廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

今週の成果

2014年05月31日 | Jazz CD
今週は中古と新品を織り交ぜて少し買いました。





■ Viacheslav "VP" Preobrazhenski / Day By Day ( Dolphin Music 001 )

ロシアのテナー奏者で、CDは数枚あるようです。 これは1999年にストックホルムのスタジオで現地のミュージシャンらと録音したワンホーン。
古めのスタンダードを選曲の中心にオーソドックスな演奏を聴かせます。 未知の演奏家の場合、どういう曲を選択しているかで大体のところは
見当がつくものですが、Day By Day とか The Touch Of Your Lips なんかを取り上げているところから、少し古いスタイルかなと想像したら
まあそんな感じでした。 テナーの音は硬く締まった感じで、雄弁に吹くという感じではなく、朗々と響かせる感じです。

私の好みのタイプの音なのでこの人には好感を持ちましたが、如何せんバックのピアノトリオがただ弾いているだけという感じの味も素っ気もない
演奏で音楽全体として冴えないことになっています。 特にドラムは無神経にうるさい音で、げんなり。 録音は各楽器が太くしっかりと
録れていていいと思いますが、残響の少ないデッドな音。 ここは好き嫌いが分かれるでしょう。

ただ、どんな音盤にもいいところはあるもので、K.ドーハム作の "Fair Weather" をしんみりと演奏していて、これが見事なバラードです。
"Fair Weather" という曲には、ドーハムが作曲したマイナー調のバラードと、B.ゴルソンが作曲したメジャーキーの明るい曲の2種類あります。
後者のほうはいろんなミュージシャンが取り上げて演奏していますが、前者のほうは録音が少なくてあまり認知されていないかもしれません。
私はデックスが主演した映画「ラウンド・ミッドナイト」のサントラで最晩年のチェットが囁くように歌った名唱でこの曲が大好きになりました。
だから、この曲の演奏が無ければ、このCDはDU行きになるところでした。


■ Jesper Thilo / Tributes ( Susic Mecca CD 4098-2 )

コペンハーゲン生まれのテナー奏者で、そこそこあるCDの多くは廃盤の憂き目に遭っているようです。 これは新宿ジャズ館の1Fで新品で購入。
ヤン・ラングレン(p)が参加しているということやズート系ということが書かれたポップが付いていました。 ドラムレスのワンホーンという
変則構成です。 テナーはズートよりも太く硬質な感じのビッグトーンで悪くないのですが、どうも良さを感じられません。 バックの演奏も
意外に凡庸で、こちらも特に印象に残りません。

マイルスの"Four"をスロー・アレンジしているのは面白くて感心しましたが、それ以外には特に・・・・ 白人のマイナー・テナーは探せばいくらでも
ボロボロと出てくるのですが、やっぱりマイナーになるべくちゃんとした理由があるんだなあと改めて思う訳です。






■ Jimmy Gourley / Our Delight ( Elabeth ELA 621021 )

仏の古いスイング・レーベルの10インチ盤などでもその名前を見ることができるベテランで、そこでの演奏の印象からこの人は好きでは
なかったのですが、このCDは Andre Villeger が参加しているので前から探していました。 安値で見つかったのでラッキーと思ったのですが、
聴いてみるとガッカリ。 相変わらずコードをジャカジャカ鳴らすクセがあって、これがウザい。 フォークギターじゃないんだから。
これはナイよなあ。 フレーズにも味がなく、聴いててウンザリします。 そして極め付けは、下手な歌を歌うこと。 なんで歌うワケ?

お目当てのテナーは期待通りいいんですが客演なので遠慮しているようで、曲の途中でちょっとオブリガートをつける程度の参加です。
この人の演奏は中々聴けないので貴重な演奏ですが、とにかく主役のいろんなところが癇に障り、これは買うんじゃなかった・・・・


■ Klaus Spencker Trio / Invisible ( Jardis Records JRCD 9409 )

時々ネットで見かけて評判のいい音盤だというのは知っていたのですが、ずっと廃盤で中古でも見かけたことがなかったところに、
デッドストックが少量入荷したということで無くなる前に購入。 ピアノレスのギタートリオで、私が最も好むフォーマット。

