廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

今週の成果

2015年01月31日 | Jazz CD
相変わらず、地味なところをモソモソと漁っております。 





■ Joe Farrell / Sonic Text  ( Contemporary OJCCD-777-2 )

ジョー・ファレル、と言えばまずはリターン・トゥ・フォーエヴァーだけど、私はこのグループ(と言えばいいのか?)に思い入れが全くないし、
その演奏を聴いてもいいと思ったことがありません。 だから、そこでのジョー・ファレルの演奏をうまく思い出すことができないし、
その名前を聴いてサックス奏者だったかトランペット奏者だったかもうろ覚えでした。 が、この音盤を聴いてみて、この人の名前はしっかりと
頭に残ることになりそうです。

1979年というジャズが最も下火になっていた時代にフレディー・ハバードらと録音されたもので、新しい時代のメインストリームを模索するような
4ビートを真面目に展開しています。 ファレルのテナーはアトランティック時代のコルトレーンを思わせるような芯の詰まった硬質で真っすぐに
伸びるとてもいい音で、演奏も上手い。 

古いスタンダードなどは持ち出さず全てメンバーのオリジナルで固めて硬派な演奏に終始しますが、ラストの "Malibu" という大曲がマイナー調の
素晴らしい楽曲で、演奏も渾身の出来です。 それまでのすべてがこの曲と演奏の前フリだったかと思わせる素晴らしさ。

70~80年代に自身の最盛期を迎えたこういう実力派たちは本当に不幸だったなあ、と思います。 もっと前に生まれていれば傑作をたくさん残すことが
出来ただろうし、そうすれば音楽家としても正当に評価されただろうと思います。 ジャズというのは本当に金にならない商売だそうで、
多くの豊かな才能がフュージョンなどに流れましたが、ファレルの本音はもちろんこちらだったんでしょう。


■ Tim Siciliano Trio / Live From The Past  ( Endeavor Records EV-1401 )

新宿ジャズ館限定の少量入荷、とのことで、ピアノのいないギター・トリオという最も好きなフォーマットなのですぐに買いに行きました。
これが、大当たりの内容です。

4曲がライヴ、4曲がスタジオでの録音ですが、これが3人が一体となってグイグイと前へ進んでいく若々しいのに上手い演奏で、全曲オリジナルという
内容も好ましく、これはジャズ・ギターの醍醐味が最高に満喫できる傑作です。 こういう感じの音盤は実はかなり少なくて、貴重な一枚です。

ギターの音がとにかく心地よく録音されていて、ジャズのフィーリングに溢れた素晴らしい演奏がいっぱいで、特にスタジオ録音の4曲は秀逸。
この路線でもっとたくさん出して欲しいです。 こういうフォーマットはある意味で最もジャズのムードが出せるものなので、こういうふうに
上手くハマるとたまらない魅力が味わえます。




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ありふれた中の難しさ

2015年01月25日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker / Sings and Plays  ( Pacific Jazz PJ-1202 )


チェットの歌ものでは、"Sings" よりもこちらのほうが好きです。 

あちらが "陽" だとすれば、このアルバムは "陰" であり、1対を成す関係にあるのは明らか。 こちらはストリングスが入っている曲が多いのですが、
このストリングスの演奏のアレンジが不協和音を多く入れた現代音楽風なのでこれが暗い印象を与えるようです。 

でも、それが苦味のある不思議な後味を残してくれて、そこがいいと思うのです。 このレーベルの、ジャケットアートなどに見られる美的なものへの
強いこだわりが音楽の中にも深く入り込んでいる証です。 私はウエストコースト・ジャズが総じて嫌いだけど、このレーベルのモノづくりへのこだわりや
その意匠は割と好きで、何枚かある好きな演奏に関してはやはりレコードで、ということになります。

