廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ガーランドの一番好きなアルバム

2024年11月02日 | Jazz LP (Prestige)

Red Garland / All Kind Of Weather  ( 米 Prestige Records PRLP 7148 )


気候変動で生活様式がすっかり変わってしまったような気がする。昔は天候の移り変わりが穏やかで、四季折々の中で風情を感じたものだったが、今は暑いか寒いかの
どちらかしかないような感じになっている。だから、これから先はこういう風に季節や天気のことを想って歌が作られることはもうないのかもしれないと思ったりする。

四季に風情があった頃に作られたこれらの歌には美しいメロディーや深い情感が込められていて、レッド・ガーランドのような人が演奏するにはうってつけだ。
私はガーランドのレコードの中ではこれが1番好きで、もう30年以上聴き続けている。このアルバムの演奏の中には他のアルバムにはない優雅で上質な空気感が溢れていて、
ガーランド美学の静かな頂点を見る思いがする。

シナトラやスー・レニーが歌った "Rain" を軽快にドライヴして幕が開き、物憂げな "Stormy Weather" 、如何にもガーランドらしい "Spring Will Be A Little Late Thie Year"、
夢見るようなテンポでスイングする "'Tis Autimn" など、楽曲の素晴らしさを最大限に引き出すことに成功した演奏が圧巻。また、アート・テイラーのドラムが素晴らしく、
彼の代表作と言ってもいいような演奏でトリオを後押ししている。

短い期間に集中的にありとあらゆるスタンダードをたくさん録音しているのでどの演奏も似通った内容ですぐに飽きてしまうガーランドだけど、このアルバムだけは
例外的に長年聴いていても飽きない。気候に想いを馳せると人は名曲を書くというのはなんだか不思議な話だけど、このアルバムを聴いているとどうやらそれは間違い
なさそうだし、だからこそこういう企画のアルバムが作られて素晴らしい演奏が実現したのだろう、とようやく涼しくなった外の空気を肌に感じながら聴いている。



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記念すべきプレスティッジ第1号

2024年08月10日 | Jazz LP (Prestige)

Billy Taylor / A Touch Of Taylor  ( 米 Prestige Records PRLP 7001 )


レコードがたくさん残っているビリー・テイラーも、そのキャリアのスタート当時はダウンビート誌のナット・ヘントフが「今日のニューヨークで
最も過小評価されているピアニスト」と嘆くような感じだった。これと言って話題になるような活動をしているわけでもないことから人々の目に
留まることがないだけなんだろうが、そんな彼にレコーディングの機会を提供したのがボブ・ワインストックだった。彼が栄光の12インチ時代の
幕開けとなる7000番台の記念すべき第1号に選んだのはマイルスでもなければスタン・ゲッツでもなく、ビリー・テイラーだった。ブルーノートは
マイルス・デイヴィス、リヴァーサイドはセロニアス・モンク、サヴォイはチャーリー・パーカーだったことを考えると、ワインストックが如何に
ビリー・テイラーに期待していたかがよくわかる。

プレスティッジを巣立った後はいろんなレーベルに録音を残し、知名度も上がっていくにつれて演奏の表情は明るくなっていき、その印象が
一般的なものとして定着しているけれど、プレスティッジ時代はそういうのとは雰囲気が少し違っている。どことなく遠慮気味で謙虚さがあり、
「私のことはご存知ないかもしれませんが、少しでいいでの私の演奏を聴いていってもらえませんか?」と言っているような雰囲気がある。
そして、その演奏は控えめながらも上質で品格があり、エレガントにスイングしている。それでいて音楽の核心へと真っ直ぐに切り込んで
いくような率直さもあって、安っぽいエンターテインメントには決して堕することもなく、才能の飛沫を感じる。

特にこのアルバムはスタンダードを入れず、ほとんどを自作で固めているお陰でいつ聴いても新鮮で、ありふれたピアノ・トリオのアルバムとは
一線を画している。どの曲も耳当たりが良く、穏やかな曲想のものが多い。 自作の "A Bientot" を聴いていると、この人の澄み切った心象風景が
目の前に浮かび上がってくる。誰もそうは思わないかもしれないが、このアルバムは3大レーベルの一角を占めるレーベルの第1号に相応しい。



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70年代に向けた萌芽

2024年07月06日 | Jazz LP (Prestige)

Herbie Mann, Bobby Jaspar / Flute Souffle  ( 米 Prestige Records PRLP 7101 )


プレスティッジと言えばマイルスだったりロリンズだったりコルトレーンのイメージがあり、演奏者のプレイそのものに集中して聴くことが多い
けれど、ハービー・マンもボビー・ジャスパーもフルートとテナーの両刀使いで、どちらがどの演奏なのかよくわからないこともあり、演奏の個性を
愉しもうという聴き方をするとあまり面白くないということになって駄盤扱いされがちである。ところがこういうタイプのレコードは音楽自体を
味わおうと思って聴くとまったく違った感想が湧いてきて、認識が変わるものである。

冒頭の " Tel Aviv " はハービー・マンが作ったマイナー・キーの曲だが、これがとてもいい。ほの暗く、ゆったりと大きく揺れるような感覚。
テナーはおそらくボビー・ジャスパーだろうと思うが静かに枯れた演奏で味わい深く、トミー・フラナガンのピアノが端正で穏やかで素晴らしい。
プレスティッジらしい、憂いに満ちた曲想に魅了される。この1曲で、このアルバムは名盤確定である。

B面冒頭の " Let's March" も同様にハービー・マン作だが、これもマイナー・キーの佳曲。ここでもフラナガンのピアノがエレガントで素晴らしい。
ウェンデル・マーシャルのベースがイン・テンポでよく弾んでおり、これが楽曲の良さを更に引き立ていて見事だ。

ハービー・マンは50年代からいろんなレーベルに録音があってレコードはたくさんあるけど、それらを聴いてもあまり面白くない。この人の真価が
発揮されるのは70年代に入って以降である。多作家で作品はものすごくたくさんあるので聴いていくのは大変だけど、素晴らしいものが結構あって
驚かされる。フルートという楽器はハード・バップという音楽形式には根本的に馴染まず、その良さを発揮することはなかったけど、音楽が多様化
する70年代以降になるとこの人の独特の音楽センスが花開いた感がある。このアルバムはその萌芽が感じられるところがある。



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もし、ロリンズがバンドメンバーだったら

2024年01月01日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis / Collector's Items  ( 米 Prestige Records PRLP7044 )


新年の縁起物、マイルス・デイヴィスである。この人の場合、何かそれくらいの理由を付けなければなかなかブログに書こうという気にならない。
特に、このアルバムのような誰からも顧みられないものになると尚更である。

A面は53年、B面は56年の録音でどちらもロリンズとの演奏だが、53年の方はパーカーがテナーを吹いて参加していることで知られている。
契約関係がなかったから、覆面ミュージシャンとしての参加になっている。テナーの音色はあまりパッとしない感じだが、吹いているフレーズが
如何にもパーカーらしいもので、サックス奏者には各々固有の言語があるのだということがよくわかる。

ただこの53年の方は音楽的に聴くべきところはないし、演奏も拙いレベルでわざわざレコードとして切るようなものではない。それがアルバム
タイトルの "Collector's Items" の意味なのだろう。これはマイルスがまだひよっこだった頃の姿の一コマだ。まるで、何かの拍子に物置の中から
出てきた、セピア色に退色した古い写真のようなもの。そういう一般的には商品価値のない、個人史のようなものまでが56年という時期に
こうして正規のアルバムとしてリリースされているところがマイルスのマイルスたる所以である。既にその時点で別格だったということだ。

一方で56年の演奏になると音楽の成熟度はグッと増す。マイルスらしい影が射すようになり、独特の陰影が刻み込まれる。ロリンズは完成の1歩
手前の段階だが、それでもロリンズでしかありえないフレーズを吹くようになっている。マイルスはミュートで演奏し、"In Your Own Sweet Way"
ではバラードのスタイルを確立しようとしている。

マイルスは自己のグループを結成するにあたり、ロリンズをテナーに迎えたかった。でも、ロリンズは固定のバンドに参加するのを好まず、
それは叶わなかった。もしマイルスの第一期クインテットがコルトレーンではなくロリンズだったら、ジャズ史はどうなっていただろう。
この演奏を聴いていると、そう考えずにはいられない。ロリンズがいるとさすがに音楽の安定感は揺るぎがなく、この布陣でバンドの音楽が
発展していたら・・・と考えるのは楽しい。そういう夢想をさせるところが、このレコードの一番の価値かもしれない。



