廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジョージ・バロウに関する覚書

2022年07月03日 | Jazz LP (Decca / Coral)

The Amram-Barrow Quartet / Jazz Stuidio No.6 ~ The Eastern Scene  ( 米 Decca DL 8558 )


最近聴いて腰が抜けてノックアウトさせられた1枚。並み居る名盤たちを押しのけて、今季の4番打者の位置に座っている。
パタパタしていて何気なく眼に留まって、デッカのよくある凡庸なスタジオ・セッションものかとスルーしかけたが、ふと、" The Eastern Scene"
という小さなレタリングに引っ掛かった。東海岸のジャズなのか、ということで聴いてみようと拾ってみると、これが大当たりだった。

ピアノレスでテナーとホルンという珍しい構成だが、これがちょうどミンガスがサヴォイやベツレヘム時代にやっていた音楽に酷似している。
きちんと作曲された楽曲を使って、ゆったりとして振れ幅の大きい演奏で、アンサンブルも上質で最高の仕上がり。そして楽器のハーモニーの
音色が深く、響きも豊かでこれにヤラれてしまった。その深い響きを演出しているのがジョージ・バロウというテナー奏者の音色だった。

名前は知っていたけどこれまでは特に意識して聴いてこなかったが、結構いろんな作品に顔を出していたようで、一時期よく声が掛かったらしい。
ただ、本人名義のアルバムはこれしか残っておらず、あくまでも多管編成を組む際のサポート要員としての位置付けだったようだ。
確かにステージの中央に立って朗々とアドリブを披露するようなタイプの演奏ができそうな人ではないが、この魅力的な音色には抗し難く、
聴く耳を持った人からは評価されたのだろうと思う。

導入のリフだけ決めて後はアドリブで繋ぐというセッション形式ではなく、デヴィッド・アムラムという後に作曲家として名を成す人が書いた
楽曲を採用することで音楽が構造的にしっかりとしていることが成功の要因となっているが、決して理屈っぽい音楽とはなっておらず、
寛ぎ感に満ちたストレートなジャズになっていて、とてもいい。そこにバロウが加わることで音楽に憂いが刻まれることになった。






彼が参加した他の作品には例えばこういうものがあって、これらに共通するのが非常に深い陰影が刻まれた音楽だということだろう。
"ブルースの真実" の深みはオリヴァー・ネルソンの才能かと思っていたけど、このアルバムの別のメンバーたちによる続編にはそういう深みは
まったく見られず、なぜだろうと不思議に思っていたが、もしかしたらバロウが加わっていないからだったのかと今となっては邪推してしまう。
ミンガスの作品も深夜のニューヨークの静寂が漂うディープな音楽だが、これも実はバロウの存在の影響だったのだろう、と今は思っている。

リーダー作がなくても、印象的な音楽を残すことができた演奏家がいたのだということをこうして明記しておきたい。



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いろんな歌手を招いて

2020年12月08日 | Jazz LP (Decca / Coral)

Les Brown and His Band of Renown / Open House  ( 米 Coral CRL-57051 )


このところ数週間くらい、レコードがまったく買えていない。最後に買ったのは380円のこのレコードで、それも何週間前だったのか
よくわからない。何だかレコード熱が冷めたのかな、と思ったりもするが、これは、と思うようなものがないのが原因のように思う。
これは初めて見るぞ、と嬉しくなるようなものはさすがにもう少なく、例え聴いたことがなくてもエサ箱の中で何度も見かけるような
ものは新鮮味もなく、わざわざ手に取ろうという気も起きない。

そんな中で、このレス・ブラウンは初めて見るタイトルだった。1930年代から活動していた歴史の古いビッグ・バンドなのでレコードは
たくさんあるが、いろんなヴォーカリストを招いて共演するという楽しいレコードだ。

