廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

音のいいパーカーのブートを探す(2)

2021年07月16日 | Jazz LP (ブートレグ)

Charlie Parker / Cheers  ( スコットランド S.C.A.M. Records JPG 2 )


このS.C.A.M(Specially Collected American Music)というレーベルはエディンバラに居を構えていたらしいが、パーカーのブートを4枚
出しただけだったらしい。レコード会社というより、個人が自費出版したのではないだろうか。それにしてはジャケットはラミネート仕様で
丁寧な創りだし、プレスもしっかりとしていて、ブート臭さはあまりない。

そして何より、パーカーの音が非常にいい。公式録音のものと同等、若しくはそれ以上の音なのだ。1949~53年にかけての複数の演奏が
収められているにも関わらず、一貫してパーカーのアルトが朗々と太い音で鳴っている。レッド・ロドニーとのクィンテットだったり、
パウエル、ミンガスとのワン・ホーンだったり、スェーデンへの演奏旅行中のエリクソンとの録音だったり、と時と場所がバラバラなのにも
かかわらずだ。同じ人の録音ではないはずなのに、なぜ、こうも統一した音場感なのかが謎である。

先の記事へのコメントでもご指摘いただいた通り、同じ音源が別レーベルでもリリースされていたりして、こういう非公式音源は
裏ルートでは自由に取引されていたらしい。

そして何より貴重なのは、パーカー・ウィズ・ストリングスのライヴ演奏が聴けることだ。公式レコードがアメリカでヒットしたため、
ノーマン・グランツがパーカーに弦楽隊を帯同して全米でコンサートをやらせたのは知っていたが、まさかその音源が残っているとは思わなかった。
この時の演奏が聴きたいなあと以前から思っていたので、これには小躍りしてしまった。

パーカーの演奏は月並みだが "神憑って" いて、聴けば聴くほどその凄さが際立つ。ジャズが記録されて100年が経つけど、後にも先にも
この人を凌駕する者はやはりいないのだ、ということがこんなにもいい音で記録されていたということが素晴らしい。







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音のいいパーカーのブートを探す

2021年07月11日 | Jazz LP (ブートレグ)

Charlie Parker / 1949 Concert  (OSR 2405)


パーカーの公式録音(レーベルとの正式契約に基づく録音)は数が多くなく、すぐに全部聴けてしまうので、やがて物足りなくなる。
そして、もっと聴きたいという欲求が募り、人をブートへと走らせるわけである。

但し、問題はその音質。時代的には当時ようやく商用として発売されだしたポータブル・テープレコーダーをライヴ会場に持ち込んで、
ステージ横の階段だったり、裏手のトイレの前だったり、2階の物置部屋なんかでこっそりと録音されたので、音質の悪いものがほとんど。
まあ、パーカーに限らず、これはブートの宿命なのでとやかく言っても始まらない。パーカーの演奏はどんな演奏であっても記録に
残されるべきだと考えた人たちがいて、情熱をもってパーカーの追っかけをやって(中には職を投げ打って)録音したのである。

その甲斐あってたくさんのブートが残っているわけだが、やはり聴くなら音のいいものを聴きたい。この週末、新入荷のコーナーにパーカーの
ブートが纏まって出ていたので(たまたまお客の少ない時間帯だったこともあり)15枚試聴したが、聴くに耐えるものは4枚だけだった。
どれも3桁の値段なので視聴などせずに全部拾ってもいいのだが、やはり音の悪い録音は買っても繰り返し聴くことがないことは
わかっているので、無駄な買い物をするわけにもいかない。そうやって手間のかかる地道な作業もそれなりに楽しいし。

今回拾った中で最も音が良かったのが、このアルバム。1949年のカーネギー・ホールでの演奏ということだが、本当なのかどうかはわからない。
写真に写っている相棒はマイルスだが、演奏しているのはレッド・ロドニー、アル・ヘイグ、トミー・ポッター、ロイ・ヘインズのお馴染みの
面々で、こういうのもブートならではのいい加減さ。