オリジナル曲中心の構成で、北欧の森の静けさを思わせるような透明感漂う演奏なので褒める人が多いのは納得できるのですが、
なんだかウィンダムヒルの音楽を聴いているのか?と錯覚してきます。 もっとジャズらしい演奏を期待していたので、肩透かしを食らいました。
まあ、別に悪いところはなく、いい演奏だと思います。 こういうのを聴きたくなる日もあるだろうということで、これはキープです。


どれも渋い音盤ばかりでしたが、あまりピンとくるものには当たりませんでした。 来週に期待です。




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Ilona Haberkemp と Jutta Hipp の会話

2014年05月25日 | Jazz LP (Blue Note)
ホーンCD特集には、これも出ていました(左側)。





■ Ilona Haberkemp / Cool is Hipp is Cool ( Laika-Records 3510295.2 )

独の女性アルトサックス奏者による、ユタ・ヒップへのトリビュート作品。 フリューゲルホーンを加えたクインテットで、女性ヴォーカリストも
客演する多彩な内容ですが、何と言っても目玉は、イローナとユタの会話(インタビュー)が楽曲のあちらこちらにまるでラップ音楽のように
散りばめられていることです。 Dear Old Stockholm や Violets For Your Furs などを織り交ぜながら、ユタのオリジナル作品や自身の
オリジナルもやっていて、ユタへの想いがこもったかなりの力作です。 

音楽は柔らかい質感の優しい演奏で、女性らしい清潔なもの。 この人の特質がよく表れています。 彼女のアルトサックスの音は、初期の
アート・ペッパーやリー・コニッツに少し似ていて、こういうのが好きな人は多いんじゃないかと思います。 まあ、アドリブをバリバリとやる
タイプではないのでフリューゲルホーンの助けが必要だったんだろうと思いますが、若い頃のリー・コニッツとアート・ファーマーが組んだら
こういう感じのサウンドだったのかもな、と思ったりもします。

このアルトの音はどこかで聴いたことがあるなあ、と思ってよくよく考えてみると、そうか、とこのCDのことを思い出しました。


■ Paula Dezz Quartet / I Remember Paul ( Laika-Reecords 3510253.2 )

ジャケットにも写っているから、ポーラ・デズというのがこの人の名前なのかと勘違いしてました。 なんだかややこしい。
こちらはポール・デズモンドへのトリビュート作品で、やはりフリューゲルホーンとのクインテット。 こちらのは上記よりも音楽に集中していて、
聴き応えがあります。 静謐なムードが全体を覆っていて、夜中に静かに聴きたくなる音楽です。 Wendy や Audrey というデズモンドが作った
愛らしい作品が泣かせます。 野心的なところもなく、ただひたすら静かにデリケートに優しく音楽が展開されます。 各曲の演奏時間も長く、
イローナのアルトもフリューゲルホーンも十分演奏されるので、満足感の高い演奏です。 これは、隠れた名品です。



先の音盤に収録された晩年のユタの声には、ヒッコリー・ハウスで客席に向かって遠慮がちに話しかけていた、あの懐かしい声の面影が
しっかりと残っています。



Jutta Hipp / At The Hickory House Volume 2 ( Blue Note 1516 )


グラスの触れ合う音や客席の話し声も生々しいこのライヴ録音での彼女の演奏はなかなか骨太で、その容姿とのギャップに驚きますが、
ブルーノートでの録音を最後に彼女のレコードは途絶えてしまいます。 このレコーディングを機にせっかくアメリカに移住したのに、
ショービジネスの世界には馴染めなかったようで、残念ですね。




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今週の好調な成果

2014年05月24日 | Jazz CD
今週は幸運にもいい音盤にいろいろ当たりました。 いい演奏に出会えると、1週間がキラキラ。

先週末にDU新宿店でホーンCD特集というのをやっており、その残骸を求めて平日に行ってみると、たくさん残っていました。
お値段も千円台中心ととても良心的で、未知の音盤たちを眺めているだけでワクワクする感じでした。





■ Tommaso Starace / Plays The Photos Of Elliott Erwitt ( Frame CD QF0553-2 )

キャノンボール直系、とのコメント入りで印象的なジャケット写真に惹かれて購入。 伊の若いアルト奏者で、イケメンです。 
Elliott Erwittという著名な写真家の写真にインスパイアされて創ったオリジナル楽曲集。 ワンホーンでvib入りのクインテットで、
vibがうるさいと耳障りでイヤだなと心配だったのですが、杞憂でした。 前にしゃしゃり出てうるさいソロをやることなく、グループの演奏の
オブリガートに徹して幻想的な背景をうまく創り出しています。 肝心のアルトもキャノンボールの面影を残しつつも芯のある強く綺麗な音で
素晴らしいです。 楽曲も趣味が良く、きちんとスイングしていて、とてもいいです。 若いのにこんなにシックな作品が創れるなんて。
今後に期待できますね。


