廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

Tina Brooks の Back To The Tracks

2014年07月27日 | Jazz LP (Blue Note)
愛好家にとって頭の痛い、ティナ・ブルックスの "Back to The Tracks" 問題。 

録音当時に正規発売されなかったせいでいわゆるオリジナル盤が存在しないわけですが、演奏内容があまりにいいので、いろんな形で復刻が
試みられてきました。 そして、ここに時期をほぼ同じくして3種類の復刻が揃いました。 どれも尊敬するべき情熱の産物であり、
供給側のその熱意と同じ熱量をもって需要家としても成果を享受するべきだと考え、ここで禁断の聴き比べをしてみようと思います。

比較してみてわかるのは、この3者は同時にゴールに飛び込んでテープを切っているので、0.01秒の差を写真判定する必要がある、という感じです。
だから、重箱の隅を近視眼的に突いて突いて突きまくります。



(a) diskunion プレミアム復刻盤


(b) audio wave music xrcd24                                (c) Universal Music 75周年記念 24bit 192kHz SHM-CD


まずは、意匠の話から。

(a)は、我々マニアの想いの結晶のようなつくりで、アナログ復刻としては従来の物とは次元が違う仕上がりとなっているのは言うまでもありません。
ここまできて何を文句言うか?という感はありますが、ここは心を鬼にして、重箱の隅を楊枝でほじくります。

まずはジャケットですが、これまでのグリーンから "Blue Trane" を意識したブルーへ色合いを変更しているは正解の一つだと思います。
ラミネートも非常に丁寧な仕上がりで素晴らしいです。 
ただし。 厚紙の厚さが薄いのが問題です。 ブルーノートのオリジナルは厚紙が重層的で分厚く、時が経ても重量がありしっかりとした質感ですが、
このジャケットは厚紙が薄く、実際に手に取るとチープな感じがします。 そして、裏面の印刷が弱い。 黒いインクが少し墨色っぽくて、
コピー感が安っぽい。 表面の色合いやラミネート加工に気を取られ過ぎて、その他の部分がなおざりになった感があります。 
また、表面の写真の解像度が悪いです。 オリジナル・ネガから起こした写真ではなく何かからのコピー写真のようで、ボケた感じがかなり残念。

次に盤ですが、重量盤、フラット、溝、INC、などの要件は完璧に満たしていますが、まずエッジの形状がLexingtonのような切り落とし方ではなく、
先端に少しガードが残る切り方で、これはフラット後期の形状になっています。 また、材質が当時のものとは明らかに違って、ビニール感が強い
材質です。 当時の盤の材質はもっと硬質な素材でしたが、これは単に分厚いビニールという質感で、いくら重量があっても手にした時の質感が
安っぽい気がするのは避けられません。 人間の手の先はこういう微妙な感じの違いを怖ろしく正確に感じ取るので、こればかりは誤魔化しようがない。
当時の材料の配合の情報が残っていればよかったのに、とこれも残念です。

ただ、オリジナルが存在しない以上、アナログマニアでCDよりもレコードで持ちたい場合は今のところはこれが筆頭格ということになるでしょうか。

(b)は、ご覧の通り、写真の解像度が一番高い。 これはオリジナル・ネガを使っているのでしょう。 中にはフランシス・ウルフがレコーディング
スタジオで撮った貴重な写真が数枚載っています。 ジャケットもラミネート加工されたしっかりしたハードカバー形式で高級感があります。

(c)は、国内盤のレギュラー仕様であり、特にコメントすることは何もありません。 私は紙ジャケットが嫌いなので、普通のプラケースが有り難い。



さて、ここからが肝心の音質の話です。 

まず前提として、我が家の再生環境はアンプがLuxmanの真空管( SQ-38 D )、スピーカーはTANNOYのスターリング、プレーヤーはTHORENSのTD520、
カートリッジはORTOPHONのSPU、CDプレーヤーはMARANTZのSACD対応デッキで、部屋はフローリングの15畳の洋室です。
ジャズの再生としては珍しい構成かもしれませんが、もう15年くらい使っていて特に何の不満もないのでダラダラとこれらを使い続けています。

(a)については、まず、1番の問題はモノラル盤のみの復刻だということです。 私は4000番台はステレオ盤の音のほうが自然な音場で遥かに
鮮度も高くいい音だと思っているので、ステレオ盤の発売がないのは感心しません。 コレクターがモノラル盤ばかりを有り難がるせいなんだろうと
思いますが、これはあきらかに間違った認識だと思っています。 どうせここまでこだわるなら、ステレオプレスも同時に出して欲しかった。
で、モノラルの音の仕上がり具合ですが、やはりブルーノートサウンドだという前提で聴くと少し線が細く平面的で、音も若干くすんでいる
ような気がします。 RVG特有のあのザラッとした荒々しく屹立した質感はなく、無菌室培養で育ったクローン盤、というような印象があります。
これは先ほど触れた盤の材質にも関係があるのかもしれません。 ただ各楽器の音の出方に不自然さはなく、上手なミキシングがされていると思います。
特に、アート・テイラーのドラムのブラッシュワークの再生はこの盤が一番きれいでクッキリとしていて、気持ちいいです。

いずれにせよ、この復刻は形状も含めて、日本のコレクターがどういう物の見方をしているのかを端的に表しているように思います。

(b)については、一部のマニアが高く評価していることでよく知られていますが、何と言っても一番の特徴はピアノとベースの音が一番きれいなこと。
他の盤と比べると、薄皮を一枚剥がしたような艶やかで澄んだ音です。 ただ、これはRVGの音とは異質なもので、原音再生という意味では正しいのか
どうかよくわかりません。 このレーベルが音がいい、といわれる理由の一つはこれかもしれません。 この盤はステレオ再生なので、音場の拡がりが
非常に大きく、リッチな残響感で、一聴してすぐに直感的にすごくいい音だ、と感じると思います。 
ただし、問題は管楽器の音。 他の2枚と比べると、サックスの音が若干ですがクラリネットなどの木管色が強い音色になっていて、これが
違和感があります。 トランペットの音も、幾分奥行き感が浅く平面的な気がします。 もちろん、これは聴き比べてみて初めて気が付くような
些細なレベルのことなので、これだけ聴いている分には何の問題もありません。 各楽器の音量が割と均一でバランスは一番いいかもしれません。

最後に(c)ですが、私にとってはこれが一番いい音だな、という結論になっています。 この盤の音の特徴は、管楽器の音圧が一番高くて、音色が
一番輝いています。 テナー、アルト、トランペットが薄皮を一枚剥がしたようなきれいな音です。 そしてピアノやベースが少しくぐもったような
音色で、いわゆるRVGがいつもこのレーベルでマスタリングする音になっています。 また、各楽器がきれいに分離していて、こちらもステレオ再生感が
雄大で残響も多く、すごくいい音だと直感的に感じます。 これは、(b)と差がないです。 過去に発売されていた国内盤CDやRVGリマスターCDのような
不自然極まりないサウンド感は皆無。 別次元の音だと思います。



繰り返しになりますが、これは3つの音盤の同じ個所を続けて聴き比べてみて初めて気が付くような差異であって、1つ1つを単体で聴いている分には
何の問題もないような話です。 しかもその差異には客観的な優劣はなく、主観的な好き嫌いがあるだけのことだと思います。

私が3つも音盤を持っていたり、細部をほじくり返すのは、ひとえにこの演奏が好きだからです。 この哀感のたっぷりこもったマイナーブルースや
静かなバラードに心奪われるからであり、そういう愛好家が世界にはたくさんいるから、様々な形で世に出てくるのでしょう。

オリジナル盤がないことを嘆くより、再現された音盤の素晴らしさを理解して、何よりもそこで鳴り響く音楽を楽しむことが一番じゃないかと思います。




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今週の成果 (パンチにグラサンでもヤバくない編)

2014年07月26日 | Jazz CD
この夏、最高の酷暑を記録する中、やっぱり少しつまみました。 




■ Wes Montgomery / Portrait Of Wes  ( Riverside/OJC CD-144-2 )

新宿ジャズ館で新着中古1,000枚放出、ということで、暑い中、頑張って覗いてみました。 扉が解放されているのでエアコンの効きが悪く、
汗がダラダラ流れます。 もうちょっと冷房を強くしてもらえると嬉しいんですが・・・・ まあ、それでも我慢してめくってみました。

うーん、イマイチな顔ぶれです。 相変わらずピアノトリオが多いし。 あきらかに良さそうなものはセール用に廻されている感じです。
そんな中、唯一拾い上げたのはこれです。 これまで聴き逃していた一枚です。

g、org、dr という私の好きなフォーマットで、肩の力が抜けた、それでいてとてもデリケートな素晴らしい演奏です。
このあと、世界中のジャズ・ギタリストが真似をしてきたギター演奏の原型とオリジナルがここに集約されています。 オルガンが入る場合は
フットペダルがあるのでベースが入らないことが多いのですが、この演奏はフットペダルの音が小さくてベースラインが弱いので、トリオの
サウンドにダイナミックさが欠けていて、このせいでこの盤の評価がイマイチ冴えないのだと思います。 でも、ギタープレイに関しては
同じリヴァーサイドのインクレディブル~なんかよりもこちらのほうがずっといいです。