そういう訳で、これもこだわって最初期のプレスで状態のいいものを探して、ようやく買ってもいいと思えるものにぶつかりました。
珍しくもないありふれたレコードですが、額縁でフラットできれいなもの、となると途端に難易度が上がってしまい、入手までに時間がかかりました。



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とっておきの2枚

2015年01月24日 | Jazz CD
インフルエンザのせいで外出禁止ということになり、今週は中古漁りができませんでした。 
ということで、長年大事に愛聴しているとっておきの秘蔵盤の中から少し。





■ Terence Blanchard / Bounce  ( Blue Note 7243 5 83189 2 0 )

テレンス・ブランチャードは本当に素晴らしいミュージシャンだけど、今どきは誰も聴かないんでしょうか? もう何年もこの人のことに言及したものを
目にした記憶がありません。 何年かに1度の新作が出ても、特に盛り上がることもなく・・・ まあ、確かに、ここ何作かは駄作が続いているとはいえ、
この人に大きな才能があるのは間違いないところです。

本作はテナーとの2管フロントによる形式的にはよくあるハードバップ型ですが、展開される音楽は単純な懐古趣味のものではなく、
呪術的なアフロビートやスキャットが取り込まれていたり、先鋭的な曲想に彩られた深い音楽が展開されます。 録音も抜群によく、身震いするような
深い音場で音楽が再生されます。 ベースの重低音はどこまでも重く、テナーもずっしりと重く、聴いているこちらの心の深い所が大きく揺さぶられる
ような感覚に襲われます。 これは傑作。

明らかにジャズという音楽を超えた何か大きなものになっており、それが成功している稀有な例だと思います。 ただのジャズに終わらずにそれ以上の
ものに仕上げるのは至難の業で、そんなことができるのは限られた一握りの人だけです。 


■ Chet Baker / But Not For Me  ( Random Chance Records RCD10 )

ケニー・バロン、チャーリー・ヘイデンらと1982年にスタジオ録音されたもの。 

晩年に録音された傑作。 もう、この時期のチェットにしかできない、どこまでも静かで落ち着いた、音数の極端に少ない淡い水墨画のような音楽です。
退廃的と言えなくはないですが、そんなに廃れてはおらず、音楽はみずみずしい。 いつも思うのですが、晩年のチェットの音楽は本当に独特です。

若い頃から難しいことは何もやらずに、生涯わかりやすい歌ものをメインに演奏してきました。 それがいつの間にか彼の身体と心と一体となり、
その身体と心がゆっくりと死に向かうのに合わせるかのようにその音楽も静かに穏やかになっていったかのようです。

チャーリー・ヘイデンが "Ellen David" という佳曲を提供しており、これがしみじみとしたいいバラードです。 それ以外の曲も出来が良く、
最後までまったく飽きることなく、曲を飛ばすこともなく聴き通せます。

それに、この録音も音がずば抜けていいです。 非常に質感の高いオーディオ的な音に仕上がっており、これが素晴らしい。 素晴らしいことずくしです。



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時間が止まってしまうということ

2015年01月18日 | Jazz LP (Europe)

Don Byas et ses rythmes / Les Plus Celebres Melodies Americaines  ( 仏 Blue Star No 6802 )


1912年にオクラホマで生まれたドン・バイアスは、17歳の時に地元のジャズバンドで演奏を始め、ロス、ニューヨークと拠点を移した後、1946年に
演奏旅行で渡欧したのをきっかけに、そのまま帰国せずに残り、1972年に亡くなるまで欧州で暮らした人です。

名前は有名なのにアメリカの主要レーベルに彼のレコードが全く残っていないのはそのせいですが、これは大きな損失だったと思います。
50年代の欧州のジャズレコード産業は本当に零細状態だったし、この人の演奏を記録に残そうという志を持った人もいなかった。
それだけジャズという音楽は人気がなかったし、アメリカのように新興レーベルを興そうなんていうベンチャー精神の土台もなかった。
だから、50年代という時代はドン・バイアスの演奏史においては、一部の客演を除いて、完全にミッシングリンクとなっています。

