廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

本当の姿が写る初リーダー作

2021年07月31日 | Jazz LP (Savoy)

Jullian "Cannonball" Adderley / Presenting Cannonball  ( 米 Savoy MG 12018 )


音楽に限らず、文化・芸術の分野において、デビュー作にはそのアーティストの本当の姿が写っている、と言う。
普通はその人の代表作と言われるものから入って、それが気に入れば他の作品にも手を拡げ、やがてはデビュー作に触れることになる。
そして、確かにそうだな、と感じることが多いのは事実だろう。

私の場合も例外ではなく、最初に聴いたのは "Somethin' Else" で、その後はリヴァーサイドで、というお決まりのコースだったが、
40年近く経ってようやく初リーダー作へとたどり着いた。理由は簡単で、このレコードが珍しいからである。

ハンク・ジョーンズ、ポール・チェンバース、ケニー・クラークというベストな布陣の下、上質で優雅にゆったりとスィングする音楽で、
この人の見た目からはなかなか想像し難い清潔な質感で貫かれている。後に時代の要請もあってファンキーの権化のような扱いを
受ける時期もあったけど、あくまでもキャノンボールの本質はこのアルバムやマイルスとの共演の時に見せた上品さにあると思う。

とにかく彼のアルトが始まると、場の空気が一変するのが凄い。張りのある大きな音であるにもかかわらず、どこか一歩下がったような
おしとやかさがあり、フレーズがゆったりとバウンドするような抑揚を持ちながら優雅に歌われていく。こんなアルトは他の誰にも吹けなかった。

フロリダからニューヨークに兄弟揃って出てきて、仲良く活動する様も可愛らしい。ナットも安定した演奏をしており、アルバムの出来に
貢献している。B-2の "Caribbean Cutie" で聴かせる制御の効いた2人のユニゾンは素晴らしい。

そして、最後は何とも優雅に舞う "Flamingo" で幕が降りる。この構成は、後の "Somethin' Else" に引き継がれる。曲の数、各曲の色付けなど
そっくりなのだ。あのアルバムは実質的にはマイルスのアルバムだ、なんて言われるけど、私はそうは思わない。もちろん、その存在感は
絶大だけれど、あくまでもアルバムの建付けはキャノンボール自身のものであることは、このデビュー作が証明している。
フロリダで音楽教師をしていたという彼のインテリジェンスがこのアルバムを支えている。

この後、兄弟は揃ってマイルスの家を訪れて、どのレーベルと契約するべきかについて教えを乞うている。マイルスはアーティストに
自由にやらせてくれるブルーノートを勧めたけれど、なぜか彼らはエマーシーを選んでしまい、その後しばらくは低迷してしまう。
やくざなプレスティッジを推さなかったのには笑ってしまうけれど、マイルスの予言は当たっていた。先輩の助言には従うものである。



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エサ箱で拾いたい

2021年07月25日 | Jazz LP (Vocal)

Dick Haymes / Serenade  ( 米 DECCA DL 5341 )           Harry James / The Man With The Horn  ( 米 Columbia CL 2527 )


ディック・ヘイムズが好きなので、常時、彼のレコードがないかなと心のどこかで思いながらエサ箱を漁っている。イマドキこんなのは誰も聴かない
から、レコード自体出回ることがないのはわかっているけれど、それでもまあ、ないかなと願いながらパタパタやっている。

もう何年も出逢いはなかったけど、このところ立て続けに拾うことができた。どちらもSP録音の10インチ切り直し盤で古いレコードだが、
まるで新品のようなきれいな状態だった。特にデッカ盤は傷んでいることがほとんどだから、こういうのは本当に珍しい。
コロンビアの方はハリー・ジェイムスのレコードだが、この中で "I'll Get By"、"My Silent Love" の2曲を歌っている。

ネットで買えば簡単に手に入るけど、それでは面白くないし、そもそもレコード本体よりも高い送料を払うのがバカバカしい。
こういう安レコはエサ箱で見つけたい。



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ステレオプレスで聴くべき盤

2021年07月24日 | Jazz LP (Impuise!)

