廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

最近の復刻盤事情

2022年10月10日 | Jazz LP (復刻盤)

Chet Baker / Sings Vol.2  ( EU Valentine Records 896701 )


世界的なレコード・ブームというのはやはり本当のようで、次々と新品レコードがリリースされている。過去の名盤の復刻もあれば、真っさらの
新作もあり、ユニオンのブログを見ているだけで楽しい。まあ、積極的に買おうという気はないので基本は眺めているだけなんだけれど、
ごく稀に「これはちょっと聴いてみたいな」というのがあって、手を出すこともある。

このチェットのアルバムもそんな1枚。"Sings And Plays" をベースに、他アルバムへ散逸していた歌物やおそらくは未発表だったものを
1枚に纏めて、例のカヴァーを流用して第2集という形にしてる。チェットのヴォーカルだけに集中できるという点で非常に優れた編集で、
これは有難いアルバムだと思う。ジャケットのカラーも新しいグリーンがよく効いていて、発色もよく、とてもきれいだ。

音質も良好で、"Sings And Plays" 収録の曲はオリジナルとまったく同じ音質で驚く。曲によって音圧や音場が異なっていて、どうやら
オリジナルのマスターを何もいじらずにそのままカッティングしているようで、それがよかったのではないか。音の鮮度がいい。
それにプレスの品質も高い。まるで溝に針が吸い込まれるかのように、きれいに完璧にフィットしているのが目に見えるようだ、
まったくノイズが出ない。イマドキのレコードプレスの品質の高さは本当に驚くべきことだと思う。

こうやって聴いていると、彼は随分たくさんの歌をこのレーベルに録音していたんだなあということに改めて驚かされる。
どれも飾り気のない歌い方だが、そこがよかった。上手い歌手はいくらでもいるが、まるで独り言を言っているかのように歌い、
それがこんなにも心地よい気分になる例は他にない。稀有な歌い手だった。

180gの重量盤というのはもはや常識になっているのだろう。薄っぺらい盤よりはその方がいいから、そのことについては何も文句はないが、
ジャケットの作りがいただけない。ちゃんと厚紙仕様にするべきだと思う。ラミネートコートしてあると、尚のこといい。
でも、そうするとコストアップになるんだろう。レコードというのは、盤よりもジャケットの方が遥かに金がかかる。
最近の新品レコードの課題はここにある。






John Coltrane / Blue Train ~ The Complete Masters  ( 米 Blue Note / UMG Recordings 454-8107 )


私の場合、ブルーノートの音はクセが強くて確かにジャズっぽいけれど、さほど音がいいという訳ではない、というのが昔からの持論。
だから、世間が言うほどの有難みは特に感じてはいないので、最新リマスターというのには興味がある。特に、このタイトルはステレオ盤が
聴いてみたかったので買ってみた。

結論としては、とても良好でいい音だと思う。音場感が立体的になって、3管編成の良さがより際立っていると思う。
私の好きなアート・ブレイキーの "Mosaic" のステレオ盤がちょうどこんな感じのサウンドで、非常に好ましい。すっきりとしているけれど、
しっかりと厚みがあって、ブルーノートらしい暗い残響感がちゃんと残っている。モノラルだと音が潰れがちなフラーのトロンボーンも
音色の輪郭がくっきりとしている。各楽器の位置関係が明確になり、それにより音楽そのものも整理されているように感じる。

ヴァン・ゲルダー自身のカッティングだと言われても違和感なく信じる人がいるかもしれない、そういう感じの音だと思う。
ブルーノートらしさが失われることなくしっかりと出ていて、音の輝きもブリリアント。うまいリマスタリングではないだろうか。

人によっては眉を顰めるであろう別テイクを収めた2枚目の方も、私は興味深く聴いた。繰り返しリハーサルをやったと言われるブルーノートの
録音の様子が手に取るようにわかる、というところに価値があるし、演奏自体もそんなに悪くない。どの別テイクでも、やはりモーガンが一番
輝いている。この日の彼はベスト・コンディションだったんだろうなということがよくわかる。

