廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

クォーター・モダン という新ジャンル

2014年11月30日 | Jazz LP (Urania)

Ernie Royal / Accent On Trumpet  ( Urania UJLP 1203 )


時間が経つとレコードの印象が変わってくる、というのはよくあることで、以前聴いた時はさしていいとも思わなかったけど、今聴いてみると
結構いいじゃないか、と思ったりすることがあります。 尤も、その逆もよくあることで、何がそう思わせるのかはよくわかりません。

このレコードも昔聴いた時は退屈な内容だな、と思ってほとんど手に取ることもなかったのですが、今聴いてみるとそんなに悪くはないし、
意外に音がいいレコードなんだな、と思うようになりました。

アーニー・ロイヤルのトランペットはその音も奏法も古いスタイルだし、ギターもドラムも同じく古いスタイルでの演奏ですが、集まったメンバーが
やっている音楽は古臭いという感じはなく、瑞々しい新鮮さみたいなものを感じることができます。
ウラニアというレーベルはハードバップとは無縁の音楽に特化してレコードを少し作ったマイナーレーベルで、採用された演奏家もスイング系の人たちが
メインでしたが、その音楽はどれも古臭さはなく、実は選球眼がよかったんだなということがわかります。

このレコードもスタイルはスイング系のスモールコンボのそれですが、音楽がかなりしっとりと落ち着いていて、モダンと中間派の間くらいの
"クォーター・モダン" とでもいうべき地味だけど新しい隙間を縫うような分野をつくっているようなところがあります。 誰もガツガツしたところが
なく、ゆったりとした余裕をもってのんびりと演奏している。

一応、名義はアーニー・ロイヤルのリーダー作ということにはなっていますが、特にこの人が前に出て、というような野心的なところもなく、
全員でこじんまりと音楽をやっているという手作り感が好ましく、たまに聴くとホッと一息つける可愛らしいレコードです。

どうでもいい話ですが、ジャケットに写る顔は眼窩が窪んでいて影になっていますが、よく見ると実はアーニー・ロイヤルの眼は開いています。
これがちょっと怖い。




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今週の成果~新品漁りも重要

2014年11月29日 | Jazz CD
いいのが見つかっても見つからなくても中古探しは面白いものですが、自分の心持ち一つでもっと面白くすることもできます。
一番いいのは、自分の欲しいものや従前から探しているもののことをきれいさっぱり忘れることじゃないか、と思います。

探しものをしているのに探しているものを忘れるとはまるで禅問答のようですが、欲しいものを目の前に出現させるというようなこと自体、
我々の力でコントロールすることができない類のことです。 だから、欲しいのに見つからない、欲しい、欲しい、と嘆いても仕方がない。

それと、中古探ししなきゃいけなくなる前に買っとけ、というのもあります。 マニアの常として、新品として店頭に並んでいるとなぜか
有難みを感じられず、これはいつでも買えるんだから今度でいいや、今は今しか買えないこっちの廃盤を買っとこう、と思ってしまう。
そして気が付くとそれは店頭からは消えていて、ようやく目の色を変えて探しまくる、ということを繰り返します。

当たり前のことですが、全ての廃盤は元々はと言えば新品として普通に店で売られてた訳で、たまたま運が悪く自分がその時その場にいなかった
だけのこと。 今、目の前で売られている新品は、将来の廃盤候補生です。

だから、新品で買えるものは新品で買っとけ、ということですね。 そうすれば、中古探しは楽になるし、本来の楽しさを満喫できます。
なので、私は新品漁りも中古探しと同じくらい熱心にやるようにしています。 





■ Steve Grossman / Katonah  ( DIW 811 )

東京のスタジオでレコード会社の社員たちを前にして行われたライヴ形式での録音で、生々しい一発録りの演奏です。

1曲目の表題曲の "Katonah" がやたらカッコいい曲で痺れますが、ベースがブンブン唸る様がきれいに録れており素晴らしい演奏です。
とにかく1曲目の出だしから最後の曲の終わりまでひたすらテナーが鳴っており、やはりどうしてもコルトレーンのレコードなんかを
思い出してしまいます。 こういう演奏が聴ける音盤というのは、冷静に考えるとそれほどたくさんあるわけではないことに気が付きます。

