廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

廃盤レコード店の想い出 ~ 川崎TOPS編

2024年07月13日 | 廃盤レコード店

Harold "Shorty" Baker / The Broadway Beat  ( 米 King Records 608 )


ネットを見ていたら、少し前に閉店した川崎の中古レコード店TOPSのご主人だった渡辺さんが亡くなられたらしい、という話が出ていた。
本当なのかどうかは確かめようがないのでそのことにはこれ以上触れず、まだ想い出話をするには記憶が生々しいけれど、それでも楽しく
通ったこのお店への感謝を込めて私の想い出を少し書き記しておこうと思う。

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トップスのことを知ったのはもう十数年前のことで、ネットでレコード店を検索していた中でのことだったと思う。在庫の回転が遅いので
頻繁にお店に行くことはなかったが、四季の移り変わりに合わせて年に4回くらいの感じでお邪魔していた。お店のHPは大体2~3カ月に1度
くらいの頻度で更新されて、新着レコードが店頭に出ていた。最初の何年かはお店に入る時に会釈するくらいだったが、そのうちに少しずつ
お話をさせていただくようになり、後半は毎回小1時間くらい雑談をするようになった。優しく気さくな方で、レコードを買う目的が半分、
雑談する目的が半分くらいの感じでお店に行っていた。

店内の雑然として何もかもが色褪せた感じに最初は面喰ったが、いざ在庫を見ていくうちにこれは尋常じゃないということに気付く。
通ううちに、このお店は国内最高のジャズレコード店だと確信するようになった。

とにかく、各アーティストのアルバムがカタログ番号順的にほとんどと言っていいくらい順番に常時揃っていることが何より驚異的だった。
1枚売れても、いつの間にか欠番が補充されている。買い取りで仕入れたらすぐに店頭に出して、を繰り返すスタイルではなく、店頭には
常時そのアーティストの主要なタイトルは番号順に揃えておく、というポリシーのようなものに基づいてレコードが並んでいた。
もちろん、定番の人気作は何度出してもすぐに売れてしまうので欠番になっているものは多かったが、人気の有る無しや高額低額という基準
ではなく、そのアーティストの作ったアルバムにはすべて同等の価値がある、という考えに基づいて在庫が揃えられているのは明からだった。
だから、あるアーティストのとある地味なアルバムが急に聴きたくなった時にHP上の在庫リストを見るとほぼ間違いなく在庫があるという、
ちょっと他のお店では考えられない買い方ができるところで、そういう意味でここは最高のお店だと私は思っていた。在庫のラインナップは
中古レコード店というよりは、まるで図書館のそれを思わせた。

更に驚かされるのは、それらのレコードの多くが傷のないニアミント状態だということだった。在庫として残っているのは傷盤ばかり、という
他のお店とはまるで違う光景が広がっていた。美品であることをことさら大げさに宣伝する他のお店のようなことは一切せず、美品であることは
当たり前でそれが何か?という感じだった。

値付けは昔の廃盤店のイメージを崩さす、その時の市場価格の動向などに左右されることなく、3千円~8千円あたりが主力帯だった。
高額盤に利益を頼るような売り方はせず、飽くまでもレコード1枚1枚を大事に売っていくというスタイルだった。高額廃盤も少しだがあること
にはあって、店の奥の棚の上にジャケットだけを無造作に少し並べてあった。本当はこんな高いレコードは売りたくないんだけど・・・という
風情で、どちらかと言えば仕方なく出してあるという感じだった。ジャケットだけを古びたビニール袋に入れて立てかけてあるので、中には
湾曲しているものもあったりしたが、そんなことにはお構いなしという感じだった。

渡辺さんのヴォーカル好きを反映してかヴォーカルの在庫が特に充実していて、その物量やラインナップは圧巻だった。ここにくれば大抵の
ものは見つかった。ビッグ・バンドやオールド・ジャズも同様に充実していて、他のお店のように人気が無く売れ残ったから仕方なく在庫がある、
というのではなく、ちゃんと意図して在庫が揃えられていた。

