廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ワン・コインの名盤(2)

2020年10月31日 | Jazz LP (Roost)

Bud Powell / Bud Powell Trio featuring Max Roach  ( 米 Roost RLP 2224 )


ルースト録音を12インチに纏めたアルバムとしてよく知られているアルバム。オリジナルはSPなので、そこから数えると第3版なのか、
第4版なのか、まあよくわからない。演奏についての感想は以前書いているので、ここでは触れない。レコード漁りをしていて問題に
なるのは、これを見かけた時に買うかどうかで迷うということではないか。今回のテーマはこれである。

結論から言うと、安ければこれは「買い」である。最初に気になるのは音質だろう。音の鮮度は10インチのほうが若干いいが、
盤の材質が悪くて傷がなくてもノイズが出る。一方で12インチの材質は傷がなければノイズは出ないから、聴感はこちらのほうがいい。
このアルバムはどちらのサイズもColumbiaカーヴ、もしくはNABカーヴで聴くといい。この2つのカーヴは名前こそ違うけれど、
実際はほぼ同じカーヴなので、違いを気にする必要はない。

古いレコードを心地よく聴くには複雑に絡み合ういろいろな要素を1つずつ紐解いていく必要があるので、まあ面倒ではある。
ただ、昔からやっている作業なので、慣れてしまえば無意識的に対応できて、私自身はこういうのは苦にならない。
カレーを作るにあたり、玉ねぎやジャガイモの皮を剥いて、角切りにして、茹でて、という作業をやるのと何も変わらない。

あと、溝があるかないかとか、フラットかグルーヴガードか、というような話もあるけど、既に初版から遠く離れたところにある以上、
この版でそういうところにこだわる必要はないのではないか。コンディションがまずまずで安ければ迷う必要はない。

と、こういう一連のことを、500円で転がっているのを見つけた時に頭の中で5秒くらいの間で考えて拾うのが安レコ漁りの醍醐味。
この快楽のせいで、もう安レコしか買う気になれない体質になってしまった。私がレジに持ってきたレコードを見て、顔なじみの
ユニオンの店員さんがガッカリした顔つきになるので申し訳ないと思うけれど、これが面白いんだから、まあしかたがない。


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"Autumn Leaves" の名演

2019年11月30日 | Jazz LP (Roost)

Stan Getz / Chamber Music  ( 米 Roost RLP 417 )


20代の終わり頃(つまり大昔)、スタン・ゲッツのレコードを探しては熱心に聴いていた時期があった。その頃、ルーストの中ではこの10インチが最も
稀少だった。私の印象では、リー・コニッツのストーリーヴィルの10インチよりもこれを見る頻度は少なかったように思う。ネットがない時代で頼れる
メディアは雑誌や本だけだったが、このレコードはそこでも取り上げられることはなく、私のように意図的に探していた人間だけがこのレコードの存在を
知っていたような感じだった。だから、このレコードには少しばかり思い入れがある。

尤も、今はすっかり様相は変わっていて、ありふれたレコードとして立派なミドルクラスに落ち着いている。値段が安くなったのはいいことだと思う。
スタン・ゲッツのルースト・セッションは50年代初頭のSP末期で録音は貧弱だが、このアルバムはその中でも比較的マシな録音の楽曲が集中していて、
聴く分には悪くない内容だ。ルーストの10インチでは牛乳瓶が有名だけど、あれはどれも録音が悪くて全然楽しめない。

そして、極めつけの "Autumn Leaves" の名演が収録されている。なぜかこの曲だけがMUZA盤のような残響がしっかりと効いた録音になっていて、
暗闇の中からゲッツの姿が浮かび上がってくるような絶品の演奏が聴ける。メロディーの歌わせ方もフレージングもゲッツお馴染みのやり方で、
彼のスタイルの典型が凝縮された演奏だ。この曲のためだけにでも買う価値がある。

緑と赤の色使いがクリスマスの雰囲気を醸し出しており、12月が近くなると何となく聴きたくなるレコードで久し振りにターンテーブルに乗せて
ぼんやりと聴いていると、昔のことがいろいろと思い出されてくる。スタン・ゲッツの古いレコードにはそういうところがどこかある。


