廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

2013年の最終収穫

2013年12月31日 | Jazz LP (Savoy)

Jazz ... It's Magic  ( Regent MG 6055 )


レコードを再び買い始めて1年半、最初の半年は様子見のため実際はほとんど買うことはありませんでしたが、今年に入ってからは
大体月2~3枚程度を買うようになりました。 若い頃に3大レーベルやノーマン・グランツ、有名なマイナーレーベルの主だったところは
大体聴きましたので、今更そういうのを大枚はたいて買おうという気にはなりません。 その中の幾つかはもう1度手元に置きたいと思うものも
あるので、そういうのはまたそのうちに買うことになると思いますが、当時聴き逃したものや手が回らなかったもののほうにやはり興味が湧きます。

上記はそういうものの1枚で、以前は手が回らず聴けなかったレコードです。 まあ、珍しくもなんともないレコードで、DUの各店舗で只今も
絶賛売れ残り中です(笑)。 どの店舗の在庫も16,000円~21,000円くらいの価格幅で、どれも「盤にキズあり」だそうです。
キズはまあいいとして、値段が私の感覚ではちょっと高過ぎます。 だからもっと安いのをと思っていましたが、今年最後の収穫で、96ドル。
ジャケットも盤もきれいで、こちらの粘り勝ちです。

Curtis Fuller、Sonny Redd、Tommy Flanaganらデトロイトの若者たちが演奏を楽しんでいる様子が手に取るようにわかる、いいレコードです。
ミドルテンポのブルース4曲とバラード・メドレーが1曲。 Sonny Redd のアルトの音がとてもきれいに録れていて、これが1番の印象。
Curtis Fuller の音もクッキリと録れていて、これなんかはブルーノートなんかよりも聴き応えがあります。

歴史を変えるような演奏でもなく、DUの廃盤セールにも掛からないようなレコードなんでしょうが、実際はこういう演奏やレコードたちが
アメリカのジャズ・シーンを支えていたんだと思います。 

Dave Bailey のEpic3部作を褒める人はたくさんいますが、こういうのを褒めてくれる人はいませんよね。 なぜだろう?
Five Spot After Dark のようなキラー・チューンがないからかもしれませんが、あのレコードと比べても全く遜色ない出来なのに。

高価で稀少な廃盤ばかり聴いていると、疲れる時があります。 だから、こういうプリティなレコードはどうしても必要です。
いつか正当な評価を受ける日が来るでしょうか。



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かっこいい現代の欧州ジャズが教えてくれること

2013年12月30日 | Jazz CD
欧州ジャズを聴くなら、高価な半世紀前の廃盤を探すのも結構ですが、やっぱり、現代の演奏のほうがいい。
以前にも書きましたが、あのころの演奏はやっぱり発展途上で未消化のまま終わってしまった残念な記録の残骸です。

ただ、これはあながちミュージシャンたちばかりが悪かったわけではありません。 レコード制作者側にも問題がありました。
レコードを作る際、プロデューサーやアレンジャーがジャズのことがあまりわかっていなかったため、アメリカからスタッフを呼び寄せて
アレンジを任せたら、その人がウエストコーストで仕事をしていた人で、出来上がったレコードがミュージシャンが意図したわけでもないのに
いつの間にか欧州版ウエストコースト・ジャズになっていた、というケースが多かった。 
こんなちぐはぐな状態の中でレコードが作られたのですから、いいものがそんなに多く残っているはずがありません。 

それに比べて、現代の演奏家たちは自分のやりたいことができるので、あちらこちらでいい作品が出てきます。



Stella / Hans Kennel Group featuring Mark Soskin

Hans Kennel はスイスのトランぺット奏者ですが、あまり情報がない人です。 コレクターには僅かにEPが1枚知られている程度。
純粋なジャズをやっていた期間は例によって短かったようで、アルプホルンを吹いてアルプス音楽をやったり、ジャズ・ロックの常設バンドに
参加したり、とジャズ以外の活動のほうが忙しかったようです。

そんな中、1996年に制作されたこのCDは、ちょっと信じられないくらいかっこいいジャズになっています。
アルトサックスを入れたクインテットですが、このアルトがしっかり鳴っていて素晴らしい。 本当にひんやりとした冷たい空気が漂う中、
切れ味鋭いハード・バップが展開されて、各楽曲も素晴らしいです。 冒頭の曲を数十秒も聴けば、これは凄い、ただごとではない、
というのにすぐ気付きます。

Amazonでカナダのセラーから新品を買いました。 341円。 送料は別ですが、それにしても何なんでしょう、この値段・・・・
ジャケットデザインも酷いですね。 売る気、あるのか? と思ってしまいます。

2カ月ほど前、DU新宿店で「強力推薦盤」というコメント付きで1,800円で中古が出ていました。 
DUの店員さん、よくわかってらっしゃる。 さすがです。 無くなるのは時間の問題なので、普通に買える今のうちにどうぞ。



Mare Mosso / Fabrizio Bosso Quartet

私が離れていた時期に盛り上がっていたらしい High Five Quintet のトランペット奏者、というくらいの知識しかありません。
そのグループだって、例のクイーンの「地獄に道連れ」をやってるアルバムしか知りません。

これは、グループの成功でメジャーレーベルでつまらないアルバムを連発するようになるのとは別のイタリアのレーベルでの録音で、
これがすごくかっこいいです。 ワンホーンで全編吹きまくっていますが、しっかりとしたピアノトリオをバックにして、
黄金を思わせる輝かしい音色で不思議と浮遊感のある演奏をしています。 なめらかなアップテンポもうるさくなく、バラードは
しっとりとしていて、これは素晴らしいです。

DU新宿ジャズ館で「傑作ハードバップ」のコメント付きで、1,600円。 騙されたつもりで買いましたが、これは買ってよかったです。


このように、現代の欧州ハードバップのいい録音は、実にいろんなところで見つけることができます。
こういうことをちゃんと知れば、訳のわからない高価な値段がついた廃盤レコードなんてだんだん欲しくなくなってきます。 
高いお金を出したせいで、本当はつまらないと思っているのに、無理やり「素晴らしい」なんて自分に言い聞かせる必要もなくなってくるのです。