人気のある高額盤や俗に言う「大物」ばかりを仕入れて大袈裟に宣伝して集客するということは一切せず、各アーティストの作品群をレーベル別に
できるだけたくさん揃えて店頭に並べて、それらをリストとしてひっそりと公開し、日々お客さんが来るのを待つというスタイルはおそらくこの
お店以外では見られないスタイルだったろうと思う。渡辺さんに言わせると「全部1人でやっているから大変でそこまでいろんなことはできないよ、
パソコンのこともよくわからないし」ということだったけど、その穏和な人柄の裏には寡黙な哲学が硬い岩盤のように隠れていた明らかだった。

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店を始めた頃はアメリカによく買い付けに行っていたそうで、その時の話を聞くのが面白かった。別に店をやるわけではないけれど、いつか
私もそういう旅をしてみたいと思った。東京の中古レコード屋同士の繋がりの話やお店に来るお客の話や、その他いろんな話をゆるい感じで
よくした。ジャズのレコードが好き、という共通点だけでよくもまあこれだけ話が続くものだと思いながらも、私がそろそろ話しを切り上げて
帰ろうとすると、「そういえば、」とか「ところで・・・」と引き留められることもあったりして、そんな感じだからここに行くときは休日ではなく、
平日に行くようにしていた。

数年前に癌の手術で入院してからはだいぶ気が弱くなったようで、お店を引き継いでくれる人がいないかを探していたりもした。結構問い合わせが
あったらしいけどうまく見つからず、やがては探すのは諦めたようだった。私の印象ではそんなに真剣に探していたような感じではなかったし、
ずっと黒字経営だったことがささやかな誇りだったから、簡単には手放すつもりもなかったのだろう。「どう?買わない?」と訊かれたけど、
そんなお金があるわけないし、来るか来ないかわからないお客を待って店にずっと座っているなんて私にはできないと言うと、笑っていた。

年に数回訪れる程度だったので、行く時はいつもまとめ買いをすることが多くて、毎回1割くらいは値引きをしてくれた。このお店で買ったものは
いつも携帯のメモ帳に記録していて、次に来た時に買おうと思うアルバムを備忘録として書くことにしていた。それによると、私が最後に行った
のは2023年7月1日で、19,000円分買って17,000円に値引きしてくれている。

渡辺さんはHPに簡単なブログを書いていていつもそれを楽しく読んでいたのだが、その年の12月に体調不良でしばらく休むという記事が上がった。
養生に専念するので再開は未定とのことで心配していたが、春先に店の中がすべて片付けられて店舗は空っぽになった。登るのが大変な急な階段の
先にいつも立っていたエリック・クラプトンのポスターも何もかもがきれいになくなっていた。お店のHPも削除されてしまい、もう見ることは
できない。完全に終わったということなんだろう。最後に話した時に倉庫にまだ在庫が2,000枚くらいあると言ってけど、それらを含めてお店に
出ていたあの大量のレコードはどうなったのだろう。

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ここで買ったレコードはたくさんあるが、このショーティー・ベイカーもその中の1枚。ユニオンで出れば2~3,000円くらいなのはわかっている
けれど、こういうオーセンティックで由緒正しいレコードはこういうオーセンティックなお店で買うのが相応しいので、その倍くらいの値段で
買った。盤もジャケットも新品同様である。こういうレコードは持っているだけで嬉しい。ジャケットも最高だ。

ハロルド・ショーティー・ベイカーがワンホーンで軽快に伸び伸びと吹き切る明るく穏やかなアルバムで、エリントニアンのレコードの中では
私はこれが一番好きだ。"Love Me Or Leave Me" や "Close Your Eyes" なんかでは意外とモダンな横顔が垣間見える。本腰を入れて何年も探さないと
手に入らないタイプのレコードだけど、これでしか聴くことのできない愉楽が詰まった素晴らしいレコード。

トップスはこういうレコードと出会える得難いお店だった。レコードを一通り見ようと思ったら1時間ではとても足りず、時間をかけて何枚か
選んで、渡辺さんと他愛もない話をして、傍のドトールで煙草を何本か吸ってから帰る、そういう穏やかな日々は失われてしまったけれど、
その想い出はレコードと共にいつまでも残るだろう。