こちらはジャケットがラミネートコ-ティングされていて、写真の解像度も高く、オリジナルと比べてもまったく遜色ない。金がかかっている。
その分、値段が高いのが難点だけど、最近のビル・エヴァンスの未発表レコードのジャケットの質感のチープさを思えば、似たような値段でも
こちらはまだ納得できるのではないだろうか。とにかく気になるのが音質だろうと思うけど、ケチをつけるべきところは何一つない。
手に入れて後悔することは、まずないだろう。


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新鮮な風に吹かれるような

2021年07月04日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / On A Friday Evening  ( Craft Recordings 7215863 )


発売されてすぐに入手して1日置きくらいに聴いているが、完成されたデリケートな演奏に深い満足感を覚えている。
音質はピアノが奥にいてドラムが手前にいるような音場感だが、全体的に変な色付けなどされておらず、素直でナチュラルな音質で、
とてもいいと思う。リヴァーサイドのレコードを聴いて育った私なんかは、エヴァンスのピアノは変にハイファイな音質で聴くより、
こういうややナローな音で聴く方が好ましい。これこそ、エヴァンスのピアノだと思うのだ。

晩年によく取り上げていた楽曲群がやはり新鮮で、エヴァンスの当時の新しい心境が作る世界観に自分がいられることに喜びを感じる。
久し振りに取れた長期休暇で海外のリゾート地に降り立ったような、何とも言えない解放感と期待感に包まれるような感じ。
これからしばらくはしっかり遊んで、やりたいことだけをやって過ごすぞ、と心に決めた時のような気分。

固定化したエヴァンスのイメージやアルバム感のようなものから解放されて、新しい世界観へと扉が開くような印象があって、
こうして未発表音源がリリースされ続けることには意味がある、と最近は素直に思えるようになった。
それがこうしてレコードで聴けるということが何より嬉しい。レコード復権の機運があったからこその、幸運なタイミングに感謝。

どこを切り取っても「ビル・エヴァンス」という内容で、何か目新しいことがある訳ではないが、ビル・エヴァンスはビル・エヴァンスで
あることが尊いのであって、我々はそれ以外のことなど望んでいないのだから、これでいいし、これがいいのである。

買ってよかった。大満足。



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最近のプレスの優秀さ

2020年01月05日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Green Dolphin Street  ( EU WAXTIME 950675 )


昨年4月に180gカラーワックスとしてリリースされた最新のステレオプレスということで、どんな感じなのか興味があったのでAmazonで入手してみた。
結果から言うと、大変良好だと感じた。

A面のトリオは59年の録音で、ラ・ファロやモチアンと組む前の古い音源だが、音質がビクター盤と比べるとすっきりとしている。B面のズートが入った
62年録音もビクター盤よりも音質がクリアになっていて、音場感の空間の拡がりもより自然になっている。フィリー・ジョーのドラムの音でそれが
顕著にわかる。私は録音当時は未発表だったこのクインテットの演奏がとても好きなので、これは嬉しい驚きだった。

これを聴きながら、改めて最近のプレスは非常に優秀だと思った。音質が非常にナチュラルなのだ。そして何より演奏者の音が何のバイアスもなく、
まっすぐにこちらに飛んでくる。エヴァンスの音は紛れもなくあのピアノの音で、本当にエヴァンスらしい音で鳴っている。これは音楽を聴く上では
非常に大事なことだと思う。リヴァーサイドのオリジナル盤で聴くエヴァンスの音色がそのまま鳴っている。

プレスの品質も良く、とにかくノイズがまったく出ない。従前のレコードは溝を擦る物理的な音が多かれ少なかれあったけれど、イマドキのレコードは
溝と針先がまるでぴったりとフィットしているかのように、何のノイズも出ないのだ。無音部分は本当に無音で、ノイズがイヤならCDを聴け、とよく
言っていた話も今は遠い昔話に思える。

ステレオ感が特に際立っているということはないけれど、これも極めて自然な感じで、人為的な匂いはない。サウンド面で引っ掛かるところがないので、
音楽のみに集中できる。これがなによりだと思う。