グロスマンのテナーの音は濁っていてお世辞にもきれいな音とは言えませんが、この音には嫌味なところがないので好きです。
私は例えばジョー・ヘンダーソンの音は嫌いであまり聴く気にはなれませんが、この人の音はなぜかクセになります。


■ Steve Grossman / Live at The Someday Vol.1  ( Someday of Mugen Music THCD-338 )

ライヴハウスでの演奏で、グロスマンのライヴ演奏としてはこれが一番いいと思います。 特筆すべきはバックの日本人ピアノトリオで、
日本人によく見られる線の細さや小粒さ流れの悪さが一切なく、まるでアメリカ人のトリオかと思うような立派な演奏です。
グロスマンのタイム感が冴えに冴えていて、アドリブラインもなめらかを極め、全体で大きな1曲を聴いたような錯覚を憶えるほど。

様々な枝葉に分かれて覆い茂ったおかげでジャズという音楽はいろんなテイストが楽しめますが、時々ここに帰ってきて忘れかけた本流を
思い出すことが必要だな、と思います。


来日に合わせて再プレスされた今回の店頭在庫も残りが少なくなってきているようです。
中古のほうは相変わらず不調で、この2枚だけでした。





■ Art Farmer / Warm Valley  ( Concrd VICJ-60610 )

フリューゲルホーン1本だけでアルバムを最後まで退屈させずに聴かせることができるのは、おそらくこの人だけだろうと思います。
これは凄いことです。

ベニー・ゴルソンの "Sad To Say" が聴きたくて買いましたが、期待通りのいい演奏。 エリントンの "Warm Valley" も美しく、
この人にしかできない美しいバラードが嬉しいアルバムです。


■ Mel Torme & George Shearing / Evening With  ( Concord 240E 6820 )

メル・トーメ晩年の大傑作。 これは歌だけではなく、ジョージ・シアリングのピアノが驚異の名演で、聴く人を驚かせます。
ここで展開される歌と演奏の信じられないようなスイング感やデリケートさは凄いとしか言いようがなく、これ以上言葉が出てきません。

あまりに評判が良く、グラミー賞まで取ってしまったので続編がたくさん作られましたが、このアルバムが一番出来がいいと思います。
白人スイングジャズの究極の姿がここにあります。





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軽さに拍車がかかった音楽

2014年11月24日 | Jazz LP (Europe)

Franco Cerri / International Jazz Meeting  ( 伊 Columbia 33QPX 8018 )


前回のレコーディングから1年半後、再びコロンビアのスタジオにメンバーが集まり、似たようなアルバムが制作されます。

ただし、ここで聴かれる音楽は前回のものと比べると少し音楽らしさを取り戻していて、1年半という時間の経過を実感できます。
バッハだって、平均律クラヴィーアの第1集は未熟な曲想だったのに、20年後に再度創った第2集ではグッと深みが増したんですから、
アーティストにとって時間の重みというのは重要なんだな、ということがよくわかります。

なぜかはよくわかりませんが、全体的に南米の演奏家が演奏するジャズを聴いているような雰囲気があります。 内省の欠落したような、
どこか枯れた諦観が漂うようなところがあります。 この変化は何だろう、と訝しい気持ちで聴いていると、短い演奏はあっという間に終わります。

前回のゲストはラース・ガリンで、ちょこっと顔を出しただけで何のために参加したのかよくわかりませんでしたが、こちらはバルネがソプラノで
参加しており、アルトのフラヴィオがソロを全然取らないのでかなりの存在感があります。 

もう1つ不思議なのは、前回のレコードよりも新しい録音にも関わらず、こちらの再生音は全体的にエコーが強めにかかっているせいか、
かなりフォーカスが甘くぼやけていて、音場も1歩後退したような音になっていることです。 レコードは同じ時期に製造されたようですが、
音の良さで言えば前作の方が遥かにいい。 このアルバムはCDも聴いてみましたが、はっきり言ってレコードとはほとんど差異はなかったです。
CDはレコードの雰囲気をうまく捉えられていて、よくできています。

バルネが入っているということで特別視されているようですが、ソプラノをメインに吹いているので豪放さは微塵もないし、そもそも音楽自体は
サロンミュージックのような軽いものなので、実際に聴くと事前のイメージとはかけ離れた内容にがっかりする人もいるんじゃないでしょうか。