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ラジオデイズレコード 初訪問

2023年12月25日 | 廃盤レコード店



親戚の法要で12/23(土)~24(日)は名古屋に行っていたが、その隙間を縫ってラジオデイズレコードへ行ってきた。以前から1度行ってみたいと
思っていたレコード屋さんだった。オールジャンルを取り扱っているが、ご店主はジャズのコレクターなので、きっとジャズの中古が充実して
いるのだろう、と思っていたからだ。

店頭に出ている商品数自体は多くはないが、お店の規模感や他ジャンルとのバランスからすればこのくらいが妥当というところなのだろう。
私好みのタイトルの在庫が複数あって、それ以外に買い換え目的の物も含めて、何枚か手にすることが出来た。初めて訪れたお店でこういう
経験ができるのはうれしいものである。これからは時々名古屋に来ることになるので、またお邪魔したいと思う。

帰りの新幹線の中でつらつらと考えてみると、特に目当てのものもなくお店に行って、レコードをパタパタとめくっていたら探していたものに
思わず出会って、ホクホクした気分で帰るというようなことは今年はまったくなかったことに気付いた。東京のお店は概ね週末のセールまで
レコードは抱え込まれていて、Web上の写真とリストで購買欲を煽りながら競争して買わせるというスタイルが定着しているが、そういうのが
嫌いな私などは、ユニオンでめぼしいレコードを買う機会がすっかり無くなってしまった。

たくさんの買い取りが持ち込まれるユニオンのようなところはそうでもしないと商品の回転が悪くなり、キャッシュフローが悪化してしまうので
止む無くやっているのだろうし、買う側もどの店舗に欲しいレコードが出るかが効率良くわかるので、マス的な需要と供給のバランスは取れている
のかもしれない。ただ、私のようにこの趣味に効率などまったく求めていない人間からしたら、こういうやり方は迷惑以外の何物でもない。
中古レコードは1人でコツコツと探すのが楽しいのであって、他人と奪い合いながら買うなんてことはあり得ないことだ。

だから、私のような人間にとっては、ラジオデイズレコードのようなお店があるのは有難いことだ。ご主人と少しお話させていただいたが、
名古屋はジャズのコレクターの数が少ないのだそうだ。そのおかげでエサ箱が荒れていないのだろう。いくらお店側が努力されているとはいえ、
これが東京だったらエサ箱は引っ掻き回されて、魅力のある在庫を常に維持するというようなことは叶わないのではないかと思う。

規模の論理でレコードを流通させる領域とは別に、マニアの気持ちに寄り添ったお店が存在するというのは我々には心強いことなので、
頻繁に行くことはできなくても、これからも頑張ってお店を続けてもらいたいと思う年の瀬だった。



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JUDGMENT! RECORDS 訪問

2022年09月12日 | 廃盤レコード店



ディスクユニオンのジャズ部門統括責任者だった塙さんと新宿ジャズ館の店長だった中野さんが独立して、東中野に新しい店を出した、
ということで、さっそくお邪魔してきた。その名も、"JUDGMENT! RECORDS"。 ( https://judgment-records.com/ )

オープンは10日(土)だったが、私が伺ったのは11日(日)の14時ごろだった。店内の様子やイベントはインスタで見て大体どんな感じかは
わかっていたし、人がごった返す中でレコードを見るのはそもそも嫌いなので、わざと日時をずらして行った。
西口改札を出てすぐのところにあり、アクセスがいい。こじんまりとした感じだが新装開店らしく店内はきれいで、清潔感溢れる印象だ。
奥にはステレオセットとテーブルと椅子があり、試聴は座って聴くことができるし、レジの前にも椅子が置いてあって、座ってじっくりと
検盤することができる。

驚いたのはジャズ専門店ではなく、ロックやJポップも扱っているということ。ジャズは全体の1/3くらいで、まるで新宿ジャズ館の1Fと3Fの
コンパクト版という感じだったのが意外だった。ゴリゴリのジャズ廃盤店なのかと思ったが、想定外にポップでライトな感じなのには面喰った。
まあ、経営を安定させるにはこうじゃなきゃいけないんだろうなと思う。何と言っても、株式会社なんだから。

