廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ライヴ本来の音場感

2022年03月27日 | Jazz LP (Verve)

Stan Getz / Getz Au Go Go  ( 米 Verve V6-8600 )


昨日、新宿で拾った安レコ。そう言えばステレオ盤は聴いたことがなかったなあと思い、値段の安さにも負けて手に取ったが、
これが聴いてみて目から鱗が落ちた。家にあるモノラル盤とはまるで音場感が違う。

ライヴハウスの奥行きや空間があまりにリアルで、聴いていてビビってしまうくらい生々しい。アストラット・ジルベルトの歌声の
透明感も凄く、ゲッツのテナーもピッタリと定位しており、この透き通った空気感は一体何なんだと思うくらい。

このアルバムは64年5月のカフェ・オー・ゴー・ゴーでの録音と、同年10月のカーネギー・ホールでの録音の2つがミックスされていて、
前者の録音はカーネギー・ホールのものと比較するとデッドで当然音場感が落ちる。ステレオ盤が本領を発揮するのは後者の方。
全10曲中4曲がカーネギー・ホールのものだが、この4曲の違いが顕著なのである。ステレオ盤の後にモノラル盤を聴くと、
その音場感のいびつさが気になるようになる。

モダンジャズは50年代が最盛期でレコードはモノラル録音がメインだった時代だから、マニアの頭の中には「ステレオ盤は再発盤」
という刷り込みがあって、それがモノラル崇拝を生んでいる。でも、移行期を経た60年代はステレオ録音に切り替わっているんだから、
ステレオ盤の方が音が自然なのは当たり前。聴き手の頭の中がなかなか切り替わらないだけなのだ。

ヴァン・ゲルダー刻印があるけど、これがどう影響しているのかはよくわからない。MGM盤でこだわるべきなのはモノラルで聴くか、
ステレオで聴くか、である。そして、この盤は明らかにステレオ盤で聴くべきだろう。

このステレオ盤を聴いていてもう1つ気がついたのは、アストラットは "Getz / Gilbert" の時よりも歌が上手くなったんだなということ。
あの時の歌は素人感丸出しだったが、ここでは一端の歌手の歌い方になっている。そういうところもよくわかるようになる。

この演奏はいつどこで録音されたのかには諸説ある。上記データ以外に、すべて8月19日にカフェ・オー・ゴー・ゴーでの録音だったとか、
疑似ライヴだった(確かに拍手が不自然)、という話だが、私が聴いた感じでは音場感が明らかに2種類に分かれていることから、
上記データが正しいのだろうという立場だ。カーネギー・ホールには3つのホールがあるから、おそらく小さいホールを使ったのだろう。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

名ユニットのデビュー作

2022年03月20日 | Jazz LP (Savoy)

J.J. Johnson, Kai Winding / Jay & Kai  ( 米 Savoy MG-15038, 15048 )


ディキシーランドでは主役の一角を担っていたトロンボーンもバップのような音楽には不向きとされていた中、ブレイクスルーさせたのが
JJジョンソンだった。そこに目を付けたサヴォイのオジー・カデナが敢えて白人のカイ・ウィンディングを連れてきてコンピを組ませたのが
Jay & Kai というユニットで、これが当たった。いろんなレーベルにレコードを残し、晩年も事あるごとに共演している。

このユニットのデビューアルバムがサヴォイの2枚の10インチで、同時にジュークボック用にEPも切られていて、積極的に売り出そうと
していたのが伺える。ジャケット・デザインもリード・マイルスとバート・ゴールドブラッドを足して2で割ったようなセンスで、当時の
雰囲気がよく伝わってくる、とてもいいジャケットだ。

音が明るく雄弁なフレーズのほうがカイで、少しくぐもったようなマイルドな音色がジェイジェイで、2人の個性はきちんと聴き分けできる。
この2人の作る音楽はいい意味で軽快で、パシフィック時代のマリガンのピアノレス・コンボの質感とよく似ている。深刻にならず、ラジオ
などから流れてくると思わず身体が揺れてメロディーに合わせて口ずさんでしまうようなところがあり、そこが良かったのだろう。
明るく上質なムードに溢れていて、尖った音楽だったバップ系の中ではホッと一息つけるような心地よさがとてもいい。

ただ、終始そういう牧歌的な雰囲気だったかと言えばそうでもなくて、注目すべき演奏も含まれている。このセッションはベースを当時の
サヴォイのハウス・ベーシストだったミンガスが担当しているが、1曲、彼が書いた "Reflections, Scene Ⅱ, Act Ⅲ"が演奏されており、
これが圧巻の仕上がりになっている。

2管による不気味なイントロの導入から無軌道なピアノのフレーズが絡まり、心象風景のような環境音楽のような抽象画タッチの楽曲が
仕上げられていく。当時のジャズとしては異色の楽曲で、さすがはミンガス、と唸せる素晴らしさ。柔らかい不協和のハーモニーは
エリントンの匂いがほんのりと漂い、非常に印象的な楽曲として異彩を放っている。

そういう音楽的にも満足度の高い内容に加えて録音も見事で、言うことなしのアルバムとなっている。不思議なのはVol.1はRVG刻印があり、
音も非常にヴィヴィッドだが、Vol.2には刻印がなく、音質がややぼやけていること。古い10インチなのでセカンド・プレスというわけでは
ないと思うけど、RVGも忙しくて手が回らなかったのか、理由は定かではない。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真の実力が発揮された佳作

2022年03月06日 | Jazz LP

The Junior Mance Trio / That's Where It Is !  ( 米 Capitol ST-2393 )


ジュニア・マンスはボビー・ティモンズなんかと一緒で、大抵「ファンキー」やら「ブルージー」の一言でかたづけられてしまって、
それ以上顧みられることはない。このわかったようなわからないような形容のせいで軽く扱われてしまっているのは何とも残念だし、
そもそもこれらが本当に適切な表現なのかどうかも怪しい。

1947年にジーン・アモンズのバンドに参加したのを皮切りに、レスター、パーカー、スティットとの共演、兵役を経てキャノンボールの
最初のバンドのレギュラー・ピアニストを務め、ダイナ・ワシントンの歌伴もやるなど、自身のリーダー作 "Junior" を作るまでに長いキャリアを
積んでいる。その後、リヴァーサイドと契約してトリオ作を多数リリースすることで独立したピアニストとして認知されるようになった。
その次に契約したのはメジャーレーベルのキャピトルで、このアルバムはその時期のもの。

どこかのラウンジでのライヴ録音のようだが、観客のたてる雑音が聴こえないことから(アメリカの観客にしてはお行儀が良すぎる)、
もしからしたら拍手は後からオーヴァーダブされたものかもしれない。非常にいい音で録音されているので、彼の繊細なタッチやピアノの
音色の美しさがこれでもかという感じで聴くことができるが、これでわかるのは彼の演奏は物凄く洗練されている、ということだ。

レッド・ガーランドにも劣らないくらいに音色の粒立ちの良さが際立っているし、正確なタイム感と抑制の効いたフレーズに圧倒される。
「玉を転がすような」とはこういうことを言うのだろう。

ブルース形式の曲がメインとなっているが、そのブルース感は上質で、「ブルージー」という語感からはほど遠い。
そういう雰囲気よりも上品なピアニズムが生み出す快楽度のほうが遥かに高い。他のピアニストを寄せ付けない、独自の輝きを持っていると思う。

ジョージ・タッカーのベースもクリアに録られていて、音質的にはパッとしないキャピトルのイメージを根底から覆す高音質が嬉しい。
イージーリスニングっぽいという先入観を裏切る素晴らしいピアノトリオの演奏が聴ける。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする