Stan Getz / At The Shrine ( 米 Norgran MG N-2000-2 )
シュライン・オーディトリアムはロサンゼルスに古くからある6,300人を収容できる大きな劇場で、このレコードを聴くと観客の拍手の音の大きさと残響で
随分立派なホールなんだろうなということが想像できる。 季節は晩秋で、ひんやりと冷たいホール内の空気感もそこはかとなく伝わってくる気がする。
この頃のゲッツはブルックマイヤーと一緒に活動していたけど、なぜ彼を相棒に選んだのかはよくわからない。 バルブ・トロンボーンというぼんやりと
した音の楽器はレコードで聴く限りではクインテットのような小編成のバンドには不向きなような気がするけれど、ゲッツは気に入っていたらしい。
ここので演奏はみんな若々しく、歯切れがよく、ダレるところも無い。 バックのピアノトリオはリズムセクションとしては非力で冴えないけれど、
それでもバンドとしての纏まりはよく、2枚組という量でも違和感なく聴ける。
40年代末から演奏してきたゲッツ流のモダンジャズのスタイルがちょうど完成を迎えて一区切りとなる時期の演奏で、初期のスタン・ゲッツの総決算と
言っていい内容だ。 凡庸なミュージシャンならこの辺りを超えると段々と萎んでいくものだが、この人の場合は周知の通り、そうはならなかった。
この後もまだまだ長く発展していくこの人の音楽の基盤がまずは出来上がった、ということを祝福したい。
1954年11月に録音された割には、音はなかなかいい。 管楽器の音にスコープを合わせているせいでピアノトリオのサウンドは弱いが、2本の管楽器は
中音域が厚く芯のある音で録れている。 音像の輪郭もくっきりとしていてぼやけておらず、聴きやすい。 写真の小冊子を同封するなんて、まるで
アイドル歌手のような商品パッケージの仕方だが、この人が当時のアメリカでどれだけ人気があったか、ということがわかる。