廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

存在の耐えられない重さ

2021年01月30日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / Duke Ellington & John Coltrane  ( 米 Impulse ! A-30 )


赤ん坊が眠っている揺り籠をゆっくりと揺らしているような "In A Sentimental Mood" で始まるこのアルバムは、概ねアーロン・ベル / ウッドヤードの
演奏とギャリソン / エルヴィンの演奏という2つの雰囲気の異なる楽曲群のミックスになっている。前者はエリントン主導の音楽で、
後者はコルトレーンが主導する。コルトレーンが終始恐縮してエリントンに追従しているわけではなく、この2つは音楽的には対峙している。

2人の音楽性は水と油のように混ざり合うことはなく、物別れに終わっている。交わり切れなかったのか、最初から独立並行させる
つもりだったのかはよくわからないが、「共演」ではなく「競演」になっている。そのため、統一感には欠ける内容になっていて、
聴いていて居心地の悪さが残るだろう。尤も、ジャズはそういう刹那的な瞬間を捉える音楽なのだということであれば、こういう内容に
なったのは自然な流れだったのかもしれない。飛ぶ鳥を落とす勢いだったコルトレーンの音楽要素は何としても生かしたかったのかもしれない。

そういう意味では、B面冒頭のストレホーン作 "My Little Brown Book" が一番理想的な形に収まった演奏だったように思う。
エリントン / ストレイホーンの不可思議な世界観とコルトレーンの控えめなアドリブ美学が奇跡的に溶け合った美しさが聴ける。
現状は巨匠同士の共演という点でしか認知されていないが、もし全編がこういう内容になっていたら、このアルバムへの評価は
大きく変わっていたことだろう。

ただ、それにしても、この存在の耐えられない重さは一体何だろうかと思う。音楽家一人ひとりの存在感がこんなにも重く生々しく
感じられる作品は他にどれほどあるだろうか。このアルバムはそこが恐ろしい。



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珍しいだけに止まらず

2021年01月23日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Bud Shank / In Africa  ( 南ア Pacific Jazz PJX 5000 )


持っていることを忘れるくらい、長い間聴いていなかった。レコードは針を通さないと物理的に劣化するので、時々聴かないと
後で泣きを見る。前回聴いたのがいつだった忘れたが、幸いにも盤もジャケットも異常は見られなかった。

放置していたのは、バド・シャンクの音楽にあまり魅力を感じないからだと思う。聴けばそのいくつかは悪くないとは思うけれど、
時間を置いてまた聴きたくなるということは特にない。気の毒だが、プレーヤー止まりの人だったと思う。
主要なものは一通り聴いたけれど、結局手許に残したのは、これとローリンド・アルメイダと共演したアルバムの2枚だけだった。

南アフリカ楽遊の際に現地で製作された稀観盤で、昔、スイングジャーナル誌巻頭のレーベル特集企画ページにジャケ写が載ったことで
有名になったアルバムだ。以来、コレクターが目の色を変えて探すようになった。

そういう単に珍しいだけのアルバムかと思って聴いたら、案外そうでもなかった。冒頭で "A Tribute To The African Penny Whistle"という
アフロ系リズムの自作曲を演るなど、なかなか手の込んだ作りになっていて、退屈なウェストコースト・ジャズとは一味違う感じだ。
フルートとアルトを交互に持ち替えながら、スタンダードをベースにした素朴な演奏で、悪くない演奏を聴かせる。

"Misty Eyes" というオリジナル曲で見せる抒情的な情感が良くて、この1曲のために処分せずに残したようなものだが、
それ以外の演奏も飾り気のないストレートなジャズで、まあ、悪くない。環境が変わると、演奏の気分も変わるんだろうなと思う。


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冬の寒い朝の過ごし方

2021年01月19日 | Classical

Yevgeni Svetlanov / Sergei V. Rachmaninov Piano Pieces  ( 露 Melodiya C10-15595 )


朝は大体5時頃に起きる。在宅勤務になってそろそろ1年になろうとしていて、もう目覚ましをかけることはないけど、勝手に目が覚める。
今はこの時間はまだ外は真っ暗で、6時を過ぎる頃になるとゆっくりと空が白み始める。

たっぷりと時間があるのでレコードを3枚分くらい聴くけれど、この時間帯にジャズは耳障りなので、大抵は静かなピアノ音楽を聴く。
元々、ジャズとクラシックを聴く比率は10対1くらいなのだけど、毎年冬のこの時期になると、この比率は逆転する。冷たい空気の中では
なぜかクラシックの方が聴きたくなるのだ。理由はよくわからない。