だから、この人の演奏を聴くには40年代のSP録音か、60年代後半の数少ないレコードくらいしかないので、実際にはどういう音楽家だったのかは
今となってはよくわからないと言わざるを得ない。 渡欧直後の46~49年にフランスのブルー・スターやヴォーグがSP録音を熱心に行っていて、
たぶん、これが若い頃の彼の姿を唯一まともに捉えた音源だろうと思います。 この時の録音は、フランスではブルー・スターやヴォーグ、
イギリスではフェルステッド、アメリカではアトランティックから50年代初頭にLPの10inch盤として切り直されています。

ただ、この時期の内容はジャズというよりはムード音楽に近いもので、ワンホーンで古いアメリカの歌モノのバラードをアドリブを入れずにゆったりと
吹き流すだけの演奏です。 しかも元のSPも10inchサイズだったので、どの曲もおそろしく短い演奏時間です。 とてもドン・バイアスのジャズの
演奏の真髄を聴く、というにはほど遠い内容です。

でも、これは仕方のないことです。 これが、当時の社会の要請だったということだと思います。 本場からやって来たジャズの巨人ということで
大事に迎えられ、その演奏を目の当たりにした人々が彼に録音して欲しいと望んだのがこういう内容だった、ということだったんだろうと思います。
いわゆる男性的な太く低い音で悠々と吹く人ですから、そのバラード演奏にみんなが酔いしれたんでしょう。 きっと、当時はまだ小僧だった
バルネ・ウィランやベント・イェーディグも、彼の生の演奏をかぶりつきで聴いていたんじゃないかなあと思います。

デューク・エリントンによると、40年代後半から50年代のアメリカのジャズ界は弱肉強食の生きるか死ぬかの競争社会だったそうです。
そういう環境に身を置くことがなかったドン・バイアスは、ある意味では1946年で時間が止まってしまっていたのかもしれません。 
そして、それは現在の我々のような聴き手も同じなのかもしれません。

もちろん欧州でも若手が切磋琢磨していたとは思いますが、このレコードを聴いていると、年齢的に血気盛んな時期を過ぎていたこの人は
そういう喧噪からは距離を置いたところにいつもいて、こんな風に悠々とテナーを吹いていたんだろうなあ、と思ったりします。



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素晴らしい新品2作

2015年01月17日 | Jazz CD
50年近く生きてきて、初めてA型インフルエンザに罹ってしまいました。 いやはや、こんなにもきついものだとは思いもしませんでした。 
この2日ほど高熱で寝込んでいたのですが、今朝になってようやく熱が下がってきたので起き上がってノロノロと動き始めました。

その影響もあって今週は新品を1枚だけ買って終わりましたので、少し前に買ったものと一緒に。





■ Don Menza / Very Live at Groovy  ( Artie Music AMCD 1024 )

スタジオ録音だと非常に端正な演奏に終始する人ですが、ライヴになると本領発揮でビッグトーンで吹きまくります。 やっぱり、ビッグバンドで
長く活躍した人は、楽器の習熟度が全然違います。 本当に上手い。 テナーの音も魅力的で、音源が少ないのが悔やまれます。

フィンランドの現地ミュージシャンとの親密なライヴ録音ですが、このトランぺッターが素晴らしい演奏をしています。 内容としては地味かも
しれませんが、こじんまりとした小屋の中で非常に元気で熱い演奏をしていて、これこそがジャズの醍醐味なんだと思います。

フィンランド内で発売されていたこんなCDを探し出してきて、わざわざ輸入してくるんだから、DUさんの熱意には感心させられます。
その熱意のお蔭でこういう素晴らしい演奏を聴けるのですからありがたいことですが、一つだけ苦言が・・・・

