Mel Torme / Sings His California Suite with Chorus And Orchestra ( 米 Capitol Records P-200 )
メル・トーメは1949年にコーラスを含むオーケストレーションをバックにした「カリフォルニア組曲」という大作を自身で作詞・作曲した。ニール・ヘフティやビリー・メイら
が編曲に加わり、フェリックス・スラットキンらハリウッドの一流奏者らがオーケストラを編成し、メル・トーンズやスター・ライターズらのコーラスも加わり、満を持して
1950年にキャピトルからレコードをリリースした。
長く続いた世界大戦で国力が低下したアメリカでは人々が復興に向けて動き出していて、そんな中での明るい希望の地としてのカリフォルニア賛歌となっており、
当時の世相が色濃く反映された内容となっている。娯楽としてのジャズもそういう世の中の動向とは無縁で、というわけにもいかなかったのだろう。
都会の喧騒だったり、西部劇風だったり、夜の静寂の雰囲気だったりとアメリカの様々な風景が走馬灯のように浮かんでは消える一大絵巻物という作りになっており、
ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」の系譜につながるタイプの音楽になっている。メル・トーメという人はこういう才能もあったのだろう。
音楽やレコード作りにふんだんに予算をかけることができた時代のゴージャスな音楽が詰まった素晴らしいレコード。今から30年前、神保町のTONYの2Fで盤面はザーザー
雨降りのコンデイションがガタガタの古びたものが13,000円で置いてあった。西さんが付けた値段なんだから相当な貴重盤なんだなということが頭に刷り込まれたが、
それ以来縁がなく月日は流れ、30年が経過したこの年明けになって無傷のレコードに出会うことができた。1,500円。当時はレコード屋の主人の見識で値付けされていたが、
今は買い手側の人気・不人気で値段が決められる。世の中は変わった。
Mel Torme / Mel Torme's California Suite ( 米 Bethlehem Records BCP-6016 )
ベツレヘム時代にマーティー・ペイチのアレンジと指揮で再録している。古びたキャピトル時代のサウンドを刷新した状態で人々に改めて聴いてもらいたかったのだろう。
旧録にはなかった管楽器を大きく取り入れていて、サックスの泣きの演奏が心地よい。セールス面ではまったく期待できない内容であっても、こういうレコードをきちんと
作る時代だった。それだけ、メル・トーメは信頼されていたのだろう。