寝起きのぼーっとしている頭にモーツァルトやベートーヴェンはうまく入ってこないので、バッハやスカルラッティのようなバロックか、
もしくはシューベルト以降の作曲家のものがメインになる。

スヴェトラーノフが弾くラフマニノフのピアノ曲集もこの時間帯によく合う音楽だ。大指揮者として名を成したこの人も、
元々はピアノ弾きとして音楽を始めたわけで、大成した後も気が向いたらこうしてピアニストとしての仕事もしていた。
指揮者になろうという人は音楽を大局的に眺める傾向が強いから、その演奏も普通のピアニストの演奏とは雰囲気がガラリと変わってくる。
不思議なものだ。

ラフマニノフ自身が歴史に名を刻むような大ヴィルトゥオーゾだったから、書いたピアノ曲も技術的難易度が高いものが多かったが、
ここでは静かで憂いに満ちた楽曲だけが選ばれていて、それらをスヴェトラが物憂げに弾いている。これが他の誰も出せないような
ある種の独特な雰囲気となっていて、素晴らしい。

「ヴォーカリーズ」や「エレジー 作品3-1」のような、ラフマニノフにしか書けない美しく儚いメロディーを聴きながら、
暗い空が徐々に明るくなっていく様をぼんやりと見つめているのが、毎朝の決まり事のような日々が続いている。



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セピア色の音楽

2021年01月17日 | Jazz LP (Vocal)

The Modernaires / Tributes in Tempo  ( 米 Columbia CL-6043 )


モダネアーズはグレン・ミラーお抱えでその名が知られている男女混成コーラス・グループ。日本ではこういうのはまったくウケないけれど、
海外ではジャンルを問わず、コーラスというのは人気がある。元々は古代キリスト教の聖歌にルーツを持つ形式で、意識することがなくても、
彼らのDNAに刷り込まれているのだろう。

フォー・フレッシュメンが現れて高度な歌唱を屈指するようになると、それに追随するグループが次々と出てきたが、それまではこういう
ドリーミーな歌唱をするのが王道で、パイド・パイパーズと人気を二分していた。楽器の重奏だけでは表現しきれない情感を出すのは
コラースしかないということで、40年代になると白人ビッグ・バンドはこぞって専属グループを抱えていた。

こういうのを聴いていると、その時代のことなんて何も知らないにもかかわらず、古い真空管ラジオから流れてくる音楽を聴いているような
気分になる。部屋の中がゆっくりとセピア色に染まっていくような気がする。タイム・マシーンなんて出来なくても、別にいいんじゃないか、
とさえ思えてくる。


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実は良質なハード・バップ

2021年01月09日 | Jazz LP

Tony Scott / Free Blown Jazz  ( 米 Carlton STLP12/113 )


聴いてビックリの高音質盤。1957年11月16日の録音だが、59年に発売されている。珍しいメンツの組み合わせだが、LP2枚分の録音を
しており、もう1枚はSeccoから発売されている。どういう経緯のリリースなのかはよくわからない。このカールトンというレーベルは
RCA Victor の傍系レーベルだがジャズ専門ではなかったし、レーベルが企画した録音ではなく、誰かが御膳立てした録音で、その後に
版権を買い取っての発売だったんじゃないかと思う。

それぞれ持ち味があるメンバーが集まっているが、その誰か固有の色が付いた音楽ではなく、共通言語のハード・バップになっていて、
これは穴場のレコードだと言っていい。サヒブ・シハブの重量級バリトンが効いているが、トニー・スコットもバリトンに持ち替えて
演奏している楽曲もあり、とても聴き応えがある。一流の奏者ばかりなのでクオリティーが高く、ちょっと驚かされる内容だ。

トニー・スコットとジミー・ネッパーの名義になっているが、この2人が特に目立つような感じではなく、みんながそれぞれいい味を
出している。やはりビル・エヴァンスの演奏が一番気になるわけだが、自身のスタイルが出来上がりつつある上り坂の時期であり、
彼の独特のリリシズムがこのアルバムを平凡なハード・バップ・セッションに流れることを防いでいると思う。ハード・バップはピアノが
重要なキーになるのだということがこれを聴くとよくわかる。"Body And Soul" でのソロなんて、まるで "Flamenco Sketches" だ。