別に古いものや未熟なものに価値がないと言うつもりは全然なくて、古くても未熟でもいいものはいい、当然です。
うんざりするのは、以前にどこかで誰かが言ったり書いたりしたことをそのまま引用してきて、自分の意見として繰り返しているのを
見ることがあまりにも多い、ということです。 

そういうのがレコードの値段を吊り上げている原因なんだと思います。 別に、お店のせいじゃないですよね。





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Yesterday's Gardenias

2013年12月29日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Russ Freeman Trio ( Pacific Jazz PJLP-8 )


Yesterday's Gardenias という古い唄が大好きで、この曲が入っているレコードやCDを見つけると、つい買ってしまいます。
昔、この曲が入ったグレン・ミラーのレコードを持っていて、よく聴きました。 できれば、また探して手に入れたいところです。

上記の Russ Freeman の小さなレコードにも、ちゃんと入っています。 原曲はノスタルジックなムードの曲ですが、ここでは快活なアップテンポに
アレンジされていて、これ以降のピアノトリオがこの曲を演奏する場合のスタンダードになっています。 この10inch盤は Joe Mondragon のベースの
音が綺麗に録れているので、ピアノトリオとしての快楽度が高いレコードです。

DUで6,300円で転がっていました。 
ジャケットのスレが酷いものが多くて買うタイミングが難しいレコードですが、これくらいならまあまあいいかな、と思いました。 





Steve Kuhn もこの曲を好んで録音しています。 Russ Freeman 同様、アップテンポでやりますが、とても上品な仕上がりでこれも大好きです。
ベースの Harbie Swartz とのデュオで録音した作品で、個人的に Steve Kuhn の一番の愛聴盤です。

私が大学1年の時に新譜として発売されて、その時から長い間聴いてきましたが、全然飽きません。 その時のジャケットデザインのほうが
好きなのですが、何年か前に未発表曲を含めて紙ジャケで再発されたので買い換えましたが、やっぱり最初のジャケットが好きなので、
中古で見つけたらまた買ってしまいそうです。




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語りかけるピアノ

2013年12月29日 | Jazz CD
楽器を完全に自分のモノにして、まるで演奏家本人が語りかけてくるような演奏に出くわすことが稀にあります。

その筆頭はやはり Glenn Gould で、クラシックの音楽家にはそういう演奏をする人が結構います。
クラシックの演奏家の楽器の練習量は半端ではないので、楽器を完全にコントロールしてしまう人がやはり出てくるのですが、
ジャズの世界でも見かけることはあります。

ただ、ジャズの場合は練習量の結果として、ということではなさそうで、音楽を大きく総体的に捉えることができる人にそういう演奏ができることが
どうも多いような気がします。 まず挙げられるのは、デューク・エリントン。 この人の生み出した音楽やピアノ演奏の魅力をこんなチンケな
ブログの小さなページで語り切ることは不可能ですが、いずれは少しずつ触れていきたいと思っています。

そのエリントンのずーっと先の延長上に、Bob Florence という人が見えてくるような気がします。


Friends / Treasures / Heros Another Side Bob Florence piano solo

コレクターにはERAというマイナーレーベルから出されたピアノ・トリオ盤が中級廃盤として(中級廃盤って、何なの・・・)知られているでしょうが、
その後はビッグ・バンドの世界に移り、アレンジャー/作曲家として活躍した人です。 まあ、エリントンと同じパターンですね。
ジャズ・コンボという小さな器には収まり切れなかった人だった。

その彼が晩年、ソロでピアノを弾いたのがこのCDで、これが絶品です。

渋めのスタンダードをゆったりと語るように弾いていくのですが、もはやジャズという切り口では語り切れない深い音楽になっています。
1曲1曲が独立して録音されているというより、次から次へと思いつくままに演奏していくかのような感じで時間が流れていく。

ピアノが、そして音楽が、こちらにゆっくりとやってきて多くのことを語りかけてきます。
部屋の中が徐々に彼の澄み切ったピアノの音に満たされて、やがて湖水のようになり、水面がゆっくりと波打つ。

私にはかけがえのない、宝物のような音楽です。




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大事にしたい Horave Silver

2013年12月28日 | Jazz LP (Blue Note)
前回の記事で Horace Silver の Pyramid に触れましたので、その流れで今回は Horace Silver です。

まあ、とにかく、コレクターには気の毒なほど人気のない人です。 (愛嬌のある)顔のせいですか? いや、まさかね。
ハード・バップ期のピアニストにしては珍しいほどクセのないピアノを弾くからなのでしょうか。

Pyramid は、このアルバムに収録されています。


Further Exprolations By The Horace Silver Quintet ( Blue Note 1589 )

私はこのアルバムが大好きです。 ブルーノートのベスト5を、と言われれば、これは必ず入れます。
少なくとも、Cool Struttin' や Blue Train なんかよりは遥かにいいと思いますね。

Art Farmer と Cliff Jordan の2管ですが、とにかく Art Farmer のベストプレイがここで聴けます。 まるで翳りのある Clifford Brown とでも
言うようなフレーズと音色を連発して、この人が本物であることを痛感させられるのです。 リバーサイドの諸作では品のないプレイばかりで
幻滅させられる Cliff Jordan も、ここでは Farmer に影響されたのか、上品でコリコリといい音で抑制の効いた見事な演奏を聴かせます。
Teddy Kotick と Louis Hayes という控えめなリズム隊のおかげでアンサンブル全体が澄み切っていて、5人の音の分離もクッキリとしています。

そして、何より楽曲が素晴らしい。 Pyramid は間違いなくブルーノートが生んだ名曲の1つだし、B面の Moon Rays(これも Silver 作)も
印象に強く残る曲です。 そして、ピアノトリオの曲を挟むという構成もとてもいいですね。

なのに、このレコードは人気のない Silver の諸作の中でも特に人気がないようで、よく売れ残っているのを見かけます。
ジャケットデザインが悪いですよね。 背景の色と彼が着ているコートの色が被っているという配色の悪さなんか、最悪です。
アルバムタイトルもなんだか小難しい感じで、ジャズを感じません。

