廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

スジの良いピアニスト

2022年05月29日 | Jazz LP (Warner Bro.)

Barbara Carroll / "Live" Her piano And Trio  ( 米 Warner Bros. W 1710 )


ピアニストとしてのスジの良さでは、このバーバラ・キャロルの右に出る人はなかなかいない。彼女のアルバムを聴くたびにそのピアニズムに
深い感銘を受けるが、このライヴを聴けば、その感想が間違っていないことがよくわかる。

乱れることのない運指、常に一定の音量、完璧なリズム感、そのどれをとっても超一流のピアノで、国際ピアノ・コンクールなんかで聴く
ピアノ演奏と同等の質感があって、それがこういうくだけたジャズ・ライヴの中で鳴っていることの驚異。果たしてどれだけの人がそのことに
気が付いていただろうか。

1967年のリリースで、選ばれた楽曲はお決まりのスタンダードではなく、当時の映画音楽など時代を反映したもので、そういう意味でも
新鮮味がある。凄腕の無名のベーシストとドラマーとの一体感も見事で音楽が心地よく揺れているが、それでもやはり耳につくのは彼女の
ピアノの上手さで、それがこれ見よがしにひけらかされたものではなく、さり気なく控えめながらも黙々と披露されているから痺れてしまう。

彼女のそういう美質は一般には理解されにくいところだから一向に世評は上がらないが、まあそれはいい、こうして自分だけの名盤として
聴いていけばいいのである。

ワーナー・ブラザーズの録音だから音も良く、ジャケットはレギュラー品のステレオだが、中に入っているのはプロモのモノラル番号のプレス。
この時期のモノラル盤は音が悪いのが普通だが、さすがは大手レーベルで品質がいい。



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都会的なレア・グルーヴ感(2)

2022年05月22日 | Jazz LP (Blue Note)

Donald Byrd / Stepping Into Tomorrow  ( 米 Blue Note BN-LA368-G )


先の "Places And Spaces" の半年ほど前に録音された姉妹作だが、こちらはゲイリー・バーツのサックスが前面で目立つように配置されていたり、
デヴィッド・T・ウォーカーのイカしたギターが入っていたり、ストリングス・アレンジよりもシンセサイザー処理が目立つなど、演奏の構成が
異なっている。そのためバンド感が感じられ、サウンドもずっとシンプルだ。

それにしても何だろうなあ、このなめらかさは。白人ミュージシャンが歯ぎしりして悔しがる究極の楽園的サウンド。目を閉じて聴いていると
別世界に連れて行かれて、その心地よさが罪悪感さえももたらす。そういうところに本能的に警戒心を抱く人もいるかもしれない。

表面的にはそれまでのハード・バップとは完全に別物の音楽だが、ただ、よく聴くとこの音楽もかつてのジャズがあったからこそ出来上がった
音楽なのだということに気が付く。ヴォーカルがコーラスとしてコラージュされてはいるけれど、本質的には楽器のみの演奏で音楽が構成され、
各楽器がそれぞれの立場でアドリブとして歌うことで音楽が成立しているというのは、ジャズそのものである。そして、それはドナルド・バードの
トランペットが真ん中にいるからこそ成り立っている。

やっぱり、T・ウォーカーはカッコいい。新時代のフレディ・グリーン / ジム・ホール、という感じである。こういう脇役の枠には収まり切れない
ギタリストがいると、音楽は格段に面白くなるのだ。



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都会的なレア・グルーヴ感

2022年05月21日 | Jazz LP (Blue Note)

Donald Byrd / Places And Spaces  ( 米 Blue Note BN-LA549-G )


ブルーノートのこの時代の作品群をそれまであまりちゃんと聴いてこなかったので、ロバート・グラスパーのブラック・レディオを最初に聴いた時に
何でブルーノートからリリースされたのか腑に落ちなかったが、それは私が無知だっただけで、元々こうして下地があったということだった。