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スタン・ゲッツとの最初の共演

2019年03月21日 | Jazz LP (Roost)

Stan Getz / Vol.2 Swedish All Stars feat. Bengt Hallberg  ( 米 Roost RLP 404 )


ベンクト・ハルベルグはスタン・ゲッツがスウェーデンに来た時のパートナーとして幾度も録音に参加している。 最初は有名な "Dear Old Stockholm" を含む
ルースト・セッションで、これはSP録音だったが、後にLP期に入って10インチ盤としてまとめられている。 ルーストの編集のやり方は大体がアバウトで、
資料的観点で見るとなんだかなあと思うことが多いけれど、この時の録音はうまいこと1枚にまとまっている。

ハルベルグは上手い演奏をしている。 "Prelude To A Kiss" のイントロなんてエリントンの曲想を上手く表現していて、ゲッツへの橋渡しも上手く
いっている。 伴奏者としては完璧な演奏をしている。 だからこそ、その後もゲッツは彼を指名したのだろう。

ゲッツのルースト録音には2つの副次的産物があって、1つはスウェーデンに優秀なジャズメンがいることを紹介したこと、もう1つはホレス・シルヴァーが
レコーディング・デビューを果たしたことだ。 ルースト録音では他にアル・ヘイグやデューク・ジョーダンも参加していて、ゲッツ自身はどの演奏でも
安定していて出来不出来の差はないけれど、ピアニストが変わることで音楽の質感は微妙に変化する。 昔からゲッツの北欧録音は名演と言われるけど、
それはゲッツの演奏が特に良いということではなく、ハルベルグの抒情的なピアノが音楽をより優雅なものにしているということなんだろう。

録音は悪く貧しい音質だし、3分以内という時間的制約もあって、この時期の録音でゲッツの魅力が十分聴き手に伝わることはないけれど、北欧の有名な
民謡を仄暗い情感で歌った演奏はやはり素晴らしい。 ハルベルグは晩年のインタビューで「マイルスの "Dear Old Stockholm" の演奏をどう思うか」
と訊ねられて、「レコードは持っているんだけど、実は1度も聴いたことがないんだ」と答えている。 本当なんだろうか?

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もう一つの不調な演奏

2018年05月04日 | Jazz LP (Roost)

Bud Powell / Bud Powell Trio  ( 米 Roost RLP 412 )


ノーグランの打鍵が覚束ない演奏と時期的に隣接する1953年の演奏で、こちらもかなりひどい演奏をしている。 シングル・ノートでのアドリブラインは
少なく、ただコードを鳴らし続けることに終始し、そうやって時間を稼ぎながら曲の終わりが来るのをじっと待っているような雰囲気がある。

聴いていて、この時のパウエルは脳の思考回路が停止していたんだなということが生々しく肌で感じとれる。 記憶の中に眠る主旋律のコード進行に合わせて、
本能的に、無意識的に、和音を鳴らしてなんとか曲について行っているような感じだ。 端的に言って、これはひどい演奏だろうと思う。

ただ、不思議なことに、そうやってパウエルが鳴らすコードを聴いているうちに、こちらが勝手に頭の中でアドリブ・ラインを作って演奏に追従するように
なっているのに気が付く。 こちらの脳が演奏に欠けているものを無自覚のうちに補完していくような感じで、そうやって自分がこの演奏に同化していくのを
感じる。 そして、いつの間にかこの演奏の中に自分が引きずり込まれてしまっているのに気付く。

それにパウエルが鳴らす和音には、なんだか雷鳴のような衝撃がある。 比喩としてのそれではなく、物理的にこちらの頭の中に衝撃が伝わるし、肌にも
ビリビリと感じるものがある。 このレコードはルーストの10インチの割にはピアノの音がクリアに鳴るせいもあるだろうけれど、コード1つで聴き手に直に
張り手を喰らわせるようなこんな演奏は他にはないのだ。