そして、値段も安い。 これは、まあ、とてもいいことですけど。 

私はこれを179ドルで買いました。 ジャケットはピカピカの新品同様、盤もピカピカの新品同様、まるでCDを聴いているようなノイズの無さです。
ブルーノートの新品って、きっとどれもこういう感じだったんだろうなあ、と感慨にふけってしまいます。

これは、ブルーノートの1500番台の中で唯一、完全オリジナル盤が1万円台で買えるレコードではないでしょうか。
もし名義が Cliff Jordan で、ジャケットデザインが色付きのモノトーン・フォトだったら、きっと10倍の値段が付いていたんじゃないかな。
いずれにせよ、廃盤コレクター達の眼が節穴だらけで、ホント良かった、と思います。



6 Pieces Of Silver   Horace Silver Quintet  ( Blue Note 1539 )

あと、うちにある Horace Silver のレコードは、これです。 これもやっぱりフロントの2管の演奏が見事で、特に Hank Mobley は
自己名義のレコードよりもずっといい演奏をしています。 そして、最後の For Heaven's Sake のピアノ・トリオがしんみりと泣かせます。

これも人気はイマイチのようですが、アルバム名義が Hank Mobley で彼がジャケットに写っていたら、きっと5倍以上の値段が
付いていたことでしょう。 コレクターは、内容なんかきっとどうでもいいんでしょうね。

ところでこのレコード、セカンド以降のプレスはよく見かけるのに、Lexingtonフラットの額縁ってあまり見かけないような気がします。
私の知らないところでは、ちゃんと出回っているのかな。





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Andre Villeger テナーの芳香

2013年12月23日 | Jazz LP (Europe)
まだ暑さの残る9月、新宿ジャズ館の3F中古フロアを物色していると、「Tenor Sax A」の欄にこのCD(左側)が置いてありました。



価格は2,600円、中古としては高い値段です。 当店推薦盤、とのコメント付きです。 でも、知らない名前だし・・・・
で、その場でiPhoneでAmazonのカスタマーレビューを見ようと検索しましたが、取扱いなし、です(便利な世の中になりました)。 
ヤフオクも見ましたが、ヒットなし。 googleでは色々出てきますが、老眼真っ只中の身では小さな画面とにらめっこするのはしんどい。

名前からするとフランス人のようで、ピアノとのデュオ、エリントン/ストレイホーン集ですがかなり渋い選曲です。 その中に私の好きな
Something To Live For が入っているので、買うことにしました。 中古CDで2,000円を超えると、買うのに躊躇しませんか?(笑)

で、これが当たりでした。 テナーの音色が、私の一番好きなタイプの音だったのです。 芯のぎゅっと詰まった硬い音。
でも、マイケル・ブレッカーほど硬くなくもっと太く芳醇な感じ、アル・コーンをもっとモダンにした感じ。
アップテンポの曲では少し線が細くなりますが、バラードになるとグッと太く重心も低くなって魅力が爆発します。
こんな魅力的なテナーの音は、本当に久し振りです。

こりゃたまらん、ということで他の音源を慌てて探すと、なんだ、澤野さんからちゃんと出てるじゃないですか(右側)。
で、DUの在庫検索システムで調べてみると、新宿ジャズ館にちゃんとあります。 なんだ、あの時見逃していたのか・・・・
後日行ってみると、1,300円でした。

ワンホーンで緩急織り交ぜた選曲の1984年録音で、とてもいい内容です。 こういう比較的新しい録音で1枚通して飽きずに聴けるCDは
中々ありません。 これは愛聴盤になるぞ、と嬉しく思いましたが、ちょっと引っかかるところが出てきました。

それは、音質です。 84年録音だし、適度にエコーも効いていてもちろんきれいな音なんですが、ぼんやりとした違和感のようなものがあります。
何だろう何だろう、とその違和感を追及していくと、どうもこういうことのようです。

最初から最後まで、音の出力レベルがずーっと一定の幅の中でにコントロールされているような感じなんです。 時々CDにはこういうのが見られますが、
アップテンポもバラードも、演奏が盛り上がるところも弱音になるところも、出力レベルが一定な感じです。 だから、全体的に音が平面的というか、
深みが感じられないというか、うまく言えませんが少し不自然な感じがします。 自然界の普通の音の響き方とは違う、人工的な感じです。

一度そのことに思い当たると、どうしてもそれが耳についてしまってどうにも気になります。 せっかく久し振りにいいCDを見つけたのになあ、と
ブツブツ言いながらネットの中をうろついていると、バッタリとこれに出会いました。



( Andre Villeger Quartet 仏Productions Patrice Caratini CARA 012 )


どうも、これが先のCDの原盤のようです。 126ユーロ。 高いですか? 安いですか? さっぱりわかりません(笑)。

相場感を調べようと色々検索してみると、4~5年前には国内でもDUのセールやネットの廃盤ショップでも出ていたことがわかりました。
でも、当然値段はもう表示されておらず、結局よくわかりませんでした。 うーん、と数週間考えましたが、やはりCDの違和感が拭い切れず、
結局買うことにしました。

で、レコードを聴いてみると、CDの音自体は別に悪くはないということがよくわかりました。 CDのほうが全体的に音が太い印象です。
ただ、2曲のバラードではレコードの音には陰影や楽器同士の距離感のようなものがくっきりと刻まれていて、サックスの残響や倍音も自然です。
まあ、よくある典型的なレコードとCDの音質の印象の違いでした。

ところが、今度はレコードのほうに大きな不満が出てきました。 CDにはレコードには未収録の4曲が追加収録されているのですが、
この4曲が出来がすごく良くて、それがレコードでは聴けないのです。 このアルバム自体がDexter Gordon、Johnny Griffin、Horace Silver、
Wayne Shorter、Billy Strayhornらジャズ・ジャイアンツの曲を取り上げたとてもいい選曲になっているのですが、未収録4曲の中に
私の大好きなデックスの Valse Robin やシルヴァーの Pyramid が含まれているのです。 これがレコードで聴けない・・・・