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ビ・バップの後継者としての正当性

2023年11月19日 | Jazz LP (Prestige)

George Wallington Quintet with Phil Woods, Donald Byrd / Jazz For The Carriage Trade  ( 米 Prestige Records PRLP 7032 )


当時の新進気鋭だった若い管楽器奏者を迎えて自己名義のグループとして録音したこの演奏は、メンバーが白人優勢だったこともあり、
とてもすっきりとした清潔感のあるハードバップに仕上がっている。非常に素直で気持ちのいい演奏で、若者の純粋さを強く感じる。
この時のバンドのレギュラードラマーは白人のジュニア・ブラッドレイだったが、レコーディング時は不在だったため代わりにアート・
テイラーが参加したが、この代打起用は功を奏していて、ドラムの演奏が非常にしっかりとしているおかげで演奏全体が堅牢だ。

ウォーリントンのピアノが真水のようにクセがないおかげで、ウッズのアルトとバードのトランペットが前面に大きく出ていて、
管楽器ジャズの愉楽をたっぷりと味わうことができる。ドナルド・バードは既に自分のスタイルを確立しており、如何にも彼らしい
なめらかなフレーズで全体を覆うし、フィル・ウッズは "Woodlore" を思わせる快演を聴かせる。"What's New" での深い情感には
身震いさせられる。

ウォーリントンは良くも悪くもバップ・ピアニストの域を超えることはできなかったが、逆に言うとバップという音楽のメインストリームを
貫いていて、この演奏を聴くとハード・バップはビ・バップの発展形だったことが素直にうなずけるだろう。おそらく彼はパーカー&ガレスピーの
バンドのウォーリントン版を作りたかったのだろうと思う。フィル・ウッズのアルトがパーカーの面影を濃厚に映し出しているせいもあって、
このバンドの演奏にはパーカーのバンドの有り様が透けて見える。このアルバムはそこがいい。


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ソフィスティケートな音楽の系譜

2023年03月25日 | Jazz LP (Prestige)

Tadd Dameron / Fontainebleau  ( 米 Prestige PRLP 7037 )


私にラージ・アンサンブルの良さを教えてくれたアルバム。ジャズの何たるかがわかっていなかった学生時代に聴いた時からずっと大好きだった。
そして、ジャズという音楽においても楽曲の良さというのが如何に大切か、を知ることになったアルバムでもある。

タッド・ダメロンが若々しく活躍した時期はスイングからビ・バップへ移行する時期で、その演奏はほとんど残っていない。クインシー・ジョーンズの
先駆けのような人で、自身の楽器演奏力には早々に見切りをつけて、作曲や編曲の領域に軸足を置いたというせいもある。それでも、あと5年遅く
生まれていれば彼のレコードはもっとたくさん残っただろうに、と思えるだけになんとも残念でならない。

このアルバムでは貴重な彼のピアノが聴けるが、その弾き方はクロード・ソーンヒルそっくり。アンサンブルの編曲もソーンヒル楽団のものと
酷似していて、彼はソーンヒルをお手本にしていたことがよくわかるのだ。ソフィスティケートな雰囲気があまりに似ている。

管楽器にはサヒブ・シハブ、セシル・ペイン、ジョー・アレキサンダーやケニー・ドーハムらが参加しており、このシブい面子にも泣かされる。
特にアレキサンダーのテナーは他ではあまり聴けないので、貴重この上ない。ちゃんとソロの出番があり、深く幽玄な演奏を聴かせてくれる。

彼の書くメロディーには独特の哀しみのような情感が漂っていて深い郷愁を誘うが、同時に淡いアイロニー感も持ち合わせて、その音楽は
複雑な構造を示す。そういう重層感にこの人特有の音楽の深みがある。とても一介のジャズマンが書く音楽とは思えず、一体どうやってこういう
音楽的素養を身に着けたんだろうと不思議に思う。ベニー・ゴルソンがダメロンを自身の音楽上の指針にしたのもよくわかる。

ビ・バップというムーヴメントを支えた1人としての評価はその通りだと思うけれど、それよりもクロード・ソーンヒルからタッド・ダメロンへと
流れて、それがベニー・ゴルソンへと繋がるジャズの中の1つの洗練された系譜のほうが私にはより重要なことに思える。



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セカンド・プレス愛好会(1)