オリジナル盤にのめり込むきっかけは音質の問題が第一だったわけだけれど、こういうプレスを聴いているとだんだんオリジナル、オリジナルと騒ぐ
感覚が後退していくのを感じる。目に見えない、目立たないところで少しずつ物事が変わってきていることを感じるのは私だけなんだろうか。


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残り香が漂う素晴らしい演奏

2019年12月28日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Live At Art D'Lugoff's Top Of The Gate  ( 米 Resonance HLP-9012B )


エヴァンス愛好家にはよく知られた音源で、過去にも何度かリリースされていたようだが、私はよく知らなかった。

音質は良好だ。レゾナンスは安定してきたと思う。正規録音ではないにも関わらず、ピアノの音がきれいに鳴っている。音の粒立ちが良く、
打鍵の際のタッチの感覚がよく伝わってくる。未発表音源の復刻としては、最良の仕上がりと言っていいんじゃないだろうか。

ここでの演奏で際立つのは、楽曲本来の良さを引き出すことに成功していること。"My Funny Valentine" にしても "Alfie" にしても、
原メロディーの良さを殺さずにハーモニーで上手くコーティングしてより魅力的なものへと持ち上げているので、単純に音楽の良さに感激する。
68~69年頃のエヴァンスにはまだリヴァーサイド時代の演奏の残り香が漂っていて、聴いていると自然と笑みがこぼれてくる。

どこを切り取ってもエヴァンスのピアノが堪能できる内容で、長く愛聴するに相応しいアルバムだと思った。これならどれだけ復刻してもらってもいい。
何枚でも聴きたいと思う。正規録音をすべて揃えた愛好家がブートに走る気持ちがよくわかる気がする。これほどもっと聴きたいと思わせてくれる
アーティストが果たして他にどれだけいるだろうか。

少し前ならこういうのはCDでリリースされて終わりだったろうが、今はありがたいことに必ずレコードも出してくれる。我々にとってはいい時代に
なったと言えるのかもしれない。RSDでしか買えない、というような面倒なことはせず、普通に出してくれればもっといいんだけど。


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未発表を掘り起こす意義

2019年07月21日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Live '66, Libe '80


ここのところ色々と忙しくて、このレコードたちのことをすっかり忘れていた。 世間でもまったく話題になっていないみたいだし、聴いている人は
少ないのかもしれない。 エヴァンスの場合は異例の復刻ラッシュが続いているから、聴き手側も有難みがなくなってきているのかもしれない。
ずいぶん贅沢な話だと思うけど。

私自身はこの2枚のアルバムを聴いて、3年前にレゾナンスが出した最初の掘り起こし盤以降続いている復刻ラッシュの中では最も優れた演奏だと思った。
特に66年のゴメス、リールとの演奏は、私たちが最も愛するリヴァーサイド時代のエヴァンスの雰囲気そっくりの演奏で、これは最高じゃないかと思う。

これらの掘り起こしで必ず陰口を叩かれる音質面は、ナローレンジ気味で音圧もさほど高くはないけれど、レゾナンスのような好き嫌いの分かれる
人為的な着色は施されておらず、とても自然なサウンドだと思う。 ピアノ、ベース、ブラシ、どれもが自然な音色で何のストレスも感じない。
どちらもテレビ放送用に収録された映像の音源をレコード化したものなので、元々オーディオ的な発想はないわけで、それに対して音質云々と言って
みたところでどうしようもないのだ。 掘り起こし盤というのはそういうものだ、と頭を切り替えて演奏を楽しむほうがいい。

しかし、これだけいろんな音源が掘り起こされてもなお、聴き応え感の尽きないビル・エヴァンスという人はどこまで深いのかと思う。 次々とリリース
される演奏を片っ端から聴いていっても、同じような演奏は1つとしてなく、それぞれに独立した感銘を受ける。 80年のライヴでの "Nardis" の解釈
の大きな拡がり方を見れば、彼の音楽には無限の可能性があるんだということがよくわかる。 ただ単にお馴染みの曲を手癖だけ弾き流していた人では
なかった。 深い憂いを帯びた抒情感も際立ち、どこを切ってもただただ素晴らしい。