このCD、最初はDUの吉祥寺ジャズ館だけでの取り扱いだというので、吉祥寺ジャズ館にメールを送って通販をお願いしましたが、2日経っても返信が
来ません。 吉祥寺まで行く交通費や時間を考えると通販のほうが安上がりだからです。 いい加減だなあと思いながらも催促の電話をしなきゃ
と思っていたら、新宿や御茶ノ水でも取扱いを始めるというので、結局は新宿で買いました。 

DUさんは各店舗が独立採算制になっているのか、どうもこのへんの横連携がよくありません。 事業推進上はそのほうがいいのはよくわかりますが、
お客の立場からするとこれではちょっと困ります。 改善してもらえるとありがたいんですけどね。



■ Gildas Scouarnec Jazz Unit 186 / Evolution...Circonvoluion  ( Avel Ouest CD AV 001 )

ちょうど1年前にこのブログでボロカスにけなした "クィンテット" のベース奏者のリーダー作で、2001年録音の自主制作盤。
前作とは違って、こちらはまるで別人の作のような傑作。 これは素晴らしいですよ。

テンテット編成なので小さなビッグバンドのようなサウンドが聴けますが、曲によってはメンバーをセレクトした小編成での演奏をしたり、
とうまく変化をつけています。 デヴィッド・マレイやアーチー・シェップ、モンクの曲を選んでるセンスも見事だし、全体のアレンジも素晴らしい。

演奏もうまくて丁寧で、全員でゆったりとアンサンブルを取るところなんかは昔のウディー・ハーマンやトミー・ドーシーのようです。
アルトのジャン=ミシェル・クシェがリードを取ることが多いですが、これが素晴らしい演奏を聴かせてくれます。 全体的に適度なスイング感もあり、
これは非常に高級なジャズになっています。 けなすところがどこにもありません。

前作は「オークションで2万円越えの~」という派手な宣伝文句で売りに出されていました。 こちらはそういうセールス文句が無かったようで
地味に売られていますが、このアルバムこそ、その内容の素晴らしさを大々的に宣伝するべきなのにと思います。 値段がどうこう、という話に
喰いつくのは一部のマニアだけであって、普通の人はやはりいい内容のものを普通に求めているに決まってます。 これは内容がいいんだから、
それをきちんと伝えるセールスをすればいいのに、と思います。

今なら普通に新品で買えるので、無くなる前に、ぜひ、どうぞ。



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想定外の仕上がり

2015年01月11日 | Jazz LP (Europe)

Dino Piana / Cosi' con Dino Piana  ( Ricordi MRL 6020 )


この人は息の長い演奏活動をしているにも関わらず録音が少なく、名前は知られていても演奏の実態はあまり知られていないのが実情なんだろう、
と思います。 その少ない録音も大半は和声の補強要員としての参加で、LP期でしっかり演奏が聴けるのはおそらくこのアルバムくらいなんでしょう。

このアルバムの特徴はピアナの実像がよくわかるということ以外にもう1つあって、それは内容に "欧州臭さ" がまったくないということです。
演奏のアレンジ全体をピアノのレナート・セラーニがやっているのですが、これが功を奏したんだろうと思います。
ベースがジョルジョ・アッゾリーニ、ドラムがフランコ・トナーニという顔ぶれなのに、まるでアメリカの地味なマイナーレーベル
~カールトンとかクラウンとかドットとか~ に収録されたかのような牧歌的で陽気な音楽になっているのが不思議なところです。

ヴァルヴ・トロンボーンのワンホーンという珍しい編成で、こういうのは一般的にはあまりジャズのスモールコンボとしては向いていませんが、
ピアナはマイクロフォンに楽器を近づけてアタックの強い音で吹いている感じなので、こもって聴こえがちなこの楽器の音がクッキリと録れています。
4人の演奏はとても闊達で、上手いです。 だから、どの楽曲にもとてもメリハリが効いています。