モノラルは聴いたことはないけど、このステレオは時代を考えると極めて良好な音質で、この演奏の良質さをうまく後押ししている。
安レコということでまともに相手にされていないのが残念でならない。


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不思議と惹かれる演奏

2021年01月05日 | Jazz LP (Jubilee)

Randy Weston / Piano A-la-mode  ( 米 Jubilee JGM 1060 )


ピアノ音楽を聴く楽しみは、何と言ってもこの楽器が本来持っている美しい音色に耳を澄ますことだったり、和音の調和を楽しむこと
だったり、紡ぎ出されるメロディーに酔うことだが、こういう楽しみ方のすべてを否定するのがランディー・ウェストンである。

モンクとの類似を挙げられることが多いけれど、私にはあまりこの2人が似ているという印象はない。根っこのところが違うような
気がする。モンクは伝統を重んじるリズムの人、この人は伝統的なものを嫌い、フレーズの断片をコラージュする人。
彼が書いた代表作 "Little Niles" は1度聴くと忘れられない後ろ髪を引かれるような不思議な印象を残すが、あの感覚である。

レコード・デビューしてまもない時期の演奏だが、不思議な余韻が残る、心に引っかかるアルバムだ。ピアノ・トリオの王道なんて
最初から相手にしておらず、自由なインスピレーションで思うがままにピアノを弾いていて、その屈託のなさが好印象を残す。
メロディーの美しさや調和のとれた和声の心地よさとは無縁なのに、この演奏にはある種の安らぎのようなものを感じるのだ。
不思議なレコードである。

このアルバムは青色の大レーベルが初版だが、なぜかこのセカンド・レーベルのほうが音がいい。だから、初版には手を出さず、
この黒色の小レーベルが出るのを待っていた。盤の形状がリヴァーサイド盤と似ているので、同じ工場でプレスされたのかもしれない。

この版で聴くペック・モリソンのベースの音色が素晴らしく、気が付くと彼の出す音色に耳をすまして聴いている。
ウッド・ベースの木が鳴っているのがよくわかるとてもいい音だ。ペック・モリソンの音色のことなんて、今まで考えたこともなかった。
コニー・ケイのシンバルも生々しい音で録られており、このサウンドはいろんなことを教えてくれる。

アルバムの最後に置かれた "Fe-Double-U Blues" が何とも言えないカッコいい雰囲気のブルースで、何度も聴き返したくなる。
ここにランディー・ウエストンの底力が込められているのだ。



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間を聴くピアノ・トリオ

2021年01月02日 | Jazz LP

Pete Malinverni / Don't Be Shy  ( 米 Sea Breeze Jazz SB-2037 )


昨年末の猟盤は不調を極め、12月に入って拾えたのは3枚だけ。一体、いつになったら回復するのやら。
それでも内容には満足しているので、楽しんで聴いている。これはその中の1枚。
初めて聴く人だが、あまりの良さに久し振りに衝撃を受けた。まだまだ優れた演奏はあるものだ。

ゆったりとしたテンポの楽曲がメインで構成されていて、非常に間の多い演奏が心地よい。こんなに優雅なスイング感に浸るのは
長らくなかったような気がする。写真を観る限りでは若い人のようだが、落ち着き払った弾きっぷりが素晴らしい。
若い演奏家には大抵の場合、どこかに野心があるものだが、この人はそういうものはどこかに置いてきたかのようだ。

全編に歌心が溢れていて、紡ぎ出される優しいフレーズが終始語りかけてくる。やっぱりそれがどんな音楽であっても、
歌を忘れてはいけないのだ、ということを想い出させてくれる。最小限の音数で、最大限の効果を生み出している。
ピアノが表面的な綺麗さに流れず、適度の粘りが効いており、過去の名盤たちに共通するある種の香りが濃厚だ。

そして、バックのメル・ルイスのブラシ・ワークが最高だ。まるでデビーのモチアンのようなブラシさばきで音楽をゆったりと揺らし、
全体を上品な質感に仕上げている。最後に置かれた "Who Cares" の何と素晴らしいことか。ピアノ・トリオの快楽の結晶のようだ。

選曲も良く、私好みの名曲がずらりと並んでいるのが嬉しい。エヴァンスやファーマーの愛奏曲を上手く消化して、
オリジナルな音楽として提示してくれている。これはまちがいなく傑作。最後まで手放すことはないだろうと思う。


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