廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

実は傑作(3)

2023年05月21日 | Jazz LP (Warwick)

V.A / The Soul Of Jazz Percussion  ( 米 Warwick W 5003 ST )


錚々たるメンバーが参加しているが、誰のリーダー作でもなく、パーカッションというキーワードを出していることから顧みられることなく、
スルーされる不幸なアルバム。メンバーはビル・エヴァンスを筆頭に、カーティス・フラー、ドナルド・バード、ブッカー・リトル、ペッパー・アダムス、
ドン・エリス、マル・ウォルドロン、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、アディソン・ファーマー、その他ラテン系が参加していて、
楽曲によって演奏するメンバーの組み合わせが変わるという万華鏡的スリルがある。

ラテン音楽を基調にしようとするコンセプトになっているが、実際はラテン臭さはなく、ハード・バップが主軸になったとてもいい内容だ。
ビル・エヴァンスは4曲、その他はウォルドロンが楽曲を受け持っており、ここが分水嶺となって音楽の雰囲気が少し違っている。エヴァンスは
ちょうどポートレートの頃の演奏なので一番良かった頃の彼の演奏がそのまま聴けるし、ウォルドンのほうはよりラテン風味を生かした楽曲と
なっていて、カラフルな雰囲気になっているのが好ましい。ウォルドロン作の "Quiet Temple" ではエヴァンスのピアノが真骨頂を見せ、
短いながらもまるで "Blue In Green" の世界を描き出すかのよう。

各楽曲の出来がよく、どれもラテンの哀愁感がよく出ており、音楽的な感銘も受ける。充実した管楽器の演奏も素晴らしく、満点の出来だ。
なぜこんなマイナーレーベルでここまでゴージャスで質の高いアルバムを作ることができたのかはよくわからないけれど、このレーベルは
他のアルバムも質が高いものが多く、いい音楽スタッフがいたんだろうなと思う。こういうところにジャズという音楽の底力を感じる。



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多様性豊かな良質さ

2017年11月04日 | Jazz LP (Warwick)

Curtis Fuller / Boss Of The Soul-Stream Trombone  ( 米 Warwick W 2038 )


大体いつもミドルクラスとして転がっているレコードで、普段から特に熱心にこの人を聴いている訳でもないから長らくスルーしていた1枚だったが、この1か月は
あまりに中古の出が悪く空振りが続くので拾ってみたら、これが意外にも良い内容で驚いた。

このアルバムは、その音楽性の良さで聴かせる作品だ。 アフロ・キューバンな曲があったり、望郷的なスロー・バラードがあったり、と多様な曲調が上手く
配置されていて、カーティス・フラーが引き出しの多いミュージシャンだったんだなということがよくわかる。 J.J.がエスタブリッシュメントとして大手のレーベルしか
相手にしなかったせいでトロンボーンの席が空いていたから引き合いが多かったのかと思っていたけど、案外こういう柔軟な音楽性を発揮したから
いろんなところから声が掛かっていたというのが実態だったのかもしれない。 これを聴いて、ちょっと見直した。

ユーゼフ・ラティーフやフレディ・ハバードも出しゃばらずに控えめなサポートを徹底していて、3管の割にはサウンドが静かですっきりとしているのもいい。
ウォルター・ビショップも趣味の良さとハード・ドライヴィングを両立させた上手いピアノを弾いている。 全体のサウンドが筋のいいハードバップに纏まっていて、
これは極めて良質な内容だと思う。 

J.J.ジョンソンのトロンボーンは本当に上手くて、この人は別格だなといつも思うけど、レコードに関してだけ言えばつまらないものが多く、我々マニアには
親しみにくい存在だが、カーティス・フラーはその逆で、演奏自体はイマイチだけどレコードに関しては良いものがたくさん残っている。 それだけ地に足の着いた
音楽をやることができたということなのかもしれない。 その中でも、これは特に強く印象に残る1枚と言っていい。 他の高額な盤を無理して買わなくても、
手頃な価格で手に入るこれを聴けばこの人の良さは十分に楽しめる。


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ひっそりと存在する隠れ名盤

2014年06月21日 | Jazz LP (Warwick)

Pepper Adams - Donald Byrd / Out Of This World  ( Warwick W 2041 )


中古CD漁りが不調な時に限って探していたレコードに出くわすみたいで、これを購入。 4,500円です。
昔このステレオ盤を持っていて、盤面は疵だらけだったにも関わらず、7~8,000円くらいしたように記憶しています。 安くなったんですね、これは。
だからDUの廃盤セールには顔をみせないのか・・・ 当時からこの演奏が好きで、ここ1年程買う機会がやってくるのを待っていました。

ステレオ盤はまるで教会か洞窟の中で演奏しているみたいなエコーがかかっていてなんかすごいレコードだなあと思っていましたが、
モノラル盤を聴いてみると、こちらも残響豊かな再生音で元々こういう録音だったんですね。 でも、嫌いじゃないです、こういうサウンド。

これは素晴らしい演奏で、音楽的にも大変豊かな隠れた名盤。 ドナルド・バードもペッパー・アダムスも超一流の演奏をひっそりとしています。
"It's A Beautiful Evening" でバードはノンビブラート奏法で素晴らしいバラードを演奏して真骨頂を見せます。 Savoy盤の "I Married An Angel"と
一緒です。 録音の多い彼ですが、こういう演奏を聴けるのは数が少なく、本当に貴重です。 アダムスもいつも通り、バリバリバリッ、っと
空を引き裂くように立ち上がる轟音で演奏に加わってきます。 それでいて全体的に非常にすっきりしているのは、ハービー・ハンコックの
清流のような澄んだピアノのおかげでしょう。 これはハービーの初録音作品で、既に独特の感性で弾いています。

バードとアダムスは一時期スモールコンボを組んで活動していました。 全米を渡ってクラブで演奏し、時々レコードを録音していた。
レコード会社がグループとして売りに出さなかったのであまり知られていませんが、かなり本気で活動していたのだろうと思います。
このレコードを聴けば、その場で集まって始めた演奏ではあり得ない緻密で自然な一体感があります。

彼らはブルーノートの4000番台にも何枚か録音を残していますが、あちらの演奏はなぜか途中で聴き疲れを覚えるのに対して、
この盤は本当にナチュラルで、最初から最後までその素晴らしさに感心しながら聴き終えてしまいます。 このメンバーの演奏では
私はこれが一番好きです。 こういうレコードは常に手元に持っていたい。

ドナルド・バードはハードバップのど真ん中にいた人ですが、この人がコアメンバーとして残した演奏はなぜかコテコテ感がなく、
不思議とさっぱりしています。 何か独特の洗練されたセンスがあったのかもしれません。 トランペットの音も一聴してすぐにわかる、
何と言うか、唇の厚い音、というか何というか・・・・ これも独特の音です。 そういう感性があったからペッパー・アダムスと
一緒に活動できたのかもしれませんね。 

Warwick というレーベルは昔は稀少レーベルとしてそれなりの扱いをされていたように思いますが、ジャズではこれとアンドリュー・ヒルの
"So In Love" くらいしかなかったはずで、そのせいかもう忘れらたのかもしれません。 アンドリュー・ヒルのほうも確かそんなに悪くは
なかったはずですが、ブルーノートの印象からなのか、最近は敬遠されているのかなあ・・・



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