無責任に飛び交う流言飛語に踊らされずに、よく見極めることが必要かもしれません。



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欧州版 Norgran

2014年11月23日 | Jazz LP (Europe)

Franco Cerri / And His European Jazz Stars  ( 伊 Columbia 33 QPX 8010 )


このレコードの印象を一言で言うと、「欧州のノーグラン・レコード」。

フランコ・チェリのギターはとにかくタル・ファーローにそっくりで、もっともあれほど上手くはなくて技術的にはその足許にも及びませんが、
ブツブツと歯切れのいい音やフルアコらしい音色の作り方がまったく同じです。 また、グループのアンサンブルのスカスカ感といい、
重心が高く地に足がついていないようなテンポ感といい、バップ色やブルース感の一切ないノーマン・グランツのレコードに一貫して見られる
「中庸なジャズ」と瓜二つな内容が展開されます。 

ノーマン・グランツは最盛期がとうに過ぎて老齢に差しかかった巨匠ばかりを好んで使ったのでああいうレコードになった訳ですが、ここに集まったのは
若くこれから登り坂を上ろうとする演奏家がメインだったのにこういう演奏になったのは不思議です。

曲によって演奏者の構成がクルクル変わるので全体的な統一感がなく、かなり散漫な印象です。 その中で目立つのはフラヴィオ・アンブロセッティの
アルトですが、この楽器特有の軽快さがない吹き方なので少しテナーっぽく聴こえます。 これだけがグループの中で老成した演奏なので、
アンサンブルの中にうまく馴染めずに浮いている感じが否めませんが、それ故に却って演奏が前に押し出されていて、他ではあまり聴く機会のない
この人の姿がよくわかります。 欧州ジャズらしく各々の演奏はしっかりしていますが、唯一、ジョルジュ・グルンツのピアノだけがヘタで耳障りです。
早々とアレンジャーへとシフトしたのは正解だったんだなということがわかります。

こうやって部分的なところばかりに耳が行くことからもわかる通り、全体的には音楽的な情感が乏しく、聴いていても心を動かされることはないので、
そういう切り口での褒め方はできません。 歌劇の国の音楽とはとても思えない内容だけれど、ただ、このレコードは大手レーベルの確かなモノづくりの
おかげで音がいいし、ジャケットや盤の質感も高いので、コレクターが有り難がる理由はよくわかります。 だから、聴くためのレコードではなく、
持つためのレコードだろうと思います。

英国やイタリアのコロンビアの音源はアメリカではエンジェル・レーベルがライセンス販売していましたが、アメリカ盤は見たことがないし、
あるのかどうかもよくわかりませんが、60年代初頭にリリースされたこの内容をアメリカに持って行っても、アメリカ人から見れば自国では
10年近く前に作られていたような音楽をなんで今更、という感じだったんでしょう。 相手は、既に "Kind Of Blue" を産み出していた国です。
フランコ・チェリ本人も、これでは恥ずかしくて持ってはいけなかったでしょう。



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今週の成果

2014年11月22日 | Jazz CD
先週久し振りに中古を漁っていいのに出会ったので気を良くしてまた今週も新着を見てみましたが、成果は2枚だけ。 数はたくさん出ていましたが、
内容的にはピンとくるものがほとんどありませんでした。 やっぱり年末セールの影響なんだろうなあ、と思います。 そのセールも今日あたりから
始まるようですが、興味のない私にとってはありがた迷惑なハロウィンみたいなもの。 早く終わって欲しいもんです。

なので、新品も少し買って溜飲をさげました。 こちらはなかなかの内容でした。





■ Frank Strozier / Cool, Calm And Collected  ( Vee Jay / Koch Jazz KOC-CD-8552 )

今、これを書いてて初めて気が付いたんですが、これは懐かしのVee Jayレーベルで1960年10月に録音されたものだったんですね。
聴いていた時はそんな古い録音だったなんてわかりませんでした。 それくらいきれいな音で、まるで最近録音されたかのようです。
そう言えばどの曲も短くて、言われれば納得できます。 でも、これは当時レコードが出ていたんでしょうか? あまり記憶にありません。
もしかしたら、未発表曲集なのかもしれません。 ベースがクッキリとクリアで、ブンブンと鳴って気持ちいいったらないです。

