

Morris Nanton / Preface ( 米 Prestige PRST 7345 )
試聴の最初の5秒で自分好みのピアノであることを確信したアルバム。「最初の一音を聴いただけで」という言い方は修辞句としての意味は
わかるけど、そんなことは現実的にはあり得なくて実際はもう少し聴くことになるけど、それでもすぐに「これは!」とわかることがある。
エサ箱にステレオとモノラルの両方が安レコとして転がっていたので、迷うことなく両方拾って来た。
ニュージャージのクラブが活動の舞台という典型的なローカル・ピアニストだが、見る人は見ていたのだろう、プレスティッジやワーナーに
アルバムを残している。ジャケットに写る容姿からソウルフルと言われることが多いようだが、実際の演奏はレイ・ブライアントのような、
どちらかと言えば端正でスジのいいピアノを弾いている。クラブの喧騒の中で音楽を聴かせようと普段から強い打鍵で音数多く弾くことで
自身のスタイルが出来上がったのだろう、ここでもそういう弾き方が随所に見られるのでソウルフルという印象が残るのかもしれない。
ただ、そのピアノの音自体は深みとまろやかさのようなものがあって、私はそこに強く惹かれた。音もクリアで真っ直ぐに飛んでくる。
ピアノの音色の良さで聴かせるところが素晴らしいと思った。私はピアノの演奏にリズム感やノリの良さなどは求めない。そういうのは
ベースやドラムに任せておけばよい。ピアノにはこの楽器にしか出せない独特の音色があり、それが聴きたいからピアノの音楽を聴くのだ。
このモーリス・ナントンはそういうピアノ音楽好きを満足させるタイプのピアニストだろうと思う。
ヴァン・ゲルダーの録音とカッティングなのでピアノ・トリオの場合は心配になるが、あまり音を触っておらず、問題ない。
モノラルとステレオも音場感にはさほど大きな違いはないが、時期的には当然ステレオ録音だからステレオ盤のほうが音が自然。
この時期のアルバムは迷わずステレオ盤で聴けばいいのだろう。