廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

方向転換の小さなきっかけ

2020年05月29日 | Jazz LP (Concord)

Fred Hersch Trio / Hrizons  ( 米 Concord CJ-267 )


フレッド・ハーシュは名前は知っているが、あまりきちんと聴いてこなかったこともあり、よく知らないピアニストだ。以前聴いた作品(タイトル
は失念)の印象が悪くて、それ以来スコープ外の人という整理になっていた。私の悪いところは、ビル・エヴァンスを源とする系譜に入るであろう
ピアニストを無意識のうちに毛嫌いしてしまうところだと自覚している。

このアルバムを手にした時もエヴァンスの痕跡が点々と見えるので一旦エサ箱に戻したが、"Moon And Sand" や "The Star Crossed Lovers"という
好きな楽曲が入っていてちょっと興味が湧いたので、安レコだったこともあり拾ってみた。

ピアニストとしてのこの人ならではの個性はこれまでの印象と変わらず希薄だと思ったが、ハンコックの "One Finger Snap" や "飾りの付いた
四輪馬車" を取り入れるなどして、幅広いリスナーに配慮している丁寧な作りがされていることや、残響に頼らず楽器の音をクリアに録ろうと
しているところなどには好感が持てる。やはりマーク・ジョンソンが目立たないながらもいいサポートをしており、トリオとしてのバランスは
素晴らしい。

ハーシュは個性という意味では弱いけれど、打鍵は正確でしっかりとしており、鳴っている音に濁りがなくとてもきれいだ。そして、それはただ
きれいなだけではなく、良い音楽を紡ごうとする意志が感じられる。何より育ちの良さそうな素直さがよく出ていて、好感の持てるピアノだ。
やはりアナログで聴くと、いろんなことが聴き取れるらしい。アルバムとして傑作だ、という印象までには届かないし、アップテンポの曲の
処理の仕方にはもう少し工夫が必要だと思うけれど、それでも頑なにスコープ外とする必要はないな、という風に自分の中での位置付けが
いい方向に変わったように思う。そういう小さなきっかけをくれたアルバムだった。


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コンコードにおけるいいギター・ジャズ(その5)

2017年06月07日 | Jazz LP (Concord)

Emily Remler / East To Wes  ( 米 Concord Jazz CJ-365 )


こんなに凄いギター・ジャズがあるレーベルは、いいレーベルに決まってる。

コンコードにはケニー・バレルがたくさんアルバムを残しているし、タル・ファーローもバーニー・ケッセルもハーブ・エリスも、とにかく名前を挙げればきりがない。
でも、そんな中での真打ちはやっぱりこれに尽きる。

冒頭の "Daahoud" のカッコよさ、"Sweet Georgie Fame"の典雅さなど、単にギター小僧だけに訴求するのではなく、広く音楽として聴かせる力のある内容で、
最高の出来ではないかと思う。 ウェスへの敬愛に満ちた内容で、ギター奏法も歌心も限りなくウェスに近づきながらも新しい感覚で空気を一新する力にも
満ち溢れている。 後のスムース・ジャズ界に登場したノーマン・ブラウンなんかは明らかにこのレムラーのフォロワーで、その影響力も計り知れない。
古いジャズの物真似ではないところに、このアルバムの重要な価値があるのだと思う。

ハンク・ジョーンズのサポートも完璧で、決してレムラーの邪魔をせず、最小限の音で黄金のカーテンを拡げるようなバックのサウンドを創り上げる。
ピアノトリオをバックにすると普通は和音がぶつかって音楽が濁ることが多いのに、まったくそうなっていないのはハンク・ジョーンズだからこそ。
バックのトリオが、この新しい才能を暖かい気持ちで前面に立てようとしたことがよくわかる。

迷いのない真っすぐな疾走感、しっかりとフレーズを歌わせる音楽観など、褒めるところしか見つからない稀有なアルバムではないか。

コンコードはこうやって大物だけではなく、新しい才能にも積極的に場を提供した。 そのおかげで彼女の素晴らしい作品群が世に出ることができたのだ。
だから、このレーベルはいいレーベルなのだと思う。


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コンコードにおけるいいギター・ジャズ(その4)

2017年06月04日 | Jazz LP (Concord)

Ed Bickert / Bye Bye Baby  ( 米 Concord Jazz CJ-232 )