アルトのワンホーンですが、とにかくソニー・クリスそっくりです。 音の出し方やフレーズの閉じ方なんかは特に似ていて、ブラインドで聴いたら
殆どの人がソニー・クリス?と答えるんじゃないかと思います。 でも、あんなにバタ臭くはなく、もっと清潔な感じで好印象です。
音楽も無拓で罪のない感じです。 ちょうど、 "At The Cossroad" のような夜の雰囲気が濃厚です。

アルトのワンホーンとしては特上クラスの出来で、既に評価の固まった他の音盤群の中に入れてもいいと思います。
音の良さも含めて、傑作だと思います。 レコードしか評価しないという人も、これを聴けば認識が変わるんじゃないでしょうか。

あの頃の懐かしい雰囲気のジャズがこんなにクリアに聴けるなんて、素晴らしいことです。 全ての音盤がこうなればいいんですけどね。


■ Steve Grossman / Hold The Line  ( DIW 912 )

再プレスされて、店頭に並んでいました。 これも中古ではまったく流通しない盤なので、当然買い求めました。
1曲目が "Ray's Idea" で始まるなんて、嬉しいじゃないですか。 それだけでニコニコしてしまいます。

先日このブログに載せた "Standards" は全編ロリンズそっくりな演奏でしたが、こちらは全編ショーターそっくりな演奏です。
わざとそうしているのかただの偶然なのかよくわかりませんが、とにかくそう感じます。 でも、もちろん物真似なんかではなくて、
ちゃんとワン&オンリーな世界です。

この人にはメジャーキーのスタンダードはあまり似合いませんが、それでもどんな素材であっても全編豊かなアドリブを展開していく様は
素晴らしく、これこそがジャズの姿だ、と聴き手をねじ伏せてしまうようなところがあります。 コルトレーンもそうだったけど、
ただ、彼が展開した音楽はあまりにも個人的過ぎて、結果的に聴き手を選ぶようなことになってしまったのはとても残念なことです。 
その点、グロスマンは広く汎用的にアピールできる音楽をしているので、ちゃんと聴き手も正面から受け止めることができます。

これも本当に素晴らしい演奏です。






■ Eddie Jefferson / Body and Soul  ( Prestige OJCCD-396-2 )

ジャズの世界にヴォーカリーズを持ち込んだ人として名高いですが、そのダミ声のせいか、それ以上のいいね!が貰えない気の毒な人。
でも、味のある音楽になっていて、私は好きです。

このアルバムで面白いのは、"So What" 。 そのバックの演奏がかなりいい出来です。 バックを務めるのは、ジェームス・ムーディー、
デイヴ・バーンス、バリー・ハリスら一流どころですが、この演奏がマイルスのあのオリジナルの雰囲気をすごく上手く再現していて、
エディーには申し訳ないけどそちらに耳を奪われてしまいます。 これは隠れた名演です。

あまり多くは録音されなかったのが残念ですが、ここにも明らかにジャズのスピリットが宿っているのを見ることができます。


■ Peter Brotzmann / Lost & Found  ( FMP CD 134 )

ブロッツマン渾身の2006年のソロ・ライヴ・パフォーマンス。

音に全身全霊を込めて吹いていくのが手に取るようにわかる演奏で圧倒されます。 ただ、やはり衰えを感じないわけにはいきません。
まあ、65歳の時の演奏ですから仕方はありません。 と言っても、上記のグロスマンなんかでもその足元にも及ばない演奏なわけで、
老いてもなお怪物はやっぱり怪物です。

成熟さや昇華感が漂うところがあって、もうフリージャズというようなありふれたレベルの音楽ではなくなっています。
途中で迷うこともなく、スタイルを変えることもなく、信じる音楽をやってきた人はやはり違います。
その内容がどういう種類であれ、ブレずに貫くというのはこういうことなんだな、と思います。

この人を聴いていると、もしかしてフリージャズというのは正しい音楽だったのかもしれない、と思うことがあります。




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チャカポコが苦手でも

2014年11月16日 | Jazz LP (Blue Note)

Lou Donaldson / Blues Walk  ( Blue Note 1593 )