2023年02月18日 | Jazz LP (Prestige)

Stan Getz / Long Island Sound  ( 米 New Jazz NJLP 8214 )


「オリジナルだけが偉い」とチヤホヤされるこの偏狭な世界では、セカンド・プレス以降のレコードたちは皆どことなく悲し気だ。
何も好き好んで2番目として生まれてきたわけでもないのにな、とみんなそう思っている。

新入荷のエサ箱にパリッとした真新しいビニール袋に入れられて晴れやかな気持ちで中古デビューを果たしたのに、朝一番にやって来たお客から
「なんだ、セカンドかよ」と吐き捨てるようなセリフを浴びせられてスルーされる。それでも気を取り直して精一杯の笑顔で次に手に取られるのを
待つけど、中々手にしてもらえない。1日が過ぎ、また1日が過ぎ、時間が経つにつれて並ぶ列を移動させられ、気が付くとアルファベット順に
区画された場所に移される。そこでは時間は静かに流れ、孤独の中に取り残される。

このスタン・ゲッツのレコードも、そういう感じで転がっていた。でも私がこれを買ったのはなにも憐憫の情にほだされてというのではなく、
この表紙のデザインが好きだったからだ。この趣のある風情がクールな内容には似つかわしく、お気に入りのレコードになっている。
RVGの刻印もしっかりとあって、そのサウンドは輪郭がクッキリとしていてオリジナルよりもこちらの方がいいんじゃないかとすら思う。

どのレコードにもそれぞれの存在理由があり、それぞれの良さがある。このレコードはそういう当たり前のことを教えてくれる気がする。
セカンド・プレスを愛でることができてこそ、本物のヴィニール・ジャンキーと言えるんじゃないだろうか。



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今年の収穫の1枚

2022年12月28日 | Jazz LP (Prestige)

Teddy Charles / Evolution  ( 米 Prestige LP 7078 )


自分の中での今年の収穫の1枚はこれだった。40年ジャズを聴いているが、ちゃんと聴いたのはこれが初めてだった。主要なジャズのレコードは
あらかた聴いてしまった、などと穿ったことを普段から言っているが、こうして間隙を縫って初めて聴くレコードというのは襲ってくる。
特に目当てもなくパタパタしている時にまるで新品のようなあまりにもきれいなものが出てきたので、それだけの理由で試聴してみたら、
これが試聴機の前でのけ反ることになった。まだこんな経験ができるんだなあと自分でも驚いた。

このレコードには1953年の西海岸での録音と1955年の東海岸での録音が収められている。53年にロサンゼルスに滞在していた時にレーベルを興して
間もないボブ・ワインストックに請われて現地ミュージシャンと録音したものはさほど面白いわけではないが、55年のヴァン・ゲルダー・スタジオで
録音されたJ.R.モンテローズ、ミンガスとのワン・ホーン・セッションにガツンとやられたのだ。

ここでのミンガスとの共演が縁で、半年後にDebutレーベルでマイルスの "Blue Moods" が作られる。あのアルバムのまったくマイルスらしくない
音楽の雰囲気はミンガスの依頼でテディー・チャールズが音楽監督をしたからだが、あのムードと共通するものがこのアルバムにもある。

モンテローズはテナー奏者としては一流とは言えないが、このアルバムではそれがよかった。音楽全体の暗く冷たいムードをぶち壊すことなく、
ひっそりと付けるオブリガートが非常に効果的。短いソロもテナーらしい魅力的な音色を最大限に効かせて音楽を邪魔しない。この絡み具合が
何ともいい塩梅なのだ。バリバリと吹くだけがジャズではない、とでも言いたげに、テディー・チャールズの世界観に沿った演奏をする。
よく聴いてると所々スタン・ゲッツがやりそうな演奏にも思える瞬間もあったりして、たどたどしいながらも強く印象に残る。

一聴してすぐにミンガスとわかるベースの音色がリズムをリードする中で生まれる音楽の空間は、ヴァン・ゲルダーの冷たく濡れたような音場感
の後押しもあって、誰の心の中にもあるであろう暗く静かな心象風景を見ているような気分になる。これはとてもいいアルバムだと思った。



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最初の5秒

2022年09月19日 | Jazz LP (Prestige)

Morris Nanton / Preface  ( 米 Prestige PRST 7345 )