ジャズの棚を見ると在庫は多くなく、スロースタートなのかなと思い「昨日はどうだった?」と訊くと、いつもの常連たちが押し寄せて来て
「ワーッ!」と言う感じでレコードが売れていった、とのこと。つまりこれは落穂拾いということだけど、まあ、売れたのなら良かった。
この日はサンプル・テスト盤特集が組まれていて、ブルーノートの "Somethin' Else" のテスト盤が25万だったそうだけど、それもしっかりと
売れたそうだ。オープン最初の週末の出だしとしては上々だったのかもしれない。

東中野と言えば隣は大久保で、懐かしいヴィンテージマインがあった地域。30年近く前によく通っていた懐かしい風景とここは重なる。
だから初めて訪れたのに、どこか懐かしさを感じるはきっと私だけではないだろう。個人経営の専門店というのは、そうやってマニアの
記憶に残り続けるものだ。そこにはいい想い出もあれば悪い想い出もあるけれど、それでもそうやってマニアたちの心のより近いところに
存在するのがこういうお店なのである。そういう親密な想い出のようなものは10年、20年というそれなりに長い時間をかけてゆっくりと
醸成されていくものだから、これからも末永く頑張って欲しい、と心から思う。

2人ともその道のプロだからきっとうまくやっていくのだろう。塙さんはやり手の経営者タイプだし、中野さんはこだわりの職人タイプで、これは
面白い組み合わせなんじゃないだろうか。過去の廃盤店の相似形などではなく、きっともっと新しい感覚でいろいろと幅を拡げていくんだろう。
いくら世の中がデジタル化したところで、リアル店舗の存在意義は何も揺るがない。音楽はリアルなものだから。

というわけで、私の初訪問の成果はこんな感じだった。





デイヴ・ベイリーのステレオ盤はモノラル盤と聴き比べするべく購入。コーティングのないジャケットなので年季は入っているが、盤質は上々。
Ex表記だったが、実際はNM-くらいで、こういうところはコンディション査定に厳しい中野さんらしい。「聴いてみましょう」ということで
奥のオーディオでかけてくれたが、その前にちゃんと盤を洗ってくれた。
ディック・ジョンソンは昔は毒にも薬にもならぬ3流アルトだと思って相手にしていなかったけど、こちらが黄昏てくるとこれはこれでアリなんじゃ
ないか、と感じられるようになってきて、ちょうど買い直そうと思っていたところだった。何ともいい加減なリスナーなのだ。



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廃盤専門店の想い出 ~ Last Chance Record 編

2020年01月04日 | 廃盤レコード店

The Modernaires / Juke Box Saturday Night  ( 米 Harmony HL 7023 )


Harmonyレーベルはコロンビアの傍系廉価レーベルで、基本的にはコロンビアの古い音源を大衆向けに再編集して安い値段でレコードを提供していた。
その際にリマスターしていたようで、オリジナル音源よりも遥かに高音質で聴けて、尚且つ安く買える。これも300円だった。昔よく聴いたレコードで、
懐かしいなあ、と思いながら聴いている時に当時の記憶がぼんやりと蘇ってきた。


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私が20代後半だった頃(つまり、30年くらい前)、井の頭線の池ノ上駅近くに Last Chance Record という廃盤専門店があった。改札を出て線路を
渡って、商店街を3分ほど歩いた先にその店はあった。外観はレコード屋という感じではなく、普通の雑居ビルの1Fをちょっと間借りしてます、
という風情だった。

中に入ると、店内の右半分はクラシックの中古、左半分はジャズやソウルの中古が置かれていた。一応、レコード棚は並んでいたけど、店の内装自体は
コンクリートが打ちっぱなしのままで、かりそめに店をやってます、という感じだった。当時、クラシックとジャズの組み合わせの店は珍しく、
初めて訪れた時は驚いたものだ。レジ・カウンターの背面にはバリリQtのウェストミンスター盤が飾ってあったりした。

店員は若い感じで、ロックの店みたいな感じだった。並んでいるレコードも他店のように丁寧にパッケージされているわけでもなく、傷んだビニールに
無造作に入れられていた。如何にも海外のレコードフェアで箱ごと買付けて来ました、という感じで、そういう何もかもが海外の中古レコード屋の
雰囲気を醸し出していた。