ジャズを聴いていてやっぱりこの音楽は異国の音楽なんだなあ、と感じる瞬間はいろいろあるけれど、一番それを実感するのはこういうコンガの
チャカポコが入っているのを聴いた時ではないでしょうか。 日本人の感覚からすれば、このチャカポコが入るととたんに音楽が下品になるような
気がして、なんでこんなことをするんだろう? と首を傾げてしまうというのが正直なところだし、私も若い頃はそう思っていました。

コンガはキューバの民族楽器で、元々は祝祭音楽で使われていたもの。 カストロが現れるまでの20世紀の前半はキューバはアメリカの傘下に
入ることを認めていたので、この時期の人やモノの交流の中でこの楽器もアメリカに入って来たわけですが、ブルーノートが他のレーベルに先駆けて
キューバ音楽を取り入れだした50年代後半の2国間の関係は、政情的にかなり不安定で微妙な時期でした。 
にも関わらず、"Sabu" や "Orgy In Rhythm" などで執拗にキューバ音楽にこだわったのは、音楽とはそういう政治的なものからは自由で独立したものだ
というアルフレッド・ライオンの音楽プロデューサーとしての強い矜持があったからなんじゃないかと思います。 
そう考えてみると、チャカポコを聴いた時の感想も少し違ったものになってくるわけです。

ルーさんはブルーノートの看板アルトサックスとして長く頑張った人で、初期の録音ではパーカーの影響がまだ濃厚ですが、そこからあまり時間を
置かずに脱出することができた。 その時に相棒に選んだのがハーマン・フォスターとコンガ奏者で、この人選が音楽を決定付けました。
コンガを入れるアーティストはこれ以降増えますが、あくまでもアクセントとしての使い方が多くて、ルーさんのようなゆるゆるキューバン・ブルース的
音楽をモノにした例はあまり見られないような気がします。

ただ、アルバムをつくる場合はそれだけでは単調になってしまうので、この盤のようにアクセントとしてコンガ抜きの素晴らしいバラードを
入れることが多くて、チャカポコが苦手でもこのバラードだけは聴きたい、と思わせてくれます。 特に、この盤に収録された "Autumn Nocturne"
の出来は群を抜いていて、ブルーノートのバラードランキングでも上から数えたほうが早いであろう素晴らしさです。

そういう入り方でもいいから、ルーさんの音楽をもっと評価してもらえるいいのにな、と思います。



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今週の成果

2014年11月15日 | Jazz CD
DUの新宿ジャズ館がレイアウト変更して、2Fがピアノもの専用フロア、3Fがその他楽器になったとのことで、どれどれ、と見に行きました。
といっても、別に何がどうということもないのですが、ただ、これはピアノものに興味のない私にはとても好ましい配置でした。 
これで効率よく自分好みの新着中古を探せますので、大歓迎です。 

それにしても、如何にピアノの音盤が乱発されているか、ということなんでしょう。 そして、如何に人気があるか、ということでもあるんでしょう。
これだけの量の中から自分の好みに合うものを探していくなんて、私には気の遠くなるような作業です。 ピアノファンは蒐集が大変なんだなあ、と
素直に驚嘆してしまいます。

ついでに3Fで新着を見てみました。 ほぼ1カ月ぶりくらいでしょうか。





■ Twobones / Ballads for Bluehorns  ( TCB Records 21102 )

2トロンボーンのクインテットで、ポール・ハーグが味のあるヘタウマな唄も歌います。 録音が抜群に良くて、これは嬉しい。
演奏も全編バラードで、短めの楽曲がたくさん並び、とても聴き応えがあります。 

トロンボーンのソロ楽器としての弱点を補うための2ボーン編成というのはある意味逆転の発想で、渋味のある深いサウンドを創り出しています。
Jay Jay & Kai のユニットとは全く違うコンセプトのユニットで、重奏感を大事にする演奏がとても心地よい。 これは名盤です。


■ Shirley Scott / Oasis  ( Muse Records MCD 5388 )

1989年にニュージャージーのスタジオでチャールズ・デイヴィスやヴァージル・ジョーンズを加えたクインテット録音。 これも、録音が素晴らしい。

あまりにシブいメンツにマニア心が揺さぶられますが、1曲目の "Oasis" がまるでハードボイルドな刑事映画の主題曲のようなカッコよさで
もうこれだけでメロメロになります。 この1曲で名盤の殿堂入り確定です。