しかし、このOJCのデジタルリマスターは、音に変なクセが無く自然で十分な鮮度があってすごくいいです。 中古で出れば、値段もとにかく安い。
これは600円です。 これだけナチュラルなサウンドで鳴ってくれれば、レコードを買う必要はまったくない。 有り難いですね。


■ Pepper Adams / Conjuration~Fat Tuesday's Session  ( Resavoir RSR CD 113 )

1983年のファット・チューズデイでのライヴ録音で、ケニー・ホイーラーやハンク・ジョーンズという珍しい顔ぶれでの演奏です。

ECMとはまるで別人のようなケニーのトランペットの汚い音にガッカリします。 演奏にもジャズらしさが欠けており、この人選は失敗です。
ハンクのピアノもあまり冴えておらず、アダムスも平凡な出来で、いつものこちらを圧倒するようなバリトンサウンドも上手く録音しきれておらず、
これはつまらない内容でした。 残念。






■ Benny Golson featuring Curtis Fuller / California Message  ( BAYSTATE/BMG Victor BVCJ-2011 )

1980年のL.Aのスタジオ録音。 トランペットを加えた、お得意の3管セクステットです。

ジャズがすっかり廃れて冷遇されていた時期で、ゴルソンもCM音楽の仕事などで食い扶持を稼いでいた時代の気の毒な録音で誰からも褒められない
音盤ですが、私はとても好感を持ちました。 ゴルソンハーモニーもあまりうまく録れているわけでもありませんが、それでも "Whisper Not" は
心に沁みる演奏です。 そして、ゴルソンの新作 "Free Again"という素晴らしい楽曲に感動。 終始奏でられるエレピも時代感があって新鮮です。

どんな時代であっても、ジャズはこうして生きているんですね。


■ Robb Hunt / At Last  ( Xenophon J060 )

今週の一番の成果は、これです。 目から鱗が落ちる名盤でした。
2006年録音のテナー/ソプラノ/フルートのワンホーン。 この人はピアノも達者で、ピアノトリオも何枚か発表してる多才な人です。

重心の重くて太くダークな音色で、クセもなく伸びやかに鳴らすスタイルに耳を奪われます。 バックのピアノトリオも控えめながらも
上手い演奏です。 パンチにグラサン、というヤバい感じのジャケットからはまったく想像できない、素晴らしいワンホーン・ジャズ。

愛好家からは必ず白い目で見られるフルートの演奏も、深く広い静寂さと余韻を残す素晴らしさで、"Israel" や "Soul Eyes" という名曲を
屈指のバラードに仕上げています。 W.ショーターの代表作もちゃんと2曲取り入れており、選曲の慧眼さにも感心します。

そして何よりも、録音の良さにビックリ。 オーディオ的な快楽度は★★★★★。 これは最高でした。



1枚でもこういう知られざる名盤に出会えれば、眩暈がしそうなくらい暑い街中を歩くのも苦になりません。
来週も愉しみです。




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ビッグバンドを支えた人たちの矜持

2014年07月20日 | Jazz LP (Europe)

The Third Herdmen Blow in Paris Vol.1  ( 仏Vogue LD.204 )


私が嫌いなジャズは、ウェストコースト・ジャズ、50年代の欧州ジャズ、現代のきれい系ピアノトリオ、の3つ。 最初の2つは既に絶滅したので
もういいですが、最後のは未だに世界中で跋扈しています。 

DUの新着中古CDを物色していると、それらの半分以上はピアノトリオものです。 これだけ音盤が溢れていると、ピアノトリオものが好きな人は
買うのが大変なんだろうなあ、といつも溜め息が出ます。 1つ1つの違いがさっぱりわからない(AKBとモモクロの違いがさっぱりわからないのと
同じような感じ)のは、あながち自分が興味ないからだけとは思えません。

絶滅した2つのほうはもちろん好きなレコードはそれなりにありますが、総論としては嫌いです。 欧州ものでざっくり言えば、スペインやデンマーク、
北欧の一部はいいと思うのですが、英国やフランスは駄目。 特に、英Tempo、EsquireやVogue/Swingなんかを聴いていると、この人たちは
ジャズという音楽の肝がなんにもわかってなかったんじゃないか?と思ってしまいます。 レコードの意匠が素晴らしいのは私もそう思うので、
コレクターが有り難がるのは当然だと思いますが、工芸品の意匠の話と音楽の話はまったくの別物です。 