■ P.J. Perry / Worth Waiting For ( Justin Time JTR 8489-2 )

ケニー・バロン、ヴィクター・ルイスらがバックを務めるアルトのワンホーンのスタンダード集で、店頭に置かれていたのはこれとは違うデジパック
ジャケットで2,600円。 千円台のCD群の中で見ると随分高いと感じるので、iPhoneでこっそりアマゾンを検索してみると中古がこの半値以下で
出ていたのでこちらを注文(ごめんね、DUさん)。 カナダのアルト奏者で、これが素晴らしい音と演奏を聴かせてくれます。
アルトのワンホーンでスタンダードをただ吹くだけで我々のような偏屈マニアを納得させるのは難しいわけですが(いろいろ能書きが多いから・・・)
これは最後まで嫌にならずに聴き通せます。 そういう場合、他の演奏と何が違うのだろうと考えるのですが、いつもよくわかりません。
ケニー・バロンは相変わらず抜群のサポートをします。 本当にうまい人です。 それに支えられて、力強いまっすぐな綺麗な音で変な癖もなく
正面からメロディーを奏でる様子は感動的です。





■ Kenny Barron / What If ( Enja CDSOL-6503 )

アート・テイラーの作品が良かったので何か他にも、と思い探してみると、これも再発されていました。 人気のある人なので、店頭在庫も
少なくなっていて慌てて購入。 うーん、これも素晴らしい演奏です。 透明感のあるとてもきれいなハードバップで、新人だった
ウォレス・ルーニーもクセのない本当にきれいな音でしっかり吹いているのが印象的。 ただの単純な屈託のないハードバップではなく、
ちょっと影があるというか、時々憂いを帯びた表情を見せるのがスマートで、そういうところもいいです。 メンバーのインテリジェンスを
感じます。 そして、これも音が抜群にいい。 RVG録音です。


■ Frank Walton Sextet / The Back Step ( レーベル・番号なし、CD-Rプレス )

で、今回どうしても紹介したかったのが、これです。 1Fの新品フロアで視聴可能だったので聴いてみると、これが素晴らしい演奏でびっくり。
この人はチャンスに恵まれなかったようで、正規レーベルから作品が出せたのは過去に1枚だけ。 それ以外は作品がないようです。
この作品もCD-Rというかわいそうな体裁にも関わらず、中身はしっかりした技術に支えられたど真ん中のハードバップ。 3管なのでハーモニーも
リッチで濃厚、それでいてとてもまろやかな雰囲気に包まれていて、これはちょっと筆舌に尽くしがたい。 無名の人ばかりなのに、
こんなにいい演奏を残してくれるなんて・・・・ 名前だけで音盤を選ぶというのは愚かなことだよな、とつくづく思わせられます。

そして、こういうのをきちんと紹介してくれるDUさんにも感謝。 どこからこういうのを探し出してくるのかよくわかりませんが、
またこんな知られざるお宝盤を紹介して下さいね。




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ピアニストはなぜガレスピーの Be Bop を好むのか

2014年05月18日 | Jazz LP (Blue Note)


■ Ronnie Weisz Trio / One, True, Three... ( レーベル・番号不明 )

例によって稀少廃盤の再発ですが、そもそもCDのオークションなんて見る習慣がないので、どの程度の稀少盤なのかよくわかりません。
これはジャケットが如何にも廃盤向きの幽玄な感じで、もう最初からそうなることが運命づけられたかのよう。 ピアノトリオはあまり興味が
ないので元々買うつもりはなかったのですが、先週のCD漁りが不作で手持無沙汰で新品コーナーをブラブラしてたら試聴可能になっていたので
聴いてみると、うおっ、と思うことろがあったので買い求めました。

このCDはレーベル名も無ければCD番号も無く、中のライナーからわかるのはメンバーの名前と録音年月日と場所のみ。 この人はこの作品
1枚だけで姿を消したんだそうですから、そもそもこれは私家録音なんだろうと思います。 例によって音質もプロのエンジニアが
マスタリングをしていないようなざらっとした録りっぱなしの感じです。 各楽器の配置感も悪く、ドラムの音がやたらうるさい。
録音機材も悪かったようで、ピアノの音は場末の古いアップライトのようだし、ドラムもダンボール箱を叩いているかのよう。(言い過ぎか・・・)

