廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

新たなる希望

2016年12月31日 | Jazz LP (Europe)

Gidon Nunes Vaz / Night Life  ( 蘭 Tritone Jazz Records 8719326027715 )


2016年最後の記事は、やはり今年リリースされた新作で締めようと思う。

今年公式デビューしたオランダの25歳のトランペッターで、驚くことにこれが3作目になる。 第1作目、2作目とも中古ではよく見かけたけれど、視聴した
限りではあまり印象に残るところがなくて見送っていたのだが、これはレコードでも発売されることやジャケットデザインもカッコよかったことから、
レコード発売と同時に買ってみた。

3管セクステットの現代の上質なハードバップが展開される。 DUのブログでは往年のブルーノートの名前が引き合いに出されているが、あまりそれを
思い出すようなところはなく、どちらかと言えばそういう過去の遺産を昇華した典型的な現代ジャズになっている。 欧州ジャズの胡散臭さがなく、
アメリカの若手が演奏しているような雰囲気になっているところが面白い。 現代のジャズを「ジャズらしさがない」と嫌う人も、これならそういう違和感を
感じることなく聴けるんじゃないだろうか。 特にバラードの出来がとても良いと思う。

全体的に非常に洗練されていて、ムラのないきめ細かな演奏に終始していて、3管のアンサンブルもアクセント程度の使い方でセンスもいい。 優秀な若手が
揃ったんだなあ、と感心させられる。 まだ25歳ということで、音楽には深みのようなものが欠けているけれど、それは今後のお愉しみというところだ。
ジャズで食っていくのはなかなか大変だろうと思うけど、志を忘れずに続けていって欲しいと思う。 バラードの上手い人は大成するはずだ。


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普通のニュースなどでもアナログ・ブームが取り上げられたりして、今年は特に新作のアナログ・リリースが目立っていたと思う。 イマドキのアナログはプレスも
丁寧で、うるさいマニアの目から見ても合格点が出せるものが多い。 今回のギドン・ヌネスだって、ジャズファンにアピールするにはレコードでの発売が
有効だということをわかってのことだろう。 こういうのはいいことだと思う。 私もこの作品がCDだけのリリースなら買っていなかったと思うからだ。
来年もこういう新作のアナログリリースが増えていってくれるといいな、と願いつつ、今年最後のブログを閉じようと思う。

当ブログを訪問して下さった皆様には深く御礼を申し上げます。 よいお年をお迎え下さい。


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2016年を振り返る

2016年12月30日 | Jazz雑記
2016年は何をしていたのかと振り返ってみると、結局のところ、安レコ漁りをしていたということに尽きるということがわかった。 何か特定のテーマに
ハマることもなく、ただダラダラと目に付いた安レコをボソボソと抜き取り、週末にぼんやりと聴いて過ごしていただけだったような気がする。 色々と
疲れることが多かったせいもあって、現代の新しい動向に積極的に首を突っ込む元気も出ず、古い音楽ばかり聴き返していた。 

幸いなことに後半は中古レコードが値崩れし始めて、今まではわざわざレコードで聴かなくてもいいや、と思っていたような作品の多くをレコードでも聴く
機会が増えた。 そんな中で、ブログではあまり触れることができなかったけれど、エヴァンスの後期のアルバムを意識して買ったのが唯一の成果かもしれない。








こういうのを買い始めたきっかけは春先にリリースされて話題になったMPSの未発表アルバムで、後期の作品をレコードで聴くとそれまでCDで聴いていた
のとはまた違った印象を持てることがわかったからだと思う。 それに何と言っても、値段が安い。 高くても4,000円+税、安いのは500円+税、平均すると
2,000円前後だと思う。 だから手持ちのCDは売り払って、これらのレコードに切り替えた。 

コレクターからは相手にされないこれらの作品だけど、私は後期の演奏には後期の良さがあると思う。 レコードで聴くとそういう想いが一層強くなる。
そのあたりの詳細は、これから1枚ずつぼちぼちと書いていこうと思う。 



レコード愛好家の間で話題になったのは、US高額廃盤の値段の異常な高騰だった。 昔から高い値段を維持してきた特定の数枚だけではなく、それまでは
普通に買えたような作品まで常軌を逸した値段になって、そんなことに振り回されることなんかないのに、それでも多くの人が右往左往させられたようだ。 

