廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

マサチューセッツのクリスマス

2021年12月27日 | Jazz CD

Greg Abate / It's Christmastime  ( 米 Brownstone Recordings BRCD 959 )


最近よく聴いているのが、このグレッグ・アベイト。1947年マサチューセッツ州生まれのマルチリード奏者だ。
特にメディアが取り上げるでもなく、誰かが褒めるわけでもない、知名度という意味では完全にマイナーな人。

でも、楽器はおそろしく上手い。一応アルトがメインのようだが、テナーもフルートも吹くし、ソプラノも物凄く上手い。
非常にオーソドックスなジャズを身上としていて、誰かのモノマネではない、自分の音楽をやっている。
音楽の質感は現代ジャズだが、きちんとメインストリームを踏まえたものなので、古いジャズしか聴かない人にも抵抗感なく
受け入れられるだろう。

アルバムもそこそこ出ており、掲載は間に合わなかったがこういうクリスマス・アルバムも出している。
驚きなのが、ハーブ・ポメロイが参加していること。トランジション・レーベルの記念すべき第1号としてリーダー作を出して以来、
目立ったレコードが残っていない彼も、ジャズ・ミュージシャンとして細く長く活動していたということだったのだろう。
彼もマサチューセッツ生まれで、2007年に同地で亡くなっている。

定番の楽曲を主軸に明るく、切ないバラードも交えて闊達な演奏に終始する。ピアノのポール・ブロードナックスが半分くらいの曲で
上手くはないが渋めの声で雰囲気のある歌を歌っており、悪くない。凝ったアレンジを施したものもあったり、と聴き手を飽きさせない
ようにいろいろと工夫を施している。

アベイトのサックスは音が大きく、楽器がしっかりと鳴っており、非常に聴き応えがある。
バラードで魅せる艶っぽさも見事で、クリスマスらしいしっとりとした雰囲気が上手く表現できており、素晴らしいと思う。

このアルバムは1995年に録音されているが、それがちょっと信じられないくらい音がいい。
演奏も良く、音もいいとくれば、これ以上何を望むのかという感じだ。
高名な名前や名盤と褒められるものばかりがいいジャズということでは決してないのだと思う。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無名で居続けることの素晴らしさ

2021年09月25日 | Jazz CD

Tim Siciliano / In The Attic ( 米 Creative Improvised Music Project CIMP #381)  Tim Siciliano / Live From The Past (米 Endeavor Records EV-1401)


こんなに情報がない人も珍しい。1958年ニューヨーク生まれとのことだが、だとすると、これらの演奏は40代の頃のものということになる。
メディアに取り上げらることなく、こうして黙々と優れた演奏活動をしている人は星の数ほどいるだろうが、彼もその中の1人かもしれない。
権威主義が蔓延する日本では、彼のような人はこの世に存在しないにも等しいのだろう。

ピアノなどの鍵盤楽器のいないトリオで、ギターの魅力が最大限に発揮される。誰からの影響も感じさせない、それでいてジャズのスピリット
剥き出しの、素朴でありながらも熱い演奏が繰り広げられる。スタンダードはほぼ取り上げず、オリジナルの楽曲メインでの勝負。

こんなにひたむきな演奏はそうそうあるもんじゃない。いい意味で古いジャズ・ギターの様式からは脱却していて、それでいてメイントリーム
ど真ん中の、カッコいいジャズ。気が付くと、夢中でギターのフレーズをひたすら追い駆けている。

ギターって、いいなあ、と素直に思わせてくれる。そういう意味では、ジャズというカテゴリー感からは簡単に飛び越えて、
ロックやフュージョンのギター名盤たちに匹敵する何かを感じる。音楽とは、本来、こういうものだと思う。

高名になり、大手レーベルと契約すると、定期的にアルバム制作ノルマが課されて、あれやこれやと手の込んだ企画を考えなければ
いけなくなる。そうすると自然な発露が失われていき、音楽も乾いた内容へと干上がっていくだろう。
そういうことから解放されるには、こうして自由な立場で音楽をやるしかないのかもしれない。