Milt Jackson Quartet / Statements  ( 米 Impulse! A-14-S )


ヴァン・ゲルダーのステレオ録音の美しさを実感できる1枚。このアルバムはステレオプレスで聴くべき。
ヴィブラフォンのシリンダーが響く音色が涼やかで何とも美しい。きらきらと輝きながら宙を舞う様が見える。

バックはハンク・ジョーンズ、ポール・チェンバース、コニー・ケイだが、この3つの楽器の音も見事に捉えられている。
コニー・ケイのショット1つ1つが広い空間の中に響き、そこが奥行きのある空間であることがよくわかるし、チェンバースのベースの
質感も実にリアルに録られている。インパルスのステレオ録音は非常にいい。

手垢の付いたスタンダードを入れず、自作やジャズメンのオリジナル曲で固めたところもいい。ムードに流さたイージーな雰囲気にならず、
質感の高い硬派な内容になっている。ミルト・ジャクソンはそれらをハードに演奏することなく、あくまでも優雅にゆったりと膨らませる。
こういう独特の雰囲気はこの人にしか作り出せないだろう。

どのレーベルからも引っ張りだこだった人だが、このレーベルのアルバムは録音の良さから頭一つ抜きんでている。



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ガチ中のガチ

2021年07月19日 | Classical



意表を突いたクラシックのレコード本だけど、私は面白く読んだ。ただ、これからクラシックを聴こうかという人は、ここに載っている
アルバムを買うのは一旦止めておく方がいい。ここに載っているのは何十年もクラシックを聴いてきて、世に言う名演・名盤は一通り聴いて、
その次の次の次くらいに聴くものが大半で、つまり、ガチ中のガチだからである。

本人は高価な稀少盤の知識は持ち合わせていない、と書いているけど、これはおそらく違うだろう。ジャズのレコードを漁るのと同じ
スタイルでレコードを探していれば、否が応でもそういう知識は身に着く。でも、ただでさえ妬み・やっかみを買いやすい立場にいるのに、
稀少盤やら高額盤やらを見せびらかせば総スカンを喰うことは火を見るより明らかだから、そういうものはここでは徹底的に排除されている。

つまり、そういう知識が無ければ逆にここまで完璧に痕跡を消し去ることは不可能なのだ。これはまるで完全犯罪をやり遂げる天才犯罪者並みの
仕事だと言っていい。本当なら好きなレコードを全部開陳して、思う存分語りたいことを語りたいはずなのに、なかなかそうもいかないという
本人の難しい立場を反映したギリギリの内容だったのだと思う。世界的大ベストセラー作家になるのも、良し悪しである。

そういう大人の事情が透けて見えながらも、それでも私には面白い内容だった。私自身はクラシックに関しては今ではもう特定のジャンル
(室内楽とピアノ曲)しか聴かないから、家にあるレコードがこの本に出てくることはあまりなかったけど、それでも何枚かはヒットしていて、
そういうのは素直にうれしいものだ。





しかしなあ、ゲザ・アンダが好き、というのもある意味、来るところまで来ている。そんな人はそうそういないはずだ。
ただ、このシューベルトは記載にもあるように、悪くない。シューベルトのソナタが今ほど評価されていなかった時代なのに
正面切って録音しただけあって、得も言われぬ意志の力を感じる。






まるでベートーヴェンのようなシューベルトで、演奏の質感としては異例なものだけど、私もゼルキンの不器用さには
いつも心を惹かれて、同じように心情的に肩入れしてしまう。






本に掲載されているのはアメリカ・ウエストミンスター盤だけど、こちらはフランス・コンセルテウム盤。
古い録音だけど端正な演奏で、さすがは "ウィーン三羽烏" 。






以前、何かのエッセイでもこの盤を取り上げていたので、余程のお気に入りなんだろう。
グールドがこうして録音したおかげで、その後は間奏集のアルバムがたくさんリリースされるようになった。






本に載っているのは第3版くらいの廉価盤で、こちらはフランスのデュクレテ・トムソン盤。ウエストミンスター社はフランスでの
発売をデュクレテ・トムソン社に委託していた。ハスキルはこの第20番を2回録音しているけど、私はこちらの方がずっと好き。