誰もがこのレコードの適正価格はこれくらいという物差しを持っていて、それと比較して「なんじゃ、これは!」と思わず吠えてしまったタイトルが
いろいろあっただろうと思うけど、私の場合の「なんじゃ、これは!」はこの2枚だった。





年末セールでこれが2枚セットで、188,000円という腰が抜けるような値段になっていて、その日のうちに売れていた。 これには心底たまげた。
3年前にこれらを買った時は、各々が完オリの良好な状態で20,000円台前半だった。 まあ、ギリだな、と思ったから買ったけれど、今も昔も
ブレイキーのレコードなんてブービー賞でしょ? (最下位はもちろんジミー・スミス。 音楽の話ではなく、廃盤価値としての話なので念のため。)

私にはこれが今の適正価格だ、とは思えない。 異常だと思う。 その他の多くが値崩れしている代償として、単に価格操作されているだけだ。
レコードが全体的に安くなっているんだから、その分買う側には余裕ができて、行って帰ってきてトントンでしょう、と店側は言うかもしれないけど、
そんなことはない。 1枚あたりの値段が下がれば、できるだけたくさんの音楽を聴きたいと願う普通の音楽好きはその分枚数を多く買う。 だから、
高額盤の値段が高騰すればその分が単純に負担増となるだけなのだ。 さらに、高額盤しか欲しがらないハード・コレクターには価格低下のメリットは
効いてこないんだから、こちらも単純に負担増となるだけだ。 

そんなこんなで、2016年は安レコ漁りに終始した、ということなんだろうと思う。 ただ、私の場合は3大レーベルの定番たちには既に食傷気味なので、
特に不都合はなかった。 中古レコードというのは「安い時に買って、高い時に売れ」というのが大原則である。 だから、これまで聴く機会のなかった
地味な作品を聴くことができたのだから、案外有益な1年だったのかもしれないな、と思う。


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深夜のジャズを聴こう

2016年12月25日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis / And The Modern Jazz Giants  ( 米 Prestige PRLP 7150 )


別の意味で、ジャズの世界ではこれもクリスマス・アルバムと言ってもいいだろうと思うけれど、でもこの作品を語る際に例の裏話だけで終わってしまう
ことの何と多いことか。 だから、もっと別の話をしよう。

私はマイルスがプレスティッジに残したアルバムの中では、これが一番好きだ。 なぜなら、これは深夜の暗い闇の中で鳴っている音楽だからだ。

ジャズという音楽は、本質的に夜の音楽。 昼間の野外でぎらつく太陽の下で汗を吹いてビールを飲みながら聴く音楽ではない。 月並みな偏ったイメージだと
笑われても、事実は変わらない。 仕事が終わり、1日が終わるまでの僅かに残された自由な時間に、失いかけた自分を取り戻すために聴く音楽ではないだろうか。

灯りの落ちた深夜の暗いスタジオの寒々とした空気の中、冷たいシリンダーから憂いに満ちた音色が放たれ、トランペットの伸びやかで起伏の少ない旋律が
朗々と響き、単音でポツリと呟くようにピアノが鳴る。 音数の少ない広々とした空間の中、孤独なウォーキング・ベースの重い音色が音楽の骨格となり、
曲を前へ前へと進めていく。 テンポ設定は速めなのに、まるで深夜のバラードを聴いたかのような深い余韻が残る。

この演奏には単なるスタジオセッションでは終わらぬ、何かがある。 そして、それは大きな手で聴いている私の心を鷲掴みする。 プレスティッジの
RVG録音の中でも最も素晴らしい音響が聴けるものの1つとして、音楽が迫って来る。 あまりに叙情的で感傷的な音楽で、言葉もなく感動しか残らないのだ。



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クリスマス・レコードを愉しむ

2016年12月24日 | Jazz LP (Vocal)

Dick Haymes / Christmas Songs  ( 米 Decca DL 5022 )


クリスマス関連のレコードは愉しい。 見かけると、なぜか嬉しい気持ちになってしまう。 特に、こういう古いレコードの方がクリスマスの雰囲気には
似つかわしい。

ディック・ヘイムズのこの10インチにもクリスマスの厳かで、それでいて親密な雰囲気が詰まっていて、ターンテーブルに載せてゆっくりと回転し出すと、
窓の外で雪が降っていなくても、暖炉で薪がパチパチと音を立てて燃えていなくても、部屋の中はクリスマスのムードに包まれる。 音楽の力はすごい。