激レア盤が再発されるのはまあいいとして、このサウンドの悪さはどうにかならないんでしょうか。 これなんて、きちんとリマスタリングすれば
きっといい音盤として再評価されるのではないか、と思うんですけどね。 ただ再発さえすればそれでいいでしょ、というのではなくて、
どうせ世に出すのであれば、資本力のあるところにマスターを持ち込んで、当初は不十分だったところに手を入れて修正してから発売したら
どうなんでしょう? こういう激レア盤の再発のやり方には、音楽への愛情が感じられなくてどうしても好きになれません。

ただ、そういうやるせない不満はあるにせよ、1曲目のガレスピー作の Be Bop がとても見事な演奏です。
3人が一体となって疾走していく様は素晴らしくて、その次のエヴァンスの Interplay の憂いさとの対比も効いていて、音楽的な感動を憶えます。

ピアノは腕がしっかりしていて聴いていて不安感がないのですが音に陰影が乏しくあまり音楽的魅力は感じません。 その代わりにベースと
ドラムが凄くて、特にドラムはフィリー・ジョーを思わせるところがあって、これに耳を奪われます。 ピアノの魅力で聴かせるのではなくて、
トリオが一体感として非情に纏まって進んでいくところに魅力があります。 これはなかなか難しいことなので、この音盤は気に入りました。


しかし、腕の立つピアニストは、ガレスピーの Be Bop を好みますね。 確かにかっこいいフレーズがぎゅっと詰まった名曲ですが、あまり
ピアニスティックな曲でもないし、そもそも演奏するには難しい曲です。 



Sonny Clark with Paul Chambers, Philly Joe Jones ( Blue Note 1579 )


ピアニストが録音したこの曲の代表作として名高いのが、ソニー・クラーク。 この人がクラシックピアノの素地が高いことを証明したのが
このレコードです。 ここで聴かれる演奏には、まるでホロヴィッツやルービンシュタインのように旧い時代のグランドマナーで楽曲を
ねじ伏せるようなところがあって、この人が他のジャズピアニストとは根本的に別格の腕前だったことがはっきりとわかります。 
ブルーノートのラインナップの中では、明らかに異質な雰囲気を持ったレコードです。

1曲目の Be Bop は、汲んでも汲んでも尽きることのない泉の水のようにアドリブが次から次へと流れるように弾かれて、あのフィリー・ジョーが
明らかにピアノに圧倒されてしまっている様子がよくわかります。 ソニー・クラークは本当にすごいピアニストでした。




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今週の成果に見る、欧州オルガンの難しさ

2014年05月17日 | Jazz CD
今週の中古CD漁りは不調に終わりました。 購入したのは、わずかにこれ1枚。



Boris Vanderlek / Blue & Sentimental ( 蘭 A-Records AL73248 )


絶品バラード作品、とのコメント入りで1,600円でしたので買い求めましたが、これがあまりよくないのです。
ロック・ミュージシャンのようなルックスのこのオランダのテナー奏者は、その見かけからは想像がつかないちょっとアーシーなテナーの音です。
DUのウェブサイトでは「アーネット・コブのよう」と紹介されていますが、これはとても的確です。 ほんとにそんな感じです。

バックがオルガン・トリオなので、オルガン好きの私としては否が応でも期待が高まりますが、聴いてみるとどうにも退屈なのです。
テナーが一本調子なのでこういう場合はバックのトリオの好演が必要になるのですが、オルガンが非常に淡泊な演奏で音楽全体に流れがなく、
聴いているこちらの心が動かされません。 Bag's Groove や Doxy をワンホーンバラードに仕立てていて、これはなかなか斬新なアプローチで
とてもいい発想だと思うのですが、残念ながら全体的に大事なものが欠けている感が強い。

この人のテナーの雰囲気をよく理解した誰かがオルガントリオを合わせたのは正しい選択だと思うのですが、どうもこのトリオがファンキーでも
なければアーシーでもないし、じゃあそういうアメリカのオルガンジャズとは一線を画して違うものをやろうとしてるのかというとそうでもない。
まるでシンセサイザーを弾いているような感じです。 やっぱり、バラードにはバラードの静かなスイング感が必要なんじゃないでしょうか。