何より信じ難いのは、こういう外形上はガタガタの演奏がレコードとして正規に商品化されているということだ。 現在、誰かがスタジオでこんな演奏をして、
それを録り直しもさせず、編集もせず、そのまま新作としてリリースすることができるレーベルが果たしてどこかにあるだろうか。 

そして、それ以前に、こういう演奏をやってのけてしまうような音楽家はどこかにいるのだろうか。 


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悩ましいゲッツのルースト盤

2017年03月05日 | Jazz LP (Roost)

Stan Getz / The Sound  ( 米 Roost RLP 2207 )


我々のようなマニアはレコードはできるだけオリジナルに近いもので聴きたいと思うものだけど、そんな中でも取り扱いに困るレコードというのがあって、
これなどはその最右翼かもしれない。 ディスコグラフィー的に言えば、このレコードは1956年にそれまでこま切れに散逸していた複数の音源のいくつかを
1つに纏めただけのただの編集盤であって、オリジナルアルバムではない。 

蒐集家がオリジナルという場合、概念的には製造時のファーストロットのものを指すけれど、正確にはそれがファーストロットだったかどうかを判別する
手段がないので、レーベルやマトリクス番号や刻印や盤の形状などの外見上の仕様であくまでも便宜的にオリジナルかどうかを判定している。 だから、
見かけ上の仕様が同じであっても、複数の製造工場にプレスを委託していると微妙に仕上がりが違ったりして、マニアを混乱させることも出てきたりする。

ただ、そういう仕様上の条件は満たしていても、それだけではオリジナルというのに違和感のあるケースが更にあって、それは40年代末から50年代初頭の
限られた時期に録音された音源たちの多くがそれに該当する。 つまり、パーカー、パウエル、モンクなどがこの時期に録音した音源がこれにあたるけれど、
ゲッツのプレスティッジやルースト録音もそこに加わる。 レコードの規格がSP→LP(10inch)→LP(12inch)と短期間に変わる過渡期だったせいだ。

ゲッツのこの12inchには、3つのセッションが収録されている。 1番目はホレス・シルヴァーの初レコーディングでもあるA面1~2曲目、2番目はThree Dueces
というマイナーレーベルのためのセッションをルーストが買い取ったA面3~6曲目(このThree Deucesというレーベルのレコードは当然未リリース)、
3番目はよく知られたスェーデンへ演奏旅行に出た際に録音されたB面全曲。 

これらの音源は、まず、ルーストのSP(北欧含む)、及びメトロノームのSP(北欧のみ)が初版で、次にルーストの10inch LP(北欧含む)、及びメトロノームの
10inchLP(北欧のみ)が第2版(英エスカイヤー盤もあるけれど、これは毛色違いなので除外)、そしてルーストのこの "The Sound" が12inch LPとして
第3版になる(但し、北欧分の数曲がカットされている)。 ただ、ルーストの10inchにも2~3種類の仕様上の形状違いがあって複数版が存在していることも
考えると、この "The Sound" についてはもはやオリジナルというにはあまりに距離が遠過ぎる。

これだけ複雑な販売形態になっている録音の場合、どこで手を打つかは個人の価値観に任せられることになるけど、オリジナルで聴きたい/持ちたいという
マニア魂を泣かせることになっているのは間違いないだろう。

私の場合は基本的に根性がないのでこの12inchでもういいし、それ以上のことは考えたくもない。 ただの編集盤に過ぎなくても、"Dear Old Stockholm"が
収録されているというこの1点だけで、オリジナルからはほど遠い版とは言え、ぎりぎり許されるところがあるよな、と思う。


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1947年のルースト録音

2016年04月10日 | Jazz LP (Roost)

Bud Powell / Indiana, Everything Happens To Me, Off Minor, I'll Remember April  ( Royal Roost 2992, 2998, 2996, 2991 )


バド・パウエルの最高傑作といわれる1947年のルースト・セッションでは、8曲が世に出ている。 実際は何曲収録されたのかはよくわからないけれど、
それらは10inchのSP4枚という形で発売された。 その後、1951年頃に10inchのLPとして切り直されて、以降LPフォーマットで何度も再発されている。