ハーブ・ジェフリーズとモダネアーズが入っているので、それが目当てで拾ったのだが、相変わらず素晴らしくて期待を裏切らない。
これらの歌唱はこれでしか聴けないようだから、好きな人にはたまらない内容だ。また、ランサーズやエイムス・ブラザースもいい出来で、
ちょっとした拾い物だった。

毎日聴こうというようなタイプではないが、時々こういうのが聴きたい気分の日があるので、それには打ってつけの内容だ。
私にとっては常備薬のようなもの。

ちなみにレス・ブラウンのバンド名はレス・ブラウン楽団やレス・ブラウン・オーケストラではなく、Les Brown and His Band of Renown
というのが正式名称である、というのはどうでもいいウンチクである。


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ハード・バップの原型

2020年11月19日 | Jazz LP (Decca / Coral)

Herb Jeffries / Time On My Hands  ( 米 Coral CRL 56044 )


デューク・エリントン楽団で40年代に2年ほど歌っていたことで知られるハーブ・ジェフリーズだが、ジャズ・シンガーとしての実像は
レコードがあまり残っていないため、よくわからない。低い声質のクルーナー・タイプのシンガーだが、他のクルーナーたちよりも
よりムーディーな歌い方をするので、どちらかと言えばボビュラー歌手側に寄っている。そのせいか、ジャズ・シンガーとして
取り上げられることは稀だ。

一番まとまった形の作品はベツレヘムのアルバムだが、あれ1枚だけでは歌手としての実力はよくわからない。
それを補完するのが。こういう古い10インチになってくる。

静かなピアノ、ギター、ベースをバックに、古いスタンダードを落ち着いたトーンで歌う。
歌い方はビング・クロスビーの影響が濃厚で、この時代の男性ヴォーカルは皆、クロスビー・チルドレンと言っていい。

アーヴィング・バーリン、ロジャース=ハート、ヴィンセント・ユーマンスらの中でも渋めの楽曲を選び、丁寧に歌う。
こういう歌手たちの歌が後のハード・バップという音楽の基盤になっているわけだから、ジャズにとっては重要な音楽である。
ハード・バップが永遠の人気を保っているのは、それがこういうベーシックでわかりやすいポピュラー音楽をインストとして
継承・発展させた音楽だからだ。

ジャズの原型であるこういう古い音楽を10インチのノスタルジックな音質で聴くのは何とも言えない雰囲気がある。
できれば夜の深い時間にバーで酒を飲みながら聴きたいけれど、そういう店は現実世界にはあまりなさそうで、残念である。


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クラリネットでジャズを演る狙い

2020年10月24日 | Jazz LP (Decca / Coral)

Tony Scott / In Hi-Fi  ( 米 Brunswick BL 54021 )


トニー・スコットがワンホーンで滑るようになめらかに演奏した佳作。出てこい出てこい、と念じていたら、ちゃんと出てきた。
念ずれば通ずる、レコード漁りの不思議である。

当時のモダン・クラリネットは、トニー・スコットとバディ・デ・フランコがポール・ウィナーを巡ってデッドヒートを繰り広げていた。
入れ替わり立ち代わりという感じだったようだが、この2人は作る音楽のタイプが結局違っていたので、途中からは道が分かれて、
お互いがそれぞれ別の道へと進んで行くことになる。このアルバムは、わが道を行く前のオーソドックなスタイルを捉えたもの。

ただ、そうは言っても、他のクラリネット奏者たちとは一線を画す独特の浮遊感を見せている。サックスやトランペットのように
大きな音で音楽をリードすることには元々向いていないが、音楽を丸ごと包み込んでフワッと浮かせて柔らかく漂わせるような芸当が
クラリネットにはできる。トニー・スコットがこの時期にやろうとしていたのはそういうことだったのではないか。

わざわざクラリネットでモダン・ジャズをやるということは、サックスやトランペットとは違うことを狙ってのことだろう。
トニー・スコットにはその自覚が明確にあったように感じる。そして、それは上手くいった。このアルバムがそれを証明している。


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V.Aは面白い

2020年08月06日 | Jazz LP (Decca / Coral)