欧州のオルガンジャズは、やはりアメリカのものとは違う方向を目指せばいいのだと思います。
私が好きな欧州オルガンは、ドイツの Barbara Dennerlein です。





技術的にとてもしっかりしたきちんと前に出る演奏のできる人で、フレーズのセンスも良く、この人は素晴らしいです。 この2枚は大手レーベルらしく
潤沢な予算を使って大物を揃えた多管編成で、非常にいい塩梅のファンキーさが隠し味として効いた現代ジャズの傑作。 ドラムがなんとあの
デニス・チェンバースで、例によって怖いくらいグイグイとドライヴ感が効いており、これが勝因です。 Purple という素晴らしいバラードも聴けます。

ただ、彼女もアルバム制作では相当苦労しているようで、全部を聴いたわけではないですが、この2枚以外はあまりパッとしない内容のものが多いかな
という気がします。 でも、誰かの物真似ではなくきちんと自分の音楽をやろうとしている人なので、これからもずっと聴いていこうと思います。



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連休明けのボケた頭で (2)

2014年05月11日 | Jazz CD
新宿ジャズ館に到着しましたが、レコード館のほうはロクな在庫がないことが初めからわかっているので、CD館へ直行です。

平日の午後、新宿でジャズのレコードを探すことほど楽しいことは本来他になかったはずですが、現在はそれなりのレコードはすべてセールに
廻されてしまい、新入荷コーナーを見る愉しみは砂漠に埋もれた古代文明のように跡形もなく消えてしまいまいた。 

先月レコード館にいた時、若いバイト君が新しいレコードのまとまった束を大事そうに抱えて奥から出てきて新入荷コーナーに補充しようとしていると、
通路をウロウロしていたこの店舗の店長さんが「それは今度やる廃盤セールに廻せばいいんだから、奥に戻しといて」と不機嫌そうに指示していました。
若いバイト君はせっかく補充してくれようとしていたレコードの束を慌てて抱え直して奥へと戻って行きました。 
やれやれ、もう平日にこの店舗に来る意味はないんだなあ、と私は悲しい思いでエレベーターのボタンを押したのでした。

CD館の2Fではピアノトリオ特集をやっていましたが、私はまったく興味がないのでそこは飛ばして、壁側の棚に新設された新入荷コーナーを
順番に物色しました。 探している途中、今日はいいのがありそうだなというのが何となくわかることがあったりするものですが、この日は
そういう予感もなく気だるく時間は流れ、それでも辛うじて1枚だけ拾い上げました。



Norris Turney / Big Sweet N' Blue ( Mapleshade 02632 )


ジョニー・ホッジスの後任としてエリントン楽団に加入した人で、1993年、72歳の時に録音したワンホーンの快作。
ホッジスを思わせるビッグトーンでゆったりと気持ちよさそうに吹いていきます。 Jimmy Cobbの参加が嬉しい。
どれもいい出来ですが、中でも Here's That Rainey Day や Blood Count が名演です。 このメイプルシェードというレーベルは
とてもいい音でこれも嬉しい。 他にもいろいろカタログがあるようなので、中古で出会うことを愉しみに待ちましょう。

2Fにはレジの前の棚に廃盤コーナーがあり、お高いCDがいろいろ置いてあります。 さすがに何万円もするようなものはもう見かけませんが、
価格の高騰はもう落ち着いたのか、それともそういうのはすぐ売れてしまうだけなのか、よくわかりません。 でも、そういうのをじっと
眺めてみても、欲しいという気持ちに一向になりません。 まあ知識が無くてありがたみがよくわからないし、中身もよく知らないから
なんだろうと思いますが、値段が高いから欲しくなるということもない自分にホッとひと安心します。


中古のほうはこれで切り上げて、1Fの新品フロアへ。 冬の間はいろいろ新作の発売も多く、毎週のようにおもしろそうなのが見つかりましたが、
この時期は一休みという感じです。 なので、大手レーベルが過去の廃盤になっている地味な良作を低価格で再発するシリーズに注目しています。
今回はこれを買いました。



Arthur Taylor / Mr.A.T. ( Enja / ソリッドレコード CDSOL-6529 )


