廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ソフィスティケートな音楽の系譜

2023年03月25日 | Jazz LP (Prestige)

Tadd Dameron / Fontainebleau  ( 米 Prestige PRLP 7037 )


私にラージ・アンサンブルの良さを教えてくれたアルバム。ジャズの何たるかがわかっていなかった学生時代に聴いた時からずっと大好きだった。
そして、ジャズという音楽においても楽曲の良さというのが如何に大切か、を知ることになったアルバムでもある。

タッド・ダメロンが若々しく活躍した時期はスイングからビ・バップへ移行する時期で、その演奏はほとんど残っていない。クインシー・ジョーンズの
先駆けのような人で、自身の楽器演奏力には早々に見切りをつけて、作曲や編曲の領域に軸足を置いたというせいもある。それでも、あと5年遅く
生まれていれば彼のレコードはもっとたくさん残っただろうに、と思えるだけになんとも残念でならない。

このアルバムでは貴重な彼のピアノが聴けるが、その弾き方はクロード・ソーンヒルそっくり。アンサンブルの編曲もソーンヒル楽団のものと
酷似していて、彼はソーンヒルをお手本にしていたことがよくわかるのだ。ソフィスティケートな雰囲気があまりに似ている。

管楽器にはサヒブ・シハブ、セシル・ペイン、ジョー・アレキサンダーやケニー・ドーハムらが参加しており、このシブい面子にも泣かされる。
特にアレキサンダーのテナーは他ではあまり聴けないので、貴重この上ない。ちゃんとソロの出番があり、深く幽玄な演奏を聴かせてくれる。

彼の書くメロディーには独特の哀しみのような情感が漂っていて深い郷愁を誘うが、同時に淡いアイロニー感も持ち合わせて、その音楽は
複雑な構造を示す。そういう重層感にこの人特有の音楽の深みがある。とても一介のジャズマンが書く音楽とは思えず、一体どうやってこういう
音楽的素養を身に着けたんだろうと不思議に思う。ベニー・ゴルソンがダメロンを自身の音楽上の指針にしたのもよくわかる。

ビ・バップというムーヴメントを支えた1人としての評価はその通りだと思うけれど、それよりもクロード・ソーンヒルからタッド・ダメロンへと
流れて、それがベニー・ゴルソンへと繋がるジャズの中の1つの洗練された系譜のほうが私にはより重要なことに思える。



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セシル・ペインとデューク・ジョーダン(5)

2023年03月12日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Rolf Ericson / And His All American Stars  ( 米 Emercy MG-36106 )


れっきとしたロルフ・エリクソンのリーダーセッションなのに、タイトルをこうせざるを得ないほど2人の音楽に支配された内容になっている。
そのおかげで、このアルバムは非常に優れたアメリカのハード・バップの名盤に仕上がった。

ロルフ・エリクソンは1947年から約10年間、アメリカで活動している。ジャズを志すならアメリカに行かねば、ということだったのだろうか、
チャーリー・バーネットやウディー・ハーマンのオーケストラで研鑽を積み、その後は西海岸へ行き、様々なセッションや録音に参加している。
そして1956年の春にスエーデンに戻り、当時渡欧中だったジョーダンやペインらとすぐにスタジオに入り、これらの録音をした。

現地ではメトロノーム社から7インチ盤が同年にリリースされたが、この時に未発表だった曲を加えて57年には英国Nixa、58年にはアメリカの
エマーシーから12インチとしてリリースされた。エマーシーは欧州のレーベルと提携して各社の音源を積極的にアメリカでリリースするなど、
優秀なレコード会社だったのだ。