マニアというのは、本当に困ったもんですね。 我ながら呆れてしまいます。 



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物静かな Hank Mobley という人

2013年12月22日 | Jazz LP (Savoy)
50年代、Hank Mobley は相当な人気者だったようです。 正直、聴いていてそんなに感動するわけではありません。
音はボソボソと野暮ったいし、フレーズもたどたどしく、いい印象に残るものがある訳でもない。 
聴き手は○○派などと勝手に分類するのが好きですが、この人はそういうカテゴライズにもうまく収まらない人です。 
誰か似ている人がいるか、というとなぜか誰も思い浮かばない。

本人の人柄も、非常に静かでおとなしく、1人でいることを好む人だったそうです。 ステージが1つ終わると、黙ってライブハウスの
外へと出て行き、通りに停めてある自分の車の中で煙草を吸いながら次のステージの時間が来るまで1人で待っているような人でした。

ミュージシャンとして1人で喰っていくには自分をどんどんアピールして自分のことを知ってもらわなければいけないでしょう。 
アメリカのレコードで、それはジャズに限らずロック、カントリー、ブルース、ポップスなど全般ですが、ジャケットに本人の顔写真が
大きく写っているものが圧倒的に多いのは、広大なこの国ではとにかく自分の顔をまずは憶えて貰わなければいけないからです。 
そのため、審美的に見ればげんなりするジャケットデザインが多くて、これじゃ逆に売り上げが落ちちゃうよと思ったりしますが、
まあラジオが第一のチャネルだったこの国の事情を考えればこれは仕方なかったんだろうと思います。

そんな状況の中で、物静かなこの人が多くの週末のセッションやレコーディングに呼ばれたのは不思議なことです。
当時は一流のサックス奏者が物凄くたくさんいたわけで、そんな中でなぜおとなしいこの人だったのか、ということになるわけです。
いくら繋ぎのつもりだったとはいえ、Miles Davis でさえこの人をグループのメンバーに入れたのですから。


ブルーノートやプレスティッジにたくさんのリーダー作があって、今はそのどれもが非常に高価な値段になっているわけですが、
私がこの人の演奏で1番素晴らしいと思うのは、これです。


( The Jazz Message Of.... Savoy MG 12064 )

これは別に Hank Mobley がリーダーのレコードというわけではなく、Savoyが行ったいくつかの同系統のセッションを集めて1枚のアルバムに
したレコードで、Hank Mobley のセッションはA面の4曲だけなので、実際のリーダーは Donaln Byrd だろうと揶揄されたりして、ここでも
不遇な扱いをされたりしています。


この人は実は演奏の出来に結構波がある人で、レコードを注意深く聴くとそれがよくわかります。 ブルーノートの諸作もおおざっぱに言うと、
半分くらいは調子が悪い感じなんです。 


( Hank Mobley Sextet Blue Note 1560 )

例えば、ここでの Mobley はとにかく調子が悪いです。 Mobleyだけ見れば普通ならボツアルバムになってもおかしくないような出来ですが、
幸い他のメンバーはいつも通りの闊達な演奏なので、なんとか発売されたのでしょうね。 私の勝手な想像ですが、当初は他のレコードと
同様にクインテットで録音する予定だったのに、あまりに Mobley の調子が悪いので急遽 John Jenkins が呼ばれたんじゃないでしょうか。


一方、最初のSavoyセッションは Mobley はどの曲も流れるようで心に残るフレーズを全編通して吹いていて、素晴らしい出来です。
特に、Madeline というバラードの深い音色と演奏にはグッと心を鷲掴みされます。 Yusef Lateef や Ben Webster のバラードを
聴いた時のような感動があります。



( Jazz Message #2 Savoy MG 12092)

こちらは続編という扱いになっている第2集で、Lee Morgan が参加しています。 収録された4曲はどれも似たような曲調とテンポで
区別がつきにくく、全体で大きな1つのセッションという感じです。 Lee Morgan は上り坂の若者らしいブリリアントな音と演奏で
一番目立つわけですが、それとは好対照に Mobley は渋く落ち着いた演奏に終始していて、これがうまく全体を1つにまとめています。

これを聴いて、なぜ Hank Mobley が当時引っ張りだこだったのか、理由がよくわかるような気がします。
これこそが、Hank Mobley 最大の強みだったんですね。 こういうサックス奏者、他にはいませんから。



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やっと出会えた Eyewitness など

2013年12月21日 | Jazz CD
今週はうれしい成果がありました。 



Steve Khan の Eyewitnee の1stです。 新宿ジャズ館で、1,500円。 「廃盤」のコメントがありました。

これ、長い間探していました。 ずーっと廃盤状態で、Amazonでは中古にプレミアがついて、そんなのは当然買う気にはなりません。
ちゃんと普通の中古の値段(つまり、新品定価の半分程度)で買いたかったので、結局、全然入手できなかったのです。
何年くらいだろ、10年くらいかな? いや~、長かった・・・・。

私の同世代であれば10代の頃に Billy Joel を夢中で聴いた方々は多いんじゃないかと思います。
私も夢中なりましたが、やはり Big Shot のバックで鳴り響く Steve Khan のあのギター・サウンドにシビれた訳です。

Anthony Jackson のベースがやっぱり凄いです。 タメが効いていて、漆黒の音色で、聞き惚れますね。
後年のようなホーン・セクションやオルガンが入ったりすることもないので、4人の音がくっきりと聴こえます。
しかし、この Steve Khan のギターの音、一体どうやったら出るんでしょう。

Steve Khan のアルバムでは、これも好きです。



このアルバムでは、とにかく Steve Gadd のキレッキレのドラムが聴けます。 
特に、1曲目の Daily Bulls では、Steely Dan の Aja の時のような、何かが憑いたような様子が聴けます。



もう1枚の成果はこれ。



Jimmy Raney がソロで弾きまくる、1975,76年録音のXanadu盤です。 これも新宿ジャズ館で、1,600円。 「廃盤」だそうです。

こんなアルバムがあるなんて知りませんでした。 コレクターはVogue盤やPrestige盤をありがたがるんでしょうが、あんなまともにジャズ・ギターが
聴けないようなアルバムは買っても仕方ないんじゃないでしょうか。
やっぱり、Jimmy Raney は70年代以降のXanaduやCriss Cross時代がいいです。 ギターの真髄が聴けます。



disk unionの中古CDフロアを訪れると、欲しいなと思うCDが1枚もない日と、自分の好みにドストライクのCDが何枚もある日、の2種類があります。
きっと同じ趣味の人がまとめて処分したりすると、こういう日にぶつかったりするんですね、きっと。