これ、大当たりでした。 見事にど直球のハードバップで、びっくりするくらい演奏レベルが高いです。 Abraham Burtonがアルトで
参加しているのでこれを目当てに買ったのですが、テナーとの2管クィンテットという構成も素晴らしい。 御大アート・テイラーも
さすがにもう誰にも遠慮することなく、好き勝手に弾けています。 昔は大物たちの後ろでひたすら地道に趣味の良いリズムを刻んでいた人ですが、
もはや伝説の巨人ですもんね。 それに、このCDは音が抜群にいい。 ドラマーのリーダー作には、いい音盤が多いです。
やっぱり、日頃のサポートへの感謝を込めてなのか、フロント陣が頑張った演奏をすることが多いんだろうと思います。 愛、ですね。


なかなかうまくいかないレコード漁りとは対照的に、CD漁りはこの日も楽しく終わったのでした。 しかし、消費税アップの影響で、
中古CDの値段も一円単位の端数価格になり出しました。 これがちょっと面倒ですね。



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連休明けのボケた頭で

2014年05月10日 | Jazz LP (Europe)
連休が明けてボケた頭が元に戻らないまま、週半ばに2週間ぶりにDUへ行きました。 まずは、Jazz Tokyoです。

新着の中古CDを順番に見ましたが、どうもイマイチ調子が出ません。 欲しいなと思うものが見当たりませんが、それ以前に気分的に
あまり集中できていない感じです。 結構量も多かったせいもあって、えー、こんなにあるのか、ちょっとしんどいな、と思ってしまいます。

じゃあ気分を変えて、と探すのを切り上げてレコードのコーナーへ。 数ヶ月ぶりにレコードの棚を見るので、メンツが以前とは
違っているような気がしますが、気のせいかな? よくわからないけど、まあ、いいです。
セールの売れ残りもだいぶあるようで、壁には色々飾ってありました。



Henri Renaud et son Trio ( 仏Vogue LD.178 )


これも売れ残って壁にかかっています。 私の持っている盤はVogueの平均的なコンディションで、盤面にはスレがちらほら。
飾られたレコードは盤質がA/B、状態良好、とのことなので、もし本当に綺麗なら買い替えてみてもいいかなと思いました。 

盤面はパッと見は確かに綺麗ですが、よく見ると、う、うーん、という感じ。 プレスミスがいくつかあって、スレも見られます。
別にこれくらいなら何の問題もありませんが、これをA/Bというんだからここは相変わらず評価が他と違うな、と思いました。 
他の店舗なら間違いなくB+という書き方です。 

この店舗は元々レコードの盤質の評価が甘くて、高額盤についてはここでは買わないと自分の中では決めているのですが、そう決めたのは
もう1年以上前のことだし、そろそろ変わったかなと淡い期待をしたのですが、変わっていなかったようです。 別に、ありのまま書けば
いいんじゃないかと思います。 Vogueでこれなら十分だし、B+前提で検盤した人は、なんだ、綺麗じゃないか、と思うはず。
でも、A/B前提でこれを見れば、心理的には逆に小さなことが気になりだします。 売りたい感が鼻につくようになってきます。

ということで、買うのは止めました。 なんだか余計な所でブレーキがかかってしまいました。 
値段が市価より高かったし、演奏内容はとりたてていいわけでもないし、そもそも持っているんだから、ということです。
こうなるともう負のスパイラルで、とても買うどころの話ではなくなってきます。

この盤はギターの Jimmy Gourley が加わったピアノカルテットで、演奏内容はナット・キング・コールのピアノトリオによく似た軽快な
演奏です。 前面に出てくるのはギターの演奏ばかりで、アンリ・ルノーはバッキングがメインなので、ルノーの演奏を期待して買うと
ガックリきます。 ルノーは自分のピアノが大したことがないという自覚がはっきりあったらしく、ピアノトリオは周到に避けたようで、
ほんの少ししか残されていない。 きっと、賢い人だったんでしょう。

2月からこれまで一向にレコードが買えていません。 このまま、200枚には大きく手が届かずに終わってしまうのか・・・・
そんなことを考えながら、次は新宿に向かいました。

(続く)



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Charlie Rouse の名演

2014年05月05日 | Jazz LP
先のブラウニーのブルーノート盤は2枚の10インチをカップリングして12インチが作られていますが、その中の1枚はジジ・グライスや
チャーリー・ラウズとのセクステットでした。 このセッションではジジ・グライスの強い音は印象に残るのですが、チャーリー・ラウズは
まったく記憶に残りません。 いいテナーを吹くのですが、複数管の中にいるとなぜかこの人の演奏や音は埋没してしまう。
だから、この人を聴きたい時は盤を選ぶ必要があります。