マイナーであることと引き換えに手に入れることができた、ありそうでなかなか見つからない、得難いジャズ・ギターのアルバム。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しいクラシックとして

2021年09月08日 | Jazz CD

John McLaughlin / Time Remembered ~ Plays Bill Evans  ( 米 Verve 314 519 861-2 )


1993年のイタリア録音とのことだが、こんな録音があったなんてまったく知らなかった。マクラフリンのいわゆる「名盤」を聴いていると、
なんとなく説教されているような気分になって途中で投げ出してしまうことが多かったから、いつの間にか視界の外の人になっていた。

4本のアコースティック・ギターにアコースティック・ベース・ギターを加えた五重奏をバックに、マクラフリンもアコギ1本でエヴァンスの
作曲した楽曲を奏でる内容。きちんとツボを押さえたプログラムが組まれている。

聴いてみて、これが驚いた。まるでウィンダム・ヒルのウィリアム・アッカーマンかマイケル・ヘッジスですか? という感じの音楽なのだ。
それらをもっと洗練させた、切子細工のクリスタル・グラスのような質感。ひんやりと冷たく、どこまでも透き通っている。

楽曲の骨組みはバックのメンバーに任せて自身はアドリブのリードを取るけど、これがうるさくなくて見事に音楽的。
バックの演奏も恐ろしく上手く、アンサンブルには一糸の乱れもない。物凄く高度にまとまっている。

そして肝心なエヴァンスの音楽としての仕上がりだが、曲想を的確に表現していて、ちゃんとエヴァンスの香りが漂う雰囲気に溢れている。
そういう意味で、このアルバムは合格点を取れているのではないか。これを聴いていると、エヴァンスの作った楽曲の素晴らしさが改めて
浮かび上がってきて、これらは新しいクラシックとして残っていくのだろうと思う。最近、ジャズ・ミュージシャンのオリジナル楽曲を
集めたアルバムを聴く機会が多いけど、彼らの作曲家としての側面を評価するこういう作品群が作られるのは大変意義があると感じる。
アドリブ一発、みたいな聴き方だけがジャズの聴き方ではないのだ、ということを現役ミュージシャンたちが教えてくれるのだ。

30年近く前の録音にもかかわらず、録音も秀逸。上品な残響が響く中、ギターの音色が非常にクリアに録られていて素晴らしい。
"Waltz For Debby" における出だしのメロディーなんて、まるでエヴァンスのピアノの音のようで、細心の注意を払ってギターが
演奏されているのがよくわかる。手抜き一切なしの、マクラフリンが本気で臨んだエヴァンス・トリビュートだった。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夜の記憶

2021年08月24日 | Jazz CD

Jakob Bro Trio / Who Said Gay Paree ?  ( EU Loveland Records LLR010 )


2008年5月にコペンハーゲンの Sweet Silence Studios で録音されたギター・トリオによるアルバムで、スタンダード集だ。
アルバム・タイトルの "Who Said Gay Paree?" というのはコール・ポーター作だそうが、他では聴いたことがない。
また、コルトレーンの "Fifth House" なんかもやっていて、ちょこっと捻りが効いている。

2015年にECMと契約する前は地元の "Loveland" というレーベルから毎年1作程度のペースをアルバムをたくさん出しているが、
日本では当時は「知る人ぞ知る」という感じだったような印象が残っている。ECM契約後はレーベル・パブリシティーの違いから
ようやく認知度が上がったのではないだろうか。私がこれを中古で拾ったのは10年以上前のことで、当時は何の予備知識もなかったが、
純粋なギター・トリオでスタンダードをやっているということと、何となく良さそうな予感を感じるジャケットに惹かれてのことだった。

全編ミディアム~スロー・バラードとして演奏されており、深夜の静まり返った街の風景を思わせる音楽となっている。
ぼんやりとした薄明りの中に浮かび上がる光と影、誰もいない石畳の道、そういう静けさを表現しようとする音楽。
こういう音楽を求める人は多いのではと思うけれど、その存在自体が静かすぎる。