そういう日に当たると嬉しくなりますが、でも、大抵は欲しいもの全部を買うことはありません。 大体、欲しいなと思う枚数の半分くらいに
わざと抑えて買います。 もちろんお金の問題が第一番ですが、大抵が仕事帰りなので持って帰るのが重かったりかさばったりするのが
イヤなせいもあるし、愉しみを将来に取っておこうという気持ちもあります。

中古盤探しってやっぱり楽しいですよね、単純に。 獲物を探して狩る、というのは男性の本能を刺激するようなところがあります。
この先も、ずーっと続けたいです。

だから、欲しいもの全部を一気に手に入れるのは将来の楽しみを全部奪ってしまう気がして、ちょっと気持ち的に抵抗があります。
これはCDに限らず、レコードの場合も一緒です。

私は欲しいものがたまたま同時に何点も見つかって、且つ予算的にも収まる場合であっても、ぐっと気持ちを落ち着かせて、多くても
その半分だけを買うようにしています。 コレクターの鉄則に「見つけた時に買え」というのがあります。 それを逃してしまうと後で後悔する、と。 

でもね、そんなことないですよ。 中古を買うようになって30年が過ぎましたけど、「あんとき無理して買ったけど、あせって買わなきゃよかったな」
と思うことのほうが逆に多いですもん。 いくらでも、出会う機会は訪れます。 これ、ホントです。

だから無理することなく、ボチボチ行こうと思ってます。



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愛しのデックス

2013年12月15日 | Jazz CD
Dexter Gordon が大好き。 
レコードもCDも大好きだけど、映画「ラウンド・ミッドナイト」を観て、その人柄を知ってからはもっと大好きになりました。
ちゃんと封切りを映画館で観たんですよ。

コレクターはDooToneやDialを有難がるのかもしれませんが、私はそういうのにはあまり興味なくて、お宝はこの仔たち。





通勤経路の中に新宿と御茶ノ水があるおかげで、時間が空いたり気が向いた時にはいつでもdisk unionに行けます。
その度に気を付けて探すのが、愛しのデックスです。

The Panther は600円でした。 これを見つけた時は嬉しかったなあ。 このPrestige音源のデジタル・リマスター・シリーズは
実はなかなか音がいいのです。 おまけに、値段が安い。 unionで中古が出れば、ほぼどれも1,000円以下です(笑)。

トミフラのピアノ・トリオを従えたワン・ホーンで、1970年6月の録音。 お目当ては The Christmas Songです。
悠然と揺蕩うように歌うテナーに我を忘れて聴き惚れます。 デックス十八番の Body and Soul もいいですし、
The Blues Walk も痺れます。

でも、実は彼はワルツ調の愛らしい曲を演奏するのが大好きらしくて、これが隠れた聴き処なんです。
この盤でも、Valse Robin という可愛らしい曲を自分で作曲して、愛おしそうに吹いています。

ああ、いい・・・・。


SteepleChase の More Than You Know は、弦楽器や管楽器らの小編成オケがバックをつける1975年2月のコペンハーゲン録音。
これが知的な演奏で、すごくいいんです。 北欧のひんやりとした空気が濃厚で、身震いします。 
Staffan Abeleen や Lars Lystedt なんて、はっきり言って目じゃないです。 

ここでも、デックスは Tivoli という愛らしいワルツを自作して楽しそうに吹いています。 (映画「ラウンド・ミッドナイト」の
サントラ第2集にも収録されています。) これが、すごくいい。 Jazz Tokyoで800円。 安いです(涙)。





Tangerine は新宿中古センターで500円。 この盤はtpを入れたクインテットで、Thad JonesとFreddie Hubbardの2セットです。
The Days Of Wine And Roses の陽気で大らかな歌心に顔がニコニコしてしまいます。
この曲にしても Body And Soul にしても、デックスはいくつかの決まったスタンダードを繰り返し録音しますが、どれもみんな
同じような演奏です。 偉大なるワンパターン、でも、そういうところが、いい・・・・。


今年の夏に American Classic がリマスターされて1,000円で再発されましたが、これもすごく嬉しかったなあ。
長年廃盤状態で、Amazonでも中古にプレミアがついていてずっと買えないでいました。 もう、全編通していいです。
あっと言う間に聴き通してしまいます。


こんなに素晴らしい演奏が、電車の中でも街中を歩いているときも、いつでも聴けるのです。
CDも案外回転が速いですから、こういうのも見逃さないように探していきたいですね。




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Bobby Jaspar の実像

2013年12月14日 | Jazz LP (Europe)
Bobby Jaspar という人は、あまり評価が定まっていない人です。
少なくとも、Bobby Jaspar が大好き、という人にはあまりお目にかかったことはありません。

名盤ガイド本に紹介されるような有名なレコードがまずないし、一部のマニアがそのレコードの稀少性からちょっと興味がある、という程度なんじゃ
ないでしょうか。 でも、だからと言ってコレクターたちがそんなに騒いでいるか、というとそういうわけでもない。

年上にも関わらず、Stan Getz のフォロワーという位置づけのようですが、これも不幸の一因。 Ruud Brink や Spike Robnson も Zoot のフォロワー
と言われてしまって、実力の割に評価のほうはあまりパッとしません。 このフォロワーという言い方は止めるべきです。

器用貧乏というか、性格もよくてそこそこやるもんだからセッションにはよく呼ばれたりする。 だから名前も割とよく見かけることになって、
幻の人というわけでもありません。 これではマニア心をくすぐりません。

何と言うか、薄幸な人、としか言いようがない感じです。



Bobby Jaspar Plays... Gone With The Winds ( 仏 Swing M.33.351 )


彼は、1953年から1955年にかけて仏VogueやBarclayに複数の録音を集中的に行っています。

Vogueのセッションでは Henri Renaud、Jimmy Raney、Andre Audair、Don Rendell、Barney Wilen、Dave Amram、
Barclayのセッションでは Chet Baker らとの共演という形です。