このパーカーの音の良さは驚愕もので、公式録音のものと同等以上の音でアルトの音が聴ける。ブートの演奏は基本的にピアノ・トリオの
音がどれもまともに聴き取れないが、その中でパーカーのアルトだけは音が大きくクリア。どれだけ彼の鳴らす音が大きかったがよくわかる。

パーカーは毎日のようにどこかで演奏して日銭を稼いで暮らしていたから、ここで聴けるのはそういう彼の日常の一コマだったわけだ。
だから演奏は飾り気がなく、手慣れた様子でやっている。クリシェも多く、特に凝ったことをしているわけでもないが、それでもやはり
彼の演奏はどれを聴いても感動させられる。こうして色々聴くことで、伝説の人が身近な存在へと変わっていくのが嬉しい。



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公式盤に劣らぬ非公式盤

2020年09月17日 | Jazz LP (ブートレグ)

Charlie Parker / Historical Recordings, Volume 2  ( 米 Le Jazz Cool JC 102 )


パーカーには公式アルバムの何十倍もの数のブートが存在する。理由はいろいろあるがその中の1つに、当時ミュージシャンたちが
参加していた互助組合がレコード会社に対して待遇改善を要求してたびたびレコーディング拒否のストライキをしていたことがある。
この期間は公にレコーディングを行うことができなかったが、ミュージシャンとしてピークの時期にいたパーカーのような人の場合は
側近たちが記録を残さないのは勿体ないと考えて(当然だ)、クラブの2階でこっそりとポータブル・レコーダーを回すなんてことが
常態化していた。こういうケースをブートとして片づけるのはちょっと違うんじゃないかという気がする。

そういう状態で録音されたので音質が十分ではないものが当然多いが、パーカーの場合はそんな不満を言ってる場合かよという感じはある。
当時から既に100年に1人の天才と言われて、そのすべてを録音するべきだと多くの人が考えていたからこそ、これだけの音源が
残っているわけで、聴かない手はないだろうということだ。

そんな中でこの "Le Jazz Cool" なる非公式盤は音質がかなり良く、パーカーのリアルな姿を垣間見ることができる貴重なアルバムだ。
発売されたのは1960年とのことで、非公式盤にしては異例のレコードの作りの良さにちょっと驚く。ジャケットは背有りで額縁仕様だし、
盤は厚みがあってそれなりの重量があり、溝まである。作り自体は当時の正規レーベルのものとまったく同じ質感になっている。

音質もパーカーのソロ部分は非常にクリアで生々しく、意図的にそういうマスタリングしたと裏ジャケットで解説されている。
曲によっては状態の悪いものも含まれてはいるが、それでも時代を考えればスタジオ録音と遜色のない最良の音質だと考えていい。

1948~50年頃のクインテットの演奏で、ガレスピーとの最初の常設バンドのもの、後任のマイルスがメンバーだったもの、
マイルスが抜けた後釜にケニー・ドーハムが入ってロイヤル・ルーストで演奏したもの、ファッツ・ナヴァロとバド・パウエルが
参加してカフェ・ソサイエティーで演奏したものなどがLP3枚にランダムに収録されている。

楽曲もお馴染みのビ・バップ・チューンもあれば、珍しいものでは "Round Midnight" や "Slow Boat To China" などの貴重な演奏もあり、
これらは聴かずに済ませるわけにはいかないだろう。

パーカーの演奏は非常にしっかりとしていて、調子が良かった様子が嬉しい。初めて聴くような丁寧にアレンジを施した楽曲もあり、
こんな演奏もしていたんだという発見もある。マイルスのマイルドな音色、後のブラウニーを思わせるナヴァロの正確な演奏など、
総合的にも価値のある内容だ。

短い生涯だったが、いろんな記録を読むと音楽家としての日々は多忙で充実していたことがわかる。
その一端に触れることができる素晴らしいレコードだ。





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1974年 カナダのビル・エヴァンス・トリオ

2020年08月29日 | Jazz LP (ブートレグ)