クリスマス・ソングは男性ヴォーカルの方がしっくりくる。 ビング・クロスビーやナット・キング・コールの歌のイメージのせいかもしれないし、もともと
キリスト教が男性中心の物語だからかもしれない。

このレコードも本当は稀少盤で、お金を出せば買えるという類のレコードではない。 30数年の猟盤生活で2度目の邂逅。 それなのに、540円也。
神様に叱られそうな値段だ。




Bing Crosby, Danny Kaye, Peggy Lee / Irving Berlin's White Christmas  ( 米 Decca DL 8083 )


1954年公開の映画 "ホワイト・クリスマス" の中でビング・クロスビーとローズマリー・クルーニーがデュオで歌い映画はヒットしたが、クロスビーはデッカ専属、
ロージーはコロンビア専属ということで映画のサントラが作れなかったため、デッカがペギー・リーをロージーの代役にして同年に作成したアルバム。

ホワイト・クリスマスと言えばビング・クロスビーだけど、定番の白いジャケットのもの以外にもこういうレコードも作られているということで今回はこちらを採用。
独唱も素晴らしいが、デュオで歌われるヴァージョンも同様に素晴らしい。 アメリカ音楽の良心が詰まっている。

これも一連の安レコ買いの中で拾ったもので、980円。 今年のクリスマスは心もお財布も暖かい。


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おちゃらけと敬意と

2016年12月23日 | Jazz LP (Columbia)

V.A / Jingle Bell Jazz  ( 米 Columbia CL 1893 )


コロンビアお得意の企画物だが、さすがはメジャー・レーベル、大物が勢揃いしていて唸らせる。 しかも、各曲ともこれがオリジナル収録なのだから、
素通りするわけにはいかない。 これはサンタさんからのプレゼントなのか、と言いたくもなる。

オープニングはいきなりデューク・エリントン楽団の "Jingle Bell" で始まる。 おもわず踊りだしたくなるような軽快な演奏だ。 チコ・ハミルトンが
バラード調のアレンジを施した"Winter Wonderland" ではチャールス・ロイドのアルトがメロディーを切なく唄う。 "われらは来たりぬ" ではポール・
ホーンがニュー・ジャズ風の演奏で厳かな雰囲気を上手く表現し、ブルーベック・カルテットは "サンタが街にやってくる" を受け持ち、デスモンドが
ソフトタッチで優しいメロディーを吹き進む中、鐘の音が鳴る。

そして、最後はこのアルバムの真打ちの登場、マイルス・デイヴィスの "Blue Xmas (To Whom It May Concern)" 。 ポール・チェンバース、
ジミー・コブ、ウェイン・ショーターという過渡期ならではの有難いメンバーが揃う涎ものの演奏のはずが、ワケのわからんボブ・ドローのヴォーカルが
全てをぶち壊して聴き手がズッコケて呆然とする中、アルバムは幕を閉じる。アメリカ人のユーモア感覚なんだろうけど、私にはイマイチよくわからない。
記載されていないけど、これは間違いなくギル・エヴァンスがアレンジしている。

最後に大オチがつく遊び心から作られたアルバムだけど、実は原曲の持つイメージを大切にしていて、それを一番生かすことができる人をコロンビアと
契約中のアーティストの中から選んで充てている。 これはつまり、アメリカ人のクリスマスへの深い敬意と愛着に満ちている作品なのだ。 

それにしても、ジャズとクリスマス・ソングは相性がいい。 そういうところに、ジャズという音楽の本質が隠れているような気がする。



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才能を生かそうとしないピアニストの肖像

2016年12月18日 | Jazz LP (Argo)

Ahmad Jamal / Chamber Music Of The New Jazz  ( 米 Argo Creative No.602 )


マイルスとの件を引き合いに出されなければ語られることがないように、実はあまりきちんとこの人自身の音楽が語られることは少ない。 そもそも、
現在に至るまでの膨大な数のアルバムをちゃんと聴いている人なんてほとんどいないのではないだろうか。 50年代に残されたアーゴやエピックの
レコードを少し摘まんで、そこで終わり。 私の場合はもっとひどくて、エピックの作品すら聴いたことがないし、これからも聴く気にはなれないだろう。
はっきり言って、つまらないのだ。 このアルバムは "New Rhumba" が名曲だから辛うじて手許に残っているだけで、聴くときも1曲目が終わったら
後は惰性でA面が終わるまで流して、それで棚にしまってしまう。 