ECM契約後の音楽とは雰囲気が違う。ECMは良くも悪くも音楽をECMの色に染めてしまい、それがアーティストの隠れた個性を
引き出す場合もあれば、ECMの色彩に塗りつぶされてしまう場合もある。このアルバムはそういう懸念とは無縁で、
おそらくこちらの方が彼の素の姿なんだろうと思う。

彼のギターは他の誰にも似ていない。強い個性がある訳ではないが、没個性ということでもない。
古いメロディーを歌うことに没頭しているけれど、音楽自体は現代的な雰囲気に仕上がっていて、その辺りの匙加減が絶妙。

深夜の静けさの中で、誰もが抱えている古い記憶を慈しむような、滋味深い音楽が流れてくる。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

作曲家としてのバド・パウエル

2021年07月09日 | Jazz CD

Rossy & Kanan Quartet / BUD (Swit Records B07CZSTVX8)       Tadd & Thad (Swit Records 8427702900308)


Jorg Rossyのヴィブラフォン、Michael Kananらのピアノ・トリオによるソング・ブック・シリーズで、他にガーシュイン、H.アーレンの
ものも出ているが、それらはアレンジ先行であまり面白くないので、この2枚だけ手許に残した。

非常に素直でオーソドックスな演奏で、好感度の高い内容だ。落ち着いた佇まいで、人のいない小さな美術館の清潔な部屋の中にいるような
気分になる。バップ期のジャズ・メンが作ったオリジナル曲のエッセンスを漏らさず、センスよく纏めた演奏が見事だが、特にパウエルの
楽曲集が秀でた内容だ。

考えてみるに、パウエルの楽曲だけをこうして集めたアルバムというのはこれまでなかったのではないか。そして、パウエルがこんなにも
たくさんの楽曲を書いていて、且つそのどれもが非常に高いクオリティーだったということに改めて感嘆の念を覚える。
この着眼点に感心させられる。

ピアニストは最初はクラシックから入るので概ね音楽の素養がしっかりしている人が多いが、パウエルも例外ではなかった。
モダン・ジャズ・ピアノの開祖としてその演奏方法にばかり称賛が集まるが、パウエルはそのフレーズがメロディアスなところが
実は良くて、それが人々の心を掴むのだ。だから、彼がこういう魅力的な楽曲群を創ったのは当然だったのかもしれない。

"Dusk In Sandi" なんてジャズの曲とはとても思えないし、"I'll keep Loving You" の抒情感もがさつなビ・バッパーの姿には重ならない。
私は "Tempus Fugit" が1番好きな曲だが、ここでの演奏は静かでクールな解釈で、とてもいい。

モンクなんかと同じで、こうして楽曲単位でその魅力を語れるところがパウエルのもう1つの凄さなんだろう。
この見事なアルバムは、それを改めて教えてくれる。もう1つのダメロンとサドの方も、同じように出色の出来で素晴らしい。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

驚きの1枚

2021年07月02日 | Jazz CD

Anne Phillips / Live at the Jazz Bakery  ( 米 Conawago Records 1014 )


レコード漁りが絶不調の中でCD棚を漁っていると、怪我の功名か、思わぬ作品に出合う。私がほぼ唯一(と言っていい)聴く
白人女性ヴォーカルのアン・フィリップスのライヴCDもその1つ。

彼女は1959年にルーレットから "Born To Be Blue" をリリースして、心あるヴォーカル・ファンの気持ちを鷲掴みにしてきたが、
いわゆるジャズの範疇に入るアルバムはこの1作のみ。70年代にもアルバムはあるようだが、どうも内容的にはジャズではなさそうだ。

1作だけでジャズ界隈からは消えたのかと思っていたが、引退したのではなく、裏方としてコマーシャル・ソングを歌ったり、
クラブなどで歌ったりしていたそうだ。そんな地道な活動の1コマとして、2019年に突然このCDがリリースされたらしい。
録音日時は不明だが、割と近年の歌唱なのではないだろうか。ロジャー・ケラウェイのピアノ、夫のボブ・キンドレッドの
テナーとベースによるトリオをバックにスタンダードを歌っているのだが、これが落涙モノ。