エリクソンはトランペット奏者としては凡庸。音色はよく鳴りはするものの特徴はないし、アドリブがイマジネイティヴということもないし、
フレーズがよく歌うということもない。この人ならでは、というところは何もないけれど、ここでの演奏は音楽全体の勢いに上手く乗っており、
音楽の仕上がりの良さに大きく貢献している。デューク・ジョーダンの憂いの深いピアノがよく響き、セシル・ペインのずっしりと重いバリトンが
よく歌い、演奏全体は非常に重量感のある手応えで素晴らしい。このレコードは音もよく、すべてが理想的だ。エマーシーというレーベルは
いろんなタイプの演奏をカバーしているのでレーベルとしての統一した印象が持ちにくく、そういうところで損をしているけれど、これは
正真正銘の良質なハードバップで、デューク・ジョーダン色に染まっているところは Charlie Parker Recordsレーベルの "危険な関係" に雰囲気が
似ている。あのレコードが好きなら、これもお宝の一枚となるだろう。


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R.I.P Wayne Shorter

2023年03月04日 | Jazz LP(Vee Jay)

Wayne Shorter / Wayning Moments  ( 米 Vee Jay VJLP 3029 )


想えば若い頃から既に巨匠の雰囲気が漂う不思議な人だった。外見の風貌にもそんなところがあったが、何より彼が演奏に参加した途端、
音楽からはそれまで聴き慣れたものとはどこか違うムードが漂った。演奏そのものは革新的だったというわけではなく、どちらと言えば
オーソドックスなプレイの側に立脚していたけれど、操る言語はそれまでのテナー奏者とは明らかに違っていたし、演奏から発せられる
匂いのようなものが独特で、それがその音楽を今まで見たことが無いような色彩に染めてしまうようなところがあった。

だから、ウェイン・ショーターの魅力とは何か、を語るのは難しい。そして、その難しいという点にこそ彼の魅力の核心があったように思う。
簡単に言葉で説明できる特徴ではなく、その「妖しさ」のような抽象性に惹かれるのだ。

そういう妖しいムードはマイルスの下ではっきりと開花するわけだけど、それ以前の演奏でも既に十分過ぎるほど染み出ていて、
アート・ブレイキーだろうが、ウィントン・ケリーだろうが、そのリーダーのそれまでの音楽をひっくり返してしまうような内容にしてしまう。
ただ、そういうムードも「何となく」という適当さではなく、若い頃に受けた音楽教育が基礎部分に硬い岩盤のように横たわっており、
音楽そのものを堅牢なものにしている。理論的な抽象性というか、冷酷に徹底された妖しさのようなものに貫かれているのが見て取れる。
だから彼はフリーやアヴァンギャルドに走る必要がなかったし、常にシーンの中央にいることができたのだろうと思う。時点時点で常に
何をすればいいのかがわかっていたような全能感があったような印象があり、そういうところも不思議だった。

彼のアルバムは近年のものも含めて基本的にはどれも好きだが、その中でも1番好きなのはこの若い頃のレコードだ。フレディ・ハバードとの
2管編成で、エディ・ヒギンズら格下とも思えるバックとの釣り合いが悪いのではと思いきや、これが何とも新緑の芽吹きを想わせるような
新鮮でみずみずしい演奏になっていて、聴くたびに深い感銘を受ける。

難解さは皆無のわかりやすい音楽で、ちょうどコルトレーンのプレスティッジ時代に相当するような作品だ。ただその音楽は既に完成度が
非常に高く、ほんのりと漂う妖しさがそれまでのハードバップとは一線を画す見事なアルバムとなっている。テナーのプレイはコルトレーンの
影響をまだ色濃く感じるところがあるが、音色は大きくなめらかで素晴らしい。彼の普通のジャズアルバムとしてはこれが完成形だった。

20年ほど前に来日して野外のスタジアムで演奏した彼を見たが、大きな身体で音数少なく慎重に選びながら吹くその演奏はマイルスの吹き方に
よく似ていた。やはり、彼はマイルス・チルドレンなんだなあと思ったことを憶えている。

R.I.P ウェイン・ショーター。これからもあなたの音楽を聴き続ける。



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