いいギター・ジャズのアルバムがあるレーベルはいいレーベルである、というのは間違いない。

デイヴ・マッケンナのピアノ・トリオをバックにビッカートが軽快にスイングする。 ピアノがいるのでコード演奏はそちらに完全に任せていて、ここでの
ビッカートはシングル・ノートで弾きまくっている。 こういうのは彼にしては珍しいかもしれない。 ギタリストにとってはあれこれと気を使わなくていいから、
このほうが楽でいいんだろうし、マッケンナの屈託ないピアノの影響もあってか、音楽全体が明るい。 休日の爽やかな早朝のような雰囲気がある。

それにしても、デイヴ・マッケンナという人は50年代の頃から何も変わってないな、というピアノを弾いている。 80年代になってもこういうご陽気なピアノを
弾いていて果たしていいんだろうか、という疑問がないわけではないけど、まあ、ここでの演奏のスコープはあくまでもゴキゲンな音楽をやることだから、
その目的はしっかりと達成している。 普段は大人しいビッカートも明らかにその雰囲気にあてられていて、前に出た演奏になっている。

キャノンボールが書いた "Things Are Getting Better" でのギターの緩くて長いソロがいい。 チョーキングを多用して曲想を演出しようとしているけど、
ちっともファンキーじゃないところが何となく可愛い。 ストレイホーンの "A Flower Is A Lonesome Thing" での漂うような哀感がいい。 

華麗なテクニックを披露するわけでもなく、ブルージーにシブくキメるわけでもないけれど、この人の淡々と音を紡いでいくギターはとても判りやすい。
クセのないテレキャスターの音は優しく耳に残る。 アルバムの最後に置かれたヴィンセント・ユーマンスの "Keeping Myself For You" の絶妙なリズム感と
テンダー・フィーリングが絶品で、アルバムが終わるのが勿体ない気分になる。 そして、いい音楽を聴いたな、という心地よい実感が残るのだ。


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コンコードにおけるいいギター・ジャズ(その3)

2017年06月03日 | Jazz LP (Concord)

Remo Palmier  ( 米 Concord Jazz CJ-76 )


いいギター・ジャズのアルバムがあるレーベルは、いいレーベルである。

パーカーらがいたビ・バップ時代に新人としてデビューして演奏の現場で活躍してきたレモ・パルミエの唯一の単独リーダー作。 ハーブ・エリスとの共同名義の
ものを除くと、リーダー作は何とこれしかない。 これは本当に勿体ない。 とてもいいギタリストだからだ。

穏やかなバラード調の曲だけを集めて、1音1音確かめるようにしながら弾いていく。 これがパット・マルティーノの弾き方とそっくりなのだ。 ギターの音色も
そっくりで、これには驚いてしまう。 但し、それは真似をしているという感じではなく、長年かけて積み上げてきた結果こうなったという確固たる風格が
ひしひしと感じられる。

"Two For The Road" や "Dolphin Dance" など選曲のセンスが良いし、ルー・レビィやレイ・ブラウンがバックを固めているのでサウンド全体の強固な
安定感もハンパなくて、聴いていて満足度の非常に高い完成されたアルバムになっている。 くどいようだが、これ1枚だけというのが何とも悔やまれる。

コンコードのポリシーに沿ったリスナー第一主義の音楽だけれど、マニアが聴いてもそのレベルの何気ない高さに唸らされる。 ロック界のTOTOやフージョン界の
Fourplayのような感じだ。 こなれた耳にはその演奏力の高さがすぐにわかるだろう。

1945年からラジオ局付きのミュージシャンとして70年代まで活動してきたので、レコード制作に縁が無かった。 デビューしたばかりの頃は当時のギブソンの
広告モデルに採用されていたくらいだから、将来を嘱望された存在だったのだろう。 こうして表舞台に出ることなく終わった有能なミュージシャンが一体
どのくらいいたのだろう、と考えるとなんだか気が遠くなってしまう。





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コンコードにおけるいいギター・ジャズ(その2)

2017年05月28日 | Jazz LP (Concord)

Ed Bickert / I Wished On The Moon  ( 米 Concord Jazz CJ-284 )


いいギター・ジャズのアルバムがあるレーベルは、いいレーベルである。

カナダのローカル・レーベルへの録音が主だったエド・ビッカートも、コンコードに数枚録音を残している。 コンコードのカラーにはよく合う人だ。
ビッカートは地元で活動できればそれで十分、という感じの人で、隣国の賑やかな大都会まで出向いて一旗揚げようという野心とは無縁の人だった。
そういう欲のないところがこのレーベルにはピッタリだった。