そういう何がやりたいのかさっぱりわからない音盤の中で、アメリカから渡欧したミュージシャンが現地で録音したものを聴くと、そのまともさに
胸をなでおろすことが多い。 この2枚も、そういうレコードの1つで、ウディ・ハーマン楽団が54年に渡欧した際にメンバーの一部が仏Vogueに
録音したものですが、Vogue/Swingのレコードという切り口で聴くと、他の駄目盤との無意識の対比のせいでかなりまともな演奏に聴こえます。 



The Third Herdmen Blow in Paris Vol.2  ( 仏Vogue LD.205 )


全体の印象は、ビル・パーキンスやラルフ・バーンズ以外は無名に近い人ばかりなのに、やはりビッグバンドで鍛えられた人たちの演奏は基礎体力が
全然違うな、ということです。 それに加えて、どうすればグループとして音楽を上手くやれるかがわかってるんだな、ということが理屈抜きに
聴き手に伝わってきます。 アンリ・ルノー作の非常につまらない楽曲もこの人たちが丁寧に演奏するもんだから、普通に聴けてしまいます。
これがこのレーベルお抱えの人たちがやったらつまらな過ぎて眠ってしまうところです。

"Thanks for You" という小さなバラードを Jerry Coker というテナー奏者が吹きますが、ブラインドで聴かされたらほとんどの人が
「スタン・ゲッツ?」と言うでしょう。 こんなサックス奏者がちゃんといたんだ、と感心してしまいます。


全体的に好印象な書き方ですが、但し、これはVogueのレコードとしては、という前提条件がつきます。 このメンバーの演奏なら、本来は米デッカや
キャピトルのようなアメリカのレーベルで録音されていたはずで、もしそういうレコードなら、誰も見向きもしなければ褒めもしないレコードに
なっていたでしょう。 バップではないし、当時の多くの白人ミュージシャンがやっていたブルース感の希薄な淡泊でスコアアレンジな演奏で、
録音も悪く、今の中古市場ならせいぜい1~2千円くらいの値段が関の山な内容です。

私だって2枚とも5千円で買ったので余裕綽々な感想を書いていますが、これが数万円で買っていたら、レコードを床に投げつけて「カネ返せ!」と
怒鳴っていたと思います。 盤はどちらも無傷でこのレーベルには避けられないプレスミスもないのですが、ジャケットの4辺がテープ張りされて
いたせいで(きれいに剥がれましたが)こういう値段だったんだろうと思います。 じゃなければ、音楽としてはつまらないことはわかっていたので、
このレコードはきっと買うこともなかったと思います。

ジャケットにテープを張るなんて我々マニアには言語道断の愚行に思えますが、裏を返せば、レコードを大事にしようという気持ちの現れだった
のでしょう。 そのおかげで盤面はきれいな状態で維持されたのかもしれません。




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今週の成果

2014年07月19日 | Jazz CD
今週、つまんだCDです。





■ Avishai Cohen / The Trumpet Player  ( Fresh Sound Records FSNT 161CD )

評判のいい演奏だということは知っていたので、以前から興味がありました。 Tp、b、drのトリオに、数曲でtsが客演します。
トランペットという音程をとるのが難しい楽器で和音楽器がない構成をやるのは覚悟のいることだろうと思いますが、果敢に臨んでいます。
ただ和音からは解放されるので、上手くいけば自由度の高い尖った音楽を実現できるので、演奏家にとっては常に魅力があるはずです。

さすがに自信に溢れた演奏で、とにかく最初から最後まで間断なく吹き切っているのは素晴らしいです。 和音が鳴らず、1曲を除いてすべてが
オリジナル曲でメロディーラインもはっきりしないので1歩間違えるとフリーになってしまいますが、そうはならずきちんとメインストリームに
なっているのは、自分の中で音楽のイメージがしっかりとあるからなんでしょう。

ただ、思ったよりもトランペットの音が細くて、小粒な印象でした。 他のブログを見てみるとリー・モーガンに例える記述が多いのですが、
私にはまったくそうは思えません。 何一つ、かすりもしていない。 録音のせいかもしれませんが、もう少ししっかりと鳴って音が前に出てくれれば
言うことなしでした。 でも、こういう演奏は貴重です。 若者らしい、尖って疾走するような音楽になっていて、おじさんにはちょっと眩しくて、
そして羨ましい、そういう音楽です。


■ Marcello Morinari Quartet / Il Viaggio Di Neal  ( Caligola 2181 )

イタリアのドラマー、マルチェロ・モリナーニがリーダーとなるts/ssのワンホーンカルテット。 DUで試聴して気に入ったのですが、中々中古が
出ないので新品で購入。 全体的に程良くラテンフレーバーが効いていて、とてもいいです。 難しいことをやろうと力んだところが何もなく、
それでいて演奏が全員上手く、録音も素晴らしく、部屋で流すととても気持ちいい。 夏の日の午後に、何も考えずに聴くと日常を忘れます。
こういう演奏は探そうと思っても、なかなか見つからないものです。 当たりでした。