"Bitches Brew" が70年、"Weather Report" が71年、"Return To Forever" が72年、という流れに沿うように、ドナルド・バードも70年代に入った
あたりから作風がいわゆるレア・グルーヴ系に移行し始めて、代表作と言われる本作は75年にリリースされている。ウェザー・リポート以降、
白人が始めた音楽のぎこちなさや居心地の悪さと比べて、ドナルド・バードのやった音楽はあまりになめらかで、妖艶で、それでいて爽やかで、
4ビートからの跳躍の度合いが大きいながらも極めて王道的である。

ドナルド・バードはハード・バップ黎明期からメインストリームで活躍してきた生粋のバッパーだが、それでもジジ・グライスと "Jazz-Lab" なる
実験的グループを組んでみたり、ハービー・ハンコックを見出してみたり、と他とは一味違ったことをやってきた人。単純なブルースベースの
音楽だけやって満足するようなタイプではなかった。なので、彼が70年代にやってみせた大きな飛躍は本人してみればあまり違和感はなかった
のだろうと思う。ただ、批評家連中からは「金で魂を売った」などと揶揄されて、当時は相当凹んだらしい。いつの時代も新しいことをやる人は
批判を受けるが、50年が経とうとする現在、これを聴いてああだこうだと言う人はいない。この完成度の高さにただ驚愕するのみである。

ストリングス・アンサンブルが効果的に施されていて、これが音楽に爽やかな風を吹かせているが、適量のブラス・アンサンブル、ダンサブルな
ヴォーカルが、チャック・レイニー、ハーヴィー・メイソンの超強力なリズムに支えられて一体化して高揚感を生んでいる。南米音楽の湿度の高い
暑苦しさや気怠さ、モータウンのようなバタ臭さとは一線を画す、極めて都会的で洗練された感覚で貫かれているのがいい。この何とも言えない
感覚に憧れたミュージシャンたちが後を絶たなかったのはよくわかるのである。

楽曲がとても優れているので、A面もB面もあっという間に演奏が終わってしまう。昔、CDで聴いた時はここまでの感銘を受けなかったが、
こうしてアナログで聴くとやはり何かが違う。当時の空気感や心地よく痺れるような微熱が発せられているようなところがあって、
こればかりはやはりレコードで聴かなければわからない感覚なのだろう。若い人たちが1度は夢中になるのがよくわかる。



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キャノンボール・バンドの凄み(2)

2022年05月15日 | Jazz LP (Riverside)

The Cannonball Adderley Sextet / In New York  ( 米 Riverside RLP 404 )


キャノンボールのセクステット名義で出ているアルバムは4枚だが、そのどれもがライヴ・アルバム。その理由について、オリン・キープニューズは
近年のテープ録音機やマイクの性能の大幅な向上でライヴ会場の興奮の様子がそれまで以上に上手く録れるようになったことを挙げている。
特にキャノンボールのバンドの演奏に対するオーディエンスの熱狂は凄まじく、この様子を録ることがキャノンボールの音楽の本質を把握するのに
1番相応しいのだ、と。

彼がそう考える契機となったのがラティーフが加わる前の1959年10月のサン・フランシスコのライヴハウス "The Jazz Workshop" での
クインテットのライヴ録音だった。当時のサン・フランシスコには彼の基準に適う録音機材が揃った録音スタジオがなかったので、仕方なく
ライヴハウスに機材を持ち込んで録音をしたのだが、このアルバムが見事にヒットした。これが彼のアルバム作りの方向性を決めることになった。

考えてみれば、この時期のリヴァーサイドにはライヴ・アルバムの傑作が多い。ビル・エヴァンスのヴァンガード・ライヴもこうした背景をもとに
生まれたということになるのだから、これもキャノンボールとの縁ということになるのかもしれない。物事は見えない糸で繋がっている。