そういう日本の感覚からは大きく逸脱した雰囲気が私は大好きだった。値段も概ねリーズナブルだったと記憶している。当時の正統派の廃盤店、つまり
ヴィンテージ・マインやコレクターズ、トニーのような老舗店へのアンチ・テーゼとして、店が始められたような感じだった。そこには暗黙の反骨精神が
感じられた。そういうところも私は好きだった。

まだ自由に使える小遣いも少なかった若輩者としては、ここはありがたい店だった。ブルーノートの4000番台のレコード、ジョー・ヘンやハバードや
ハッチャーソンなんかのレコードは大体5~6千円で転がっていたし、定番の名盤からちょっと珍しい稀少盤なんかもたまに出たりして、行くたびに
おっ!といううれしい驚きを感じることができた。壁に掛かっている高額盤もあったが、大体ほどほどの値段だったように思う。

ヴォーカル物も充実していて、上記のモダネアーズもここで拾った。確か、1,500円くらいだったと思う。高額盤ばかりを執拗に売ろうとする感じは
なく、できるだけ幅広く在庫を仕入れていたようで、とにかく掘ることが楽しい店だった。給料日には定時退社し、よく立ち寄ったものだ。

ただ、さほど長くは営業しなかったように思う。数年後のある雨の日、久し振りに店に行くとシャッターが閉まったままになっていて、それ以来、
シャッターが上がることはなかった。それは寂しい風景だった。

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下北沢周辺は今も昔も若者が独自の感覚で店をやる雰囲気が続いていて、私は好きな街だ。飲食店にしてもファッションの店にしても、ふらりと
入ると色々面白い。新しい店舗が開店し、一方でひっそりと閉店するものもある。その回転率は結構早いみたいだけど、そういうことも含めて
ブラブラと散歩するのは楽しい。それは中古レコード屋も同じで、かなりコアでマニアックな店が現れては消え、を繰り返している。

この街の移り変わる季節の中で、Last Chance Record に通うことができたのは幸せなことだったと思う。もし、自分が中古レコード屋をやるなら、
この店のような感じにしたいなあ、と思うのだ。そういう中古レコード屋だった。


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廃盤専門店の想い出 ~ レコード・ギャラリー編

2017年07月01日 | 廃盤レコード店
我々音盤マニアにとって、中古CD・レコード店はブツを入手するための云わば聖域である。 だから日々足繁く通ったり閲覧しているわけで、そこには一言では
言えないくらいの様々な想いが詰まっている。 このブログではディスク・ユニオンの話は毎回のように出てくるけれど、それ以外のショップの名前は出てこない。
その理由は簡単で、それ以外のお店はどれも個人経営の小さなショップであり、悪い話を書いてしまうとそれはそのまま営業妨害になってしまうからだ。

私が贔屓にしているお店はDU以外にも当然あるけれど、いつも必ず100%の満足感を覚えているというわけではない。 時にはがっかりしたりカチンとくることは
あるのであって、そういう話を書いてしまうと、いくら閲覧数の少ない弱小ブログとは言え、まわりまわって何らかの形でそのお店に迷惑がかかるかもしれない。
読んで頂いた方に悪い印象が残るような話を感情に任せて書くようなことはしたくない。 それはマニアとしての最低限の礼節だと思うからだ。

だから、現存するショップの実名やそこであった話はできるだけ出さないようにしている。 じゃあ、なぜDUの話は書くかというと、ここは巨大ショップで、
私なんぞが何か言ったところでビクともしないであろうから。 それに、もう何年も不愉快な想いはしたことがないから、まあ大丈夫だろうと思っている。

でも、レコード屋は我々のミュージック・ライフには切っても切れない存在なので、時にはそういう話もしてみたいと思うのが人情であろう。 ならば、今はもう
存在しない昔話であればあまり差し支えないのではないか、とあるレコードを聴きながら、ふと思った。 1枚のレコードとそれを買ったお店のことは
意外とよく憶えているものだ。


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昔々、高田馬場に「レコード・ギャラリー」という廃盤専門店があった。 当時早稲田の学生だった私は、講義を受けた帰り道にたまにここに立ち寄っていた。