■ P.J. Perry / My Ideal  ( Unity Records UTY CD 128 )

カナダのas奏者、P.J. Perry のワンホーン・スタンダード集で、廃盤・入手困難盤だそうです。 期待して聴きましたが、全体的にちょっと
散漫な印象があって、前回取り上げた "Worth Waiting For" のほうが内容はずっと良かったです。 マルグリュー・ミラー、ヴィクター・ルイスという
バックのメンツは凄いのですが・・・ ピアノが交代するだけで、全体の演奏の印象は随分変わってくるんだなあ、と勉強になります。
結局のところ、こういう内容のピアノというのは、歌手の歌伴と一緒なわけです。 でも、これはこれで別に悪くはないです。


■ The Tony Lada Quartet / On The Edge...  ( Vee Records VEE603 )

今週一番の成果は、これでした。 マサチューセッツのローカル・ミュージシャンでリーダー作はこれを含めて3枚ほどあるようですが、
他の2枚は見たことがありません。 これも入手困難な廃盤、とのこと。

トロンボーンの完全ワンホーンの名盤と言われて、そうスラスラと出てくるわけでもないでしょう。 Jay Jayのブルー・トロンボーンとか、
あとは・・・・続きません。 現代の録音ではたまに見かけますが、手に取って聴いた範囲ではどれもイマイチな感じだったです。 
やっぱりこのフォーマットで名演は出ないのか、と思っていましたが、どうやら決定打が出たようです。

96年のスタジオ録音でバックのピアノトリオもみんな無名ですが、まずこのトリオが上手くて綺麗な演奏をするので驚かされます。
これはワンホーンの名盤が生まれる必須条件です。 選曲もシダー・ウォルトンの "Bolivia" やヴィクター・ヤングの "Delilah" というシブさ。

トニー・ラダのトロンボーンは完全にJay Jayスタイルで、張りのある強い音と見事なテクニックで圧倒されます。 聴きダレるところがない。
ドラムもちゃんとジャズのチューニングだし、全体が完全なハードバップスタイルで素晴らしい。 とにかく、"Bolivia"のベースラインの
リフがカッコよくて何度でもお代わりしてしまいます。 これは見かけたら迷わず買われるといいと思います。


今週もいい盤に当たりました。 調子いいです。



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隙間の多さが心地よいレコード

2014年07月13日 | Jazz LP (Jazz Line/Jazz Time)

Dave Bailey Quintet / Reaching Out  ( Jazz Time JT 003 )


現代欧州の優秀な演奏ばかりを1週間聴いていると感心はするものの、やはり聴き疲れするものです。 なので、週末家にいる時はもっとのんびりとした
演奏を聴きたくなりますが、そういう時はアメリカの古いブルース形式のジャズが一番です。

でも、うちにはそういう気分の時にピッタリのレコードがあまりなくて、もうちょっと真剣に探して買わなきゃいけないんだろうなあ、と思うのですが、
いつもそう思ってばかりで終わってしまい、一向にレコードは増えていきません。 ブルーノートはどれも立派な演奏ですが立派過ぎて耳障りだし、
もっと刺激が少なくてそれでいて上質なものを、ということになるとほとんど選択肢が無くなってきます。

このレコードが有り難がられるのは、そういう誰もが日常的に求めるものが全て備わっているからなんだろうと思います。 稀少性だけなら、
ここまで褒められることはないでしょう。 

1曲のあまり出来のよくないスタンダードを除いて全編ブルース大会で、フランク・ヘインズのワンホーンが朗々と鳴るのですが、この人の音色は
ズートとモブレーを混ぜたような柔らかさがあるので耳障りがいいし、グラント・グリーンのギターはブルーノートで聴くような深みのある音ではなく
もっと乾いて小粒な音で、普通なら録音が悪いと文句を言うところなのに、この穏やかな音楽には逆にそれが似合っています。 
ビリー・ガードナーのピアノもソロになると指がもつれ気味ですが音はきれいで抑制が効いている。

名演・名盤と言われてどんなにすごい演奏なんだろうと見当違いな期待を煽られることが多いのではと危惧しますが、実際は尖ったところが
どこにもなく、全体が均一的に地味でかなり隙間の多い演奏です。 これを聴けば、Epic盤は随分メリハリの効いた音楽に思えてくる。 
でも、そういうゆるくてあっさりしたところが他にはない貴重な魅力になっているのだと思います。