アメリカのスタンダードを1曲も取り上げず、イタリアで作られた楽曲だけを演奏するという自国のアイデンティティへの強いこだわりを見せていたり、
現代ジャズではよく演奏されるB.マルティーノの "Estate" を早くも収録していたり、と独自の感性で作られたアルバムですが、その内容は意外にも
アメリカのマイナー・ジャズっぽく仕上がっており、そこに"田舎の陽気なカンツォーネッタ"というフレーバーが加わった、面白いレコードだと思います。
バッソ&バルダンブリーニやイデア6のイメージで聴き始めると、ズッコケます、きっと。



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年末の残滓など

2015年01月10日 | Jazz CD
今週は中古CD漁りに行くことはなかったので、年末につまんだ残滓などを少し。





■ Don Menza with Joe Haider Trio / Bilein  ( JHM Records 3608 )

1998年にスイスのレーベルに吹き込まれたワンホーン作品。 
現在は廃盤になっていてなかなか出くわさない盤なので、見かけた時は逃さずゲットする必要があります。

メンバーたちによるオリジナル作品のみで構成された意欲作で、やもすればコンテンポラリー・ジャズになり兼ねないところですが、そうはならずに
ちゃんとモダンの主流をやってくれています。

昔のジャズを語る場合、ホーキンスでもレスターでもロリンズでも、サックスはちゃんとバイ・ネームで語られて、それがテナーという楽器の音を
そのまま語ることになっていましたが、現代の演奏家の場合はそういう語られ方をしていません。 それは独自の音を持つ人が少ないからかもしれないし、
シーンを牽引するするような力を持った人が少ないからかもしれないし、ジャズが多様化してそんなに単純に語ることができなくなってしまったからかも
しれません。 ただ、このドン・メンザという人の音には強烈な力があって、かつてのようにその名前だけですべてを代弁できるテナー奏者ではないかと思います。

ポール・チェンバースのような少し後乗りなタイム感で悠々と轟音を鳴らす様には圧倒されます。 こんな現代テナー、他には思い浮かびません。


■ Peter Brotzmann / Fuck De Boere  ( Unheard Music Siries ALP211CD )

1968年、1970年のフランクフルトで行われたジャズ・フェスティバルでのライブ録音。 

1曲目は "マシン・ガン" で、これをライヴでやるとどうなるのか興味津々でしたが、演奏の目が粗く、流れも不安定で、パワー不足(これは録音上の
問題かもしれませんが)で、スタジオ録音の方がインパクトが強いです。 というか、あれ以上の何か別の物を提示できていないので、期待した割には
目新しい印象はないな、という感じでした。 尤も演奏自体は別に悪くなく、十分楽しめます。

欧州フリーはそれまでのアメリカの物真似・借り物でしかなかった音楽を経てようやく掴んだ初めての"自分たちの音楽"だったので、
演奏には確信に満ちたところがあり、フリーであるにも関わらず、安心して聴いていられるとこがあるなあ、と思います。
果たして、フリージャズとしてそれがいいことなのかどうか、という問題は残りますが・・・



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新春の芽吹き

2015年01月04日 | Jazz LP (Prestige)

Art Farmer ~ Gigi Gryce / When Farmer Met Gryce  ( Prestige 7085 )


年が明けたこの時期を「新春」と表現した人はつくづく偉いと思います。 その語感の的確さにいつも感心します。
季節的には冬真っ盛りの寒空ですが、人々が気付かないところで ~積もった落ち葉の下で、冷たく凍った幹の皮の裏で~ 新しい命の芽が生まる準備が
始まっているを感じさせてくれる言葉です。

音楽の現場でも新しい才能が常に世に出る準備が至る所で行われているわけで、そういう新しい芽吹きの時期を上手く録ったのがこの盤だと思います。
ブルーノートやプレスティッジというレーベルがコロンビアなどの大手レーベルと決定的に違ったのがここで、常に若い演奏家が世に出る後押しをする
という徹底した現場主義だった。