Bill Evans / The Canadian Concert Of Bill Evans  ( カナダ Can-Am Records CA1200 )


1974年7月カナダのケベックのキャンプ・フォーチュンで行われたラジオ放送向けの演奏。ゴメス、モレルとのトリオで、司会のナレーションと
観客の拍手が入っているが、ライヴというよりは公開録音という感じだったのではないか。放送後にラジオ・カナダが配布用レコードとして
ごく少数枚のみプレスしたものがコレクターズ・アイテム化しているが、後日こうしてCan-Amレコードとして商用レコードとしてリリース
されている。ブート扱いになっているが、放送局が放出した音源なので、コンサート会場で盗み録りしたものとは毛色が違う。

音質は良好で、当時のエヴァンスが契約していたファンタジーからリリースされていたアルバム群よりもこちらの方が音がヴィヴィッドだ。
ピアノの音がクリアで輝きがあり、自然な音場感。何の違和感もなく聴くことができる。ゴメスのベースも粒立ちのいい音だ。

メランコリックで耽美的なメロディーの楽曲が並び、エヴァンスが優美なタッチで奏でる様は圧巻の出来。物憂げな表情が素晴らしく、
聴いていて圧倒される。音楽が深く透き通った秋の夕暮れの空の色のような雰囲気を帯びていて、これはちょっとすごい演奏だと思った。

優れた音楽家の演奏には公式/非公式など関係ないのだ、ということを思い知らされた。どれだけ汲んでも枯れることのないエヴァンスの
魅力に触れることができる。


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1960年 Birdland のビル・エヴァンス・トリオ(2)

2020年08月27日 | Jazz LP (ブートレグ)

Bill Evans / Hooray For Bill Evans Trio  ( Session Disc 113 )


こちらは1960年4月30日、5月7日にバードランドへ出演した時の演奏で、(1)と同じ時期のもの。レパートリーは似たような内容で、
この時期のライヴの定番だったのだろう。細部を比べればテイクごとにいろいろと違いはあるものの、大きくは同じ傾向の演奏だ。
ライヴらしく奔放で明るい演奏となっており、聴いていて楽しい。このバードランド・セッションはまとめてCD化もされているし、
ブートの生い立ちなどについてもネットに詳しい記事がたくさん載っている。ここまでくると、ブートというよりは事実上の公認の
記録と言ってもいいかもしれない。

これらの演奏を聴いていると、我々が知ったような気でいるビル・エヴァンスの姿というのは、本当にごく一握りのものでしかないんだな
と思う。場所も時間も離れている以上はしかたのないこととは言え、正規にプロデュースされ、きちんとパッケージ化されたものだけを
聴いても、実は何もわかっていないのだということを痛感させられる。

スコット・ラ・ファロのベースがしっかりとした音で録れており、それは大きなウッドベースの太いネックの木材の質感がわかるような音で
そんな細かいところに感銘を受けたりする。そういう小さなことの積み上げがやがては大きな感銘へと発展していく。

"Come Rain or Come Shine" や "Autumn Leave" が繰り返し演奏されるけれど、またか、という印象にはならない。聴くたびに新たな
感銘が湧いてくる。

これらの演奏もヴァンガードでのライヴのように内容を厳選して1枚のアルバムとしてリヴァーサイドがリリースしていれば、後世に残る
名盤となっていただろう。その原石がここには眠っているのだと思うと、このブートの価値の重さを今更ながらに実感する。


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1960年 Birdland のビル・エヴァンス・トリオ(1)

2020年08月25日 | Jazz LP (ブートレグ)

Bill Evans / A Rare Original  ( ALTO Records AL 719 )


ビル・エヴァンスの公式アルバムはすべて聴いてしまった。死後に発表された未発表作も、すべてではないにせよ、無理せず入手できる物の
大部分は聴いてしまった。現在は、モノラル盤で持っていたアルバムのステレオ盤を聴いてみたり、欧州プレスや国内盤などの国籍違いを
聴いたり、という感じで遊んでいるけれど、よく考えたらブートレグ(海賊盤)はまだ聴いていなかった。