上記のレコードはその中の1枚で、Dave Amramらとの八重奏団としての4曲、Sacha Distelらとのワン・ホーン・カルテットでの4曲が収録されています。
Amramらとのセッションというのがfrh、fl、ob、bassonというクラシック室内楽の編成で、こんなのヨーロッパ人にしか思いつかない発想だよなあ、
鬱陶しいなあ、と当然ワン・ホーンの4曲目当てで買ったわけですが、聴いてみると八重奏団のほうが意外といい演奏です。 逆にワン・ホーンのほうは、
Distelらギター・トリオの軽薄なバッキングが耳障りで、せっかくのスタンダード曲の良さが台無しになっている感じです。

選曲がThere's A Small Hotelなどの Getzが好んだ曲が多く(明らかに意識している)、どうしても比較してしまいます。 Jasparの音色は
Getzよりも太くて大らかですが、ボワッとした感じのぼやけた音で、あまり魅力的には聴こえません。 それに吹くフレーズにもGetzのような
印象に残るような旋律がまったくない。



Bobby Jaspar Modern Jazz Au Club Saint Germain  ( 仏 Barclay 84.023 )


こちらは、Rene Urtregerのピアノ・トリオに再度Distelを加えたワン・ホーン・クインテット。

若死にした Dick Twardzik の想い出に捧げた、Jaspar本人が作曲した Memory Of Dick というバラードが聴きたくて買いました。 
Distelが抜けたピアノ・トリオがバックなので落ち着いた演奏になっているのはよかったのですが、やはり最初のレコードと同じような理由で、
何度聴いてもあまり印象に残らないのです。

どうも、こういうところにこの人の幸薄さの原因があるような気がします。

また、この人はフルートも演奏する訳ですが、そういうところも聴き手に散漫な印象を残すことになるのではないでしょうか。 まあ、いずれにせよ、
もうこれ以上この人のレコードを買うことはないと思います。 一番魅力的なフォーマットであるはずのワン・ホーンがこういう感じなので、
これ以上の魅力は期待できないからです。


Swingレーベルには他にも10inch盤が何枚かあって、Ron Rendellとのセッションを入れた Rencontre a Paris も持っていたのですが、こちらはさっさと
売却しました。 とにかく、内容がものすごく退屈だったからです。 こんなつまらない曲と演奏ばかりを収録したレコード、ちょっと他に思いつきません。 
ジャケットの良さに惹かれてつい買ってしまったのですが、失敗でした。 それに盤面無傷だったにも関わらず音質もプアで、とにかく一生懸命
いいところを探したのですが、ダメでした。

それに比べて、上記の10inchは同じ時期の録音ですがスタンダード曲が中心だし、理由がよくわかりませんが、なぜが音質がいい。
それにこのジャケットデザイン、とても気に入っています。 Swingレーベルで1番好きなジャケットです。



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ピアノ・トリオ嫌いを直すために

2013年12月08日 | Jazz LP (Europe)
ピアノ・トリオがあまり好きではありません。

原因ははっきりしていて、「エヴァンス派」とか「美しい抒情派」とかいうポップが貼られてこれでもかと居並ぶ無名のCDたちに
うんざりさせられたからです。

とにかくdisk unionにしろ雑誌にしろネットショップにしろ、この手の宣伝が多すぎます。 
商業的には一番の売れ筋なのかもしれませんが、もういい加減やめてくれませんか?

始めはビル・エヴァンスの面影を期待して色々買ってみますが、当たり前ですが、エヴァンスはもうそこにはいません。 
綺麗な録音の耳あたりのいいピアノが流れてきますが、エヴァンスが弾いたのはこういうピアノじゃないですよね。

ティエリー・ラングやピエラヌンツィぐらいまではよかったのですが、それ以降に紹介されたものはもうどれも全然ダメです。 
この2人は自身の音楽性がオリジナルで高かったので、そういう意味においてのみ、エヴァンスを引き合いに出すのは正しい。

そもそも、アーティスト本人がそういう紹介のされ方を望んでいるのでしょうか。
エヴァンスの名前を出されてそのCDを買う人は、はっきり言ってエヴァンスを求めて買うわけです。 
で、聴いてみて違っていれば買って損をしたと憤慨するし、聴いている時は常にエヴァンスのことを考えていて、
アーティスト本人の音楽を聴くことはないんじゃないでしょうか、私のように。

だから、もうそういうピアノ・トリオのCDは買わないことに決めているのですが、本来ピアノ・トリオはそうじゃないはず。
もっと素晴らしい演奏形態です。

それを忘れないためにも、古い録音のものを何枚か手元に置いておこうと思っています。




Al Haig / Trio  ( 仏 Swing M.33.325 )


意外に録音がたくさんある人ですが、この人の演奏には不気味な狂気があります。
"Mighty Like A Rose" なんて古くて軟弱な曲をやってますが、ヘイグの狂気に煽られてドラマーもついカウベルを叩いたりします。

状態が良くないという説明だったので260ドルという値段でしたが、実物をみるとジャケットはいささかくたびれていますが、
盤は疵もなく普通にいい状態でした。

但し、録音は古く、音質はものすごくプアです。 仏Swingのレコードはどの録音もみんなこんな感じです。




Rene Urtreger / Joue Bud Powell  ( 仏 Barclay 84003 )


この人も、演奏にというか、音にというか、狂気があります。 バド・パウエルの古い曲を弾いているせいもあって、聴いていると表面的には
メタリックでメカニカルな印象を受けますが、音の中にこの人だけに見られる独特の強い芯があります。 
澤野商会から出された新しい録音のピアノ・ソロのCDでもそれがはっきりと聴きとれます。

これも状態が良くないという説明だったので230ドルでしたが、実物をみるとジャケットはやはりくたびれていて盤にも浅いスレがちらほらありますが、
聴いてみると特に何の問題はありませんでした。

近年の訳の分からないエヴァンス派と言われるCDのせいで嫌いになってしまったこのフォーマットへの誤解を晴らすべく、
機会に恵まれればこういう本来の良質なピアノ・トリオの古いレコードも買ってみようと思います。