試聴の最初の5秒で自分好みのピアノであることを確信したアルバム。「最初の一音を聴いただけで」という言い方は修辞句としての意味は
わかるけど、そんなことは現実的にはあり得なくて実際はもう少し聴くことになるけど、それでもすぐに「これは!」とわかることがある。
エサ箱にステレオとモノラルの両方が安レコとして転がっていたので、迷うことなく両方拾って来た。

ニュージャージのクラブが活動の舞台という典型的なローカル・ピアニストだが、見る人は見ていたのだろう、プレスティッジやワーナーに
アルバムを残している。ジャケットに写る容姿からソウルフルと言われることが多いようだが、実際の演奏はレイ・ブライアントのような、
どちらかと言えば端正でスジのいいピアノを弾いている。クラブの喧騒の中で音楽を聴かせようと普段から強い打鍵で音数多く弾くことで
自身のスタイルが出来上がったのだろう、ここでもそういう弾き方が随所に見られるのでソウルフルという印象が残るのかもしれない。

ただ、そのピアノの音自体は深みとまろやかさのようなものがあって、私はそこに強く惹かれた。音もクリアで真っ直ぐに飛んでくる。
ピアノの音色の良さで聴かせるところが素晴らしいと思った。私はピアノの演奏にリズム感やノリの良さなどは求めない。そういうのは
ベースやドラムに任せておけばよい。ピアノにはこの楽器にしか出せない独特の音色があり、それが聴きたいからピアノの音楽を聴くのだ。
このモーリス・ナントンはそういうピアノ音楽好きを満足させるタイプのピアニストだろうと思う。

ヴァン・ゲルダーの録音とカッティングなのでピアノ・トリオの場合は心配になるが、あまり音を触っておらず、問題ない。
モノラルとステレオも音場感にはさほど大きな違いはないが、時期的には当然ステレオ録音だからステレオ盤のほうが音が自然。
この時期のアルバムは迷わずステレオ盤で聴けばいいのだろう。



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何かカッコいいジャズを、と問われたら(2)

2022年06月26日 | Jazz LP (Prestige)

Frank Foster / Fearless  (米 Prestige PR7461)


以前、こんなカッコいいジャズはない、ということでエルヴィン・ジョーンズの " Heavy Sounds " のことを書いたが、同じ系統のカッコよさを
誇るのが、このフランク・フォスターのリーダー作。何と言っても、どちらも冒頭が彼の自作である " Raunchy Rita " で幕を開ける時点で
既にもう十分カッコいいのである。この名曲は聴くたびにシビれるわけだが、もちろんカッコよさはこれだけでは終わらない。

収録された曲のほとんどがフォスターの自作だが、どれもイカした楽曲ばかりで、その作曲能力の高さに驚いてしまう。時代の空気を反映して
ファンクの要素をセンスよく取り込んでおり、これが非常にいい塩梅なのである。B面冒頭の " Baby Ann " を聴いていると、リー・モーガンの
" Sidewinder " なんかが如何にダサいかがよくわかる。音楽センスと言う意味ではフォスターの方が何枚も上手である。

64年にカウント・ベイシー楽団を退団して本格的にリーダー作を作るようになったが、それまではベイシー一派という括りでのソロ活動で、
この人本来の持ち味はまったく生かされていなかった。フランク・ウェスとセットで括られることが多く、どちらがどちらなのかがなんだか
よくわからない印象が強い。でもこうやって聴くとフォスターは本質的にはモダン・テナーで、ジミー・ヒースなんかと近い感覚だ。
よく長年ベイシー楽団にいたなあと逆に感心するくらいだ。アドリブラインも流麗で、抜群に上手いテナーだ。

ヴァージル・ジョーンズ、アルバート・デイリー、アラン・ドーソンら一流のメンバーの演奏力もおそろしく高くて、びっくりするような完成度の
演奏に圧倒される。バリバリのハード・バップで、ブルーノートなんて目じゃない、と言わんばかりの凄い演奏である。ちょうどピーク期を
迎えていたヴァン・ゲルダーのサウンドが演奏の凄みを実に生々しく再現していて、音楽が怖さを感じるくらいの迫力で迫ってくる。

ファンクの要素を隠し味にしながらも非常に洗練されていて音楽的なスジの良さを感じる、これは真っ当な名盤。殿堂入り確定である。



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滋味深いアンサンブル

2021年10月15日 | Jazz LP (Prestige)

