愛好家にとって頭の痛い、ティナ・ブルックスの "Back to The Tracks" 問題。
録音当時に正規発売されなかったせいでいわゆるオリジナル盤が存在しないわけですが、演奏内容があまりにいいので、いろんな形で復刻が
試みられてきました。 そして、ここに時期をほぼ同じくして3種類の復刻が揃いました。 どれも尊敬するべき情熱の産物であり、
供給側のその熱意と同じ熱量をもって需要家としても成果を享受するべきだと考え、ここで禁断の聴き比べをしてみようと思います。
比較してみてわかるのは、この3者は同時にゴールに飛び込んでテープを切っているので、0.01秒の差を写真判定する必要がある、という感じです。
だから、重箱の隅を近視眼的に突いて突いて突きまくります。


(a) diskunion プレミアム復刻盤


(b) audio wave music xrcd24 (c) Universal Music 75周年記念 24bit 192kHz SHM-CD
まずは、意匠の話から。
(a)は、我々マニアの想いの結晶のようなつくりで、アナログ復刻としては従来の物とは次元が違う仕上がりとなっているのは言うまでもありません。
ここまできて何を文句言うか?という感はありますが、ここは心を鬼にして、重箱の隅を楊枝でほじくります。
まずはジャケットですが、これまでのグリーンから "Blue Trane" を意識したブルーへ色合いを変更しているは正解の一つだと思います。
ラミネートも非常に丁寧な仕上がりで素晴らしいです。
ただし。 厚紙の厚さが薄いのが問題です。 ブルーノートのオリジナルは厚紙が重層的で分厚く、時が経ても重量がありしっかりとした質感ですが、
このジャケットは厚紙が薄く、実際に手に取るとチープな感じがします。 そして、裏面の印刷が弱い。 黒いインクが少し墨色っぽくて、
コピー感が安っぽい。 表面の色合いやラミネート加工に気を取られ過ぎて、その他の部分がなおざりになった感があります。
また、表面の写真の解像度が悪いです。 オリジナル・ネガから起こした写真ではなく何かからのコピー写真のようで、ボケた感じがかなり残念。
次に盤ですが、重量盤、フラット、溝、INC、などの要件は完璧に満たしていますが、まずエッジの形状がLexingtonのような切り落とし方ではなく、
先端に少しガードが残る切り方で、これはフラット後期の形状になっています。 また、材質が当時のものとは明らかに違って、ビニール感が強い
材質です。 当時の盤の材質はもっと硬質な素材でしたが、これは単に分厚いビニールという質感で、いくら重量があっても手にした時の質感が
安っぽい気がするのは避けられません。 人間の手の先はこういう微妙な感じの違いを怖ろしく正確に感じ取るので、こればかりは誤魔化しようがない。
当時の材料の配合の情報が残っていればよかったのに、とこれも残念です。
ただ、オリジナルが存在しない以上、アナログマニアでCDよりもレコードで持ちたい場合は今のところはこれが筆頭格ということになるでしょうか。
(b)は、ご覧の通り、写真の解像度が一番高い。 これはオリジナル・ネガを使っているのでしょう。 中にはフランシス・ウルフがレコーディング
スタジオで撮った貴重な写真が数枚載っています。 ジャケットもラミネート加工されたしっかりしたハードカバー形式で高級感があります。
(c)は、国内盤のレギュラー仕様であり、特にコメントすることは何もありません。 私は紙ジャケットが嫌いなので、普通のプラケースが有り難い。
さて、ここからが肝心の音質の話です。
まず前提として、我が家の再生環境はアンプがLuxmanの真空管( SQ-38 D )、スピーカーはTANNOYのスターリング、プレーヤーはTHORENSのTD520、
カートリッジはORTOPHONのSPU、CDプレーヤーはMARANTZのSACD対応デッキで、部屋はフローリングの15畳の洋室です。
ジャズの再生としては珍しい構成かもしれませんが、もう15年くらい使っていて特に何の不満もないのでダラダラとこれらを使い続けています。
(a)については、まず、1番の問題はモノラル盤のみの復刻だということです。 私は4000番台はステレオ盤の音のほうが自然な音場で遥かに
鮮度も高くいい音だと思っているので、ステレオ盤の発売がないのは感心しません。 コレクターがモノラル盤ばかりを有り難がるせいなんだろうと
思いますが、これはあきらかに間違った認識だと思っています。 どうせここまでこだわるなら、ステレオプレスも同時に出して欲しかった。
で、モノラルの音の仕上がり具合ですが、やはりブルーノートサウンドだという前提で聴くと少し線が細く平面的で、音も若干くすんでいる
ような気がします。 RVG特有のあのザラッとした荒々しく屹立した質感はなく、無菌室培養で育ったクローン盤、というような印象があります。
これは先ほど触れた盤の材質にも関係があるのかもしれません。 ただ各楽器の音の出方に不自然さはなく、上手なミキシングがされていると思います。
特に、アート・テイラーのドラムのブラッシュワークの再生はこの盤が一番きれいでクッキリとしていて、気持ちいいです。
いずれにせよ、この復刻は形状も含めて、日本のコレクターがどういう物の見方をしているのかを端的に表しているように思います。
(b)については、一部のマニアが高く評価していることでよく知られていますが、何と言っても一番の特徴はピアノとベースの音が一番きれいなこと。
他の盤と比べると、薄皮を一枚剥がしたような艶やかで澄んだ音です。 ただ、これはRVGの音とは異質なもので、原音再生という意味では正しいのか
どうかよくわかりません。 このレーベルが音がいい、といわれる理由の一つはこれかもしれません。 この盤はステレオ再生なので、音場の拡がりが
非常に大きく、リッチな残響感で、一聴してすぐに直感的にすごくいい音だ、と感じると思います。
ただし、問題は管楽器の音。 他の2枚と比べると、サックスの音が若干ですがクラリネットなどの木管色が強い音色になっていて、これが
違和感があります。 トランペットの音も、幾分奥行き感が浅く平面的な気がします。 もちろん、これは聴き比べてみて初めて気が付くような
些細なレベルのことなので、これだけ聴いている分には何の問題もありません。 各楽器の音量が割と均一でバランスは一番いいかもしれません。
最後に(c)ですが、私にとってはこれが一番いい音だな、という結論になっています。 この盤の音の特徴は、管楽器の音圧が一番高くて、音色が
一番輝いています。 テナー、アルト、トランペットが薄皮を一枚剥がしたようなきれいな音です。 そしてピアノやベースが少しくぐもったような
音色で、いわゆるRVGがいつもこのレーベルでマスタリングする音になっています。 また、各楽器がきれいに分離していて、こちらもステレオ再生感が
雄大で残響も多く、すごくいい音だと直感的に感じます。 これは、(b)と差がないです。 過去に発売されていた国内盤CDやRVGリマスターCDのような
不自然極まりないサウンド感は皆無。 別次元の音だと思います。
繰り返しになりますが、これは3つの音盤の同じ個所を続けて聴き比べてみて初めて気が付くような差異であって、1つ1つを単体で聴いている分には
何の問題もないような話です。 しかもその差異には客観的な優劣はなく、主観的な好き嫌いがあるだけのことだと思います。
私が3つも音盤を持っていたり、細部をほじくり返すのは、ひとえにこの演奏が好きだからです。 この哀感のたっぷりこもったマイナーブルースや
静かなバラードに心奪われるからであり、そういう愛好家が世界にはたくさんいるから、様々な形で世に出てくるのでしょう。
オリジナル盤がないことを嘆くより、再現された音盤の素晴らしさを理解して、何よりもそこで鳴り響く音楽を楽しむことが一番じゃないかと思います。
録音当時に正規発売されなかったせいでいわゆるオリジナル盤が存在しないわけですが、演奏内容があまりにいいので、いろんな形で復刻が
試みられてきました。 そして、ここに時期をほぼ同じくして3種類の復刻が揃いました。 どれも尊敬するべき情熱の産物であり、
供給側のその熱意と同じ熱量をもって需要家としても成果を享受するべきだと考え、ここで禁断の聴き比べをしてみようと思います。
比較してみてわかるのは、この3者は同時にゴールに飛び込んでテープを切っているので、0.01秒の差を写真判定する必要がある、という感じです。
だから、重箱の隅を近視眼的に突いて突いて突きまくります。


(a) diskunion プレミアム復刻盤


(b) audio wave music xrcd24 (c) Universal Music 75周年記念 24bit 192kHz SHM-CD
まずは、意匠の話から。
(a)は、我々マニアの想いの結晶のようなつくりで、アナログ復刻としては従来の物とは次元が違う仕上がりとなっているのは言うまでもありません。
ここまできて何を文句言うか?という感はありますが、ここは心を鬼にして、重箱の隅を楊枝でほじくります。
まずはジャケットですが、これまでのグリーンから "Blue Trane" を意識したブルーへ色合いを変更しているは正解の一つだと思います。
ラミネートも非常に丁寧な仕上がりで素晴らしいです。
ただし。 厚紙の厚さが薄いのが問題です。 ブルーノートのオリジナルは厚紙が重層的で分厚く、時が経ても重量がありしっかりとした質感ですが、
このジャケットは厚紙が薄く、実際に手に取るとチープな感じがします。 そして、裏面の印刷が弱い。 黒いインクが少し墨色っぽくて、
コピー感が安っぽい。 表面の色合いやラミネート加工に気を取られ過ぎて、その他の部分がなおざりになった感があります。
また、表面の写真の解像度が悪いです。 オリジナル・ネガから起こした写真ではなく何かからのコピー写真のようで、ボケた感じがかなり残念。
次に盤ですが、重量盤、フラット、溝、INC、などの要件は完璧に満たしていますが、まずエッジの形状がLexingtonのような切り落とし方ではなく、
先端に少しガードが残る切り方で、これはフラット後期の形状になっています。 また、材質が当時のものとは明らかに違って、ビニール感が強い
材質です。 当時の盤の材質はもっと硬質な素材でしたが、これは単に分厚いビニールという質感で、いくら重量があっても手にした時の質感が