シャーリー・スコットのオルガンはいつも通りの繊細さです。 この人の弾くフレーズは元々少し抽象的なところがあるのですが、ここでは
落ち着いたプレイに終始しています。 全体に漂う淡くすっきりとしたブルース感も素晴らしく、私にはどストライクな内容でした。

ここ最近買った中古では一番うれしい内容だったかもしれません。






■ Cedar Walton, Ron Carter, Jack DeJohnette  ( Limetree MCD 0021 )

奇跡の再発、と派手に広告されていましたが、別にそこまでしなくても買いますよ、もちろん。 シダー・ウォルトン、好きですから。

3人のオリジナル曲を軸にした選曲のとても地味なアルバムで、特に録音がいいわけではなく、特に楽曲に魅力があるわけでもなく、
スリルに満ちた演奏というわけでもなく、素晴らしいバラードがあるということもなく、全体的に一本調子で抑揚に欠けるこの演奏の
一体どこを褒めればいいんですか? とあなたは言うかもしれません。 確かに、私も最初に通して聴いた時はそう思いました。

なのに、今週の月曜から金曜までの毎日、仕事から帰る時はなぜかこればかり聴いていました。 しばらくはそういう日々が続きそうな気がします。
好きなアーティストの演奏というのは、そういうものなのかもしれません。


■ Peter Brotzmann / Balls ( FMP/atavistic UMS/ALP233CD )

"For Adolphe Sax" や "Machinegun" と比べると、かなり落ち着いた演奏です。 まあ、あくまでもそれらと比べると、ですが。

静音部が多く、演奏にも大きく緩急がつけられていて、それまでの楽器の咆哮だけですべてを埋め尽くそうとする演奏ではなくなってきています。
ヴァン・ホーヴがピアノの弦をまるで琴やハープのようにつま弾く中、ハン・ベニンクのシンバルのざわめきがブリッジとなって、ブロッツマンが
激しく短いセンテンスを吹き繋ぐ。 あきらかにトータルサウンドを意識した作りになっています。

でも、不思議なことに、この前後の時期のブロッツマンのアルバムには時間の風化に耐えることができた本物感があります。
ただのフリージャズではない、何かがあるように思えます。


やはり、少し間を置いたのは正解でした。 この4枚はどれも珠玉の内容で、充実した買い物だったと思います。



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選から漏れてしまった英国ハードバップ

2014年11月09日 | Jazz LP (Europe)

The Jazz Five featuring Vic Ash and Harry Klein  ( 英Tempo TAP 32 )


普段はけなしてばかりの英国ジャズですが、中には「これは凄い」と思うものも当然あって、その筆頭がこのレコードです。

ヴィクター・アッシュという人はクラリネット奏者という印象が強いですが、実際はサックスもよく手にしていたようで、このアルバムもテナーを
吹いています。 ただ、クラリネットの印象が先行しているせいか、欧州の名盤が語られる際にはこのレコードはいつも選から漏れてしまって
いるような気がします。 でも、仏のアルバニタの "Soul Jazz" や独のナウラの "European Jazz Sounds" と互角に張り合える英国産は
これだろ、といつも思うのです。

テナーとバリトンの2管フロントという超重量級のサウンドで全編が固められた素晴らしいハードバップで、文句の付け処が見つからない。
収録された6つの楽曲がどれもみな素晴らしいですが、特にA面最後の "Hootin'"、B面最後の "Still Life" がカッコいい。 
演奏の技量も非常に高くて、ほころび1つありません。 まるで現代の最優秀な常設グループの演奏のようです。
作品が他にもあるのかどうかわかりませんが、一定期間レギュラーグループとして活動していたのかもしれないと思わせる纏まりの良さも見事で、
アルバムがこれ1枚しかないのだとしたら、本当に残念なことです。

唯一のスタンダードの "Autumn Leaves" では間奏をクラリネットで吹きますが、バックのハードバップサウンドにクラリネットの音色が絶妙に
ブレンドされて、こんなサウンドカラーは他では聴いたことがありません。 そういうセンスの良さもあちこちで光ります。
アメリカのハードバップを詳細に研究した跡が伺えますが、その模倣にならずにきちんと自分たちの音楽を作り上げているところが素晴らしい。