ドラムレスにギターが加わったトリオ形式だが、レイ・クロフォードのホーンライクなギターが実質的には演奏をリードする建付けとなっていて、ジャマルの
ピアノはオブリガートに回る比率が高い。 確かにこの人のピアノは黒人ジャズピアノらしくない清潔感の高いきれいな音で、奏でる旋律もバップからは
解放されていて、ハービーやキースの演奏を先取りしているようなところがある。 マイルスが惚れたのはそういう新鮮な感覚に対してであったのに、
ああいう風に弾け、と言われたガーランドは少し誤解していたんじゃないかと思う。 私がジャマルを聴いたのはマイルス・コンボを聴いた後だったが
(多くの人がそうだろう)、ガーランドと比べてみて、なんだ、全然違うじゃないか、と思ったものだ。

私の知る限りではトリオ形式にこだわり、ホーン奏者などの録音に客演することはなかったようだが、そういう頑なに保守的な態度が明らかにこの人の
音楽的な発展を阻害していて、作品をつまらないものにしてしまっている。 せっかく他の人にはない優れた感覚と確かな技術があるのに、それを生かそう
とする姿勢がなかったのは残念だし、これでは芸術家とはとても呼べない。

このレコードはパロット・レーベルがオリジナルなので、このアーゴ盤はセカンドレーベル・リリースになる。 パロットは1952年に設立されて1956年に
倒産したシカゴのマイナーレーベルで、SPやEPで主にブルースのレコードを細々とリリースしていた。 たまに見かけるパロット盤のほうはどれも状態が悪く、
買う気になれない。 まあ、内容も内容なので、安いアーゴ盤で十分である。


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ポール・デスモンドの考えるジャズ

2016年12月17日 | jazz LP (Fantasy)

The Paul Desmond Quartet featuring Don Elliott  ( 米 Fantasy 3235 )


貴重なポール・デスモンドのリーダー作だが、このジャケット・デザインはある意味この人の音楽的特徴を上手く暗示している。 サン・フランススコ在住の
女性画家が描いた絵画を採用している。 大人が描く子供が描いたような絵を観る時に感じるある種の奇妙な感じ、それはデスモンドの一見無拓で
清らかなアルトが、実はそういううわべだけの印象ではその本質を語ることはできないとすぐに悟る時に感じる居心地の悪さと共通している。

サックスとトランペットの2管でピアノレスという形はマリガン・カルテットを意識したものだろうけど、デスモンドの麗しい音を堪能するにはバックで
鳴る和音楽器がないほうが好ましい。 ベースとドラムスは当時のブルーベック・カルテットの2人で、終始控えめにリズム・キープするだけのスタイルで
あることも幸いしている。 デスモンドは自分が演奏している最中に背後でうるさくやられることをとても嫌ったから、これは理想的な演奏だったのだろう。
ドン・エリオットもトランペットとメロフォンを交互に持ち替えて、そのとぼけた音が全体のサウンドを穏やかでまろやかにしている。

どの曲も落ち着いたミドル・テンポ設定で、非常に穏やかで上品なテイストに満ち溢れている。 でも、マリガンやゲッツらのような乾いたサウンドとは違い、
適度の湿度と潤いを湛えたみずみずしさ(なんだか女性のお肌の話みたいだけど)があり、ほんのりと芳香漂うような色香がある。 そういう印象とは裏腹に、
デスモンドのアルトは弱々しいどころか、力強く生々しいサウンドで鳴っていて素晴らしい。

西海岸の白人ジャズではあるけれど、ポール・デスモンドはアンサンブル形式を嫌い、あくまでも東海岸のアドリブ主体のジャズにこだわり続けたので、
音楽的には王道のジャズになっているのが非常に好ましい。 ブルーベックが苦手な人でも、これならきっと愉しめるだろう。


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セカンドプレスの勝利

2016年12月11日 | Jazz LP (Verve)

Charlie Parker / Now's The Time  ( 米 Verve MG V-8005 )


結局、ここに戻って来てしまうということか。 いろんなタイプのジャズを聴いてみても、最後はここに戻って来てしまう。

この不遜に据わった目付きはどうだろう。 何を見ているのかはわからないが、どことなく恐ろしい目付きだ。 アルトの音も、演奏するフレーズも、
そしてその外見も、すべてがデーモニッシュな人だった。 すべての面に静かな狂気を湛えている。 この人が演奏している映像を見ると、まっすぐに
前を見据えるその姿は、どこか仏像を連想させる。 人間が昇華して、何か別の存在になったかのような、そんな印象を強く受ける。

ブルース形式の曲がメインとなっているけれど、パーカーの演奏はあまりにもスピード感高く端正で張りが強いので、ブルースにはまったく聴こえない。
ブルースを演奏しても、その独特の雰囲気が支配的なこの形式すら跳ね返してしまうのだ。

パーカーの録音の中では、この時のセッションが最もきれいな音質でパーカーのアルトが録れている。 私はダイヤル・セッションが嫌いで全然聴く気に
なれないし、たくさんあるブートレグもさほど熱心に聴くこともない。 やはり、パーカーはノーマン・グランツ時代が一番いい。

この演奏はSPからLPへの移行時期だったため、クレフから10インチのSPとLPが同時発売されていて一応それらがオリジナルということになるけど、
"Now's The Time"といえば、この12インチの青いジャケットで聴かないと全く雰囲気が出ない。 セカンドプレスにもかかわらず、初版と比べても
音質だって別に遜色ない。 10インチには収まらなかった別テイクが収録されているけれど、演奏レベルはまったく一緒で単にスペースの都合だけで
外されていたのがわかる。 ならば、すべて聴きたい。 こんなにも素晴らしい演奏なのだから。 このレコードはセカンドの方が勝ち、である。




Charlie Parker / Charlie Parker  ( 米 Clef MG C-157 )


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フォー・フレッシュメンも真っ青

2016年12月10日 | Jazz LP (Argo)

Dick Lane Quartet / Without Sauce  ( Argo Creative No. 605 )


フォー・フレッシュメンも真っ青のハイパー・コーラスで疾走する様が心地よい衝撃を与えてくれる。 ビーチ・ボーイズを筆頭に、フォー・フレッシュメンの
広範囲に渡る影響力の大きさをここでも改めて思い知らされることになる。 

甘ったるいバラードなどは排し、テンポのいい楽曲ばかりで全編通しているのでダレるところがなく、それが非常に好ましい。 コーラスのバラード曲は
上手く仕上げるのは難しいので、そういうリスクを最初から排除しているのは正しい判断だと思う。 "Bye Bye Blackbird" や "That Old Feeling"
のような古い曲も目の覚めるような新鮮な響きに塗り替えられており、才気豊かな勢いみたいなものを感じることができる。

コーラス(和声)はすべての音楽に共通する最も重要な要素の1つ。 グレゴリアン・チャントを持ち出すまでもなく、その起源は音楽発祥の時点にまで遡る。
そういう原始の姿のまま生き残り続けるコーラスという形態はいつの時代においても人々の心に響くものだし、近年では The Real Group などの極めて
優れたグループを生み出し続けている。 このディック・レーン・カルテットも、そういう系譜に名前を残すべき素晴らしいコーラス・グループだと思う。

Argo初期のボート・レーベルのこのディスクは音質も良く、くっきりとクリアで音圧の高いサウンドでこの素晴らしいコーラスを再生してくれる。
音楽的な満足度の高さと高品質な音場感が上手く結びついて、豊かな時間を過ごせることを約束してくれる隠れた傑作。

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今週はUS買い付けロー・プライス品が少し品出しされていて、5枚ほど拾ってくることができた。 これはその中の1枚。 安いなあ、とため息をつきながら
帰ってきた。 ただ値段が安いだけの品揃えではないところに意味がある。 愉しい漁盤はまだまだ続く。


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秋吉敏子でございます・・・

2016年12月04日 | jazz LP (Metro Jazz)

秋吉敏子 / United Notios with Toshiko And Her International Jazz Sextet  ( 米 Metro Jazz E 1001 )


「秋吉敏子でございます。 わたくしのインターナショナル・セクステットをご紹介致します・・・」というアナウンスで始まり、"My Name is・・・" という
各人の自己紹介が続く、異色のオープニング。 国籍の違うメンバーを集めたところにレナード・フェザーの企画の目的があったらしい。 

不思議なことに、やはりどことなく無国籍風の特定の色をもたない雰囲気になっている。 アクの強い人を避けた人選になっているからかもしれないが、
お愛想程度の主題の後に順番に公正にソロの出番が回って来る建付けの中で、各人の演奏の個性が短いながらもきちんと提示される律儀な内容だ。
7人編成だから普通はセプテットだけど、ここでは秋吉敏子+6人という名乗り方になっている。 彼女の特別待遇が実際のところどういう意味があったのかは
よくわからない。 敗戦後十数年で戦勝国アメリカに単身やってきた日本人女性がバップ流ピアノを弾いている姿は、果たしてどう見られていたのだろう。

音楽的には典型的な白人ジャズで、あっさりとした中庸な音楽。 ルネ・トーマやロルフ・キューンの参加が目を引くけれど、ナット・アダレイやボビー・
ジャスパーも存在感を見せていて、枠組みの中から逸脱することなくきれいに収まっている。 熱気がある訳でもなく、何か新しい試みがある訳でもない。
ただ、それぞれが淡々と自分の持ち味を披露していく。 みんな演奏は上手いから、優等生が通う名門校の休み時間のおだやかな雑談のような感じだ。

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今週は年末セール対応で忙しかったのか、ロー・プライス品の新しい品出しはされておらず、未開封のダンボール箱がまだずらりと並べられたままだった。
ちょっとがっかりしながらミドル・プライスの今週の新着品を覗いたら、これがあった。 昔は筋金入りのマニアから好まれたレコードだったのでそれなりの
値段がついて私には手が出せなかったけど、今回は2,160円。 安いなあ、レコードが。 おかげで昔は聴けなかったこういう作品が聴けるようになった。
最近は名前は知っているけど聴いたことがないままになっていた作品が続々と安価で聴けるようになって、私のミュージック・ライフは充実している。
愉しい漁盤生活が続いている。


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我慢した甲斐があった、という話

2016年12月03日 | ECM

Jakob Bro / Streams  ( 独 ECM 2499 5717024 )


DUのCD館で新譜として並んでいたのを見て、聴きたいなあ、とCDを手に取りしげしげと眺めながらも、もしかしてレコードも出るかもしれないしなあ、
どうしようかなあ、とボケっと突っ立って逡巡していたのが8月の夏休みのさ中だった。 傍目にはさぞかし間抜けな姿だったことだろう。 でも、
こうして180g Vinyl を聴いていると、あの時我慢して良かったよなと思う。 

前作同様ギター・トリオ形式による演奏だが、前作はオランジュリーに展示されているモネの「睡蓮」のように、複数のピースがまるで一幅の大きな印象派の
絵画のような仕上がりだったのに比べて、今作は1曲ごとに楽曲が独立してる感じが強く、各々の曲調にも違いがある。 ギターも軽いディストーションを
かけてみたり、と前回の終始漂うような感じと比べると少しソリッドなアプローチが目立つ。

抽象性イコール現代性、という通俗的な等価関係に終わらせず、それらをしっかりと音楽の側に引き込むところにECM本来の価値があるのだが、どの作品もが
成功しているとは必ずしも言えない中で、これらのヤコブ・ブロの作品は最良の成果を出していることは間違いない。 テレキャスターを使うことで、
従来のギター・トリオの定型的イメージからは完全に隔絶した、言わばまったく新しい音楽形式であることをすんなりと納得させる。

レコードから再生される音の質感もこれ以上ない極上さを見せる。 3つの楽器のブレンド感は絶妙で、ドラムを叩いた時に鳴るボディ-の共鳴音の生々しい
ところや、ベースの音の透明度の高さや鮮やかな色合い、空間への放出される時の響き方の自然さなど、アコースティック楽器の美質とそれを聴く愉楽の
心地よい一体感を味わえる。 ギターも控えめなオーヴァー・ダブを施されて、ゆらゆらと揺れ動きながら移動する淡いオーロラのようだ。 たぶん、CDだと
もっと精緻で張りの強い音なんだろうけど、このギター・トリオにはレコードの質感のほうがよりフィットするのではないか、と今は勝手な想像をしながらも、
いずれ機会があればCDも聴いてみたい。



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