Milt Jackson / S/T  ( 米 Prestige PRLP 7003 )


ミルト・ジャクソンの古い時期のレコードだが、再発がたくさん出ており、よく聴かれている作品だ。
スタンダードがメインとなっていて平易な内容であることから、地味ながらも一定の人気がある。

ビ・バップ期に頭角を現して、そのままスムースにハードバップ期に移行できたヴィブラフォンの第一人者で、この後に出てきた
他のヴァイブ奏者たちは同じことをやっても勝ち目はないということで、そのすべてが独自路線に走るしかなかった。
ある者は実験的な音楽を、ある者はピアノと併用するなど、図らずも後継者をシャットアウトしてしまった感がある。
黒人ミュージシャンに至っては、この楽器で世に出ること自体、最初から諦めていたようなフシがあるくらいで、
その存在感は計り知れないところがあったのだろう。

デクスター・ゴードンなんかと同じで、フレーズのすべてが何分の1拍か遅れる後ノリの演奏スタイルで、これが独特の寛ぎ感を
もたらしている。こういうのは意識してできることではないので、天性のものなんだろう。よく"ブルージー”という言葉が使われるけれど、
私にはこれが適切な表現だとはあまり思えない。その洗練された音色の影響もあるけれど、彼の演奏から感じるのはもっとすっきりとした
ある種の爽やかさのようなもので、こってりとしたものは感じない。

ホレス・シルヴァーの伴奏の上手さのおかげで、このアルバムはヴィブラフォンとピアノという同系統の楽器が互いに喧嘩することなく
共存できている。この人はなぜか褒められることが少ない人だけど、特にこのアルバムは彼の上手く制御されたピアノに気を配って聴くと、
この音楽の良さをより深く感じることができるだろう。ヴィブラフォンのフレーズだけを聴いていると、変化に乏しく起伏の弱い音楽に
聴こえるかもしれないけれど、パーシー・ヒースとコニー・ケイのまったくブレることない鉄壁のリズムも含め、聴き所のたくさんある
滋味深い内容だと思う。全員が互いの音をよく聴き、抜群のバランス感で合奏を志向していることがとてもよくわかる。



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ハーモニー宣言

2020年11月29日 | Jazz LP (Prestige)

Gil Evans / Gil Evans & Ten  ( 米 Prestige PRLP 7120 )


このアルバムを聴くと、写真でしか見たことのない50年代のニューヨークのモノクロの街並み、風景を想い出す。
ソフト・フォーカスでぼんやりと霞んだ建物の形、光と影の淡いコントラスト。

何とも言えないノスタルジックな雰囲気が漂う独特なハーモニーが圧倒的に素晴らしい。聴いていると、様々な心象風景が
目の前に浮かんでは消えていく。映像喚起力がハンパない。

10人で生み出す豊かなハーモニーの能率の高さは凄いとしか言いようがないが、そのデリケートでありながらリッチな色彩感は
クロード・ソーンヒル楽団の生き写し。ソーンヒルのハーモニーは正にギル・エヴァンスのハーモニーだったわけだ。

ギル・エヴァンスのラージ・アンサンブルではジミー・クリーヴランドのトロンボーン・ソロが頻繁にフィーチャーされるが、
ここでも彼の夢見るような伸びやかなソロが印象的だ。また、スティーヴ・レイシーの苦み走ったソプラノもよく効いている。

揺蕩うような霞みがかったギル・エヴァンスのハーモニーが通奏低音のように流れ続ける、至福の時間を味わうことができる。
ある意味、ジャズの生命線とも言うべきスイングやアドリブよりも、ハーモニー優先でジャズを構成することを宣言した作品で、
その穏やかなラディカルさに、マイルスをはじめ、多くのミュージシャンが夢中になったというのはよくわかる。


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バイプレーヤーとしての生き方

2020年11月23日 | Jazz LP (Prestige)

Curtis Fuller / New Trombone  ( 米 Prestige PRLP 7107 )


カーティス・フラーは気が付くといつの間にかハード・バップのど真ん中で活躍していた、という印象がある。デビューに際しては何か
目立ったエピソードがあった訳でもないのに、初リーダー作がプレスティッジ7000番台だったというのは稀に見る幸運だった。
この後、すぐにブルーノートへ移ってアルバムを固め打ちするし、次のサヴォイでもしっかりとリーダー作を作っている。
そして、すぐにジャズテットに加わり、ジャズ・メッセンジャーズへと続く。

演奏が飛び抜けて上手いという訳でもないし、曲が書ける訳でもないのに、この堂々たるエリート街道は一体何だったのか。
それはおそらく、トロンボーンというハードバップ期における脇役楽器のプレイヤーだったおかげなんだろうと思う。

アーリー・ジャズでは主役の座に居たトロンボーンは、ビ・バップという激しい音楽が始まると、早いパッセージを吹くことが難しく、
音色もぼやけていることから、脇役へと下がらざるを得なかった。しかし、ハード・バップへと移行すると、それまでの旋律一本から
ハーモニー重視へと価値観が変わり、サウンドに厚みを持たすためにはトロンボーンが必要になってくる。

ジャズ奏者として名前を上げるために有能なプレーヤーはサックスやトランペットへ殺到したから、トロンボーンの座席は
ガラガラだったのだ。だから、彼は時期的にちょうど重宝された。セッションでちょっとトロンボーンが欲しい、という時、
大物のJ.J.を呼ぶ訳にはいかない中、気軽に声を掛けられる奏者は彼くらいしか居なかった。

競争の激しい世界には身を置かず、スター・プレーヤーの傍にいるという生き方も「あり」だったのだ。
彼はまだ健在で、近年はバークリー音楽院で名誉博士の称号を与えられるなど、長年の功績が認められたエスタブリッシュメント
として敬意をもって迎えられている。

その彼のスタートが、このデビュー・アルバムだ。とにかく地味な内容で、相方のソニー・レッドもまだ覚束ない演奏だし、
名盤というには程遠い。一番目立っているのはダグ・ワトキンスの重低音で、如何にも彼らしい縦ノリの規則正しいリズム感で
音楽がしっかりと建付けられている。

耳に残る楽曲もなく、話題性にも欠ける内容なので、まったく売れなかったのだろう。初回プレスのみで、NJ追加ブレスもなく、
80年代のOJCまで再発もなかった。そのせいで、今となってはプレスティッジの中でも指折りの稀少盤になってしまっている。


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リー・コニッツ 7つのルール

2020年04月17日 | Jazz LP (Prestige)

Lee Konitz / With Tristano, Marsh & Bauer  ( 米 Prestige PRLP 7004 )


リー・コニッツのアルバムをいろいろ聴いていくと、そこにはいくつかのルールが存在することに気が付く。

第1のルール:ジャズはインプロヴィゼーションがすべてである
 ジャズという音楽はインプロヴィゼーションの音楽である、ということを宣言して、それを隅々まで徹底すること。まず最初にこれがある。
 インプロヴィゼーションを展開する上でスタンダードのコード進行は必要だったが、テーマは必要なかった。だから、曲の出だしから最後まで
 全編がオリジナルのアドリブ・ラインで構成されることになった。

第2のルール:メロディーが最も大事である
 コニッツは音楽の中ではメロディーが最も重要だと考えていた。だから、インプロヴィゼーションとしてどんなフレーズを吹いたとしても、
 必ずメロディーからは離れなかった。共演者と長いユニゾンを取るのも、ハーモニーよりもメロディーが大事だからだし、リズム感を犠牲に
 して長いアドリブ・ラインを吹くのも、リズムよりメロディーが優先すると考えていたから。コニッツの演奏はいつもリズム感が悪いけれど、
 それにはちゃんとした理由がある。

第3のルール:楽器の音色にはこだわらない
 コニッツにとって楽器の音色はさほど重要ではない。ノン・ビブラートのひんやりとした音色の時もあれば、太くマイルドな音色の時もあるし、
 かすれたようなペラペラの薄い音の場合もある。テナーを吹く時もアルトのようなイメージで吹くし、と楽器で鳴らす音に必要以上の拘りを
 見せなかった。初期コニッツの音にはクールなイメージがあって、たいていの人がこの音のファンだが、初期のレコードをよく聴くと実際は
 楽曲毎に音色が違っていることがわかる。音色の魅力だけで音楽を聴かせるつもりが元々ないので、音色の心地よさでしか音楽が聴けない
 リスナーには後期コニッツの演奏が理解できない。