ここまで掘り起こし盤を聴いてきて思うのは、ビル・エヴァンスというアーティストは正規リリースだけでは十分実像を伝えきれていないんだなあという
ことである。 特に60年代後半以降の正規盤は少し作り込まれたアルバムが多いせいで、素のエヴァンスからは少し乖離しているところがあることに
気が付くようになった。 そこをうまく補正してくれるのが現在リリースされている未発表群なのだ。 エヴァンスという人が好きならば、これらの
掘り起こしも聴いていくのがいいと思う。


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2019年4月13日 Record Store Day その1

2019年04月14日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Evans In England  ( Resonance Records HLP 9037 )


昨日は出かける用事があったので、ついでに新宿に寄って Racord Store Day してきた。 当日にレコード屋に行くのは今年が初めてである。
事前に当たりを付けておいた2枚を拾って帰って来た。 しかし、趣旨はわかるけれど、直接店に行かなきゃ買えないというのはいささか難儀である。
平日なら仕事帰りに寄れば済むけど、休日だとわざわざ出かけなければいけない。 しかも街は尋常ならざる人混みである。 休みの日にわざわざ
新宿や渋谷なんかに出かけたくない。 

1枚目は今年のハイライト、ビル・エヴァンス。 最近の傾向を考えるときっとたくさん売れるんだろう、他のタイトルとはケタ違いの在庫量だった。
2枚組で7,452円というのは高過ぎる。 新品2枚組は4,000円と昔から相場は決まっている。 買うかどうかギリギリまで踏ん切りがつかなかったけど、
現物を見るとやはり抗えない。 


レゾナンスのエヴァンスのレコードには重要な未発表の演奏を世に送り出すという使命があるから仕方のないことだが、良い演奏も良くない演奏も全てが
収録されている。 だからアルバムを通して聴くと全体の印象の平均点はどうしても下がってしまう。 レゾナンスはそこを理解して評価する必要がある。
リヴァーサイドのヴァンガード・ライヴだって、たくさんある演奏の中の最もいい部分だけをセレクトして編まれたから世紀の名盤になったのであって、
あの公演すべてをごった煮にしてリリースしていたら、今のような名声はなかっただろう。 アルバムというのは、そういうものだ。

だからこれはわざわざレコードで買うよりはCDで買った方がいいのかもしれないと思う。 そうすれば自分だけの "Evans In England" を作って
楽しむことができる。 

1969年12月の録音で時代相応の音質だが、現代のマスタリング技術のおかげで音の質感はかなり健闘しているとは思う。 69年当時にリリースされて
いたら、もっとプアな音質だっただろう。 聴いていて気付くことは、まずピアノの音があまりきれいとは言えないこと。 アコースティック・ピアノ
らしくなく、ちょっとエレピっぽい感じがする瞬間が多々ある。 何が原因なのかはよくわからないけど観客の拍手の音もそうなので、PAの問題なのか、
録音機材の問題なのか、クラブの音響の問題なのか。 それと聴いている位置とステージの距離が少し離れているような印象がある。 端的に言うと、
さほど高音質という印象ではない。 "Waltz For Debby" のイントロや "Turn Out The Sttars" ではテープの傷みで音がグニャリと歪む箇所がある。

演奏は全体的に粗っぽいなという印象だ。 最初はイイ感じで進んでいても、後半からタガが外れて弾き散らすようになり、最後は乱舞の様で終わる
という曲がいくつかある。 ライヴだからこういうのは普通のことだと思うけれど、レコードに収録する必要はないなという曲があるのは確か。
みんなが期待する "My Foolish Herat" ~ "Waltz For Debby" は、正直言ってあまりよくない。

それとは対照的に、素晴らしい演奏も当然ある。 "Sugar Plum"、"The Two Lonely People"、”Elsa"、"What Are You Doing For The Rest Of Your Life"、
"Turn Out The Stars"、"Re:Person I Knew"、"So What"、"Midnight Mood" など、主にDisk2に素晴らしい演奏が集中している。 これらの曲で
エヴァンスは思索的なピアノを弾いている。 "So What" も独特な雰囲気が上手く出ている。 いいトラックは文句なく素晴らしい。

期待値が非常に高い状態で聴き始めるので最初はいろんなアラが目に付きがちだが、冷静に考えると今まで聴いたことのないエヴァンスの演奏がLPで
2枚分も聴ける凄さにはただ感謝しかない。 並みのアーティストではなく、あのビル・エヴァンスの演奏なのだ。 多少の瑕疵など、どうでもいい。

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Duck Soup

2018年04月15日 | Jazz LP (復刻盤)

Miles Davis, John Coltrane / Final Tour : Copenhargen, March 24, 1960  ( 日 Suny Music Japan International SIJP68 )


こういうレコードがいろいろ発売されるのは、私のようなカモがいるからだ。 聴く前からどういう感じかは容易に想像出来るし、聴いてみても結局は
その想像の確からしさをただ確認するだけでしかない。 でも、だからと言って、聴かずに済ますこともできない。 生産的ではないからと言って、
意味がないと切り捨ててはいけないものだってあるのだ。

コルトレーンがマイルス・バンドを去る直前の最後の欧州ツアーでの演奏は様々な形で音源が出回っているので、ここで聴ける音楽的な内容については特に
目新しいものはない。 成長したコルトレーンがバンドのスタイルからはみ出すようになってきていて、楽曲ともミスマッチな感じになってきている。
こうやって聴いていると、マイルスの音楽のある種の清潔さがよくわかる気がする。 コルトレーンの音や演奏には濁りがあって、そこがマイルスの澄んだ
音楽とは相容れない。 離別の時が来たのである。

音質は良好だ。 正規録音と比べても何の遜色もない。 ライヴ特有の空間を感じるような音場感ではないけれど、楽器の音がクリアで聴いていて気持ちいい。
最近のアナログ・レコードの品質の高さを実感する仕上がりだと思う。

ただ、この1枚だけではどうにも物足りない。 どうして全音源をレコードで出さないのかはよくわからないが、これではあまりに喰い足りない。
CDを買うしかないのかなあ、やっぱり。 大手レーベルにありがちな、こういう販売形態のちぐはぐなところは疑問が残る。 貴重な音源なんだし、
演奏の素晴らしさは文句なしなんだから、あたりまえの販売形態にしてもらいたいと思う。 レコードの需要があるのはわかりきっているはず。



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食傷気味、なんて言わずに

2017年03月25日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / On A Monday Evening  ( 米 Concord FAN 00096 0888072019720 )


音質が良好だ。 一番気になるこの点が大丈夫なのは、何より嬉しい。 エヴァンスのピアノの音が我々がよく知っている、あの音だ。
正規録音のような音質なので、これは安心して聴ける。

1976年11月25日、ウィスコンシン大学マジソン校のユニオンシアターで行われたライヴで、エディ・ゴメス、エリオット・ジグムンドの時代のトリオ。
若いマーティ・モレルだとライヴでは張り切り過ぎてうるさい時があるけれど、ジグムンドは趣味のいいドラムを演奏する。 このメンバーは何と言っても、
"You Must Believe In Spring" を創ったトリオだ。 ワーナーの音質はいささか人工着色料的な匂いがしてジャズのサウンドとしては少しクセがあるけど、
こちらのサウンドはそういうところはなく、自然な雰囲気が好ましい。

演奏の質感も "You Must Believe In Spring" とよく似ていて、あのアルバムが好きならこれもきっと気に入るだろう(但し、あんなにおセンチじゃない)。 
収録されている曲も良く、いい作品に仕上がっている。 エヴァンスが晩年に好んで演奏した "Minha (All Mine)" というバラードが特に素晴らしい。 

エヴァンスの未発表録音は一定枚数のセールが見込めるせいか、最近はこうしてよく発売される。 マニアからすればもう食傷気味になってきて、またか、
という感じになっているだろうけど、これは「当たり」なので聴かれるといいと思う。 ジャケット・デザインもDUのブログで見た時はイマイチだなあと思ったけど、
実物は深いインディゴ・ブルーが上品な色合いで思ったよりもいい出来だった。 内容としては良くも悪くもビル・エヴァンス・トリオの典型的な演奏なので
取り立てて新鮮味はないかもしれない。 でも、私はこれはとてもいいと思った。