それなりに声は枯れてはいるものの、基本的には59年時の歌声の印象とあまり変わらない。当時のストレートな歌い方を土台にして
技巧的に進んだ、それでいて鼻につくことのない「経験を自然に積みました」感の漂う歌唱になっていて、素晴らしい。
ライヴなので、前作よりはくだけた歌い方に当然なっているが、前作の残り香は感じられる。

ケラウェイのピアノが絶品で、夜の静寂の中でゆっくりと静かに進む音楽の印象は "John Coltrane & Johnny Hartman" を想い出す。
観客に語りかける親密な雰囲気、音質の良さなど音楽の背景も申し分なく、しばらく行っていないライヴ特有の情感に酔わされた。
夜、部屋の灯りを落として、酒を飲みながら聴くのにうってつけである。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

静謐な高級感

2021年06月22日 | Jazz CD

Till Brenner / Nightfall  ( EU OKeh 88985492112 )


週末にユニオンに行ったら壁一面にプレスティッジやリヴァーサイドのビクター盤がずらりと並んでいて、驚いた。とうとうこんなことをし出した。
昔のビクター盤はいいレコードなので別に問題はないけれど、本来は壁に飾るレコードじゃない。レコード不足は深刻なのだ。
新入荷にはエヴァンスの「エクスプロレーションズ」が3.250円で転がっていて、違和感のある値付けに溜め息しか出ない。
30分近くかけて在庫を全部見たが買えるものは1枚もなく、さすがに徒労感しか残らない。なので、最近はCDの棚の方をよく見る。

ティル・ブレナーは好きなのでデビュー後はしばらくリアルタイムで聴いていたし、その後も間を置きながらもポツポツと聴いてきたが、
知らないタイトルのものが転がっていたので拾ってきた。大体のタイトルは相場が3ケタだが、これは1,600円と桁が1つ違っている。

ベースとのデュオで、静かな演奏に終始する。高い演奏能力と音楽性で音楽自体に高級感があり、途中でダレることなく最後まで聴かせる。
ジャケットの印象と音楽の内容がピタリと一致している。雰囲気があるので、軽く聴き流してもいいし、正対して聴くにも耐え得る、
という感じで満足感の高い内容だった。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幸せな気分を運んでくるポップ・フュージョン

2021年02月07日 | Jazz CD

Bob James / Foxie  ( 日本ビクター VICJ-61517 )


フュージョンのアルバムはもはや10枚も手元には残っていないけれど、長年のレコード・CD裁判で常に勝ち残ってきた1枚。
もう40年も前の録音ということに改めて驚くしかないけれど、こればかりは好きなんだからしかたない。

これ以上はないであろうポップなわかりやすさ、且つおそろしくレベルの高い演奏力が同居する内容で、まあすごい音楽である。
ボブ・ジェームスのフュージョン・アルバムはおそらくほとんどすべて聴いたと思うけれど、私にはこれを超える作品はなかった。

冒頭の "Ludwig" はその名の通り、ベートーヴェンの第九、第2楽章の変奏だけど、これがいい。まさに才気爆発の感がある。
想像力の力強い翼が奮い立ったような展開で、それを支えるスティーヴ・ガッドのドラムが最高の出来。彼はこの頃がピークだった。
サントリーのCF曲として使われた "Marco Polo" の明るいムードで終わるのもいい。

この人はフリー・ジャズ・ピアニストとしてデビューした訳で、この振れ幅の大きさは一体何なの?という感じだけど、
よくよく考えると、ESPレーベルの音楽が出始めた頃はこれが当時の最先端の音楽だったし、80年代の音楽マーケットでの
フュージョンの勢いの凄さときたら現在からは想像も付かないほどのものだった。つまり、ボブ・ジェームスという人は、
そういう時代の最先端の音楽を見つけるといち早くそこに飛び込み、その中で最良の音楽を生み出すことに生き甲斐を感じた人
だったのかもしれない。アングラだの売れセンだの、そういうことはきっとどうでもよかったんじゃないだろうか。