この本は、村上春樹ファン、クラシック音楽ファン、レコード・マニア、の3種類の人間を満足させる稀有な本なのである。
個人的にはもっとディープでコアな内容を読みたいけど、いずれまたどこかでそういう機会もあるだろうから、今後に期待したい。



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白ワインとパンが似合う音楽

2021年07月18日 | Jazz LP (国内盤)

Oscar Peterson - Stephane Grapplli / Quartet Vol.2  ( 日本コロンビア YX-7008-MU )


ステファン・グラッペリの演奏はたまに訳もなく聴きたくなる時があるので、何かいいレコードはないかなと常々思っていたら、これに当たった。
とにかくペデルセンのベースが最高に良くて、やっぱりすごいベーシストだったことを改めて実感する。メンツから見て、おそらくフランスで
録音されたのだろう。70年代のアメリカでは考えられない、避暑地的優雅さに満ち溢れている。

白い壁のこじんまりとした小さな家、陽当たりのいい庭に置かれたテーブルの上にはバスケットに入った冷えた白ワインと小麦の香りがするパン。
そういう永遠の憧憬のような風景が浮かんでくる。ステファン・グラッペリの音楽はそういう音楽だ。

ヴァイオリンで奏でられるジャズには独特の雰囲気があって、それが誰の演奏であっても、他の楽器では決して作ることができない
世界観を表現できる。それは非日常の世界であり、たまになぜかそういう雰囲気に浸りたい気分になる日がある。
そんな時にこのレコードはうってつけ。ワンコインの国内盤だけど、音質はまったく問題ない。








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音のいいパーカーのブートを探す(2)

2021年07月16日 | Jazz LP (ブートレグ)

Charlie Parker / Cheers  ( スコットランド S.C.A.M. Records JPG 2 )


このS.C.A.M(Specially Collected American Music)というレーベルはエディンバラに居を構えていたらしいが、パーカーのブートを4枚
出しただけだったらしい。レコード会社というより、個人が自費出版したのではないだろうか。それにしてはジャケットはラミネート仕様で
丁寧な創りだし、プレスもしっかりとしていて、ブート臭さはあまりない。

そして何より、パーカーの音が非常にいい。公式録音のものと同等、若しくはそれ以上の音なのだ。1949~53年にかけての複数の演奏が
収められているにも関わらず、一貫してパーカーのアルトが朗々と太い音で鳴っている。レッド・ロドニーとのクィンテットだったり、
パウエル、ミンガスとのワン・ホーンだったり、スェーデンへの演奏旅行中のエリクソンとの録音だったり、と時と場所がバラバラなのにも
かかわらずだ。同じ人の録音ではないはずなのに、なぜ、こうも統一した音場感なのかが謎である。

先の記事へのコメントでもご指摘いただいた通り、同じ音源が別レーベルでもリリースされていたりして、こういう非公式音源は
裏ルートでは自由に取引されていたらしい。

そして何より貴重なのは、パーカー・ウィズ・ストリングスのライヴ演奏が聴けることだ。公式レコードがアメリカでヒットしたため、
ノーマン・グランツがパーカーに弦楽隊を帯同して全米でコンサートをやらせたのは知っていたが、まさかその音源が残っているとは思わなかった。
この時の演奏が聴きたいなあと以前から思っていたので、これには小躍りしてしまった。

パーカーの演奏は月並みだが "神憑って" いて、聴けば聴くほどその凄さが際立つ。ジャズが記録されて100年が経つけど、後にも先にも
この人を凌駕する者はやはりいないのだ、ということがこんなにもいい音で記録されていたということが素晴らしい。







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音のいいパーカーのブートを探す

2021年07月11日 | Jazz LP (ブートレグ)

Charlie Parker / 1949 Concert  (OSR 2405)


パーカーの公式録音(レーベルとの正式契約に基づく録音)は数が多くなく、すぐに全部聴けてしまうので、やがて物足りなくなる。
そして、もっと聴きたいという欲求が募り、人をブートへと走らせるわけである。

