廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ほどほどのジャズ

2024年11月24日 | Jazz LP (Savoy)

Lenny Hambro / Mambo Hambro  ( 米 Savoy Records MG-15031 )


レコードに頼るしかない我々のような日本人にとって、レニー・ハンブロのようなミュージシャンの実像は掴みにくい。リーダー作は私の知る限りでは3枚で、それらからは
彼の音楽的主張のようなものは感じ取れないので尚更である。でもWikipediaにはその生涯がかなり細かく書かれていて、アメリカではそれなりに知られた存在だったのかも
しれない。グレン・ミラー・オーケストラ時代が長かったようだが、マチートらとラテン音楽に手を染めていたこともあったようで、このデビュー作はコンガやティンバレス
をバックにエディー・バートと共にラテン音楽にどっぷりと浸った音楽をやっている。

よく鳴るアルトで朗々とメロディーを吹き流す姿がよく捉えられており、早い時期から演奏が上手かったことがわかる。リズム感がよく、テナーに近い太い音色で堂々と
歌う様は見事だが、ジャズ好きのスコープからは少し外れる音楽なので食感は微妙。一口にラテン音楽と言ってもその種類は多岐に渡るわけで、ここで演奏されているのは
マンボ系の音楽。ジャズと比較するとその官能性のようなものが顕著で、それがラテン音楽の本質なんだろうなあということがわかる。それに比べるとジャズというのは
かなりインテレクチュアルで構造性に寄った音楽なのだということを実感する。





Lenny Hambro / The Nature Of Things  ( 米 Epic Records LN 3361 )


一般的に彼のアルバムとして一番よく知られているのはこのアルバムだろう。ワンホーンの美音滴る演奏でスタンダード中心の選曲が万人受けする、如何にもエピックが
作りそうなアルバム。私自身はバックのウエストコースト形式の伴奏がハンブロの東海岸的哀感とはミスマッチで全体的には惜しい作りだと思っているが、あまり拘りなく
聴けば非常に口当たりのよい上質な内容だ。フィル・ウッズやチャーリー・ラウズらがこのレーベルに残したアルバムと同じコンセプトで作られていて、メジャーレーベルの
きちんとしたマーケティング戦略に乗っかった作風である。

上手い演奏をした人だったが、これ以上に踏み込んだ音楽はやらなかったためレコードもここ止まりだった。コロンビアにも1枚あるが、そちらは駄作で聴く気になれない。
硬派なレーベルでジャズに本腰を入れた演奏を聴いてみたかったと思う。



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ロイ・ヘインズとサラ・ヴォーン

2024年11月17日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Sarah Vaughan / Swingin' Easy  ( 米 Emercy Records MG-36109 )


ロイ・ヘインズの訃報に接した。99歳、死因は伝えられていないようだ。

彼のキャリアを眺めていると、サラ・ヴォーンと一緒に活動していた時期が長いのがわかる。サラと最初にレコーディングしたのは1947年のレスター・ヤングを含めたもので、
53年からは彼女の専属バックを務めるようになった。翌54年にサラがエマーシーと契約して録音を始めると彼の演奏もエマーシーで聴けるようになる。その時期の代表作が
このアルバムやミスター・ケリーでのライヴになる。

このアルバムはサラの素晴らしい歌唱が聴ける極めつけの名盤だが、バックがピアノ・トリオなのでロイのドラムが非常にクリアに聞えて、彼の演奏を堪能するのにも
うってつけのアルバムだ。ゆったりとスイングする曲からしっとりとしたバラードまでがいい塩梅で収録されていて、音質も素晴らしい。54年のジョン・マラチのピアノ
トリオによる録音と56年のジミー・ジョーンズのピアノ・トリオによる録音がカップリングされているが、どちらも素晴らしい。ロイのブラシ音が生々しく聴ける曲が多く、
サラが気持ちよさそうに歌っているのが印象的で、中でも "Words Can't Describe" の深い情感が最高だ。

ロイ・ヘインズのドラムは同時代の有名ドラマーたちの個性ある演奏と比べるとかなりオーセンティックな感じで、ヴォーカリストや管楽器奏者たちの個性がよく引き立つ。
だからこそ、あらゆる演奏者たちが彼を指名したのだろう。私たちは意図せずとも必ずどこかで彼のドラムを聴くことになる。誰かのアルバムの裏ジャケットを見て、
ドラムの名前が彼になっていると「おっ、ロイ・ヘインズじゃん」と呟いたことがある人は多いのではないか。彼はそういう人だった。

彼はその晩年まで精力的にアルバムを制作しており、生涯を通じて第一級のドラマーとしてジャズを支えてくれた。ご冥福を祈りたい。



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不器用なトランペッターが見た夢

2024年11月09日 | Jazz LP (ABC-Paramount)

Kenny Dorham / The Jazz Prophets Vol.1  ( 米 ABC-Paramount Records ABC 122 )