このアルバムは相棒のドン・トンプソンではなく、テナー・サックスを加えたカルテット編成。 ビッカートのホーンへのバッキングの仕方がよくわかる内容だ。
リック・ウィルキンスというテナー奏者は初めて見る名前だが、カナダ人でアレンジャーとしての活動で知られているらしい。 そのせいか、テナーの演奏は
とても堅実で生真面目だ。 音色もフレーズもマイケル・ブレッカー的優等生な感じで、清潔感もあり、なかなかいい感じだと思う。

とにかく洗練されてスマートでお洒落なカフェのBGMにはうってつけの演奏という感じだけど、こういう雰囲気はアメリカのミュージシャンには出せない
ように思う。 ジャズという音楽の渦中ではなく、ちょっと距離を置いたところからジャズを眺めている人じゃなければ、こういう雰囲気には仕立てられない
のではないか。 音楽など聴かない一般の人が連想する「ジャズ」のイメージ(おしゃれな、大人の、)通りの演奏だ。 それが悪い、ということではなく、
確かにこの音楽にはこういう雰囲気を持った一面があって、その部分に特化した演奏になっているということだ。 それには技術力が無ければ無理だし、
しっかりとしたジャズのフィーリングも必要で、一流のミュージシャンが上質な演奏をしていて成功しているということだと思う。

特にテナーが抜けたトリオでの演奏の抒情味溢れるデリケートさは突出している。 ギター・トリオでしっとりと落ち着いたバラードが聴きたい、という時には
これ以上のものは他には見つからないだろう。 テナーの入った曲でもアップテンポの曲でも重層的なコードの響きを上手く使った透明度の高い演奏を
していて、じっくりと聴き入ってしまう。 ギターの素晴らしさが味わえると思う。

ビッカートがカナダで作ったレコードはどれもおそろしく地味で、よほどのベテランじゃなければ食指が動かないようなものばかりだけれど、コンコードに残した
アルバムはもっと広くアピールできる内容だと思う。 録音も素晴らしく、音響上の快楽度も非常に高い。 こういう質の高いレコードを量産していたのだから、
このコンコードというレーベルはいいレーベルなんだろうと思う。


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コンコードにおけるいいギター・ジャズ(その1)

2017年05月27日 | Jazz LP (Concord)

Herb Ellis, Freddie Green / Rhythm Willie  ( 米 Concord CJ-10 )


いいギター・ジャズのアルバムがあるレーベルは、いいレーベルである。 

コンコードが展開する音楽は如何にもアメリカの白人アッパーミドルをターゲットにした軟派なものだし、盤も量産されているので経済的価値もないし、
ということでコレクターが完全無視してくれるから中古市場ではそのすべてが安レコで、これがとにかくありがたい。 昔のノーマン・グランツの趣味を
現代に焼き直したようなカタログ内容で、スイングや中間派を土台にした現代ジャズというコンセプトも日本ではウケない。 ノーグランのスタン・ゲッツは
さしずめコンコードのスコット・ハミルトンになるんだろうけど、こちらもまったく相手にされない。

そんなコンコードには、いいギター・ジャズのレコードがたくさんある。 だから、コンコードはいいレーベルなんだと思う。

このハーブ・エリスとフレディ・グリーンという老巨匠が揃うアルバムは傑作だ。 集まったメンツの名前や演奏している曲名を見て昔のスイング系かという誤解を
されそうだけど、これがまったく違う。 スイングとかバップというような分類の話からはとっくに卒業している、何とも形容し難い高級な音楽だ。

和音楽器が3つあるにも関わらず、ハーブ・エリスはメロディー・ライン、フレディ・グリーンはリズム、ロス・トンプキンスは和声、と住み分けが上手くできており、
ハーモニーがぶつかって濁るということがない。 とてもすっきりとした見通しのいいサウンドになっている。 どの曲も非常に落ち着いた演奏になっていて、
ガチャガチャしたところもない。 針を降ろす前の想像とのギャップの大きさに驚かされる、とてもおだやかな大人の音楽だと思う。

ここまでくるとギター・ジャズという言葉すら突き抜けてしまっているけれど、それでもギターの魅力が溢れている。 このレーベルはいいレーベルなのだ。


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