廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

マリアーノの肖像に相応しい

2024年01月27日 | Jazz LP

Charlie Mariano / A Portrait Of Charlie Mariano  ( 米 Regina Records LPRS-286 )


ラージ・アンサンブルやストリングスをバックに朗々と吹く、というのはアルト奏者にとっては1つのステータス若しくは憧れだったのかもしれない。
パーカーが確立したこのスタイルを踏襲した人は多く、アート・ペッパー、ポール・デスモンドやフィル・ウッズもやったが、このマリアーノも例外
ではなかった。レコーディングには金がかかるので誰でもやらせてもらえる訳ではなく、エスタブリッシュメントにしか叶わないアルバムだが、
その割には一般的に人気がない。

マリアーノは最高のトーンで自由自在に歌っていて、素晴らしい。単なるスタンダード集ではなく自作も持ち込み、音楽的な深みを出している。
ドン・セベスキーのスコアも甘さは排除されていて引き締まっており、アルトを邪魔しない。ジャケットの印象からくる抽象性のようなものもなく、
音楽全体が親しみやすく、最後まで飽きずに聴くことができる。

マリアーノの良さはアルトの見本のような適度の甘さとよく抜けるビッグ・トーンで優し気でなめらかなフレーズを紡いていくところだと思うけど、
このアルバムではその美点がそのまま反映されていて、素晴らしい出来だ。ワンホーン・カルテットなんかだと気を抜くと単調になりがちだが、
この作品は構成要素がそれなりに多く複雑でもあるので、そういう背景の中では彼の美質はより際立ってくる。タイトルの「チャーリー・マリ
アーノの肖像」というのはこのアルバムの内容を上手く表していると思う。

モノラルプレスも同時リリースされているが、このアルバムはステレオプレスが圧倒する。楽器の艶やかさや音場感の拡がりがひと味違う。



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サル・サルヴァドールの最高傑作はこれか

2024年01月13日 | Jazz LP

Sal Salvador / Starfingers  ( 米 Bee Hive Records BH 7002 )


サル・サルヴァドールと言えばキャピトルやベツレヘムにレコードが残っていてエサ箱ではお馴染みの人だが、これがどれを聴いてもつまらない。
フィンガリングはなめらかでソツなく上手いギターだが、自身の音楽として確立されているものがなく、聴き処がない。結局持っていてもまったく
聴くことはなく棚の肥やしになるだけなので、レコードが我が家の棚に残ることはなかった。ところがこの「その筋の人的ジャケット」の
レコードを聴いてぶっ飛んだ。これがサイコーにいい。

サルヴァドールが目当てでではなく、私の好きなエディ・バートが参加していること、"Nica's Dream" や "Sometime Ago" など好きな曲が入っている
ことなどから聴いてみたのだが、これが抜群にいい。よく見るとメル・ルイスがドラムを叩いており、このドラミングが凄いことになっている。
デレク・スミスのピアノがこんなにみずみずしいなんて知らなかったし、ペッパー・アダムス直系のブリグノラのバリトンも硬質で音楽をキリっと
引き締める。サム・ジョーンズのベースもブンブンと唸るし、参加メンバー全員が見事な演奏をしながら音楽が1つにまとまっていく。

サルヴァドールの音色が如何にも70年代風のイカしたサウンドで、これが完全に病みつきになる。アップな曲でのカッコよさはもちろんだが、
バラードでもメロウで艶めかしい。ベツレヘム時代の型にはまった退屈さからは抜け出していて、生き生きとした音楽に様変わりしている。
ジャズがアメリカの主流の音楽ではなくなったこの時代に、50年代に活躍していたミュージシャンたちが一皮むけた音楽を展開できるように
なったというのは何とも皮肉なことだ。

レコードとしての風格に欠けることから相手にされない時代の作品だが、中身は超一流。見直されるといいのにと思う。



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もし、ロリンズがバンドメンバーだったら

2024年01月01日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis / Collector's Items  ( 米 Prestige Records PRLP7044 )


新年の縁起物、マイルス・デイヴィスである。この人の場合、何かそれくらいの理由を付けなければなかなかブログに書こうという気にならない。
特に、このアルバムのような誰からも顧みられないものになると尚更である。

A面は53年、B面は56年の録音でどちらもロリンズとの演奏だが、53年の方はパーカーがテナーを吹いて参加していることで知られている。
契約関係がなかったから、覆面ミュージシャンとしての参加になっている。テナーの音色はあまりパッとしない感じだが、吹いているフレーズが
如何にもパーカーらしいもので、サックス奏者には各々固有の言語があるのだということがよくわかる。

ただこの53年の方は音楽的に聴くべきところはないし、演奏も拙いレベルでわざわざレコードとして切るようなものではない。それがアルバム
タイトルの "Collector's Items" の意味なのだろう。これはマイルスがまだひよっこだった頃の姿の一コマだ。まるで、何かの拍子に物置の中から
出てきた、セピア色に退色した古い写真のようなもの。そういう一般的には商品価値のない、個人史のようなものまでが56年という時期に
こうして正規のアルバムとしてリリースされているところがマイルスのマイルスたる所以である。既にその時点で別格だったということだ。

一方で56年の演奏になると音楽の成熟度はグッと増す。マイルスらしい影が射すようになり、独特の陰影が刻み込まれる。ロリンズは完成の1歩
手前の段階だが、それでもロリンズでしかありえないフレーズを吹くようになっている。マイルスはミュートで演奏し、"In Your Own Sweet Way"
ではバラードのスタイルを確立しようとしている。

マイルスは自己のグループを結成するにあたり、ロリンズをテナーに迎えたかった。でも、ロリンズは固定のバンドに参加するのを好まず、
それは叶わなかった。もしマイルスの第一期クインテットがコルトレーンではなくロリンズだったら、ジャズ史はどうなっていただろう。
この演奏を聴いていると、そう考えずにはいられない。ロリンズがいるとさすがに音楽の安定感は揺るぎがなく、この布陣でバンドの音楽が
発展していたら・・・と考えるのは楽しい。そういう夢想をさせるところが、このレコードの一番の価値かもしれない。



コメント (2)
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