このアルバムも非常に多彩な内容だ。ジミー・ヒース作の名曲 "Gemini" 、旧き良きビッグバンド時代を再現したような重奏のしっかりとしたもの、
映画 "フレンチ・コネクション" の中で流れていたような水面下で悪事が進行している様子を予感させるようなダークな曲想のものなど。
皆それぞれがコンセプトの明確な楽曲ばかりで、1回のライヴでここまで満足させられるセット・リストはまずないだろう。そして、どの演奏も
本当に上手くて、観る側に熱が入るのは当然だ。こんなライヴなら私も観たかった。キープニューズの考えは正しかったと思う。



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キャノンボール・バンドの凄み

2022年05月08日 | Jazz LP (Riverside)

Cannonball Adderley / Jazz Workshop Revisited  ( 米 Riverside RS9444 )


キャノンボールはやはりリヴァーサイドがいい。この前のエマーシー/マーキュリー時代やリヴァーサイドが倒産して止む無く移籍した
キャピトル時代のものはレーベル側の意向が優先されたアルバムが多く、キャノンボールの姿はあまりよく見えない。

それに比べて、リヴァーサイド時代は彼が当時考えていた音楽がそのままパッケージされていて、本当に自由にやっているのがよくわかる。
それはオリン・キープニューズが音楽は音楽家の物だと考えて、彼らの意向を最優先にして自由にやらせたからだ。
そういうのは経営者としては失格だったのかもしれないけれど、音楽プロデューサーとしては最上の資質だったと思う。
それはこのレーベルに残されたアルバム群が証明している。とにかく、このレーベルは傑作の森なのだ。

コレクターたちが相手にしないこの時期のキャノンボールの演奏は、音楽的には非常に充実している。ユーゼフ・ラティーフを加えた3管に
ザヴィヌルのピアノを擁した音楽の質は極めて高く、独自の世界観に満ちている。彼は自身のバンドを持つことにこだわり続けた人だったけど、
メンバーがなかなか安定せず、そのせいで音楽水準を維持させるのには常に苦労していたが、人格者だったラティーフの人柄に惹かれて
バンドに迎え入れてからは束の間の安定をみせた。

オーボエやフルートでオリエンタリズムをグループに持ち込んだことで、ファンキー一色だったバンドのカラーは当然ながら変化する。
このライヴでも、そのミックス具合いが面白いようにわかる。冒頭でキャノンボールがこれから演奏する "Primitivo" という異色の曲が
どういう曲であるかを熱心に解説するところから始まる。そして、2曲目、3曲目は往年のビッグバンド・サウンドのような、とても3管とは
思えない分厚い重奏による楽曲が続き、B面に移ると名曲 "Jive Samba" がカッコよく演奏されたかと思うと、ナット・アダレイの
夢見るような珠玉のバラード演奏が披露され、最後は正統派ハード・バップで幕を閉じるという何とも最高のセットリストだ。
ジャズのライヴ・アルバムとして、こんなにも音楽的に充実した万華鏡のような内容はちょっと珍しいのではないか。
音楽的な引き出しの多さが圧巻だし、演奏力の高さも群を抜いていて、これは本当に凄いバンドだということが理屈抜きにわかる。

そして、ステレオ・プレスの音の良さが音楽のダイナミクスをヴィヴィッドに伝えてくれる。会場の空間表現に長けており、観客の熱気、
演奏家の息遣い、そして何より楽器の音色の新鮮さが際立つ。リヴァーサイドのキャノンボールはステレオ・プレスがいい。



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秀逸な白人ジャズバンド

2022年05月04日 | Jazz LP (Capitol)

The Al Belletto Sextet / Sounds and Songs  ( 米 Capitol T-6514 )


ワンコインでお釣りがくるこのレコードも、聴くとため息が漏れるくらい出来がいい。一応オールド・ジャズのスタイルを取っているけれど、
演奏はものすごく洗練されていて、古臭さは微塵もない。感覚的にはモダン・ジャズで、インストとコーラスによる歌唱が交互に収められている。