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再開にあたって決めたこと

2013年12月07日 | Jazz LP (Columbia)
15年間断っていたレコード買いをなぜ再開したか。

これは自分でもうまく説明ができません。 もちろん、その間を音楽無しで過ごしていたわけではありません。 
CDは時々Amazonで買っていたし、iPod Classicにはロックやクラシックも含めて数百曲が常時入っていていました。

きっと、昔のように四六時中持っていない高価なレコードを買うことばかり考えるようなことにはもうならないな、
ということが自分でわかったからかもしれません。 もう昔のように、何かの中毒患者のような生活にはならないだろう、と。

そういう訳で1年半ほど前から、またぼちぼちレコードを買うようになりました。
で、記念すべき第一号は、迷うことなくこれを探して買い求めました。





海外のサイトで、9.96ドル。 プラス、送料ですね。 

私はこのレコードが大好きでした。 B面最後の Lonely Town の静かな寂寥感がずっと忘れられなかった。

当時は国内盤で聴いていましたが、とても丁寧に作られた国内盤だったので何も不満はありませんでした。
だから、最初は国内盤を探したのですがなかなか見つからず、先にこれがあったのでこれで手を打ちました。

Gerry Mulliganの のワンホーン作品で、Tommy Flanagan、Ben Tucker、Dave Bailey という最高のトリオがバックを務めます。
でも、プラス、コンガが参加しているせいか、マニアからは全く相手にされないようです。

マリガンはPacificのレコードなんかでもわかるように、通常の楽器編成を嫌う人でした。 ありきたりのサウンドを嫌い、
自分だけのユニークなサウンドを終始追及した人です。 そもそも、バリトンを自分の楽器に選んでいる時点で既にそれは明らかです。
だから、このレコーディングではわざわざコンガという異物を招き入れたんでしょう。 
これはすごくいいレコードなのに、人気がないのは残念。 でも、そのおかげでとても安く買えるので、ちょっと複雑な心境です。



で、一応、買い始めるにあたってルールを決めました。

手元に置くのは、200枚を上限にしよう。

最初は100枚で、と思いましたが、経験的に100枚というのはちょっと少ないな、と思い直したからです。 
これ以上にすると、歯止めが効かなくなるかもしれない。 結構、イイ線ではないでしょうか。

もし200枚を超えたら溢れた分は必ず処分しよう。
いや、それ以前に定期的に内容を見直して、つまらないと思ったレコードは迷わず処分しよう、そう決めました。

で、先月10枚ほどを選んで、disk union新宿ジャズ館で売りました。 稀少盤も多く含んでいたので、
その後のお店のblogにしっかりと載っていました(笑)。 昔と違って、割といい値段で買い取ってくれるんですね。

私もだんだん50歳が近づいてきました。 この先、どんな病気になるかもうわかりません。
身体は丈夫なほうだとは思いますが、何の問題もなくレコードが聴けるのはせいぜいあと15年くらいじゃないでしょうか。
15年なんてあっという間です、ホントに。

今の生活を考えてみると、平日にレコードを聴くことはまずありません。
そんな時間はあまりないですし、あったとしても大体疲れていて気持ちが集中しません。
だから週末に聴くことになる訳ですが、それでも1日にせいぜい3枚くらいが限度です。

そう考えると、1か月に24枚前後、1年で300枚前後、ということになりますが、土・日の両方家にいてすることが他に何もない、
というわけでもありませんから、まあ200枚くらいでちょうどいいわけです。

現在、50枚くらいまできました。 このペースで行くと、200枚になるのは4年半後です。
まあ、あまり気にせず、ぼちぼち行こうと思います。






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これでやっと最後の買い替え

2013年12月06日 | Jazz CD
Blue Note が来年創立75周年を迎えるとのことで、その記念にファンによる人気投票を実施して、
最新リマスタ・SHM-CDとしてこの秋にまたズラズラと発売されました。(一体、何度目?)

普段なら見向きもしないのですが、今回だけは別です。
それは、Somthin' Else に「枯葉」の世界初の未発表テイクが収録されたからです。

元々この曲自体は好きではないし(どちらかというと嫌い)、もう手垢まみれの名盤ですが、さすがにこの高名な演奏の
初めて日の目をみる別テイクとなると、興味が沸きます。 まあ、ちょっとした事件かもしれません。



新テイクは正規テイクと比べるとごく僅かですがテンポが速いです。 そして、マイルスとキャノンボールが正規テイクよりものびのびと自由に
アドリブを吹いているのが特徴です。 正規テイクって、まるで楽譜に書かれた音符を見ながら吹いているようなカチッとした感じですよね。 
そこがまず大きく違います。 きっと、こちらのほうが後で録音されたんじゃないでしょうか。

それに、ブレイキーのブラシ音が正規版よりもキメが細かく、いい感じです。
彼がブラシをスティックに持ち替えたり、またブラシに持ち替える時の音が聴こえたりして、より臨場感があります。
ドラムはこちらのテイクのほうがいいなと思います。 シンバルの音も本当にデリケートで、なんだかしんしんと雪が降っているような感じです。

でも、これがボツ・テイクになったのは、きっとマイルスのせいじゃないかなと思います。
後半のアドリブが少し単調で一本調子なんです。 それを除けば、正規テイクとはまた違った味わいのある、素晴らしい演奏でした。


でも、ブログに取り上げた理由はこの別テイクのことではなく、このCDの音の良さのせいなんです。

聴いた瞬間に、ずっと探していたのはこの音だ、とすぐに思いました。 粒子の細かく、それでいて透明感のすごく高い、極めて上品な、
でも音圧も十分ある素晴らしい音です。 楽器の配置感も違和感なく、きちんと分離して濁りのないクリアな艶のある音。 実に素晴らしいです。

もちろん、元々この録音は音がいいことで有名なのですが、リマスタリングがとても丁寧にされているのが素人の私にもよくわかります。

私はここに収録されている Dancing in The Dark がとても好きで、この曲をいい音で聴きたくて、これまで何度もこのCDを買い替えてきました。 
今までは何年か前に発売されたモノラルのリマスター盤が一番いいかなと思っていたのですが、今回の盤を聴いてみて、
これはステレオを聴くのが一番いいんだということが本当によくわかりました。

