廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

コロナ禍があけて最初のコンサート

2023年06月11日 | ライヴ鑑賞



コロナ禍があけてようやくコンサートが観れるようになったのはうれしい。海外からもアーティストが多く来日するようになった。
そんな中、英国からお気に入りのエリアス弦楽四重奏団が初来日して、ベートーヴェン・サイクル(最近はドイツ語表記はしないらしい)を
やるというので観に行った。本当は全日程観に行きたいけれど、平日メインの日程なのでそこは泣く泣く諦めて、全16曲の中でも最も好きな
第12番と第14番をやる6/7(水)と6/10(土)の2日のみ観に行った。

会場はサントリーホールのブルー・ローズで、ここは音響が今一つよくない室内楽向けホールなのであまり好きではなく、そこがちょっと
惜しかったが、そんなことは言ってられない。弦楽四重奏団を聴くのは何といってもカザルス・ホールが最高だったけど、経営難から取り壊しに
なってしまったのは本当に残念だ。

現行メンバーは結成時から第1ヴァイオリンとヴィオラ奏者が変わっていて、最初の頃のドラマチックな演奏からオーセンティックな演奏へと
変わっているが、それでも英国のカルテットの良き伝統の血を引いた筋のいい演奏を聴かせてくれる。

水曜日が第5番、9番、14番、土曜日が第12番と7番、というプログラムで、彼女らはリンゼイ弦楽四重奏団からの影響でチクルスの際は初期・中期・
後期から1曲ずつセレクトするというスタイルをとる。どの曲も見事な演奏だったが、特に14番は白眉だったと思う。1番好きな第12番は往年の
名カルテットらの演奏とは違い柔らかく演奏していて、上手く演奏をするのが1番難しいと言われるこの曲をしっかりと克服して自分たちのものに
しているところが素晴らしかった。

これからも来日して、違う作曲家の演奏を聴かせて欲しいと思う。次はぜひバルトークの全6曲をやって欲しい。もしそうなれば、万難を排して
観に行くんだけど。






2004~2005年にロンドンのウィグモアホールで行われたベートーヴェン・チクルスの様子を収めたCD。こういうマイナーな分野はすぐに廃盤に
なるから、全部揃えるのはかなり骨が折れた。



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ベニー・ゴルソン in ブルーノート東京 2019.6.29

2019年06月30日 | ライヴ鑑賞
ベニー・ゴルソンのブルーノート東京公演を観てきた。 6月29日(土)の1stセットで、17:00開演で1時間20分ほどの公演だった。 本当は金曜の夜の
公演に行くつもりだったが、老眼のせいでスマホ操作を誤ってしまったのだ。 金曜の夜には渡辺貞夫が観に来ていたようなので、惜しいことをした。

  

セットリストはこんな感じ。 それまでの公演よりも1曲少ないのは最終日でお疲れだったせいかもしれない。

1. Horizon Ahead                      ■メンバー
2. Whisper Not                          ベニー・ゴルソン(ts)
3. Tiny Capers                          マイク・ルドーン(p)
4. I Remember Clifford                        バスター・ウイリアムス(b)
5. Alone Together (ピアノ・トリオによる演奏)           カール・アレン(ds)
6. Now's The Time (クロージング・テーマ)

今回はいい席が取れて、ステージど真ん中の正面に正対するシートだった。



17:00ピッタリに照明が落ちて、メンバーたちが客席の間を縫って登場。 こんな時間通りに始まるなんて、外タレの大物では珍しい。
黄金に輝くテナーを持ったゴルソンがスタッフに囲まれてゆっくりゆっくり歩いていく。 大丈夫かと見ているこちらがハラハラしたが、
ステージに上がったその姿は90歳とは思えない、もっと若い感じに見える。 

この4人でHigh Noteレーベルに録音された近作のタイトル曲で始まり、「ディジー・ガレスピーのバンドで演奏していた頃、ボストンのクラブで
誰も人がいない時間にシートに座って30分ほどで書いた曲で、ディジーがすごく気に入ってくれてレコーディングもした」という紹介を経て
"Whisper Not" が静かに演奏された。 しみじみとした雰囲気に酔わされて、これは本当にいい曲だなと思った。

続いてクリフォード・ブラウンの想い出話に移り、「とにかく色んな才能が豊かで、奨学金で学校に通っていて、てっきり音楽の奨学金だろうと
思っていたら、何と数学の奨学金だったんだ、数学だよ?信じられない!」と言ってみんなを笑わして、そのブラウニーが作った曲です、という
紹介から "Tiny Capers" が演奏された。