ハード・バップがもう2度と戻ってこないのと同じように、こういうポップ・フュージョンももう戻ってくることは決してないだろう。
でも、その時代に生きた人にとってはそれが青春の音楽であり、その気持ちが変わることはない。
きっと、それが1番重要なことで、何よりも大切なことなんだろうと思う。

今では80年代という世相へのノスタルジーと、そこにあった独特の雰囲気がいろんな分野で再評価されているけれど、
ボブ・ジェームスのこの音楽もあの時代にしか生まれることのなかったユニークな音楽。
とにかく明るく、わかりやすくて、聴いていると無条件に幸せな気分になれるのだ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャズが本当に好きな人が作ったアルバム

2020年08月04日 | Jazz CD

Kurt Rosenwinkel / Angels Around  ( 日本 Heartcore Records MOCLD-1028 )


この何年か聴くこともなく過ごしていたら、いつの間にか "ジャズ・ギターの皇帝" なんて呼ばれるようになっているらしい。何だかなあ。

コロナの第一波時は新譜CDの店頭試聴ができなくなったのでCDを手に取ることもない日々だったけれど、最近は店頭でも試聴できるようになったので、
気になるものは聴くようにしている。いろいろ聴いた中ではこれがよかったので、久し振りにこの人を聴いている。

私の好きなモンクの "Ugly Beauty" で始まる時点で合格なんだけど、そういう個人的な嗜好を除いても、このギター・トリオのいい意味でざっくりとした、
荒々しさを上手く演出したような上質さはなかなか得難いんじゃないかと思う。ギター、ベース、ドラムという3人の演奏を聴いていると、東京ドームで観た
ザ・ポリスの再結成コンサートを思い出す。アンディ・サマーズが独特な音色で一生懸命ギターを弾いていて、ちょうどこういう感じだった。

これを聴いていて感じるのは、意外なくらいオーソドックスなジャズの質感だ。外見的にはジョン・スコフィールドなんかに近いのかもしれないけれど、
そういう先人たちはもっと意図的に捻じれていたのに対して、カートの方はもっと自然なジャズのフィーリングが漂っている。イマドキのジャズは、
何と言うか、ジャズという音楽を肯定的に捉えているように感じる。

私にはラップと融合することにジャズの明るい未来があるとは思えないし、他のどのジャンルへの接近も同様だ。いろんなヴァリエーションがあるのは
いいと思うけれど、それらはあくまでも周辺の出来事であって、ジャズはあくまでもジャズとして発展していくんだろう。

その際に、こういうジャズ固有のフィーリングみたいなものは必要なんじゃないだろうか。この人の音楽に特に精通しているわけではないけれど、
このアルバムにはケニー・バレルがヴィレッジ・ヴァンガードでクールにキメていたあの頃の音楽と変わらない何かがあると思う。

何より、このアルバムはジャズメンたちの知られざるオリジナル曲をメインに置いているのがいい。
ジャズを聴くのが本当に好きな人しか知らないような楽曲だけが並んでいるのがカッコイイと思う。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デックス愛に溢れた佳作

2020年07月22日 | Jazz CD

Vasilis Xenopoulos / Dexterity ~ The Music of Dexter Gordon  ( AVJ Productions 0006 )


デックスに捧げたアルバム、となれば聴かずに済ますわけにはいかない。特に、私の好きな "Tanya" と "Tivoli" が入っているところに、
このサックス奏者の本当のデックス愛を感じとった。初めて聞く名前で、何者なのかはわからないが、ネットで "Tanya" をちょい聴きして、
これは "買い" だとわかった。

若者らしからぬ、デックス譲りの重厚なテナーの音が素晴らしく、惚れてしまった。素直にデックス愛を披露している純朴さがいい。
ワンホーンを主軸にしているところも潔くていい。ちゃんとオリジナル曲を書いているところもエライ。
10代の頃に最初に買ったレコードが "Go" だった、というのも泣かせる。