安っぽい気がするのは避けられません。 人間の手の先はこういう微妙な感じの違いを怖ろしく正確に感じ取るので、こればかりは誤魔化しようがない。
当時の材料の配合の情報が残っていればよかったのに、とこれも残念です。
ただ、オリジナルが存在しない以上、アナログマニアでCDよりもレコードで持ちたい場合は今のところはこれが筆頭格ということになるでしょうか。
(b)は、ご覧の通り、写真の解像度が一番高い。 これはオリジナル・ネガを使っているのでしょう。 中にはフランシス・ウルフがレコーディング
スタジオで撮った貴重な写真が数枚載っています。 ジャケットもラミネート加工されたしっかりしたハードカバー形式で高級感があります。
(c)は、国内盤のレギュラー仕様であり、特にコメントすることは何もありません。 私は紙ジャケットが嫌いなので、普通のプラケースが有り難い。
さて、ここからが肝心の音質の話です。
まず前提として、我が家の再生環境はアンプがLuxmanの真空管( SQ-38 D )、スピーカーはTANNOYのスターリング、プレーヤーはTHORENSのTD520、
カートリッジはORTOPHONのSPU、CDプレーヤーはMARANTZのSACD対応デッキで、部屋はフローリングの15畳の洋室です。
ジャズの再生としては珍しい構成かもしれませんが、もう15年くらい使っていて特に何の不満もないのでダラダラとこれらを使い続けています。
(a)については、まず、1番の問題はモノラル盤のみの復刻だということです。 私は4000番台はステレオ盤の音のほうが自然な音場で遥かに
鮮度も高くいい音だと思っているので、ステレオ盤の発売がないのは感心しません。 コレクターがモノラル盤ばかりを有り難がるせいなんだろうと
思いますが、これはあきらかに間違った認識だと思っています。 どうせここまでこだわるなら、ステレオプレスも同時に出して欲しかった。
で、モノラルの音の仕上がり具合ですが、やはりブルーノートサウンドだという前提で聴くと少し線が細く平面的で、音も若干くすんでいる
ような気がします。 RVG特有のあのザラッとした荒々しく屹立した質感はなく、無菌室培養で育ったクローン盤、というような印象があります。
これは先ほど触れた盤の材質にも関係があるのかもしれません。 ただ各楽器の音の出方に不自然さはなく、上手なミキシングがされていると思います。
特に、アート・テイラーのドラムのブラッシュワークの再生はこの盤が一番きれいでクッキリとしていて、気持ちいいです。
いずれにせよ、この復刻は形状も含めて、日本のコレクターがどういう物の見方をしているのかを端的に表しているように思います。
(b)については、一部のマニアが高く評価していることでよく知られていますが、何と言っても一番の特徴はピアノとベースの音が一番きれいなこと。
他の盤と比べると、薄皮を一枚剥がしたような艶やかで澄んだ音です。 ただ、これはRVGの音とは異質なもので、原音再生という意味では正しいのか
どうかよくわかりません。 このレーベルが音がいい、といわれる理由の一つはこれかもしれません。 この盤はステレオ再生なので、音場の拡がりが
非常に大きく、リッチな残響感で、一聴してすぐに直感的にすごくいい音だ、と感じると思います。
ただし、問題は管楽器の音。 他の2枚と比べると、サックスの音が若干ですがクラリネットなどの木管色が強い音色になっていて、これが
違和感があります。 トランペットの音も、幾分奥行き感が浅く平面的な気がします。 もちろん、これは聴き比べてみて初めて気が付くような
些細なレベルのことなので、これだけ聴いている分には何の問題もありません。 各楽器の音量が割と均一でバランスは一番いいかもしれません。
最後に(c)ですが、私にとってはこれが一番いい音だな、という結論になっています。 この盤の音の特徴は、管楽器の音圧が一番高くて、音色が
一番輝いています。 テナー、アルト、トランペットが薄皮を一枚剥がしたようなきれいな音です。 そしてピアノやベースが少しくぐもったような
音色で、いわゆるRVGがいつもこのレーベルでマスタリングする音になっています。 また、各楽器がきれいに分離していて、こちらもステレオ再生感が
雄大で残響も多く、すごくいい音だと直感的に感じます。 これは、(b)と差がないです。 過去に発売されていた国内盤CDやRVGリマスターCDのような
不自然極まりないサウンド感は皆無。 別次元の音だと思います。
繰り返しになりますが、これは3つの音盤の同じ個所を続けて聴き比べてみて初めて気が付くような差異であって、1つ1つを単体で聴いている分には
何の問題もないような話です。 しかもその差異には客観的な優劣はなく、主観的な好き嫌いがあるだけのことだと思います。
私が3つも音盤を持っていたり、細部をほじくり返すのは、ひとえにこの演奏が好きだからです。 この哀感のたっぷりこもったマイナーブルースや
静かなバラードに心奪われるからであり、そういう愛好家が世界にはたくさんいるから、様々な形で世に出てくるのでしょう。
オリジナル盤がないことを嘆くより、再現された音盤の素晴らしさを理解して、何よりもそこで鳴り響く音楽を楽しむことが一番じゃないかと思います。