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やはり素晴らしい晩年のエヴァンスのライヴ

2016年08月27日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Live at Lulu's White in Boston - October 30,1979  ( 英 DOL DOR2085H )


エヴァンスの最後のトリオによる、死の1年前にボストンで行われたライヴ演奏。 この音源自体は前からリリースされていて愛好家にはよく知られたものだが、
私は聴いたことがなかった(というか、エヴァンスの音源は多過ぎてカヴァーし切れない)ので、安価でLP化されたのを機に聴いてみることにした。 

大好きな曲 "Re : Person I Knew" で始まるうれしいプログラム内容で、以下お馴染みの曲が続いて行く。 エヴァンスのピアノはいつもと変わらず
音が美しく、運指もなめらかで、フレーズの構成の仕方もエヴァンス・マナー。 若い頃はブロックコードを多用していたが、後年は広い鍵盤の上を
静かに波を切って進んでいく帆船のようにシングルノートで音を紡いでいく。 

"I Do It For Your Love" ではポール・サイモンが工夫を凝らして編み込んだ複雑でデリケートなコード進行の彩を何とも妖しく再現していて、
エヴァンスが如何に原曲の曲想を適確に捉えてそれを表現できるかというのを証明している。 これを聴けば、きっとポール・サイモンも満足するだろう。

最後の "My Romance" はアップテンポでベースやドラムのソロスペースを大きくとって観客を興奮させて、ライヴは終了する。 こうやって観客を
楽しませる演出も忘れない。 そして、メンバー紹介とお礼の言葉を述べるエヴァンスの声に、涙、涙・・・

観客たちの賑やかな話し声やグラスの触れ合う音が上質なトリオの演奏と混ざり合った至福の時が流れていく。 部屋の中がまるでジャズクラブになった
かのような錯覚に襲われる。 なぜか、こんなに演奏内容が心と身体に沁み込んできたのは久し振りだった。 際立った演奏ということではなく、いつもと
変わらないエヴァンス・トリオの演奏なのに、レコードから流れてくる音が私の心に直接響いてくる。 このレコードはうちのいささかくたびれたオーディオ
セットとは相性がいいのかもしれない。

気になる音質だが、旧いモノラル盤を聴き慣れている耳には音圧はやや低めかなと感じるかもしれないが、音自体はとてもきれいに録れている。
人為的にいじった形跡もなくとても自然な音場感だし、シンバルも粒度の細かいきれいな音で録れている。 ラジオ放送用に録音されたものなので、
十分な設備の下で録られたようだ。 これならMPS2枚組の時のような論争は起きないだろう。



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コルトレーン 最後の1カ月

2016年06月11日 | Jazz LP (復刻盤)

Miles Davis / Live in Stockholm 1960  ( 日 DIW 25006/25007 )


これはブートレグでなく、北欧DRAGONレーベルが発掘した未発表ライヴで、DIWが日本に輸入した時には大きな話題なったのをよく憶えている。
DUで大々的に新譜として売られていたが、まだジャズを聴き始めたばかりだった私はあまりその意味がよくわかっていなかった。

一通り正規録音物を聴いてしまった後でこういう未発表音源を聴くと、その価値というものが本当によくわかる。 コルトレーンがマイルスの下にいた際の
録音としては 59年の"Kind Of Blue" が最後で、61年の "Someday My Prince will Come" のゲスト録音までに2年間の空白がある。 コルトレーンが独立
したのは60年4月末なので、ちょうどこの空白の前半部分はマイルス・バンドでの最後の1年間として最も成熟した時期であったはずだ。 にも関わらずこの
時期の演奏には正規録音がなく歴史的な欠損箇所になっていたところに60年3月のこの演奏が登場したわけだから、如何にそれが重要な価値があるかが
わかるだろう。 これを聴かない手はない。