"Tanya" は重量級戦車のような出だしのイントロからシビれてしまう。そのあとで始まるテナーのずっしりと重い音色で吹き切る様に
聴き惚れっぱなしだ。素晴らしい。オリジナルはレコードA面全部を使った長い演奏だが、ここではトランペットがいない分だけ短い。
これを持ってきたセンスが素晴らしい。

"Tivoli" もデックスらしい素敵なワルツの曲で、原曲の良さを最大限に生かした演奏になっているのが素晴らしい。
ありがちなチーズケーキではなく、この曲を選ぶセンスがエライ。

「デクスター・ゴードンの音楽」というタイトルもいい。デックスの演奏を「音楽」として愛したことが伺えるではないか。
この若者はよくわかっている。今の状況では難しいかもしれないけれど、いつか来日してくれたら聴きに行きたいと思う。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近聴いてよかったCD

2019年07月10日 | Jazz CD


最近聴いてよかった2枚。 どちらもテナーのワンホーン。

グラント・スチュワートはエリック・アレキサンダーによく似た感じだが、

私はこのグラントの方が好きだな。 しなやかで、クセが少ない。

"いそしぎ" のテーマが抜群にいい。 好きな曲だからうれしい。


ナット・バーチャルはバックのピアノトリオがモロ、コルトレーン・バンド。

ピアノはマッコイ完コピ、ドラムもエルヴィンそっくり。

ナットのテナーはコルトレーンからは上手く卒業できたみたいだ。


今でもこんなオーソドックスなのをやってくれてるなんて。

ジャズはちゃんと生きているな、と安心する。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヒップホップに学ぶ

2018年09月07日 | Jazz CD




8月に一番たくさん聴いた音楽はたぶんヒップホップだった。 暑すぎる日々で何も考える気になれず、頭の中をカラッポにするにはうってつけの音楽だった。

ロバート・グラスパーなんかを聴いただけで「私、現代ジャズのことがわかってます」的態度をとるのって、そういうのはどうなのよ? という違和感が常々あって、
今まで手を出してこなかったヒップホップをいい加減本腰入れて聴く必要があるな、と思うようになったのが最近のこと。 

私がこの音楽のことを認識するようになったのは学生時代に観ていた「ベストヒットUSA」にRun DMCがチャートインするようになった頃だった。 その時は
「何なんだ、この頭の悪そうな連中は」と眉を顰めて無視を決め込んでいた。 私の周りの友達たちも皆同様の反応で、変な世の中になってきたねえ、と
溜め息をついたものだ。 ちょうどこの頃を境にアメリカのポップチャートが面白くなくなってきたこともあり、番組も観なくなった。


それから30年が経ち、ようやく聴いてみようという気になるのだから、自分のアンテナの感度の悪さにホトホト呆れてしまう。 どこから手を付ければいいのか
さっぱりわからないから "HIP HOP 名盤" で検索してみると、こういうのがズラッと出てきて、きちんと解説も付いている。 有難いことだ。
一応このあたりは過去の名盤だそうで、この世界では金字塔ということになっているらしい。

薄々気付いてはいたけど、こうやってちゃんと聴いてみるとわかることが色々ある。 当時のヒップホップは、歌(というか、リリック?)とバックの演奏が
まるでグラスに入れられた水と油のようにきれいに2層に分離している。 バックの演奏は奇妙に冷めた感じの安定したリズムを打ち続けていて、これだけ聴くと
ひと昔前に流行ったユーロビートなんかを思い出させるところがあったりする。 そして、そういう層の上にもう一つ別の層があって、そこでリリックが
ラジオのDJ的に語られていく。 ヒップホップはそういう元々あった色んなものが姿を変えて創り上げられているのかもしれない。

どれを聴いても同じようにしか聴こえないという先入観は間違っていて、やはりアルバム毎に雰囲気が違うという当たり前のことにも気付かされる。
この中ではやはりビースティー・ボーイズだけが異質だった。 黒人音楽とは根本的に違う感じで、発声の仕方といい、リズムのノリといい、ここまで違うのか、
というのは驚きだった。 一応ヒップホップという扱いらしいけど、どちらかというとハード・コア・メタルなんかの方が近いのかな?





