廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

暗黒時代だなんて、誰が言った?(2)

2018年09月16日 | Jazz LP (Elektra)

Art Blakey and The Jazz Messengers / A Midnight Session  ( 米 Elektra EKL-120 )


エレクトラ・レコードと言えばドアーズやジュディ・コリンズしか思い浮かばないけど、ジャズもほんの少しだがある。 フォークのレーベルとしてスタートしたが、
50年代後半は事業拡大の一環として間口を広げた時期で、ジャズメッセンジャーズなら一定のセールスが見込めるということで選ばれたのかもしれない。
ただ、ジャズの世界ではまったく認知されていないレーベルなので、このアルバムも人々の視野にはまったく入ってこない。 不幸は続くのである。

この時期のメンバーには曲を書ける人がいなかったので、メンバー外の楽曲を持ってこなければならなかったが、このセッションではなぜかレイ・ドレイパーの
作った楽曲が多く取り上げられている。 当時16歳だったドレイパーはまだアマチュア・バンドだった The Jazz Disciples に在籍していて、バードランドなどに
出演して注目を集めていた "時の人" だったらしく、いわば青田買いした選曲だったようだ。

そういう楽曲をビル・ハードマンが先頭で全体をリードし、ジャッキー・マクリーンが後追いでなめらかで伸びやかなトーンで吹いているのが印象に残る。
ドレイパーの楽曲はテーマ部に哀愁味があり、マクリーンが吹いていることもあって、"Cool Struttin'" の "Blue Minor" のような切ない印象が残る。
ピアノの Sam Dockery もベースの Spanky DeBrest も有名ではないけれど手堅い演奏で全体を下支えしていて、このバンドの纏まりはとてもしっかりしている。

このアルバムのブレイキーの演奏を聴いていると、フロアタムを重点的に使っていることが改めてよくわかる。 これでドラムの重量感を出していて、それが
バンド全体のサウンドの重量感にも繋がっている。 フロントの音域が高いので、ブレイキーのドラムとのコントラストが鮮やかだ。
骨太で剛性感の高いサウンドでジャズをしっかりと聴かせるバンドとして、再認識されていいはずの内容である。


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主客転倒 その2

2018年05月13日 | Jazz LP (Elektra)

Teddy Charles / Vibe-Rant  ( 米 Elektra EKL-136 )


これも主客転倒してしまったアルバムで、テディー・チャールズがリーダーにもか関わらず実態はアイドリース・スリーマンのワン・ホーン・カルテットだ。

テディ・チャールズのヴァイブにはこれと言って特徴はない。 一般的な認知のされ方も、卓越した演奏者というよりは実験的なアプローチをした人という
イメージだろう。 だから、実際はそうでもないけれど、こういうスタンダードを含めた普通のアルバムを作っていること自体が珍しいという印象になる。 

ヴィブラフォンは意外と演奏者の個性がよく出る楽器だけど、この人の演奏は淡麗だ。 ミルト・ジャクソンはその強い個性のためにアルバム1枚聴くと
すぐにお腹いっぱいになるが、この人のは飽きがこない。 1枚だけじゃなくて、もっと続けて聴きたいと思う感じだ。 演奏自体はどちらかというと
たどたどしくて、不器用な人が一生懸命言葉を探しながらしゃべっているようなところがある。 音も大き過ぎたり重なることもなく、印象に残る。

そういうあっさりとしたヴァイブの響きの中を、スリーマンのトランペットが大きな音で泳いでいく。 かなり大きな音だ。 線の細い演奏をする印象が
あったけど、録音が良ければまるで別人のような姿が現れる。 音圧の高さに圧倒されるけれど、音程はかなり不安定で怪しい。 リーダー作の少ない人で
なぜだろうと思っていたけれど、これが原因だったのかもしれない。

そんな感じでどれも上手さで聴かせるタイプではないけれど、全体としては落ち着きがありながらも勢いのある演奏で、印象に残るアルバムだと思う。
Elektra の録音も良く、接近して録った楽器の音を何も手を加えずそのまま溝に刻んだような感触。 そういう面でも満足度は高い。


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