オリジナル盤といっても音はマイルドで、ヴォリュームを上げてもあまりうるさく感じることもないところもこのレコードには似つかわしい。
デューク・ピアソン盤で感じたオーディオ的な不満感はこの盤にはありません。 不思議ですね。



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先週・今週の成果 (欧州グループ・ユニット編)

2014年07月12日 | Jazz CD
先週の成果の続きです。 単身名義ではなく、グループやユニットとして志向した音盤たち。





■ Amsterdam Jazz Quintet / Pictures Of Amsterdam  ( A-Records AL 73042 )

アルバム3枚を残して解散したオランダのグループですが、詳細はよくわかりません。 スタンダードはやらずにすべてオリジナルの楽曲を
持ち寄った力作で、アムステルダムの街の情景を描き出そうとするコンセプトアルバムです。

演奏のフレームワークはモードを使っていますが各人が完全に消化しているようで、いわゆるモード臭さは全くなく、すっきりとした現代の
都会的なモダンジャズに仕上がっています。 演奏技術も高くてどこにも破綻はなくケチのつけようがありませんが、いわゆるハードバップでは
ないので、これの良さが理解できずつまらないと投げ出す人もきっといるでしょう。 現に、中古の棚には2枚出ていました。

これだけ上手ければ、もっといろいろやりたいことがあったんじゃないかと思いますが、活動は長続きしなかったようで残念ですね。


■ Belmondo Quintet / For All Friends  ( Challenge Records Jazz CHR 70016 )

フランス人のベルモンド兄弟を中心に結成されたグループで、割とよく知られた人たちですね。 各人のソロアルバムも高い評価を得ているようで、
いずれは聴いてみたいと思っています。 グループ名義でのアルバムはやはり3枚くらいのようで、廃盤セールの常連になってるみたいですが、
このアルバムは中古の流通も多くて、適価で買えます。

これは普通のハードバップのフォーマットで聴きやすいですが演奏がやたらと高度で、これもハードバップ臭さが希薄。 音楽の演奏というのは
高度になればなるほどジャンル感がこうやって希薄になっていくもんなんだなあ、と思います。 だから、これはバップ、これはモード、などと
分類できるうちは本当は演奏としてはダメなのかもしれないなと思うことがあります。 そういうことを感じさせてくれる演奏は現代に録音された
CDでしか聴けないので、中古CD漁りは大事だなあと思います。

ここで聴かれる演奏はいかにも欧州の音楽で、アメリカのジャズとはこうも違うのかということが否が応でもわかります。 同じジャズでも
やはり音楽の成り立ち方が全然違うわけで、そこを噛みしめながら聴くにはもってこいの音盤です。 いい演奏ですよ、これは。






■ Summit Meeting / Full Of Life  ( Dragon of Sweden DRCD 205 )

サックス2管のクインテットによる91年のストックホルムのスタジオ録音で、私が知っているメンバーは Bernt Rosengren くらいです。
非常に纏まりのある素晴らしい演奏で、北欧という言葉から受けるチープなあの印象は皆無。 欧州臭さはあまりなく、珍しいことに
アメリカ寄りの匂いがします。 北欧のジャズ事情はよくわからないので、正直、何がどうなっているのかさっぱりわかりませんが、
ここまで腕の立つミュージシャンが揃って演奏していることに驚嘆してしまいます。 楽曲はどれもあまり印象には残らないにも関わらず、
演奏の見事さだけで最後まで聴かされてしまいます。


■ Benjamin Boaz Herman、Jasper Blom / Five Up High  ( Timeless CD SJP 417 )

知っている名前は一人もいないですが、マニアの勘だけを頼りに買ってみたところ、これが当たりでした。 アルトとテナーの2管による
93年のアムステルダムのスタジオ録音。 すべてオリジナル曲ですが、これもユニットとしての纏まりが高く、勢いのある良質なハードバップ。
楽曲もいい出来で、知られていないのがもったいない音盤です。


50~60年代のアナログ時代の欧州ジャズは演奏はしっかりしていても音楽的にはつまらないものが多いですが、現代のものは飛躍的に進化していて、
聴き応えのあるものが多いという率直な感想を改めて持ちます。 欧州モノは聴くなら現代のものがやはりいい。 残り物ばかりだったにも関わらず、
今回の廃盤CDセールはそれを証明する音盤が揃っていて、お値段も手ごろで、とてもいいセールでした。 新宿ジャズ館さん、ありがとう。



で、今週も少しだけつまみました。 偶然、スペインの素晴らしいアルト奏者を知ることができました。





■ Perico Sambeat Quintet / Punto De Partida  ( E.G.T. 539-CD )