このアルバムを制作したボブ・ワインストックの目的は、ジジ・グライスの作曲能力を世にお披露目することでした。 この盤のオリジナルは2枚の
10インチ盤で、そのどちらも Art Farmer Quintet という名義だったにも関わらず、12インチとして切り直した際にはその名前は使わなかった。
その意味をよく汲んであげる必要があります。

でも、私にはそういう制作上のコンセプトに、その見事な演奏にも関わらず、手放しで賛同することができません。 
それは、ここに収録されたジジ・グライスが作った楽曲に中に、非常に危うい、神経症的な匂いを感じるからです。 
それはこの盤だけではなく、New Jazz盤なんかも同様です。

ジジ・グライスという人は60年代の初頭に、ジャズ界から追放されます。 そして、その後二度とミュージシャンとして復帰することはなく、
最後はブロンクスの小学校の教員としてその生涯を終えます。 アート・ファーマーとのコンビも、ドナルド・バードとのユニットも短命でした。
その理由は、一言で言うと「ウザい人」だったからです。

40年代後半のビ・バップ盛隆期に既に"ポスト・ビ・バップ"を見据えてパリに留学してブーランジェやオネゲルに師事し、演奏旅行で渡仏してきた
ブラウニーとセッションで火花を散らし、パーカーの影響からいち早く抜け出すなど、早くから尖った才能が光る人で、そうやって苦労して収めた
楽理を活かして作曲した曲の著作権を守るために会社を興したりするのですが、そういうのは当時のジャズ界では異端なことでした。
また元々の性格が内向的で懐疑的で被害妄想的だったところにこの権利の帰属への過剰なこだわりが仇となり、業界の中では異端児扱い
されて孤立するようになります。 これが神経症のスイッチを押すこととなり、妻は子供を抱えて出て行き、友人も去って行きました。

"Rat Race Blues" の、あの何とも言えない独特の暗さをわざわざ持ち出すまでもなく、そういうこの人の理詰めで過剰な自意識と内面の不安定さが
作曲された楽曲の中に色濃く漂っていることに鋭敏な感性なら気付くはずだし、仮にそこまで明示的に自覚できなくても、なんか理知的過ぎるとか、
纏まり過ぎているとか、そういう遠回しにやってくる印象に気付く人はきっといるでしょう。

ただ、このアルバムは54~55年の録音というまだ初期のものなのでそういう陰の要素はまださほど顕著ではなくうっすらと感じる程度だし、
何より2人の演奏の若々しさと技術の高さがすべてに優っています。 だからとてもいい演奏として一般的に需要が高いのはよくわかる内容です。




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2015年の抱負、年末に買ったCDなど

2015年01月03日 | Jazz CD
2015年、今年ものんびりと猟盤を愉しみながら過ごそうと思います。 そういう生活ができることを感謝しながら。

昨年は中古CD探しをするのが面白くて少し熱が入り過ぎたところがあったので、今年はもう少しクールダウンして買っていこうと思っています。
1年間やってみて色々わかったこともあり、あまり手当たり次第に買っていく必要はもうないな、という感触が残りました。

ということで、年末に少し買ったものがあるので、その中から。





■ Andre Villeger / Connection  ( Jazz aux Remparts 59.641 2 )

12月のDUさん恒例の廃盤レコード・CDセールにはいつものように1度も行くことはなかったので、盛り上がっていたのかどうかもよくわかりませんが、
合間の平日に新宿の3F・CDフロアに行くと、これがフェイスで置いてありました。 廃盤セール品として各種リストに載ったものの中でこれが唯一の
お買い物で、8,000円+税でした。

まあ、CDごときに8,000円だなんて、私にとっては100,000円の廃盤レコードを買うのに等しい感覚で、罪悪感がそれはもうハンパなかったです。
当然ながら家族の顔が浮かんだりするのですが、この1年頑張って仕事をしてきたし、キャバクラや競輪・競馬に通うこともなくまじめな生活を
送って来たんだからせめてこれくらいは許しておくれ、と心の中で謝ったりしながら・・・・

