという楽器の良さがよく出ている鳴り方だ。 吹き方にも勢いがあるし、フレーズもなめらか。
リーダー作があってしかるべきだと思うけれど、一番いい時期に録音までされたのにリリースがなかったというのは本当にツイてない。 
1965年に37歳の若さで亡くなったというのだから、思い残すことがたくさんあっただろうと思うと本当に気の毒になる。

この "Bash!" というアルバムは傑作が連なるデイヴ・ベイリーのアルバム群の中では内容的には出来が落ちる方だと思う。 でも、日本ではこの
アルバムは一定の人気があって、その中で奮闘しているヘインズのことに目を向けて好きになる人が多いのはとてもいいことだと思う。
リーダー作がなくても、見ている人はちゃんと見ているということだ。

それはそうと、デイヴ・ベイリー名義のアルバムを聴いていると無駄なソロパートを作って叩きまくったりしない奥ゆかしさに心底感心してしまう。 
例のお方にその爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思うのはきっと私だけではないだろう。





このアルバムジャケットの裏面にヘインズの貴重な顔写真が載っている。


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隙間の多さが心地よいレコード

2014年07月13日 | Jazz LP (Jazz Line/Jazz Time)

Dave Bailey Quintet / Reaching Out  ( Jazz Time JT 003 )


現代欧州の優秀な演奏ばかりを1週間聴いていると感心はするものの、やはり聴き疲れするものです。 なので、週末家にいる時はもっとのんびりとした
演奏を聴きたくなりますが、そういう時はアメリカの古いブルース形式のジャズが一番です。

でも、うちにはそういう気分の時にピッタリのレコードがあまりなくて、もうちょっと真剣に探して買わなきゃいけないんだろうなあ、と思うのですが、
いつもそう思ってばかりで終わってしまい、一向にレコードは増えていきません。 ブルーノートはどれも立派な演奏ですが立派過ぎて耳障りだし、
もっと刺激が少なくてそれでいて上質なものを、ということになるとほとんど選択肢が無くなってきます。

このレコードが有り難がられるのは、そういう誰もが日常的に求めるものが全て備わっているからなんだろうと思います。 稀少性だけなら、
ここまで褒められることはないでしょう。 

1曲のあまり出来のよくないスタンダードを除いて全編ブルース大会で、フランク・ヘインズのワンホーンが朗々と鳴るのですが、この人の音色は
ズートとモブレーを混ぜたような柔らかさがあるので耳障りがいいし、グラント・グリーンのギターはブルーノートで聴くような深みのある音ではなく
もっと乾いて小粒な音で、普通なら録音が悪いと文句を言うところなのに、この穏やかな音楽には逆にそれが似合っています。 
ビリー・ガードナーのピアノもソロになると指がもつれ気味ですが音はきれいで抑制が効いている。

名演・名盤と言われてどんなにすごい演奏なんだろうと見当違いな期待を煽られることが多いのではと危惧しますが、実際は尖ったところが
どこにもなく、全体が均一的に地味でかなり隙間の多い演奏です。 これを聴けば、Epic盤は随分メリハリの効いた音楽に思えてくる。 
でも、そういうゆるくてあっさりしたところが他にはない貴重な魅力になっているのだと思います。

オリジナル盤といっても音はマイルドで、ヴォリュームを上げてもあまりうるさく感じることもないところもこのレコードには似つかわしい。
デューク・ピアソン盤で感じたオーディオ的な不満感はこの盤にはありません。 不思議ですね。



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風説の流布

2014年06月15日 | Jazz LP (Jazz Line/Jazz Time)
5か月前、最後に買ったレコードはこれでした。



Duke Pearson / Hush ! ( Jazz Line 3302 )


内容については以前からCDで聴いていて知っていたのですが、世評の高さに反して私にはあまり良さが感じられませんでした。 ただ、それは
CDの音質のせいなのかもしれないな、と自分の感想に自信が持てませんでした。 そう思った理由は、どこかでオリジナル盤は音がいいという話を
読んだ記憶があったからで(どこだったか思い出せませんが)、ちゃんとした音で聴けば印象も変わるのかもな、とぼんやり思っていました。
こういうのは如何にもコレクター的な発想です。 

でも、実際にオリジナルを聴いてみると、音は別によくありませんでした。 いや、正確に言うと、録音自体がプアなんです。 でも、その貧弱さを
そのまま再現してくれているので、そういう意味では盤の音鳴り自体は悪いとは言えないのかもしれません。 うーん、わかりにくい。

全体的に薄いベールで覆ったようなくすんだ録音で、全体の音圧も低く、特にベースやドラムは音が小さすぎてよく聴こえない。 
だから、演奏の躍動感が全く伝わってこない。 実際の演奏にはあったのかもしれませんが、それを伝えないような音です。 
ドナルド・バードとジョニー・コールズの2トランペットという珍しい構成ですが、2人の違いがよくわからないという声が聞かれるのも
これでは無理もないと思います。 

じゃあ、内容はどうかというと、1962年のニューヨーク録音ということがちょっと信じられないような軽やかで清潔な感じの演奏です。
これは全てデューク・ピアソンという人の稀有で得難い個性の賜物です。 "Childs Play" の最後で見せる印象的なアレンジを聴けば
この人が後年ビッグバンドの編曲を手掛けるようになるのも頷けるし、"Angel Eyes" で見せるピアノトリオのクリスタルのような響きも
この人にしかできないもの。 そういうこのアルバムにしかない美質を、プアな録音が台無しにしているような気がします。
つまり、CDで聴いてもオリジナルで聴いても、どうも本当の良さがよくわからない、ということです。

このレーベルを興したFred Norsworthyは英国から渡米後、最初はパシフィック・ジャズでプロモーションの仕事をしながらレコードビジネスを学び、
出資者を集めて夢であった自身のレーベル "Jazz Time"を設立、有名な3枚を3日間で録音しますが、これが全く売れなかった。 だから、レーベルは
すぐに活動不能となります。 そこへドラマーのデイヴ・ベイリーが共同出資者となり、名前も"Jazz Line"と変えて"Bash"とこのレコードを
創りますが、これも全く売れず、すぐに倒産しました。 だから、録音がプアなのは仕方ないのだと思います。 とにかく、金が無かった。

1962年のニューヨークと言えば、その数ヶ月前にコルトレーンはヴィレッジ・ヴァンガードで"Impressions"を録音し、マイルスは自身の音楽の
根本的な見直しを図るためにスタジオには一切入らなかった時期。 そういう時代が大きく変わろうとしている最中に、こんな牧歌的で
覇気のない音楽が評価されるはずがない。 明らかに、KYです。 

どこかであるレコードのオリジナル盤の音がいいという話が出ると、それがあっという間に流布します。 でも、稀少盤だから音がいい、
オリジナルだから音がいい、稀少盤だから内容が素晴らしい、オリジナルだから内容が素晴らしい、というような幻想や思い込みが
拙い文章表現力と相俟って、稀少盤を買った喜びと内容の評価がごちゃ混ぜになって語られていることが多い。 でも、高額盤は簡単には
手に入れられないし、そもそも手にできる人は限られてくるから、大抵の場合、真実を確かめようがないというのが実情でしょう。

結局は真実を知るには自分で確かめるしかない世界ですが、このブログはあまり風説には惑わされず、ありのままを書いていこうと思います。
誰かがいいと言ったから私もいいと言う、そんなことはないように。



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