Fred Hersch Trio / Hrizons ( 米 Concord CJ-267 )
フレッド・ハーシュは名前は知っているが、あまりきちんと聴いてこなかったこともあり、よく知らないピアニストだ。以前聴いた作品(タイトル
は失念)の印象が悪くて、それ以来スコープ外の人という整理になっていた。私の悪いところは、ビル・エヴァンスを源とする系譜に入るであろう
ピアニストを無意識のうちに毛嫌いしてしまうところだと自覚している。
このアルバムを手にした時もエヴァンスの痕跡が点々と見えるので一旦エサ箱に戻したが、"Moon And Sand" や "The Star Crossed Lovers"という
好きな楽曲が入っていてちょっと興味が湧いたので、安レコだったこともあり拾ってみた。
ピアニストとしてのこの人ならではの個性はこれまでの印象と変わらず希薄だと思ったが、ハンコックの "One Finger Snap" や "飾りの付いた
四輪馬車" を取り入れるなどして、幅広いリスナーに配慮している丁寧な作りがされていることや、残響に頼らず楽器の音をクリアに録ろうと
しているところなどには好感が持てる。やはりマーク・ジョンソンが目立たないながらもいいサポートをしており、トリオとしてのバランスは
素晴らしい。
ハーシュは個性という意味では弱いけれど、打鍵は正確でしっかりとしており、鳴っている音に濁りがなくとてもきれいだ。そして、それはただ
きれいなだけではなく、良い音楽を紡ごうとする意志が感じられる。何より育ちの良さそうな素直さがよく出ていて、好感の持てるピアノだ。
やはりアナログで聴くと、いろんなことが聴き取れるらしい。アルバムとして傑作だ、という印象までには届かないし、アップテンポの曲の
処理の仕方にはもう少し工夫が必要だと思うけれど、それでも頑なにスコープ外とする必要はないな、という風に自分の中での位置付けが
いい方向に変わったように思う。そういう小さなきっかけをくれたアルバムだった。