91年のクインテット録音。 なんと言ってもテテ・モントリューの参加が目玉ですが、ウォレス・ルーニーの参加も珍しく、「廃盤」とのコメント入りで
1,800円。 ジャケットデザインが往年の廃盤レコードの雰囲気があるので、迷わず購入。 ちなみに、これはレコードでも発売されているようです。

音が抜群にいいCDで、5人の闊達な演奏が素直に楽しめます。 特にウォレス・ルーニーが絶好調で、一番目立っています。 レコード会社から
「第2のマイルス」というわけのわからないプッシュのされ方をしておかしなことになっている彼も、ここでは普通にトランぺッターとして
のびのびと演奏していて、見事です。 テテも指のもつれもなく相変わらず闊達な演奏。

ペリコ・サンビートというこのアルト奏者を初めて聴きましたが、これが素晴らしいアルトで感激しました。 フィル・ウッズ系の音ですが
あんなに節操なく吹き散らすことはなく、抑揚の効かせ方はアート・ペッパーのいいところを思わせる。 私の中では今のところ、
現代のアルト奏者の中では一番好きな人にのし上がりました。


■ Arturo Serra Sextet / Confidential  ( E.G.T. 609 CD )

で、これが今週一番の成果でした。 Vib、tp、ペリコのasが入った6重奏ですが、ここでのペリコの音の艶には眩暈を覚えます。
初めてアート・ペッパーを聴いた時に感じた興奮を思い出します。 音楽全体も素直に伸びやかで涼し気でジャズのフィーリングに溢れていて、
最高の音盤です。 音も豊かな残響感があって、耳に心地好い。 これには参りました。

でも、内容自体が素晴らしい音楽だからペリコのアルトがここまで映えて聴こえるのであって、彼のCDのどれもがこれほど感激できるかどうは
疑問です。 だから、ここで浮かれて他のCDを買い漁るような真似をするのはこらえようと思います。 録音自体は結構たくさんあるようですが、
あれこれと手を出してがっかりするのはイヤです。


こうやって、毎週のように知らない演奏家に出会えて、お気に入りが増えていくのは素晴らしいことです。 こういう喜びはこの年になると
なかなか他では体験できません。 相変わらずレアCDに関する知識は増えないものの、自分の好みに合うものを見つけるコツのようなものが
だんだん掴めてきたような実感が出てきました。




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10inchのほうが音がいいレコードがある

2014年07月06日 | Jazz LP (Verve)

Stan Getz / Plays  ( Clef MG C-137 )


オリジナルが10inchで、後で12inchにカップリングされて再発されるというのはLPではよくあることで、本来はそのほうが有り難いです。
10inchは曲数が少ないので落ち着いて聴けないし、サイズが違うので収納の際にも収まりが悪い。 たくさん所有されていれば、例えば棚の1マスを
10inchだけで埋めることができてそういうストレスは感じられないのかもしれませんが、うちのように10枚程度しかないレベルだと、このサイズの
違いからくる棚の中での収まりの悪さには少しイラっとすることもあります。 できれば、所有したくありません。

SPからLPに切り替わった時にどうしてこのサイズが一時的に採用されたのかよくわかりません。 おそらく最初はSP音源の切り直し用にこのサイズが
ちょうど手頃だったのかもしれませんが、いずれにしてもこのサイズが「正」だった短い時期に録音されたものの中には名演も多く、さすがに
こんなつまらない理由で10inchは買わない、というわけにもいきません。

更に厄介なのが、12inchに切り直した時に音が悪くなっている盤があるということ。 よく言われるのがストーリーヴィルのリー・コニッツ盤で、
12inch盤は10inch盤よりも明らかに音が悪い、という話です。 うちにはストーリーヴィルのレコードが1枚もないので今は確認できないのですが、
これはたぶん本当なんじゃないかと思います。 昔は4枚とも持っていたのですが、あまり気にしたことがなくて、記憶がはっきりしません。

たまたま安い値段でこのスタン・ゲッツの10inchを買うことができたので聴いてみると、同じことになっていました。
これもオリジナルは2枚の10inchに分けて発売されたのですが、のちにノーグランから12inchとして纏められられて再発されています。
子供と一緒に写っているモノクロのジャケットのやつですね。 この12inchはとにかく音が悪くて(こもっている)、まあ元々古い録音だし(52年録音)
仕方ないよな、と諦めていたのですが、10inchを聴いてみるとこれが各楽器の分離がよく、デューク・ジョーダンのピアノやジミー・レイニーのギターが
前にしっかり出た明瞭な音になっています。 ゲッツのテナーも12inchは芯のないぼやけた締まりのない音だったのに、この盤は輪郭がくっきりとした
密度の高い音です。 音楽がまるで別の物のように感じます。