ブートの存在については色々な意見があるものの、自分が好きなアーティストの演奏がより多く聴けるという点では有難いことなのではないか。
もちろん、アーティスト本人やレコード会社にとっては権利侵害の重罪以外の何物でもない。でも、そのアーティストを愛するリスナーから
してみれば、純粋に新しい演奏を聴くことができる喜びを抑えることは難しいということも否定し難い事実なのである。

特に、それがエヴァンス、ラ・ファロ、モチアンのトリオの演奏ということになると、あの4枚だけで我慢しろと言われても、そんなのは
土台無理な話なのだ。世界中のファンがそのフラストレーションを解消するべく、同一タイトルの版違いを何枚も買い込んだりして、
私自身も含めて、物欲の過食症状態に陥っている。

そういう日頃の鬱憤を晴らすのにこのブートは一役買ってくれるかもしれないということで、聴いてみることした。ブートの課題は音質の
悪さや編集の粗さだが、チャーリー・パーカーのブートに比べると時代が10年進んでいることもあって、音質の劣化はさほど気にならない。
正確に言うと、音質は良いとは言えないけれど、この時期独自の演奏内容に夢中になるうちに脳内でサウンドが勝手に補正されていくので
音質の問題自体がどうでもよくなっていくということだ。人間の脳の神秘である。

1960年3月19日にトリオがバードランドで演奏したもので、"Portrait In Jazz" (1959年12月28日) と "Explorations" (1961年2月2日) の
間の空白の1年間を埋める貴重な記録である。この1年という期間は、ファンにとっては無限の空白に値する。

レコードに針を落とすと、あのトリオの演奏が鳴り始める。聴き進めていくうちに、何とも言えない深い感慨が湧き上がってくる。
やはこの時期の演奏には、他にはない何かが宿っているのだ。

以前から思っていたことが確信へと変わる。それは、このトリオの魅力がラ・ファロの演奏にあるのではなく、エヴァンスのピアノの
弾き方そのものにあるということだ。この2年にも満たない短い時期のエヴァンスのリズム感、ブロック・コード、フレージングの
何もかもがその前後の時期とは違う。この独特の弾き方が圧倒的に素晴らしいのだ。

モチアンはエヴァンスのピアノの弾き方にピッタリと合わせるようについて行っていて、これも他のドラマーたちとは違う。
そのせいでトリオの演奏が一番まとまっているように聴こえるのだと思う。

"Beautiful Love" が演奏されているけれど、後のスタジオ録音と比べると原メロディーがしっかりと残っていて、これが発展して
あの演奏のようにメロディーが崩されたんだなということがよくわかる。"Blue In Green" もライヴらしい饒舌な演奏で、
静謐な演奏だけが魅力的なわけではないのだ。とにかく、どの演奏からも耳が離せない。

それにしても、このクラブの観客たちの会話のうるさいことと言ったら・・・。ほとんど誰も演奏を聴いていないんじゃないのか、
と思うような賑やかさだ。これに比べたら、ヴィレッジ・ヴァンガードは高級クラブのようにすら思えてくる。
でも、こういう賑やかさも今となっては古き良き時代の懐かしさに溢れていて、それすらも愛おしい。


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良質なブートレグ

2020年08月18日 | Jazz LP (ブートレグ)

John Coltrane / In Europe Volume 1  ( Beppo Records BEP 500 )


コルトレーンくらいになるとブートレグも無数にあって、そのブートの音源が買い取られて大手レーベルから逆輸入でリリースされたりもして、
何が何だかよくわからない。だからまあ、安くて音質に問題がなければ出自に関係なく聴いてみたりすることもある。