ケニー・ドーハムという人の活動の軌跡を見ていると、いろいろ考えさせられるものがある。40年代の終わりから60年代中期のジャズの黄金期を通して第一線で活躍した
一流プレイヤーだったわけだが、我が俺がというタイプではなかったこともあり、終始地味な印象が拭えない。録音に積極的だったこともあり、レコードはたくさん残って
いるのでこの人の演奏には触れる機会は多く、よく聴いていくと結構いろんなことをレコードを通してやっていたことがよくわかる。ただそのどれもが華々しい活動という
感じではなく、不器用な人が不器用なりにまじめにいろんなことに取り組んでいたんだなということがわかり、どこかグッとくるものがあるのだ。

パーカーとの共演やジャズ・メッセンジャーズでの活動の影響か、自己のグループを持つことを願っていたフシがあって、その断片がこのジャズ・プロフェッツという
グループだった。J.R.モンテローズに白羽の矢を立てたのはなかなかの慧眼だったが、残念ながら長続きはしなかった。おそらく放浪癖のあるモンテローズがグループ活動を
望まなかったからではないかと想像するけど、ドーハム自身もリーダーシップを発揮してグループ経営をするようなタイプでもなかったのだろう。

ドーハムのトランペットは基本的には線が細いし、モンテローズは音は太いがリズム感が悪く音楽のノリがよくないので、グループとしての音楽の纏まりは弱い。
ただ、この2人の独特のマイナー感が音楽に陰影をもたらしているようなところがあって、それがジャズという音楽が持つマイナー感とうまくマッチして何とも言えない
哀感をたたえている。それは頼りなさとして映ることもある一方で、儚さとして聴き手を包み込むところもある。

おそらくはこのグループのテーマ曲とするつもりで書いたのであろうB面ラストの "Tahitian Suite" はカフェ・ボエミアの方では "Monaco" と称され、異国の夕景を想起させる
深い哀愁に心打たれる名曲だが、こういうものを用意するほどこのグループには本気で取り組もうとしていた。この曲にはドーハムがこのグループに託そうとした音楽観の
イメージをダブらせて書いたような雰囲気があり、結果的には長続きしなかったという幕切れと相俟って聴いていて何とも切ない。

唯一のスタジオ録音となったこのレコードは、音の良いレコードが少ないABC-Paramountレーベルの中では硬質でメリハリの効いた張りのあるいい音で鳴るもので、
アルバムによって演奏の出来不出来の波が激しいドーハムのプレイも切れ味のいい優れた演奏で、彼の残したアルバムの中でも筆頭の1つに数えていい。Vol.1とするほど
意欲的に取り組んだにもかかわらず、後が続かなかったのは本人としてもさぞかし残念だっただろう。この後、リヴァーサイドと契約して自己名義のアルバムを多数残すが、
そのどれもがこれほどの精彩は見られず、心の傷を引きずっていた様子がどことなく垣間見えるのである。



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ガーランドの一番好きなアルバム

2024年11月02日 | Jazz LP (Prestige)

Red Garland / All Kind Of Weather  ( 米 Prestige Records PRLP 7148 )


気候変動で生活様式がすっかり変わってしまったような気がする。昔は天候の移り変わりが穏やかで、四季折々の中で風情を感じたものだったが、今は暑いか寒いかの
どちらかしかないような感じになっている。だから、これから先はこういう風に季節や天気のことを想って歌が作られることはもうないのかもしれないと思ったりする。

四季に風情があった頃に作られたこれらの歌には美しいメロディーや深い情感が込められていて、レッド・ガーランドのような人が演奏するにはうってつけだ。
私はガーランドのレコードの中ではこれが1番好きで、もう30年以上聴き続けている。このアルバムの演奏の中には他のアルバムにはない優雅で上質な空気感が溢れていて、
ガーランド美学の静かな頂点を見る思いがする。

シナトラやスー・レニーが歌った "Rain" を軽快にドライヴして幕が開き、物憂げな "Stormy Weather" 、如何にもガーランドらしい "Spring Will Be A Little Late Thie Year"、
夢見るようなテンポでスイングする "'Tis Autimn" など、楽曲の素晴らしさを最大限に引き出すことに成功した演奏が圧巻。また、アート・テイラーのドラムが素晴らしく、
彼の代表作と言ってもいいような演奏でトリオを後押ししている。

短い期間に集中的にありとあらゆるスタンダードをたくさん録音しているのでどの演奏も似通った内容ですぐに飽きてしまうガーランドだけど、このアルバムだけは
例外的に長年聴いていても飽きない。気候に想いを馳せると人は名曲を書くというのはなんだか不思議な話だけど、このアルバムを聴いているとどうやらそれは間違い
なさそうだし、だからこそこういう企画のアルバムが作られて素晴らしい演奏が実現したのだろう、とようやく涼しくなった外の空気を肌に感じながら聴いている。



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