第4のルール:フリーはやらない
 既成のコード進行は表現の幅を縛るのでコード進行から解放するためにフリー・ジャズをやる、という主張は単なる甘えた泣き言。
 フリーやアヴァンギャルドはコニッツにはピンボケの所為。制約の中でどこまで制約を超えることができるかがジャズの意味だと考えた。

第5のルール:ビ・バップこそがジャズの神髄
 コニッツの音楽のベースには常にビ・バップがあった。インプロヴィゼーションの音楽とは、すなわちビ・バップのことだった。
 コニッツにとってハード・バップは生ぬるくて、上手く自身を表現できなかった。ヴァーヴ期の演奏がこれにあたる。

第6のルール:チャーリー・パーカーから遠く離れる
 コニッツは自宅の壁にパーカーの写真を1枚だけ飾っていた。彼にとってパーカーは手の届かない永遠の存在。トリスターノからも、
 とにかくパーカーの音楽を聴け、と繰り返し教えらえた。だからこそパーカーは聖域であり、その後を追うことはしなかった。
 パーカーからどれだけ遠くに居続けることができるか、が彼の演奏のテーマだった。

第7のルール:常に1人でいること
 彼は生涯自己のグループを持たなかった。固定されたメンバーでの演奏がもたらすマンネリ感を避けるために、その時々で最も重要だと
 考える演奏者を選び、共演することで自身の音楽を更新し続けた。

これからの大半のことが、公式デビュー作であるプレスティッジのこの演奏の中に既に予言されている。最初から自分に厳しい人だった。
そして、それを生涯貫いた人だったと思う。だから、私はリー・コニッツを尊敬していたし、それはこれからもきっと変わらない。


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マイルス・デイヴィス 私的ベスト3

2020年01月03日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis / Miles  ( 米 Prestige PRLP 7014 )



3番目に好きなマイルスのレコードは、この "小川のマイルス"。プレスティッジにはもう1枚好きな "And The Modern Jazz Giants" があって、
こちらは同率3位。このあたりまでは明確に順位付けできるが、これら以外はみなどんぐりの背比べで、順位付けは難しくなる。

コルトレーン、ガーランド、フィリー・ジョー、チェンバースというおそらくは歴史上初めてと言っていいかもしれない固定メンバーによるジャズバンド
が作ったアルバム。まあ、実際はこの1ヵ月前に内密にコロンビアのスタジオで "'Round About Midnight" の一部を収録しているので、レコーディング自体
これが初めてというわけではない。1955年11月16日に録音されている。

レギュラー・クインテットとして始動まもない時期ということもあり、演奏は手堅く纏まったものとなっていて、全員背筋がピンと伸びた感じだ。
自由なプレイよりも音楽的な纏まりや体裁の良さが重視されている。そこがいい。プレスティッジのこれまでの演奏はラフで、出来不出来の波が
目立っていたが、ここではグループとしてのスタイルやコンセプトが急速なスピードで出来つつあり、その様子が手に取るようにわかる。

ジャズらしいダイナミクスやざらっとした感じはなく、こじんまりと纏まっているところからあまり評価されていないようだけど、この清潔感というか
バランス感が私には好ましい。中でも、"Stablemates" の折り目正しいダンディズムに溢れた演奏が好きだ。抑制されたテーマ部の処理がカッコいい。
この頃のマイルスの影のブレーンはギル・エヴァンスだったから、これも彼のアレンジなのかもしれない。

ヴァン・ゲルダーの録音も良好で、マイルスのミュートの音が濡れている。どの楽器の音もしっかりと立っており、見事な音場感で再生される。
冒頭の "Just Squeeze Me" のマイルスのミュート音の生々しさはプレスティッジ随一かもしれない。

パーカーのバンドで騒々しくけたたましい音楽の渦中にいたマイルスが自己のバンドで描いたのがこういう静謐で澄みきった世界だったというのは
意外だ。でも、このアルバムは本当はナイーヴだったマイルス・デイヴィスの内的世界が端的に表現された貴重なアルバムだと思う。

取り敢えず順位付けでマイルスのアルバムを見てきたが、本当は順位なんてものには意味はない。それは何かを語る際のただの便宜的なツールであり、
自分の中での愛着の度合いというか敬意の度合いの高いものを並べたものでしかない。そうでもしない限り、この多彩な世界を語るのは難しいのだ。


コメント (4)
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