小田急線の経堂に住んでいた私にとって、早稲田大学に通うルートは4種類あった。 新宿駅西口からバスに乗って教育学部校舎の裏手にある小さな門の
傍にあるバス停で降りるルート、東西線の早稲田駅で降りて正門まで歩くルート、高田馬場駅前と大学を往復するバスに乗るルート、そして高田馬場駅から
歩くルートである。 最初のルートが一番楽だったけれど、その頃よく読んでいた五木寛之の本の中に出てくる彼の学生時代の話で、早稲田まで通う際には
歩いて行くと将来出世するという噂がかつてあった、というのを読んだのが何となく頭に残っていて、私も歩いて通うことにしていた。 でも結局のところ、
その噂話はただの噂であって、出世なんかしなかったのだけど。

「レコード・ギャラリー」は高田馬場駅-早稲田大学を結ぶ大通りから横道に入った神田川沿いにあった。 歩いて駅まで向かう終盤になって、フラフラと脇道に
それて古びたビルの階段を2Fに上がると、小さくて物凄く狭い店があった。 店主の紺野さんは客が来ると立ち上がって何やらゴソゴソと落ち着きがなくなるような
感じのシャイな人だった。 在庫の数はあまり多くなく、レコードの回転も遅くて、大体いつ行っても同じレコードが残っていたように思う。 でも、当時はどこも
大体そんな感じだったし、そのことについて誰も文句なんか言ったりはしなかった。 

ここではスタン・ゲッツやズート・シムズのレコードなんかをよく買ったけど、1番よく覚えているのが初めて見た "Dexter Blows Hot And Cool" だ。
値段は18,000円で、買おうかどうかすごく迷ったのだ。 盤を見せてもらうと細かい傷が全体的にあって、聴かせてもらうとノイズもそれなりにあったので
結局は買わなかったけど、分厚いレッドワックスの本当の初版だった。

金のない貧しい学生だった私に、紺野さんはやさしく接してくれたと思う。 安いレコードしか買わないのにイヤな顔一つせず、気さくに接してくれた。
そんな中で買った1枚がこれだった。



Sarah Vaughan / At Mister Kelly's  ( 米 Mercury MG 20326 )


夜の暗闇の中に光る粋な電飾の看板、雨に濡れたアスファルトの歩道、そういう風景が素敵なジャケットだと思った。 当時からサラ・ヴォーンが好きで
よく聴いていた。 ジミー・ジョーンズ、リチャード・デイヴィス、ロイ・ヘインズという一流のメンバーを常設バンドに従えて行ったリラックスしたライヴで、
"Willow Weep For Me" でのアドリブを入れた観客とのやり取りが楽しい。 ディーヴァとしてのサラ・ヴォーンではなく、彼女の素の部分が見られる
貴重な記録だと思う。

大学を卒業してしまうと自然と高田馬場からは足が遠のいてしまい、気が付くとお店は閉店してしまっていた。 値付けはリーズナブルで高いなあと思ったことは
なかったけれど、少なくとも私が店にいた時にお客が頻繁に出入りしていたという記憶はないし、開店時間になっても店が閉まったままの時も多かったし、
と経営はさほど順調ではなかったのだろう。 当時は他にも廃盤専門の実店舗は多くて買う側の選択肢も広かった中で、立地の悪いあの場所で上手くやっていくのは
元々難しかったんだろうなあと思う。 

今でもこのレコードを聴くと、あの頃の高田馬場駅周辺の風景がこんな感じで蘇ってくる。


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六本木WAVEの想い出

2014年03月22日 | 廃盤レコード店
私がレコード漁りを一生懸命していたのはもう20年以上も前のことで、暇さえあれば都内のどこかのレコード屋に行っていました。
今はレコードを買うために休日に外出するなんてことは全くないのですが、当時は都内にはたくさんの中古屋があって、金はないけど元気だけは
あったので、本当にいろんなところに通っていました。 だから、お店ごとにいろんな想い出があるのですが、その中でも印象深いお店の1つに
六本木WAVEがあります。