ただこの時の10inchLPは盤の材質がSP盤よりも遥かに粗悪なもので、きれいなものでも材質起因のバックノイズが酷く、鑑賞にはおおよそ向かない。 
それに現在ではきれいな盤が市場に出てくることはなく、見かけるのは傷だらけの酷い物ばかり。 だから、この録音に関してはSPのきれいなものか、
後の再発盤で聴くのが一番いい、ということになる。 

私がSP盤に手を出す時に決めていることは、値段の高いものは絶対に買わないということだ。 SP盤は事実上転売することができず(DUも原則買取不可)、
処分するのが非常に難しい。 それが如何に歴史的な価値がある内容であっても、SPを日常的に聴く人はもはやいないし、仮にいたとしてもそういう人は
既に大抵のものは架蔵済みで、今頃売りに出しても買い手が現れることはまずない。 だから、SP盤を買うということはその代金は一部ですら回収が
できないということを前提にしなければならず、高い値段で買うという行為は自殺行為に等しい。 1万円を超えるものなんて、私には論外だ。

この2枚は何年か前にたまたま無傷で1枚1,000円強で出ていたから買ったのだが、これがバックノイズは一切なく、ナローレンジなのは仕方ないとしても
音質は十分で何も問題ない。 片面1曲で、2分程度で針をいちいち上げなければいけないので面倒なことこの上ないが、パウエルのここでの演奏に漂う
濃密さは強烈で、かえって1曲ごとに区切りがあるほうがその余韻に浸れていいくらいなのだ。

一般的には "インディアナ" のハイスピード演奏に称賛が集中するけれど、私は "Off Minor" や "I'll Remember April" のようなミッドテンポの曲での
歌わせ方の中に漂う芳香に酔わされる。 それに、"インディアナ" のスピード感を褒めるなら、カーリー・ラッセルをまず褒めなきゃいけないだろう。
太く大きな音で乱れることなくインテンポで疾走するこんなベースはなかなか聴けるもんじゃない。 モダンベースの轟音を録り切った史上最初のレコードは
たぶんこれなんだろうと思う。

残りの4曲が手に入るかどうかはわからないけれど、パウエルのレコードは他にもたくさんあるから特に気にはならない。 いつも言うように、パウエルは
どの時期を聴いてもパウエルなのだから。


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もう少しスコープをはっきりさせれば・・・

2016年02月21日 | Jazz LP (Roost)

Sonny Stitt / Sonny Side Up  ( Royal Roost LP 2245 )


このアルバムではほとんどの曲でスティットはテナーを吹いている。 さすがに上手いテナーで、完全にマスターしていたんだなあと感心する。 
アルト奏者がテナーを吹く時によく見られる、「アルトよりちょっと嵩張るんで・・・」とでも言いたげな少しまったりとした取り回し感があって、
アルトの演奏よりも落ち着きがある。 フレーズはなめらかで、適切な節度が保たれていて、歌っているような暖かみもある。

という訳でスティットには何の問題もないのだが、このアルバムは聴いていてもあまり面白いとは言えない。 アルバムを通して、どの曲もみんな同じ
リズムとスピードで、あまりにも変化に乏しく、前の曲と今聴いてる曲の違いがさっぱり感じられない。 これじゃ、曲を変える意味がないよなあ、と
思ってしまう。 その原因は明白で、バックのピアノトリオがそれだけ画一的な演奏に終始しているからだ。 ジャケットにメンバーの記載がないので
調べてみると、ピアノはジミー・ジョーンズ、ベースはアーロン・ベル、ドラムはロイ・ヘインズ。 もしこの面子が本当だとすると、制作サイドとしては
スティットを歌手に見立てた布陣を考えたようだけど、インストものなんだからもう少し音楽に積極的に関与してもよかったんじゃないかと思う。 
ワンホーンカルテットは4人全員で音楽を創るもので、そこが歌手の歌伴とは根本的に違うところだ。

