Tadd Dameron / Fontainebleau ( 米 Prestige PRLP 7037 )
私にラージ・アンサンブルの良さを教えてくれたアルバム。ジャズの何たるかがわかっていなかった学生時代に聴いた時からずっと大好きだった。
そして、ジャズという音楽においても楽曲の良さというのが如何に大切か、を知ることになったアルバムでもある。
タッド・ダメロンが若々しく活躍した時期はスイングからビ・バップへ移行する時期で、その演奏はほとんど残っていない。クインシー・ジョーンズの
先駆けのような人で、自身の楽器演奏力には早々に見切りをつけて、作曲や編曲の領域に軸足を置いたというせいもある。それでも、あと5年遅く
生まれていれば彼のレコードはもっとたくさん残っただろうに、と思えるだけになんとも残念でならない。
このアルバムでは貴重な彼のピアノが聴けるが、その弾き方はクロード・ソーンヒルそっくり。アンサンブルの編曲もソーンヒル楽団のものと
酷似していて、彼はソーンヒルをお手本にしていたことがよくわかるのだ。ソフィスティケートな雰囲気があまりに似ている。
管楽器にはサヒブ・シハブ、セシル・ペイン、ジョー・アレキサンダーやケニー・ドーハムらが参加しており、このシブい面子にも泣かされる。
特にアレキサンダーのテナーは他ではあまり聴けないので、貴重この上ない。ちゃんとソロの出番があり、深く幽玄な演奏を聴かせてくれる。
彼の書くメロディーには独特の哀しみのような情感が漂っていて深い郷愁を誘うが、同時に淡いアイロニー感も持ち合わせて、その音楽は
複雑な構造を示す。そういう重層感にこの人特有の音楽の深みがある。とても一介のジャズマンが書く音楽とは思えず、一体どうやってこういう
音楽的素養を身に着けたんだろうと不思議に思う。ベニー・ゴルソンがダメロンを自身の音楽上の指針にしたのもよくわかる。
ビ・バップというムーヴメントを支えた1人としての評価はその通りだと思うけれど、それよりもクロード・ソーンヒルからタッド・ダメロンへと
流れて、それがベニー・ゴルソンへと繋がるジャズの中の1つの洗練された系譜のほうが私にはより重要なことに思える。