但し、問題はその音質。時代的には当時ようやく商用として発売されだしたポータブル・テープレコーダーをライヴ会場に持ち込んで、
ステージ横の階段だったり、裏手のトイレの前だったり、2階の物置部屋なんかでこっそりと録音されたので、音質の悪いものがほとんど。
まあ、パーカーに限らず、これはブートの宿命なのでとやかく言っても始まらない。パーカーの演奏はどんな演奏であっても記録に
残されるべきだと考えた人たちがいて、情熱をもってパーカーの追っかけをやって(中には職を投げ打って)録音したのである。

その甲斐あってたくさんのブートが残っているわけだが、やはり聴くなら音のいいものを聴きたい。この週末、新入荷のコーナーにパーカーの
ブートが纏まって出ていたので(たまたまお客の少ない時間帯だったこともあり)15枚試聴したが、聴くに耐えるものは4枚だけだった。
どれも3桁の値段なので視聴などせずに全部拾ってもいいのだが、やはり音の悪い録音は買っても繰り返し聴くことがないことは
わかっているので、無駄な買い物をするわけにもいかない。そうやって手間のかかる地道な作業もそれなりに楽しいし。

今回拾った中で最も音が良かったのが、このアルバム。1949年のカーネギー・ホールでの演奏ということだが、本当なのかどうかはわからない。
写真に写っている相棒はマイルスだが、演奏しているのはレッド・ロドニー、アル・ヘイグ、トミー・ポッター、ロイ・ヘインズのお馴染みの
面々で、こういうのもブートならではのいい加減さ。

このパーカーの音の良さは驚愕もので、公式録音のものと同等以上の音でアルトの音が聴ける。ブートの演奏は基本的にピアノ・トリオの
音がどれもまともに聴き取れないが、その中でパーカーのアルトだけは音が大きくクリア。どれだけ彼の鳴らす音が大きかったがよくわかる。

パーカーは毎日のようにどこかで演奏して日銭を稼いで暮らしていたから、ここで聴けるのはそういう彼の日常の一コマだったわけだ。
だから演奏は飾り気がなく、手慣れた様子でやっている。クリシェも多く、特に凝ったことをしているわけでもないが、それでもやはり
彼の演奏はどれを聴いても感動させられる。こうして色々聴くことで、伝説の人が身近な存在へと変わっていくのが嬉しい。



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作曲家としてのバド・パウエル

2021年07月09日 | Jazz CD

Rossy & Kanan Quartet / BUD (Swit Records B07CZSTVX8)       Tadd & Thad (Swit Records 8427702900308)


Jorg Rossyのヴィブラフォン、Michael Kananらのピアノ・トリオによるソング・ブック・シリーズで、他にガーシュイン、H.アーレンの
ものも出ているが、それらはアレンジ先行であまり面白くないので、この2枚だけ手許に残した。

非常に素直でオーソドックスな演奏で、好感度の高い内容だ。落ち着いた佇まいで、人のいない小さな美術館の清潔な部屋の中にいるような
気分になる。バップ期のジャズ・メンが作ったオリジナル曲のエッセンスを漏らさず、センスよく纏めた演奏が見事だが、特にパウエルの
楽曲集が秀でた内容だ。

考えてみるに、パウエルの楽曲だけをこうして集めたアルバムというのはこれまでなかったのではないか。そして、パウエルがこんなにも
たくさんの楽曲を書いていて、且つそのどれもが非常に高いクオリティーだったということに改めて感嘆の念を覚える。
この着眼点に感心させられる。

ピアニストは最初はクラシックから入るので概ね音楽の素養がしっかりしている人が多いが、パウエルも例外ではなかった。
モダン・ジャズ・ピアノの開祖としてその演奏方法にばかり称賛が集まるが、パウエルはそのフレーズがメロディアスなところが
実は良くて、それが人々の心を掴むのだ。だから、彼がこういう魅力的な楽曲群を創ったのは当然だったのかもしれない。

"Dusk In Sandi" なんてジャズの曲とはとても思えないし、"I'll keep Loving You" の抒情感もがさつなビ・バッパーの姿には重ならない。
私は "Tempus Fugit" が1番好きな曲だが、ここでの演奏は静かでクールな解釈で、とてもいい。