コレクターにはEpic盤が人気ですが、メジャーレーベルのせいかその内容は音楽的な深みのない平易なもので、ワンホーンで録音がいいにも
関わらず、聴いても何の満足感も得られません。 モンクのコンボで長く演奏していて音楽的な知見は深い人だったはずだと思いますが、
まあ、単にレーベルの意向だったのでしょう。 

私がこの人の魅力が爆発しているなあ、と感じるのはこの盤です。



Duke Jordan / Les Liasons Dangereuses ( Charlie Parker Records PLP-813 )


デューク・ジョーダンが映画「危険な関係」のために作った楽曲だけで占められた傑作。 楽曲はどれも最高、演奏も100点満点なのに
完全に駄盤扱いとなっている本当に不幸なレコードです。 デューク・ジョーダンという人は、本当に幸運から見放された人。
チープなジャケットのせいですね、きっと。

でも、ここでのラウズのテナーは本当に素晴らしくて、重心の低さといい、音のかすれ具合といい、曲想を活かしたタメの効いたフレーズといい、
ただただ聴き惚れるしかない。 特にB面が素晴らしくて、これは何十年聴いても飽きません。 The Feeling Of Love という曲の2つの
ヴァージョンで締めくくられますが、この曲のバラードヴァージョンでのラウズが最高です。 ブレイキーとバルネがフォンタナ盤で
録音した時は Prelude In Blue というタイトルでしたが、The Feelin Of Love のほうが名前としては曲に合っています。

このアルバムのもう1つの魅力は、Sonny Cohn のトランペットが聴けることです。 モダンのレコードでは滅多に見かけない人ですが、
ここでの演奏は素晴らしい。 シカゴ・ジャズの重鎮ですが、古いジャズの奏法を屈指しながらも伸びやかで輝かしい音で吹き切っています。

この愛聴盤が、いつの日かもっと評価されることを願って止みません。 こだわって溝ありのオリジナルのきれいなのを探しましたが、
それでも1,000円でした。 内容と値段は本当に連動しません。




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名声の正体

2014年05月04日 | Jazz LP (Blue Note)
いくら 75周年再発盤のリマスターがいいといっても、どの盤もそうだということではありません。
50年代のモノラル期に録音されたものは、やっぱりどれだけ磨いてみても限界があります。 私がこのシリーズの音がいいと褒めるのは、
原盤の音を凌いだという意味で言っているのでは当然なく、原盤とは全く別の魅力を引き出したという意味で言っているわけですが、
1500番台のモノラル音源はどう手を加えてみてもやっぱり限界があるようです。



Clifford Brown / Memorial Album ( Blue Note 1526 )


これもこのシリーズの中で出されましたが、やはりそれまでのものよりちょっと音がクッキリしたかな、という程度で終わっています。
きっと、ブレイキーのやつとかも一緒なんでしょう。

そもそも、なぜこの盤が人気投票の上位に入ってきているのかも私にはよくわかりません。 これは当時の若い演奏家たちの生々しい姿を捉えている
という意味では貴重な録音ですが、正直、それ以上の価値があるとは思えない演奏です。 まだまだ編曲重視のフォーマットの中で各演奏家に
与えられたスペースは短くてその演奏を十分に堪能することもできず、不満の残る内容です。 ブラウニーはそれまでのトランぺッターと
比較すれば確かに全く違うタイプであることはよくわかりますが、まだまだ青くて硬い。 この中で印象に残るのは、エルモ・ホープがブルーノートの
中では一番いい演奏をしているということと、53年という早い時期にもかかわらずフィリー・ジョーが既に圧倒されるドラムミングを見せることくらい。

ブラウニーは、その名声の割には満足できるレコードが1つもない、というのが正直なところです。 エマーシーに残された比較的多いレコードも、
はっきり言って、どれもつまらない。 そういうことを言いにくい雰囲気はありますが、でも、つまらないんだからしかたがない。 

この人は偉大な演奏家だったとは思いますが、本当に優れたミュージシャンだったんだろうか、と疑問に思うことがあります。 
人柄も良くて多くの人に愛されたそうですが、もし、あの雨の夜に車に乗っていなくて、長生きしていたとして、モードやフリーや電化の時代に
音楽家として生き残ることが果たしてできたのだろうか、と思ってしまいます。