そして、ブラウニーが死んだ夜の話へ。 ある日の深夜、演奏が終わった3:00am頃、ブラウニーは新婚だった友人リッチー・パウエルとその奥さんが
どうしても家に帰りたいというので、みんな疲れていたけれど車で帰ることにした、運転は若い新婦がしたが、その夜はフロントガラスから前方が
見えないくらい酷い土砂降りで、交差点を右折しなければいけなかったのに前がよく見えなくて道を直進してしまった、そしたら真横から車が・・・、
という話だった。 そして、"I Remember Clifford" が始まる。 ゴルソンの長めの無伴奏ソロから静かに3人が演奏に加わり、マイク・ロドーンの
抒情的なソロ・ピアノを挟んで、最後のゴルソンの無伴奏カデンツァで曲が終わる。 場内は途中のソロ終わりで拍手するのをためらってしまうほど
切なく物悲しい雰囲気に包まれた。

次の "Alone Together" はピアノトリオによるアップテンポのハードな演奏。 「クラシックの演奏家は何百回演奏しても毎回同じ音で演奏する、
でも我々ジャズミュージシャンは毎回違う演奏をするんだ」とまるで若い演奏家に向かって何かを諭すように話をする。

そして、クロージング・テーマである "Now's The Time" を演奏しながら、メンバー紹介をしてライヴは終了した。 「みなさんは本当に素晴らしい
観客です、このままマンハッタンへ連れて帰りたい」という挨拶の後、ゆっくりとステージを降りて、数人のスタッフが彼を気遣いながら周りを
囲み、4人は観客たちと握手をしながら楽屋へと戻って行った。


ゴルソンのテナーは見事なまでに枯れていて、早いパッセージなどは吹くこともないけれど、それはどこから聴いてもあのゴルソンの音色だった。
無伴奏のカデンツァではサブトーンと言えば聞こえはいいけど、音はかすれて吹くのもしんどそうだった。 それでも、それは紛れもなくベニー・
ゴルソンのテナー・サックスの音だった。

ピアノのルドーンもリズムによく乗る演奏で、バラードでは情感豊かな表情も素晴らしい。 カール・アレンは体重200キロ近くはあるんじゃないの?
というような巨漢で、そのリズムの安定感はハンパない。 そして、何と言ってもバスター・ウィリアムズのベースの素晴らしさ。 鉄壁のタイム感、
創造性豊かで歌心満点のソロは完璧で、久し振りにベースの演奏で感激させられた。

ゴルソンは自身の演奏以外ではずっと椅子に座っていたし、動作もゆっくりと緩慢で、そろそろ見納めなのかなと思った。 声や話し方は普通に元気で
闊達だったし、表情も生き生きとして明るかったけど、この先身体がどこまでついていくかはわからない感じがした。

でも、何とも言いようがないくらい、素晴らしいステージだった。 また来年も来てくれるなら、必ず行こうと思っている。


公演が終わって外に出るとまだ明るかったので、表参道から帰る途中下北沢で下車して、レコードをごそごそと漁って帰って来た。
何と楽しい土曜日だったことか。 毎週こうだといいのになと思うけど、なかなかそうもいかない。





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黄昏の怪獣

2018年04月14日 | ライヴ鑑賞
13日の金曜日、新宿に怪獣現る。





ピットインに来るのはずいぶん久し振りだけど、タイミングがうまく合ったので、足を運ぶことにした。 ヘザー・リーのペダル・スティール・ギターとの
デュオということで、どういう感じになるのか楽しみにしていた。 この2人によるアルバムは何枚か出ているけど、まだ聴いていないのでちょうどいい。

観客は30人ほどで、多いとは言えない。 こんなんでギャラが出せるのか、とこちらが不安になる。 よく日本に来てくれる人だから、案外また今度で
いいや、という人が多いのではないだろうか。 でも、もう彼は77歳で、そんなに悠長なことは言ってられないと思う。 私のようなオッサンは少なく、
若い人が結構来ていたのは意外だった。 来日初日だったからか、観客が少ないからか、本人の意向で今日は1セットのみ、と予めアナウンスがあった。

ブロッツマンからヘザー・リーは初めての日本だと紹介があったけど、若い頃のダリル・ハンナのようなすごく綺麗で可愛い人だった。 身長は180センチ以上
あって、顔も小さくてスタイルも抜群、ミュージシャンというよりはモデルのような感じだ。 ペダル・スティールでアヴァンギャルドとはとても想像つかない。

1曲目はマイナーキーの哀感のあるテーマから大きく起伏するドラマチックな曲、2曲目はヘザーの破壊的なアルペジオが前面に出た幻想的な曲、ラストは
ゆったりとした短めの曲で、ブロッツマンがまるでコールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターのようなサブ・トーンを使ったフリー系のバラード。