以前はアナログのオリジナル盤を持っていました。 昔はこのレコードは割と安くて、2万円も出せば状態のいいオリジナル盤が買えたんです。
このレコードには元々モノとステレオの2種類があるけどモノのほうがオリジナルで価値があるとコレクターは言いますが、
今回のこのCDを聴いて、私はすっかり考え方が変わりました。 とうとう、これでもう買い替えはしなくて済むなあ、と嬉しくなりました。

じゃあ、同時に発売された他のタイトルも音がいいかも、と思って、Maiden Voyage(これもそれまでの音盤の音が不満で、いい音で聴きたいとずっと
思っていました)や Candy を買ってみましたが、Maiden Voyage は残念ながらイマイチ、Candy はややマシかな、
という感じでした。 そう何もかもうまくいく、というわけにはいかないようですね。



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15年ぶりに戻って来て驚いたこと ②

2013年12月02日 | Jazz雑記
10か月ほど前(2013年3月頃だったかな?)、何年振りかに新宿のdisk unionに行ったらジャズ館という綺麗な店舗があって、
その3FのCD中古フロアに行ったら「廃盤コーナー」というのがあって、とても驚きました。

廃盤コーナーって・・・、CDのくせに・・・、と訳が分からずにそこに置かれている商品を手に取ってみて、これまたビックリ!

「中身はカウンターにおいてございます」とのスタンプ文字が押されているじゃないですか。
しかも、値段が14,000円って・・・ これ、Steve Kuhn が Ron Carter と一緒にヴィレッジ・ヴァンガードでライヴ録音したやつじゃない? 
昔、国内盤のBlackHawkというレーベルから普通に売ってやつじゃないの? 
しかも、あれって、音質が悪くて(音圧が異常に低くて、音が籠っていた)聴くに耐えなかったよ、確か。
(実際は、手に取っていたのは「Life's Magic」とは別の盤でしたが。)

CDが1万円越え、というのが衝撃的で、しかもよく見るとそういうのがゴロゴロ置いてあります。

そうかあ、とうとうCDの世界もこんなことになってたのね、と溜め息が出ました。
マニアの皆様からみれば失笑ものなんでしょうが、やはり15年のブランクは相当のものだなということを実感したのでした。

その後調べてみたら、案の定、仕掛けたのはdisk unionと専門誌だったんですね。
日本人マニアって、本当にマスメディアに弱いんですね。

私がコレクターをやめる少し前にも、同じことが起こっていました。
寺島靖国さんの「辛口JAZZノート」が発売されて、その影響で Zoot Sims の Fontana盤やJoni James のレコード価格がいきなり高騰し出しました。
特にひどかったのは Joni James で、新宿の「八月社」ではMGMの When I Fall In Love が60,000円で飾られていました。 
本が出て、わずが1~2か月後のことだったと思います。

ネットが無かったあの時代にああいうマニア本が出るのはありがたかったんですが、だからと言って、多くの人があの本に載ったレコードを
奪い合ったのは本当に情けないことでした。 当時大学生だった私は、そういうさもしい大人たちの振舞いを見て、
こういうのを"団塊の世代"と言うんだな、恥だ、とお金がなくて買えないひがみ根性も手伝って苦々しく思っていました。

でも、今の大人たちも何も変わってないんですね。 ハハハ。

CDって、いくらでもプレスできるじゃないですか、メーカーがサボりさえしなければ。 
それに、同じタイトルでも、発売時期が新しくなればなるほど高音質化していく。
なのに、未だにdisk unionの中古CDコーナーには「初版」というコメント入りで何千円もの値段がついて並んでいて、すぐに売れてしまいます。

さっぱり理解できません。


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15年ぶりに戻って来て驚いたこと ①

2013年12月02日 | Jazz雑記
レコードマニアから足を洗っていた15年の間に廃盤市場ではいろいろ状況に変化があったようで、
その中でも一番驚いたのは次の2点でした。


①欧州盤の価格高騰と崩壊

②廃盤中古CD市場の出現



復帰後、いろいろ本や雑誌を読んだりネットも一通り目を通しましたが、欧州ジャズってマニアの方々が騒ぐほど、大して良くはありません。
確かにいいレコードもありますが、数は少ないんじゃないかなあ。

当時の欧州市場がアメリカほど大きくなかったので元々発売枚数が少なく、現在となってはそのほとんどが稀少盤になった、というだけですよね。 
で、稀少だからオリジナルはありがたいってことになって、内容も良く聴こえるだけ、ということだと思います。 

アメリカのようにブルースをルーツに持たないせいで、アメリカのジャズとは曲の雰囲気が根本的に異なるから、新鮮に聴こえたりする。

欧州盤には、黒人ジャズメンのレコードがほとんどありません。階級社会なので、録音なんて認められなかったんでしょう。
実際にヨーロッパ旅行に行ってまず驚くのは、黒人の数の多さです。 特に、パリという街には黒人が大勢います。 
にもかかわらず、レコードはほとんどありません。

ジャズは輸入音楽だったので、50年代後半になってようやくビ・バップのコピーが始まります。 
わかりやすい例が、これ。





もう、モロ、パーカー&ガレスピーのコピーです。 まるで、カーネギーホールの10inchを聴いているかのよう。
この盤で聴かれるJacques Pelzer のアルトの音色は、パーカーに似ています。 
(もちろん、音の張りやフレーズのスピード感はパーカーの足許にも及びませんが。)

で、59~60年頃にようやくハード・バップのコピーが始まって、62年頃からモードのコピーが始まる。
遅れていることをまるで恥じるが如く、一番おいしいところを駆け抜けてしまった。
それは、まるで大急ぎで早送りされたビデオテープを観ているかのようです。

だから、どのミュージシャンも自分のスタイルを極めることなく、最盛期を終えてしまいました。
残されたレコードも数枚で、代表作と呼べるものも1枚か2枚あればいいほう。

そういう先人たちの失敗を見て学んだ新しい世代が立ちあがる80年代以降が、欧州ジャズの本当の始まりだったんだと思います。 


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