アル・ベレットはルイジアナ州立大学在学中に学生ジャズバンドを結成して、その流れでプロとして活動していたようだ。自身はサックスや
クラリネットを吹いていた。彼のスモール・バンドには若き日のドン・メンザが在籍していた時期もあり、キャピトルの次に契約したキング・
レコード時代の録音ではメンザの演奏が聴ける。

セクステットによる軽やかな演奏はウエストコースト・ジャズとは一味も二味も違う清潔さがあり、非常に好ましい。アル・ベレット自身が
ニュー・オーリンズで生まれ育ったこともあり、他の地域のジャズとは感覚が違うのだろう。彼の吹くアルトはアート・ペッパーによく似ており、
これが1つの聴き物になっている。

また、交互に収録されているグループによるコーラスはフォー・フレッシュメンそっくりで、これにも驚かされる。時期的にはほぼ同時代
だろうと思うけど、歌が上手く、アレンジの才能もないとこうはならない。部分部分では誰かに似ている要素で構成されているけれど、
それが物真似という感じがしないところにこのグループの独特の才能を感じる。そしてそれらがまとまって聴けるというお得感も楽しい。

キャピトルの "Kenton Jazz Presents" シリーズは、スタン・ケントン楽団で演奏していたミュージシャンやケントンが推薦するミュージシャンを
取り上げるというコンセプトで始まった録音だが、基本的には白人ミュージシャンで構成されている。そのどれもが明示こそされなかったものの、
当時の主流派であった黒人ジャズへの対抗馬として企画されたことは明白である。こういうレコードを聴いていると、これらが後のウエスト
コーストを中心とする白人ジャズの隆盛の基礎を作ったのではないか、と思えてくる。

そこには黒人ジャズへの、どう頑張ってみてもあんな風にはとても演奏できない、という強いコンプレックスが感じられるし、でも、それでも
ジャズという音楽が好きなのだという独白も読み取れる。キャピトルというのはそういう白人ジャズ・ミュージシャンたちの貴重な受け皿の
役割を果たしていたんだなあ、ということが今になってみるとよくわかるのである。



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大作曲家が歌うと・・・

2022年05月01日 | Jazz LP (Capitol)

Harold Arlen / Sings His Songs  ( 米 Capitol T-635 )


私ももう随分長い間レコード漁りをやっているけれど、未だにキャピトル・レーベルの全貌がよくわからない。
総合メジャー・レーベルなのでジャズのカタログは少ないのかと思いきや、ビッグ・バンドやヴォーカルは知らないタイトルが今でも出てくる。
ジャズがメインのマイナー・レーベルの話は多くの人が語るけど、このレーベルのことを語る人はいない。

このレコードも初めて見た。大作曲家本人が自身の歌を歌うもので、こういうのはプロの芸ではなく余技だから、「困ったな・・」という感じで
あるのが正直なところだけど、この雰囲気のあるジャケットを見ると素通りすることはできない。

古き良き時代に作られた大スタンダードばかりで、どちらかと言うと地味で渋めの曲が多いけれど、ジャズ・ジャイアンツが好んで取り上げた
楽曲が多く、その曲もすぐにあの演奏・この演奏、というのが思い浮かぶだろう。

特に美声ということもない歌声で思い入れたっぷりに歌っているのが可笑しいけれど、それなりに聴けて悪くはない。
まあ、あまり分析的に聴くようなものではなく、こんなレコードがあるんだ、という軽い驚きをもって聴いていればいいのだろう。
キャピトルもまさか売れることは思って制作してはいないだろうけど、それでもこういうレコードも作っていたのだから、
ある意味で裕福な時代だったのだろうと思う。採算度外視でもレコードが作れた、幸せな時代。そういう時代のジャズは傑作が多かった。



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