ソニー・スティットはアルバムを1つの独立した「作品」という捉え方をせず、スタジオへ行って上手く演奏して帰ってくる、ということで終わらせて
しまっていたのかもしれない。 自分でこういう作品にしようと考えて、それを実現できるメンバーを選び、スコアを用意し、リハーサルを重ねるなど
事前に入念な準備をして、という作り方ではなかったのだろう。 だからどのアルバムもいい演奏が収録されてはいるけれど、どこを切っても同じ表情に
なってしまう。このアルバムも、もう少しスコープを明確にしてメンバーもそれに合わせて変えていれば、もっと違う印象の作品になっていたに違いない。

かつてマイルスは自分のバンドのテナーがいろんな理由でライヴでの演奏に来れない時や次のテナーが見つかるまでの繋ぎの期間に、よくスティットに
声をかけて代役を務めてもらっていた。 スティットは難なくライヴをこなし、マイルスもそれで公演の契約に穴を空けずに済んだ。 でも、結局のところ
彼は古いタイプのハードバッパーで自分がこれからやろうとしている音楽には当然合わない、ということで都合のいい便利屋以上にはなれなかった。

私自身、なんで今頃ソニー・スティットにこだわっているのか自分でもよくわからない。 わからないけれど、それでもその理由を考えてみると、たぶん
こんなところだ。 この人は音楽家やサックスを趣味で練習している人からはとても評判がいい。 ところが私のようなただの音楽おたくにはお世辞にも
有り難がられているとは言えないような気がする。 この人のレコードにいわゆる高額レア盤が存在しないのがそれを象徴している。 人気がないのだ。
私にはそれが歯がゆいのかもしれない。 半分諦めモードであることは認めつつも、気長に聴いていくしかないと思っている。


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ソニー・スティットの名盤って?

2016年02月07日 | Jazz LP (Roost)

Sonny Stitt / Plays Arrangements From The Pen Of Quincy Jones  ( Royal Roost RLP 2204 )


かねてからソニー・スティットのレコードで何か1枚だけ手許に残しておこうと思ってぼちぼち聴いているのですが、どれも今一つピンとこない。 
この人の一番いいレコードはどれなんだろう? という問いが解決しない状態が長年ずっと続いています。

40年代のビ・バップ期から亡くなる80年代初頭まで現役を貫き通し、日本を愛してくれて、100枚以上の作品を残したと言われる偉大なミュージシャンですが、
ことレコード芸術ということになると、どうもこの人は分が悪い。 

パーカーに似ていると言われるのを嫌い、一時はテナーだけを吹いていたというけれど、レコードで聴く限りにおいてはパーカーを思い出すことはない。
音の張りは少し似ているけどフレーズにスピード感はなく、節回しはどちらかと言えばソニー・クリスなんかのほうに近い感じだと思います。
技術的にはものすごく上手くてハードバップの世界では吹けない演奏なんかなかっただろうし、テナーだけではなくバリトンも吹いていたから、演奏家
としては無敵の存在だったはずですが、アルトの音の質感が全体的に均一で陰影に乏しくて、このせいでどうしても単調な印象になってしまう。
演奏した音楽もブルースやスタンダードなどのハードバップスタイル・オンリーで難しいことも凝ったこともやらなかったから、結局どれを聴いてもみんな
同じで、たいして変わらないじゃないかという風になってしまう。 何にでも対応できるから、共演者にも無頓着でこだわりを見せなかった。

そんな状況を見かねたのか、ルーストが用意してくれた豪華な企画のこのレコードも本来ならこの人の代表作になってもおかしくなかったはずなのに、
やはり何かが欠けているという感じが拭えないのはなぜだろう。 バックのビッグバンドの演奏もあまりに器用に纏まり過ぎていて、スリルに欠ける。
万全の状態ではない中で作られたパーカーのストリングスものやビッグバンドものの足もとにも及ばない。

こうしてソニー・スティットの「最後の1枚」探しの旅はまだまだ続く。 終わりはなかなか見えない。



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