12inchが再発盤だということはみんな知っていたので昔は必ず1万円以下で買えましたが、最近はどういうわけかやたらと高くなっているみたいで、
これには驚きました。 みんなこのことをわかっててそんな高い値段で買っているのでしょうか。 まあ、承知の上でのことなら別にいいんですが・・・・




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今週の成果

2014年07月05日 | Jazz CD
毎日梅雨の鬱陶しい空模様の中、今週も値段の安いものを中心につまみました。 枚数が結構あるので2回に分けて記事にします。





■ Ted Brown & Brad Linde / Two Of A Kind  ( Bleebop Records #1202 )

DUで試聴して気に入ったのですが、店頭価格は2,700円と少々お高いので、Amazonで海外セラーから買いました。 そうすると半値で済みます。 
但し、その代償として、手元に届くまでにかなり時間がかかるのを我慢しなければいけません。 これも3週間以上かかってようやく到着です。

テッド・ブラウンはレコード・コレクターにも知られる存在のベテランですが、新作が出るとは驚きです。 若いテナー奏者との2テナー編成ですが、
このブラッド君が1歩下がって敬愛する老テナーを立てながらきめ細かいサポートをしている様子が感動的です。 本当にこれは素晴らしい。

テッド・ブラウンの音はウォーン・マーシュとよく似ていて、そのせいでこの2人が共演するレコードが多いのですが、この人のほうが断然上手くて、
録音が少ないのが残念です。 なめらかで涼し気なのに輪郭がくっきりとしている独特の音で、フレーズもセンスが良く、とてもいいテナーです。
楽曲も印象に残るしスィングしているし、録音も透明度が高くて大変いい。 これは名盤だと思います。 ちゃんと評価されるといいですね。


■ Arturo Sandoval / A Time For Love  ( Concord CJA-31792-02 )

ワン・ホーンのウィズ・ストリングスでスタンダードものというのはこんなのジャズじゃない、と馬鹿にされることも多くて、特にこれなんかは
誰も見向きもしないんじゃないでしょうか。 そもそもこの人はジャズ・ミュージシャンとしてきちんと評価されているのかどうかも怪しい。

ところが、この音盤は私が今まで聴いたウィズ・ストリングスの中では最も素晴らしいものの1つでした。 トランペットの上手さは格が違うし、
バックのオケも緻密で控えめでデリケートで高度、全体のアレンジも極めて音楽性豊かなもので、これを流せば至福の時を過ごせます。
降参です、参りました。






■ The Peter Brotzmann Octet / Machine Gun  ( FMP CD 24 )

先週末の新宿ジャズ館で行われた廃盤CDセールの残骸を今週半ば頃に見に行くと、半分くらいが残っていました。 フリージャズは需要がもともと
少ないので生産枚数が少なく、すぐに廃盤になってしまうのが難点です。 中古の流通もモダンと比べると低いので、こればかりは見つけた時に
速攻で買うしかありません。

その筋では問答無用の音盤です。 マシンガンとはよく言ったもの。 でも、意外と聴けます。 掘削機でアスファルトを砕いている横で
トタン板をガンガン叩いたりのこぎりで材木を切っているような内容で、そもそも音楽としては何1つ成立しておらず、どう聴いても楽器で
工事現場の様子を模写しているとしか思えないけれど、それでも全体がかなり知的にコントロールされているのがわかります。 

以前も書きましたが、モダンばかり聴いていると時々胸焼けがするので、フリーはそういう時の消炎剤として極めて有効だから、少しは常備して
おくことが私には必要なのです。 2,300円とややお高いですが、まあ、お薬代ですから。


■ Jerry Weldon、Bobby Forrester / Five By Five  ( Cats Paw Records CPD-2101 )

先週大当たりだった Midtown Blues を愛聴してると、これが目の前に現れました。 例のジンクス通りです。 でも、こちらは700円でした。
先週の盤は Jazz Tokyo で、これは新宿館で。 やっぱり、Jazz Tokyo はCDも高いんだなあ。 やれやれ。

こちらはオルガンとギターを入れたワン・ホーン・クインテットのスタジオ録音。 この人は見た目の印象から、エディー・ロックジョウとか
ジーン・アモンズとかの音を想像してしまうかもしれませんが、実は全然違って、とても端正でくっきりときれいなモダンな音を出します。
オルガンも白人なのでコテコテアーシーとは違い、さっぱりとした弾き方でとてもいいです。 適度にスタンダードを交えながら、軽快に
進んでいく好内容。 何も考えずに楽しめます。 これも当たりでした。


次回は、ジャズ・グループ編です。


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