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胸焼けへの処方箋

2014年05月01日 | Jazz CD
ハードバップばかり聴いていると、時々胸焼けがして気持ち悪くなることがあります。 そういう時は、フリー・ジャズを処方します。
そして数日間フリーばかり聴いていると、不思議とだんだんすっきりしてくる。



Don Cherry / Togetherness ( Cloud 9 Music FC CD 110 )


このたび、めでたく初CD化されました。 原盤を聴いたことはないのでうまくCD化できてるのかどうかわかりませんが、全体的にザラッとした
音場感の中でガトーのテナーの音が生々しく鳴っています。 vibの音が弱くて、これがもう少しクリアだったらよかったかなあ、と思います。

一般的なフリー・ジャズのイメージと比べるとこれはフリー度合いは低く、かなり尖ったジャズ、という感じです。 それなりにテーマ部があって、
ユニゾンでそれが導入されているし、哀感たっぷりな展開部のメロディーもあります。 ドン・チェリーという人は、やはりこういうところが
オーネット・コールマンの影響を受けているんだなあ、と思います。 結構好きですね、これは。 音の鮮度がもう少し高ければ言うことなしです。


フリーといっても実際は内容の振れ幅はかなり大きくて、スケールが無いというだけでそれ以外は普通のジャズのフォーマットを敷いている演奏は
たくさんあるわけです。 私はフリー自体は好きでも嫌いでもなくて、特に好んで音盤を買うことはしませんが、それはフリー・ジャズが
わからないからではありません。 どちらかといえば、私にはフリーをやらざるを得なくなったアーティスト達の気持ちが痛いほどよくわかります。
だから、心情的には、フリー系の人たちはメインストリーム系の人たちよりもずっと健全なんじゃないかなあ、と思います。

ただ、彼らのやったのは、音楽とは言えません。 ここにフリー・ジャズの根源的な矛盾と悲劇があるわけです。 音楽を深く愛し過ぎたが故に、
音楽が演奏できなくってしまった人。 それが、フリー・ジャズ・ミュージシャンです。




Ornette Coleman / At The "Golden Circle" Stockholm Vol.1 ( Universal Music TYCJ-81037 )


毎度のことで恐縮ですが、この75周年記念の再発盤は本当に音がいいです。 この盤は今までベースの音がちゃんと聴こえなくて、それが
長い間の課題だったわけですが、このリマスターで初めてクッキリと分離して粒立ちのいい音で聴こえるようになって、ビックリ。
ただの通奏低音でしかなかったベースの音が、"Faces And Places" でこんなに速弾きしてたのか、とわかって腰を抜かしてしまいます。
アルトの音もシンバルの音も、これまでの音盤の音とは全然違います。 お願いですから、Vol.2も出してくれませんか?
RVGリマスターって、あれ嫌いなんです。

現時点で、これをフリー・ジャズという人はもういないだろうと思います。 少なくとも私の耳には、ロリンズのヴィレッジ・ヴァンガード盤と
まったく同じように聴こえます。 ただ単に、スタンダードをやってない、というだけです。

私はドルフィーがあまり好きではなくて、オーネットのほうが遥かに好きです。 オーネットのほうがずっと正統派だ、という気がします。

オーネットがどうして天才かと言えば、それは初めてフリーのアルバムを出したからではなくて、フリーとメインストリームの間にある
普通の人には見えない波打ち際を上手く歩くことができた唯一の人だからだ、と思うのです。


俯瞰的に眺めた場合、ジャズはフリーを経験してよかったと思います。 クラシックはアルバン・ベルグやシェーンベルクらが興した
無調音階をうまく消化できずに時間が止まってしまいました。 その後、ジェラルド・フィンジのような優れた作曲家は出ましたが、
それが新しい主流となることはなく、個人的な才能で終わってしまっている。 ロックはパンクやアンビエントを経験してもそれを
消化するよりはを再度ブラックミュージックを取り込むことを選びました。 でも、ジャズはフリーを上手く消化できたと思います。 
現在の演奏の至る所にその影を見ることができます。 

でも、逆に言えば、フリー・ジャズはそれほどフリーには成り切れなかった、ということだったのかもしれません。



コメント (2)
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