当時の六本木WAVEというビルは最先端の映画・本・音楽・ファッションなどの文化の情報発信をしていた、オシャレでハイブロウな処でした。
そのビルの中にジャズとクラシックのレコードやCDが置いてある小さなスペースがありました。 当時はタワーレコードやHMVのようなメガストアが
全盛でしたが、ここはレコードもCDも本当に極々少し並べて置いてある完全セレクトショップで、まるで個人のコレクションを伐り出して売りに出して
いるかのような風情でした。 

ここは何と言っても、当時のDUでは絶対に見ることができなかった欧州ジャズの音盤ばかりが並んでいるのが特徴で、オシャレな雑貨や洋服や
古い映画のポスターなどが間接照明の下で展示されている延長線上に置かれている独特で異質な空間で、そこで数少ない音盤を眺めているだけで
なんだが自分が素晴らしい別の誰かになったかのような錯覚に陥るくらいでした。

ここでは強烈な想い出が2つあって、1つは Thierry Lang を初めて知ったことです。





これは正しくはないかもしれませんが、私の記憶では Thierry Lang を日本に初めて紹介したのはこのお店だったのではないか、という気がします。
DUにも置いていたかもしれませんが、ちょっと憶えていません。 まあ、それだけWAVEでの印象が強烈だったわけです。

ある時、この2枚がフェイスで置かれていて、その後ろに在庫がいつも2~3枚並び、店内では常時これらが流れていました。 当時、こういう
抒情的なピアノの音盤は他にはなかったので、衝撃的でした。 何の予備知識もなかったにも関わらず飛びついて買って、本当によく聴いたものです。
この後少し時間を置いてピエラヌンツィが再発見されて紹介されて、以降、欧州のキレイ系ピアノトリオが大きな潮流の1つとなっていくのですから、
このお店が果たした役割は大きなことだったと思います。 そのエポックメイキングな瞬間を目の前で見ることができたことには感謝しています。


もう1つの想い出は、こういう欧州の廃盤レコードを初めて見たことです。



Rene Urtreger Trio ( 仏 Versailles STDX 8008 )


新品のレコードやCDに混じって、廃盤レコードも常時20枚くらいですが置かれていて、その中にこのレコードもありました。
それはジャケットがシワシワになっていて茶色のシミもついて、まあひどい状態でしたが、それでも確か10万円近い値段がつけられていた
ような記憶があります。 随分昔のことなので正確には憶えていないのですが、それでも当時、そんな値段のレコードは滅多になかったので、
一体これは何なんだ、と驚愕して、私の脳裏に強く焼き付きました。

あれから20年、改めてこのレコードジャケットを眺めながら聴いてみると、当時のいろんな風景が蘇ってきて何だか涙が出そうになります。 

そういう感傷的な想い出があるからという理由だけでこのレコードは手放さずに持っているんですが、実は内容は大したことはありません。
一聴して、なんだ? まるで下手なクロード・ウィリアムソンみたいじゃないか、という感じです。 稀少盤だから褒める人が出てくる、という
パターンの典型です。 音も大してよくありません。 この人は、澤野商会から出ている最近の録音のほうがずっといいです。




Barney Wilen Quintet ( 仏 Guilde du Jazz J-1239 )


これも、そこで初めて見ました。 なぜか値段は全く憶えていませんが、いつも高い値段が付いているので初めから値札を見るのを
諦めたのかもしれません。

これは音が凄いレコードで、スピーカーから音の塊りが飛び出してくる感じです。 よくRCA盤の音が凄いと言われますが、こちらもそういう意味では
負けてないと思います。 このレコードはアルトの Hubert Fol の名演が聴けるし、収録されているスローブルースに素晴らしい名演が残されて
いるので、私はバルネのレコードではこれが一番好きです。


私がレコードの所有枚数なんて少しでいい、と思うようになったのは、間違いなくこの六本木WAVEでの体験が影響しています。
本当に好きなレコードなんてそんなにたくさんあるわけじゃないし、厳選した愛聴盤だけが手元にあって、それらを永く大事に聴ければそれでいい、
と思えるのは、そこにあった知的で親密な雰囲気に強く憧れていたからかもしれません。 少しずつですが、そういう世界に近づいていければ
いいなあ、と思います。



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