そして現代ヒップホップの最高峰であろう、ケンドリック・ラマーも押さえておく。 これを聴くと、上記のアルバム群が "ヒップホップ・クラシックス"
なんだなあということが実感できる。 それくらい音楽的には進んでいるのが素人目にもはっきりとわかるのだ。

この人の音楽は以前の2クラスター構造みたいなものが解消されていて、音楽的にすべてのものが統合されて進んでいる。 ヒップホップが登場する以前の
ポピュラー音楽へと先祖返りしているようなところがあって、そういう意味では私なんかには従来のヒップホップには無い肌触りが心地良い。


まだいい音楽だなという感覚は全然湧いてこないけれど、それでもジャズミュージシャンがこの音楽に接触しようとするのは当然だよな、ということは
よくわかるようになった。 グラスパーの "ブラック・レディオ" シリーズは本当によく出来ている、と改めて思う。 それはジャズの側から見ただけでは
わからないことなんじゃないか、という直感は間違っていなかったということなんだろう。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ただの稀少廃盤ではなかった

2018年08月22日 | Jazz CD

Enrico Pieraninzi / In That Dawn Of Music  ( 伊 Soul Note SNMJ 003-2 )


その道では有名な稀少廃盤CDだったらしい本作が再発されたとのことで、店頭試聴してみると、冒頭の "王子様" が見事な演奏だったので購入した。
ピエラヌンツィの稀少廃盤はもう1枚の方(ライヴ盤?)がこの世界では横綱格のようだが、よくわからない。 どうせならそちらも再発してくれればいいのに
と思うけれど、何か事情があるのか、今のところそういう話はないようだ。 廃盤云々の話は置いといても、昔のピエラヌンツィの演奏なら純粋に聴いてみたい。

これはアルバムとして制作されたものではなく、90~93年頃の欧州各地に散らばっていたラジオ放送音源などを集めて雑誌の付録として世に出されたものだそうだ。
だから、メンバーはバラバラ、演奏も音質も統一感なし、という建付けだが、さすがにピーク期にあたるだけあってビックリするくらい素晴らしい演奏がある。

特に凄いと思ったのは冒頭の "王子様"、5曲目の "Je Ne Sais Quoi"、7曲目の "In That Dawn Of Music"。 "王子様" はトリオとしての互角な
取っ組み合いの様がマイルスの第二期クインテットのようだし、5曲目はエヴァンス派の真骨頂、7曲目はアルトのワンホーン・バラードの傑作。
この3曲は、この人にしかできない、他人を寄せ付けない音楽だ。 つまらない演奏も含まれてはいるけれど、これは寄せ集め音源なのだから曲単位の評価で
十分なのではないか。

高額廃盤で実際に聴いている人が少ないせいか、この手の音盤はネット上に評価が見当たらない。 だから、こういう再発には意味があると思う。
音楽は聴いてナンボ、の世界である。 これはただの稀少廃盤ではなかった。 オリジナルがどうだったのかはわからないが、このCDは音質も素晴らしく、
イマドキのCDは凄いなあと思う。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽曲最優先の正統派マイナー欧州ジャズ

2018年05月05日 | Jazz CD

Noel Kelehan Quintet / Ozone  ( アイルランド Cargo Records CAR001FCD )


新譜CDコーナーの筆頭場所に大量に飾られていた。 アイルランドのグループが1979年に録音した日本では初めて紹介されるアルバムとのことだ。


------------------------------------------------------------

移転後の新宿ジャズ館はレコードとCDがワンフロアに同居していて、まだ頭の中で地図が出来上がっておらず、どこに何が置いてあるのかがよくわからない。
CDコーナーは以前よりも手狭になったような印象で、新品と中古と高額廃盤が混在しており、なんだかよくわからない。 新譜の試聴もできるのかできないのかも
よくわからない。 バイヤーズ・マンスリー・セレクトはどうなるんだろう。 あれは続けて欲しいんだけどな。 