1961年から63年にかけて、コルトレーン・カルテットは欧州へ何度も演奏旅行をしていて、その時の演奏は非公式に録音されている。
これは62年11月19日ストックホルムの Kocerthuset でのライヴの中からピックアップされたレコードだ。この日は2セット16曲が演奏され、
そのすべてが録音されていて、その気になれば全曲聴くことができる。この演奏旅行は17日のパリ公演に始まり、20日はヘルシンキ、
22日はコペンハーゲン、28日はグラーツ、12月2日はミラノという行程だった。

この時期のコルトレーンが演奏する曲目は大体決まっており、全部を聴く意味はあまりないかもしれない。でも、これはコルトレーンに限った
話ではなく、ロックを含めた他のすべてのミュージシャンもそうだから、批判するにはあたらない。ツアー中に毎回曲目を変えるなんてことは
そもそも無理なのだ。

62年11月13日に "Ballads" の録音を終えて、すぐに欧州へと出発している。そういう時期なので、曲目はスタンダードが中心に構成され、
演奏スタイルもオーソドックスなものになっている。コルトレーンがライヴで普通のジャズを演奏していた最後の時期になるのかもしれない。
このレコードには "Bye Bye Blackbird"、"Mr.P.C."、"The Inch Worm" が収録されているが、どれも聴き易くて、且つ演奏も充実しているから
たいへん楽しめる。インパルスのバラード3部作はマウスピースの調子が悪かったからだと言われているが、このライヴを聴く限りでは
そんな様子は見られない。第一、大事な商売道具の不調をそのままにしておくなんてことをするのは信じられない話だ。

ブートの課題は言うまでもなくその音質だが、少なくともこのレコードは特に問題はない。コンサートホールの真ん中辺りでホールトーンを
丸ごと録ったようなノスタルジックな良い雰囲気で、雑音もなく、気持ちよく聴ける。

60年代のコルトレーンは急進的でどれも苦手というなら、こういう非公式録音を聴いてみるといい。この時期のオーソドックなジャズを
演奏するコルトレーンを聴くことができる。演奏は素晴らしく、インパルス盤とは違う側面を知ることができて、コルトレーンという人を
より身近に感じることができると思う。


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ブートレグとは信じられない内容

2020年07月19日 | Jazz LP (ブートレグ)

Stan Getz / The Canadian Concert  ( カナダ Can-Am 1300 )


いつも素敵な K's Jazz Days さんのブログで目から鱗が落ちたので、これまたユニオンで探すと、あるある、ちゃんと転がっている。
昔からよく見るお馴染みのブートだが、聴くのはこれが初めてだ。ブートは廃盤狂たちが嫌って見向きもしないので、当然3ケタ盤。

1965年3月のヴァンクーヴァーでの録音で "コンサート" というタイトルだが、観客の拍手はなく、ゲッツ自身が曲ごとにナレーションを付けているので、
ラジオ放送用に収録されたものなのではないだろうか。さしずめ、リスナーが聴衆ということなのかもしれない。

ゲイリー・バートンがいた時期で、ピアノレスのカルテットの演奏だが、とにかくゲッツの演奏が素晴らし過ぎる。繊細でありながら太く大きな音で、
浮遊するメロディアスな旋律が美しい。いつも通りと言えばいつも通りだけれど、聴くたびに新鮮で、美しいと感じるのだ。

バートンのヴィブラフォンはまるでフェンダーローズのようだと感じる瞬間があり、ミルト・ジャクソンが築いた王道とはまったく違う石清水のような清らかさだ。
ゲッツが好んだのはきっとそういう新しい感覚だったのだろう、この音楽の雰囲気は他の誰からも聴くことができない。至福の時間が流れる。

おまけに、このレコードは音がいい。65年の音源とは思えないクリアさで、楽器の音が美しい。音圧も問題なく、言われなければブートだなんて誰も思わないし、
言われても信じられないだろう。ただし、このシリーズはタイトルごとに音質にはバラつきがあるので、注意が必要。見境なく手を出すと火傷する。

音質に問題がなく、安レコであれば、ブートも毛嫌いする必要はないんだなと改めて勉強した。正規盤に負けない感動を覚えることができる。




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