V.A / Jazz Studio 2 From Hollywood  ( 米 Decca DL 8079 )


西海岸のジャズメンによるスタジオ・セッションで、リーダー名義のない形でアルバム化されている。ハーブ・ゲラー、ドン・ファガーキスト、マーティー・ペイチ、
カーティス・カウンスなどお馴染みの面々で、どういう演奏なのは聴く前から想像がつく。ガチガチのアレンジが効いたいつもの感じならスルーだなと
思ったが、これがちょっと違う雰囲気だった。

穏やかで高級な生地のような柔らかく上質な肌触りが心地よい。セッション系の演奏にありがちな自分の持ち場が来るとバリバリと演奏するような人は
誰もおらず、みんなが上品な演奏に終始している。このメンツによる演奏では、これまで聴いたことがことがないような優美なムードだ。

こういうのはやはりレーベルの違いによる影響だろうと思う。ベツレヘムなんかだどこうはならなかったんじゃないだろうか。アレンジがペイチではなく、
ジョン・グラースが担当していることも違いを生んでいるのかもしれない。フレンチ・ホルン奏者ならではの柔らかい音の響きを全体に求めたような感じだ。

ハーブ・ゲラーのアルトがアート・ペッパーを思わせる仕上がりで、吹き過ぎず、明るく艶のある音色で、今まで聴いた中では1番いい演奏じゃないかと思う。
トロンボーンのミルト・バーンハートもよく歌っているし、どの奏者もいい演奏をしている。

デッカにはこの "Jazz Studio" シリーズは他にもあったと記憶する。確か違うメンツによるセッションだ。メンバーが違えば当然内容も変わってくるので、
聴いてみなければわからないけれど、少なくともこのアルバムは大当たりといっていい。V.A のアルバムも聴く価値は十分ある。


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小気味よい演奏の裏に見えるもの

2019年03月02日 | Jazz LP (Decca / Coral)

Hal McKusick Quintet / Fraturig Art Farmer  ( 米 Coral CRL 57131 )


アート・ファーマー、エディ・コスタを迎えたマイルドなハードバップ・セッションだが、このメンツならではのサムシングに欠ける。 やはりファーマーの
存在感が強く、実質的にはアート・ファーマー・クインテットという感じになっている。 マクシックの良さは奥に引っ込んでいて、全体的にはファーマーが
ジジ・グライスとやったクインテットの音楽によく似ている印象だ。 あのバンドの音楽監督はジジ・グライスかと思っていたが、案外ファーマーが中を
仕切っていたのかもしれない。

これを聴いていると、マクシックの弱点が見えてくる。 バンドという形になった時に音楽的リーダーシップをとれないということだ。 エディ・コスタは
得意の低音域を強打する奏法を封印してサポートに徹しているので管楽器がどう演奏するかに焦点が集まるけれど、先陣を切るのは決まってファーマーだし、
楽曲のアレンジもファーマーのアルバムで聴けるものだから、マクシックの音楽を聴いているという感じがまったくしないのだ。 私自身はファーマーが
好きだからこれはこれで何も問題ないけれど、ハル・マクシック・クインテットと言われると「そうはなってないんじゃない?」と言わざるを得なくなる。
我が俺がと前に出ようとする個性がすべていいとは言えないにしても、個人商店として活動していくには向いていなかったんだろうなと思う。

とは言え、演奏者はみんな腕利きばかりが揃っていて、闊達な演奏が聴けるいいアルバムに仕上がっている。 コーラルは一般大衆向けレーベルだから
もともとシリアスなジャズを録音する意図などなかったはずで、そのラインにうまく沿った本流のハードバップとして上質な演奏に十分満足できる。
ミュージシャンというのはある程度の大物でない限り、録音するレーベルの意向に沿うことが必要だったのだから、こちらもそれを前提にして聴かなければ
いけなくて、その印象が自分好みじゃないからと言って切って捨てるのは拙速。 いつの時代も世の中はいろいろとややこしい。


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