1960年の晩秋にロンドンのデッカ・スタジオで録音され、レコードのプレスもデッカ工場でされているので、音質も極上の仕上がりです。

スター・プレイヤーがいない地味なメンツのせいかあまり目立たないレコードのようで、英国内でもこのレコードの存在を知らない人が結構いる
という話を教えてもらったことがあります。 でも日本の愛好家には普通に知られており、つくづく日本はすごい国だなと思います。



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Percy France のテナーが絶品のアルバム

2014年11月08日 | Jazz LP (Blue Note)

Jimmy Smith / Home Cookin'  ( Blue Note 4050 )


中古探しは相変わらず一時棚上げ中。 ちょうどブルーノートの第4期マスターワークが発売になったので、その中から少し買いました。
相変わらず見事な音で鳴ってくれるので嬉しいです。 

本当はこのシリーズの4000番台は全タイトルを買いたいところですが、さすがにおこずかいが足りませんので、ぼちぼちと買っていこうと思います。
別にすぐになくなるというわけでもありません。 

今回のラインナップで嬉しかったのは、ジミー師匠の "Midnight Special" が入っていたところです。 1500番台は立派な演奏だと思うけど、
まだハードバップの枠が残っていて硬い感じですが、4000番台になるとそういう硬さもすっかり取れて、唯一無比な音楽を聴かせてくれます。

ブルーノートはアルバム毎に構成を変えて録音するのが常なので変化があって飽きることはないのですが、このアルバムはシンプルな構成なので
風通しのいいとてもすっきりとした音楽になっています。 パーシー・フランスのテナーが絶品で、ワンホーンなのでその音色の素晴らしさと
趣味の良いフレーズが存分に味わえます。 他にはフレディー・ローチのアルバムくらいでしか見たことがないのですが、デイヴ・ベイリーのアルバムの
フランク・ヘイズのように、こんな素晴らしいテナーがこんなところに隠れていたのか、という感じです。 そして、ケニー・バレルも絶好調で、
同時期の自己名義アルバムよりもずっと冴えた演奏をしています。 ジミー・スミスのブルース感がこの人には一番マッチしていたような気がします。

ジミー師匠が持つ高度に洗練された感覚が全面に出ていて、他のオルガン奏者たちとは一線を画する出来です。
冒頭の "See See Rider" が何とも言えない絶妙なミッドテンポで始まる、素晴らしいアルバム。 
次の第5期はこれが入ってると嬉しいな、と思います。

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チェット・ベイカーにみるウェストコーストジャズからの脱皮

2014年11月02日 | Jazz LP (Europe)

Chet Baker / Quartet  ( 仏Barclay 84017 )


ウェストコースト・ジャズが嫌い、と言いながらもどういう訳か嫌いなままじゃいけない気がして、どうしてだろうと考えてみたり、どこがダメなのかを
探るために何度も聴きかえしてみたりします。 別にそんなことする必要はないとは思うんですが、まあ、ヒマだからなのかもしれません。

ただ、どんなにパシフィック・ジャズのレコードを聴きかえしてみてもよくわからないので、そういう時は目線を変えてみようということになります。
そうすると、例えば昨日のマルコ・ギドロッティのCDを聴くと、マリガンたちのやった曲はバップとしても演奏できるのに、彼らは意図的にそうは
しなかったんだな、ということがわかります。 

マリガンがチェットとコンボを組んでいたのは1952年から53年にかけてのたった1年間だけだったにも関わらず、その音楽がその後の西海岸のジャズの
方向付けを決めてしまったというのは驚異的なことです。 52年の時点でピアノレスにしたことは先見性の高い画期的なことでしたが、そこでできる
サウンドの空白をトランペットが大きな音で埋めようとはしなかったことがこのバンドの卓越したところだったと思います。 
それを担ったのが、チェット・ベイカーだったわけです。

53年にマリガンが麻薬の不法所持で投獄されたのでバンドは解散、チェットはソロ活動を開始します。 そして、55~56年に欧州へ渡って、フランスの
バークレー社にまとまった数の録音をします。 ここで聴かれる音楽はパシフィック・ジャズのレコードの延長線上にあるもので、音楽監督がいない分、
型にはめられることのない自由さはありますが、それでもやはり観葉植物のような印象です。 変なアレンジがされていないので鼻につくことは
なくなりましたが、退屈です。 フランスのリズムセクションはあくまでもチェットがそれまでやってきた音楽に合わせようとしたため、新しい音楽が
生まれることはなく、それまでの相似形で終わってしまっています。 チェット・ベイカーという名前のおかげで許されているようなところがあります。




Chet Baker & Paul Bley / Diane  ( SteepleChase SCS 1207 )


それから大きく時間を経て、チェットは変わります。 トランペットや歌の様子はあまり変わりませんが、彼が作る音楽が変わるのです。
かつての飛び出ることを恐れてわざと平均点を狙っていたような様子はどこにも見られず、この人にしかできない独特の音楽をやるようになりました。

ライヴ録音は体力の衰えが痛々しく聴いていて辛くなるものもありますが、スタジオ録音には良い内容のものが結構あります。
その中でも、このポール・ブレイとのデュオ作品は素晴らしい傑作です。 スティープルチェイスの音盤はデッドな録音が多くて興をそがれることが
多いのですが、この盤は豊かな残響感としっとりと濡れたような楽器の音が素晴らしいし、ポールの音数を極力抑えたプレイとチェットの
いつになくイマジネイティヴなフレーズの共存がとにかく素晴らしく、静かな音楽にも拘らず聴く者を圧倒します。

やはり、ウェストコースト・ジャズは東海岸へのアンチテーゼとしては強力に作用したけれど、それにこだわり過ぎて何か肝心なものを置き去りに
してしまったんだろうな、と思うのです。




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トリビュート作がオリジナルを超える瞬間

2014年11月01日 | Jazz CD
中古探しは一時凍結中なので新譜を少し買いましたが、素晴らしい盤に出会えました。





■ Marco Guidolotti / 'S Wonderful  ( Tosky Records TSK013 )

伊バリトン奏者によるマリガン・トリビュートの新譜ですが、これが凄いことになっています。

トランペットを加えたピアノレスのカルテットでマリガン~ベイカー・カルテットがパシフィック・レーベルへ録音した楽曲を中心に取り上げていますが、
嬉しいことにナイト・ライツも入っています。 

私はウェストコースト・ジャズが嫌いなので最初はこの盤は素通りしていたのですが、試聴可能になっていたので聴いてみると、これがビックリする
くらいカッコいいハード・バップへと塗り替えられていたのです。 

静まり返った深夜のスタジオで録音されたかのような独特の空気感が生々しく、その中をベースとドラムがスピード感のあるリズムを刻み、
その上でバリトンとトランペットが激しくブローしていく。 ピアノがない分、4人がつくる音楽の空間の拡がりが大きく、それが静かな暗い背景の中で
くっきりと浮かび上がります。 こんなにも演者と楽曲が「立っている」音盤には中々お目に掛かれません。

これを聴くと、ウェストコースト・ジャズって一体何だったんだろう、と考えさせられます。 あの乾いて枯れたサウンドと室内楽的なアレンジで
作られた世界に優秀な演奏家たちが閉じ込められていたのを、このアルバムがぶち壊して解放してくれたかのようです。

これは素晴らしい。



■ Kenny Barron~Dave Holland / The Art Of Conversation  ( Blue Note / Impulse B002169802 )

このいただけないジャケットからは想像できない素晴らしい音楽です。 ピアノにはあまり興味のない私も、これには素直に感動します。

デイヴ・ホランドはベースというよりはホーン楽器のように演奏するので、ピアノとホーンによるデュオ作品のようです。
2人のオリジナル作品を軸にした選曲という地味さがとても好ましく、2人の素晴らしい演奏に酔いしれることができます。
スタンダードなんかだと楽曲に対する自分の好きなイメージが却って鑑賞を邪魔することが多いのですが、こういう選曲だと素直にその音楽に
接することができます。

この2人は音楽を本当に音楽らしく表現できる稀有な人たちなのでいいのは当たり前といえば当たり前かもしれませんが、星の数ほどある
レコードやCDの中で心からそう感じさせてくれる人が一体どれだけいるでしょうか。 

これも素晴らしい。



コメント (12)
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