モンクなんかと同じで、こうして楽曲単位でその魅力を語れるところがパウエルのもう1つの凄さなんだろう。
この見事なアルバムは、それを改めて教えてくれる。もう1つのダメロンとサドの方も、同じように出色の出来で素晴らしい。



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新鮮な風に吹かれるような

2021年07月04日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / On A Friday Evening  ( Craft Recordings 7215863 )


発売されてすぐに入手して1日置きくらいに聴いているが、完成されたデリケートな演奏に深い満足感を覚えている。
音質はピアノが奥にいてドラムが手前にいるような音場感だが、全体的に変な色付けなどされておらず、素直でナチュラルな音質で、
とてもいいと思う。リヴァーサイドのレコードを聴いて育った私なんかは、エヴァンスのピアノは変にハイファイな音質で聴くより、
こういうややナローな音で聴く方が好ましい。これこそ、エヴァンスのピアノだと思うのだ。

晩年によく取り上げていた楽曲群がやはり新鮮で、エヴァンスの当時の新しい心境が作る世界観に自分がいられることに喜びを感じる。
久し振りに取れた長期休暇で海外のリゾート地に降り立ったような、何とも言えない解放感と期待感に包まれるような感じ。
これからしばらくはしっかり遊んで、やりたいことだけをやって過ごすぞ、と心に決めた時のような気分。

固定化したエヴァンスのイメージやアルバム感のようなものから解放されて、新しい世界観へと扉が開くような印象があって、
こうして未発表音源がリリースされ続けることには意味がある、と最近は素直に思えるようになった。
それがこうしてレコードで聴けるということが何より嬉しい。レコード復権の機運があったからこその、幸運なタイミングに感謝。

どこを切り取っても「ビル・エヴァンス」という内容で、何か目新しいことがある訳ではないが、ビル・エヴァンスはビル・エヴァンスで
あることが尊いのであって、我々はそれ以外のことなど望んでいないのだから、これでいいし、これがいいのである。

買ってよかった。大満足。



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驚きの1枚

2021年07月02日 | Jazz CD

Anne Phillips / Live at the Jazz Bakery  ( 米 Conawago Records 1014 )


レコード漁りが絶不調の中でCD棚を漁っていると、怪我の功名か、思わぬ作品に出合う。私がほぼ唯一(と言っていい)聴く
白人女性ヴォーカルのアン・フィリップスのライヴCDもその1つ。

彼女は1959年にルーレットから "Born To Be Blue" をリリースして、心あるヴォーカル・ファンの気持ちを鷲掴みにしてきたが、
いわゆるジャズの範疇に入るアルバムはこの1作のみ。70年代にもアルバムはあるようだが、どうも内容的にはジャズではなさそうだ。

1作だけでジャズ界隈からは消えたのかと思っていたが、引退したのではなく、裏方としてコマーシャル・ソングを歌ったり、
クラブなどで歌ったりしていたそうだ。そんな地道な活動の1コマとして、2019年に突然このCDがリリースされたらしい。
録音日時は不明だが、割と近年の歌唱なのではないだろうか。ロジャー・ケラウェイのピアノ、夫のボブ・キンドレッドの
テナーとベースによるトリオをバックにスタンダードを歌っているのだが、これが落涙モノ。

それなりに声は枯れてはいるものの、基本的には59年時の歌声の印象とあまり変わらない。当時のストレートな歌い方を土台にして
技巧的に進んだ、それでいて鼻につくことのない「経験を自然に積みました」感の漂う歌唱になっていて、素晴らしい。
ライヴなので、前作よりはくだけた歌い方に当然なっているが、前作の残り香は感じられる。

ケラウェイのピアノが絶品で、夜の静寂の中でゆっくりと静かに進む音楽の印象は "John Coltrane & Johnny Hartman" を想い出す。
観客に語りかける親密な雰囲気、音質の良さなど音楽の背景も申し分なく、しばらく行っていないライヴ特有の情感に酔わされた。
夜、部屋の灯りを落として、酒を飲みながら聴くのにうってつけである。


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