尤も、これは梅雨の頃の廃盤CDセールで10,000円で売りに出されたのにずっと売れ残っていて値下げされたものです。 当時は、どうせそのうちに
再発されるんじゃないかなと思っていましたが、なかなかその気配も無さそうなのでこのへんで手を打つか、という感じでした。

トランペットを加えた2管クインテットで1990年の録音ですが、ジャズ・ジャイアントたちのかなり渋めのオリジナル曲を取り上げた傑作で、
円熟と高度な演奏で固められた大人のジャズです。 とにかく私はこの人のテナーの音色の絶対的ファンなので、それが聴けるだけで満足で、
あとはもう何もいらないのです。

1曲目がハンコックの "The Maze" で、ミディアム・アップテンポのテーマが始まるとゾクゾクしてきます。 リチャード・ワイアンズのピアノも
アルヴィン・クイーンのドラムも絶好調です。 バラードも静かで深みがあり、絶品です。


■ Mads Vinding Trio fea. Enrico Pieranunzi / The Kingdom~Where nobody dies  ( Stunt Records STUCD 19703 )

頂いたコメントの中で教えていただいたピエラヌンツィが参加している音盤で、1997年のコペンハーゲンでのスタジオ録音。
調べてみると、あちこちで絶賛の声が書き込まれています。 知らなかった・・・・

一応、ベース奏者のリーダー作ということでこの人のソロパートに重点が置かれていますが、やはりピエラヌンツィのピアノのタッチに
耳が奪われてしまいます。 彼のオリジナル作品がこのアルバムの主題として扱われており、余白に挟まれたスタンダードは大胆に原型を崩した
フリータッチな解釈に終始しています。 

私がこれまで聴いた印象では、1996年の "The Night Gone By" から2001年の "Play Morricone" あたりまでがこの人のピークだったように思えます。

それ以降は円熟さが進んで、この人の美質であった独特の歯切れのいいタッチや高貴で濃厚な芳香がすっかりどこかへ消えてしまったかのように思えて、
ここ数年は新譜が出ても買うことはなくなってしまいました。 スカルラッティ好きの私としては、2008年収録のスカルラッティ集には大きく期待したのですが、
これがどうも無味乾燥な演奏に思えて、駄目でした。 もっとロマンチックに弾くべきだった。

また、それ以前のもので、例えば "Deep Down"、"Seaward" や "First Song" などの秀作もなぜかCDの音質がやたらと悪くて、それが音楽的な満足を
大きく邪魔しており、そういう音楽とは関係のないつまらない理由から聴く気になれません。 

ということで、このCDはちょうどピーク時にあたる(と私には思える)時期の演奏で、非常に素晴らしいピアノのタッチで全編弾き切ってみせます。
演奏のみずみずしい感性も豊かで、多くの方がおしゃる通りの傑作だと思います。 録音もいい。



ところで、上記のヴィレジュのCDを睨みながらウーンと1人でバカみたいに唸っている時に、ご年配の紳士がカウンターで何かを試聴されて
いました。 ワンホーンのサックスがなかなかペーソス漂ういい演奏で、誰の演奏だろうと思いカウンターを遠目で覗いてみると、見たことのない
ジャケットで、なんと、26,000円の値札がついていました。 こんな品の良い老紳士がこんなマニアックなワンホーン・ジャズを静かにお聴きに
なられているとは、と思わず敬愛の眼差しを送ってしまいました。 私もこういう年の取り方をしたいと思いました。

8,000円もした廃盤CDのお蔭ですっかりお腹が一杯になり、幸いなことにレコードのリストを見ても物欲メーターはピクリとも動きませんでした。
これでしばらくは家族サービスに専念できそうです。



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