レコード・コーナーが広めに場所取りされて優遇されている分だけ見易くなったのはいいけれど、その代償としてCDが割を食わされた感じだ。 
やはり高収益事業分野には敵わない、ということなんだろう。 分野別の優劣の差が露骨に出ている。

------------------------------------------------------------


ブログに紹介された時はマイルスの影響を受けた、と書かれていたが、聴いてみるとマイルスの影はどこにも見られない。 どちらかと言えば、晩年の
アート・ファーマーが若いテナーと組んで、ヨーロピアン・ジャズ・トリオをバックに北欧の最新スタジオを使って録音しました、という感じだ。

楽曲の出来の良さを最重視した作りで、非常に上質で洗練されていて、ジャズというよりはジャズのテイストで包んだ映画のサウンドトラック、という質感。
まあ、「如何にも」という感じで仕上がっている。

リーダーのノエル・ケレハンはクラシックの教育を受けた作曲家兼アレンジャー兼ピアニストとしてイギリスやアメリカのラージ・アンサンブルで研鑽を積んでおり、
それがこの楽曲優先の音楽へと繋がってきているのだろうと思う。 どの曲も適度に翳りを帯びた哀愁が漂い、こういうのが好きな人なら悶絶必至だろう。

最新リマスターされているとのことで、CDの音質は極めて良い。 録音当時のアナログの質感はきちんと残しながら深みのある透明感高い残響の中で
音楽が鳴っており、音響的快楽度は高い。 最近のCDの高音質さには本当に驚かされる。 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジョー・ヘンダーソンの最終作

2018年03月21日 | Jazz CD

Joe Henderson / Porgy & Bess  ( 米 Verve 314 539 046-2 )


ジョー・ヘンダーソンをボチボチと聴き直している。 勿論安レコの範囲ではあるけれど。 それでも作品はたくさんあるので、気長に楽しめそうだ。

これは最終作ということもあって好意的に語られることの多いアルバムで、私も心情的にはまったく同感なのだが、内容についはもろ手を挙げて素晴らしい
とは言えないというのが正直な感想だった。 好きな題材だし、参加メンバーも豪華で稀代の名盤になってもおかしくないところだが、なかなか難しい。

スティングが参加していることやボブ・ベルデンが音楽監督だというのに惹かれて楽しみにしていたのだが、聴き進めていくうちに最初の期待が徐々に
しぼんでいく。 音楽の核になるようなものが欠けているような気がする。 本来であればそれはヘンダーソンのテナーであるべきだけど、老齢の彼には
それが望めないのは初めからわかっているのだから別のものを用意するべきなのに、どうもそれが見当たらない。 豪華なメンバーを集めたことだけで
終わってしまっていて、後は彼らにお任せしてますから、という感じだ。 普通の作品ならそれでいいだろう、でも、これは "ポーギーとベス" なのだ。

古い時代のサウンドではなく録音当時の現代的なサウンドを志向していてそれはとてもいいのだが、力に欠けていて散漫な感じになっている。 目の粗さが
目立つし、トータルコンセプトみたいなものが最初から設定されていないようだ。 これなら、この題材にする必要はなかったんじゃないだろうか。

楽曲単位で見るといい曲は何曲かある。 スティングが歌う "It Ain't Necessarily So" はさずがに聴かせる。 "Summertime" のサンバ・ヴァージョンは
リズム感が素晴らしく、全体のアンサンブルも纏まっていて、これは圧巻。 ヘンダーソンがワンホーンで唄う "I Love You,Porgy" の深い情感も
素晴らしい。 そういう風に部分部分でみれば魅力的なところは色々あるけれど、アルバム全体から受ける印象がとても弱いのが残念だ。

ヘンダーソンのテナーは悪くない。 もちろん若い頃の覇気や強いトーンはもう無いけれど、私はこういう音や演奏は好きだ。 ずっと聴いていたいとさえ思う。
でも、音楽全体の建付けの悪さがアルバムの最終的な印象の足を引っ張っていると思う。

写真に移るヘンダーソンの小さくなった身体つきを見ると、やはり切ない気持ちになる。 本当は色んなことに目をつぶって聴くべきなのかもしれないけど。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする