Red Rodney / Returns ( 米 Argo LP 643 )
40年代からプロとして活動し、パーカーの傍にいることができたという僥倖に恵まれたにも関わらず、ドラッグで身を持ち崩し、50~60年代は
その足跡がまともに残せなかったレッド・ロドニー。アルバムは12インチは3枚しか残っておらず、上手いトランペッターだっただけに何とも
残念なことだ。
シカゴのローカルメンバーをバックに録音されたこのアルバムはハードバップの豊かな香りが立ち込める名作。ビッグバンドや裏方の活動が主で
自己のリーダー作を持たないビリー・ルートを迎えた2管編成の王道で、このレーベルのイメージにはそぐわない程の本格的なハードバップを
聴かせる。パウエルの名演を想い出す "Shaw Nuff" で幕が開き、緩急自在な曲を並べる構成も見事でこのアルバムは非常によくできている。
テナーのビリー・ルートの存在感が大きく、この人抜きにはこのアルバムは語れない。太くマイルドな音色、適切な音量とスピード感、自己主張を
控えた演奏なのにそういう美点が彼の存在を大きく前に押し出す。この優れたテナーを軸に、無名のバックのトリオも堅牢な演奏を聴かせて
音楽を支える。メンバーに恵まれたロドニーも非常によく歌う見事な演奏に終始する。どこからどう聴いても、これは傑作だとわかるだろう。
これほどのアルバムが作れるのに、アルバム数が少ないというのは惜しいことである。「リターンズ」というタイトルが付くアルバムは例外なく
麻薬禍でシーンから一時消えたミュージシャンの復帰作に付けられるもので、本来は不名誉なものだ。アート・ペッパー、デクスター・ゴードン、
ハワード・マギー、と数え始めればキリがないが、ジャズが一番よかった50年代後半に本来であればもっとたくさんのアルバムを出せたはずなのに
と悔やまれる人は多い。貧しく、教養もなく、モラルも低い層がこの音楽をやっていたということだけど、そういうことが信じられないくらいに
残された音楽は素晴らしい。ジャズというのは不思議な音楽だとつくづく思う。