マイルスのライヴ演奏はアメリカ本国のものよりも国外に出た時のほうが丁寧な内容になっている傾向があって、このストックホルムでの演奏も例外では
ない。 バンドの纏まりよく、とてもデリケートな演奏に終始している。 そんな中で、コルトレーンはもはやこのバンドの音楽とはうまく噛み合わなく
なってきてしまっているのがよくわかる。 マイルスもバンドのメンバーたちもこれがコルトレーンとの最後の演奏になることを残念に思いながらも、
一方ではもうここは彼のいるべき場所ではないことを十分過ぎるほどわかっていただろう。 特にウィントン・ケリーのピアノは好調で弾むように美音を
まき散らしているけれど、コルトレーンの演奏と並べてみるとまるで遊園地の拡声器から流れてくる音楽のように安っぽく聴こえてしまう。 よくマイルスの
バンドメンバーの善し悪し話でハンク・モブレーやジョージ・コールマンがやり玉に挙げられるけれど、私が一番イマイチだと思うのはウィントン・ケリーだ。

モノラルながら録音状態の良さも嬉しく、ポール・チェンバースのベースの音がクリアで大きく録れており、この時のバンドの演奏の良さを際立たせてくれる。
おそらく当時は契約関係の都合で発売することができなかったのだろうが、こうして陽の目を見ることができたのは素晴らしいことだと思う。 未発表音源の
発掘の最も優れたお手本の一つと言っていい。


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十分元は取れた

2016年04月16日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Some Other Time ~ The Lost Session From Black Forest  ( Resonance Records HLP-9019 )


時間が無くて1週間聴かずに寝かせていた話題作、ようやく聴くことができた。 結論から言うと、私は大いに楽しめた。

このレコードは2枚組で、21曲収録されている。 おそらく収録当時に普通に発売されていたら取捨選択されて1枚として発売されていただろうから、
レコーディングされたすべての曲が今回発売されたのであろう。 つまり、出来のイマイチな演奏も「込み」での発売ということだ。
まずはそれを理解しておく必要がある。 だから、"How About You?" のような投げやりな終わり方をしている曲や、ソロピアノなのに精彩に欠ける
"Lover Man" のような曲も中には含まれている。 逆に、"Baubles, Bangles And Beads" や "What Kind Of Fool Am I?" のようなとても良い演奏ももちろん
当たり前に含まれている。 

60年代後半の一般的にはあまり評価されていない時期のエヴァンスの演奏だが、収録された曲を聴いていると、ありふれたスタンダードをいつものスタイルで
「異化」させようと懸命に取り組んでいるのがよくわかる。 それが上手くいっているトラックもあればそうでもないトラックもあるけれど、真摯に演奏に
取り組む姿が鮮明に伝わってくる。 何を弾いても神懸かっていた時期は既に過ぎ去ってしまったけれど、それをわかった上でベストを尽くそうとしているのが
よくわかるのだ。

ドラムの音が奥に隠れてしまってよく聴こえないようなマスタリングになっているけれど、私はエヴァンスとディ・ジョネットの相性が特にいいとは思わないので、
これはさほど気にならない。 少なくとも、それが気になって音楽に集中できない、というようなことはなかった。 また、残響が希薄で音圧が低いというのも、
アンプのボリュームをいつもより上げればピアノの音は一皮むけた音で鳴るので、これも特に問題ないと思う。

"IT's All Right With Me" でのピアノの粒立ちの際立った音の連なりには目を見張るものがあるし、"Wonder Why" でのコードワークは如何にもこの人らしい。
このアルバムを聴いて、初めて "What Kind Of Fool Am I?" という曲の魅力がわかった。

第一印象でノックウトされたり、声高に傑作だと騒ぎ立てるような内容ではないけれど、この時期の他の作品と同じようにじわじわと心に沁みてくるような
内容ではないだろうか。 曲を選別して1枚にまとめたほうが作品としての印象はきっと良かっただろうと思うけれど、私にはこんなにたくさんエヴァンスの
初めての演奏に接することができた歓びのほうが大きい。 十分元は取れたと思う。 シリアル番号は、1390 / 4000 だった。

 

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