この2人は相性がとてもよかった。 ベザーのペダル・スティールはファズやディレイを使って小さいローランドのアンプから爆音を鳴らす。 物静かな所作で
荒れ狂ったような混濁したハーモニーで小屋の中を埋め尽くすようなパートもあり、そのかわいい外見とのギャップの大きさに恐くなる時もあった。

ブロッツマンは若い頃のような長尺なフレーズはなく、短めのフレーズを延々と繋いでいくような感じだったが、生で聴くとサックスとしての演奏力の
確かさがよくわかって、時々ロリンズの姿がダブって見えるような気がした。 音楽的にもいわゆるフリー・ジャズという匂いはもはや無くて、完全に
ブロッツマンの音楽として確立している。 不満な箇所は一瞬たりともなかった。 単純に、まる1時間聴き惚れていた。

自分のパートを吹き終わって、ヘザーにバトンタッチした後に水を飲んだり楽器を調整したりしながらステージをゆっくりと歩くその姿は「黄昏の怪獣」
という趣だった。 身長は大きくないが、大きな横幅と分厚い胸板と大きく盛り上がった広い背中はまるで巨大な岩のようで、セイウチのような口ひげと
賢者の眼光を宿した眼が印象的だった。 

ヘザーはとてもシャイな感じで、曲が終わるとチラッと観客の方へ眼を上げて、ニコッと笑う。 そういうところが可愛かったな。

また、観に行きたい。




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マリア・シュナイダー at Blue Note 東京

2017年06月10日 | ライヴ鑑賞



金曜日の夜、ブルーノート東京へマリア・シュナイダー・オーケストラを聴きに行った。 事前予約していたのではなく、前日の夜に来日中であることを偶然知って、
当日の昼頃に電話でまだ空席があることを確認して飛び込んだ。 当然自由席しか空きがなかったのだが、ステージ横の一番前が空いていて、そこに座ると
メンバーに向かって指揮するマリアの顔が終始よく見えた。 礼儀正しいフロア係りの人が「ここはマリアの顔がよく見えるんですよ」とこっそり教えてくれたのだ。





開演時間になるとバンドメンバーが順番にステージに上がり、やがて黒のタイト・ワンピースに身を包んだマリアが大柄な黒人のフロア担当にエスコートされて
観客席の間を縫うように歩いてきてステージに上がる。 変わらずとても美しい。

妖艶なモードの曲でスタートする。 中ほどでテナーがソロをとるが、まるでウェイン・ショーターのような吹きっぷりだった。 2曲目はアコーディオン、
フリューゲルホーン、3曲目はギター、トロンボーン、アルト、5曲目はバリトンとテナーの怪物、ダニー・マッキャスリンの後期コルトレーンが憑依したかのような
爆発的ソロ(これが壮絶だった)、ラストはバリトンがリードを取る幻想的なバラード、という内容で、それはもう素晴らしい演奏だった。

こうして目の前で演奏をじっくり聴くと、この人の創る曲にはすべてにおいて他の誰のものでもない、独特の芳香があるのがよくわかる。 そして、それは
CDで聴く時よりもはるかに強く香っている。 ヒンデミットやラヴェル、様々な現代音楽から強く影響を受けていると本人が言うように、その語法は明らかに
ジャズのものではないけど、そういう要素とは別に楽曲から立ち昇る強い香りにやられてしまう。 

ビッグ・バンドという既成概念からは早くに決別し、過去の誰とも似ていないオリジナルな音楽を1つずつ積み上げてきた彼女の仕事は、いくらグラミーを
何度も取っているとはいえ、もっともっと広く一般的に評価されていいと思う。 ここまで、ビッグ・バンド・ジャズという言葉が似合わない音楽は他には
ないだろう。

ニコニコと愛らしい笑顔で終始楽しそうに指揮をしているけれど、真横から見ているととても忙しく団員に両手で演奏に関する指示を出しているのがよくわかる。
特に、ドラマーへ「もっと激しく」「もっと大らかに」というような演奏を大きく盛り上げろという類いの指示をかなり執拗に出していた。 そして、ドラマーが
それに反応してより大きな音で叩き始めると、満足そうに可愛らしく頷く。 まるで、演奏中に手話で団員たちと話をしているように見えた。
そういう彼女の姿に、最初から最後まで見とれてしまった。

このオーケストラは、生で観て、生で聴くべきである。 今週の5日間、毎日2セットで、セットリストも毎回変えての一大公演だ。 迂闊にも来日することを
事前に把握できていなかったのが悔やまれる。 許されるなら全セットを観たい、本当に素晴らしいライヴだった。




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