Kenny Drew / A Harry Warren Showcase ( 米 Judson L 3004 )
リヴァーサイドはいくつか傍系レーベルを持っていて、本流のアーティストがスピンアウト的にアルバムを残していたりする。 この傍系レーベルの基準や
運営方針みたいなものはイマイチよくわからないけれど、どうやら本流は正統派のハードバップで、そこから少し外れるようなポップス的なものや
ニュージャズ的な感覚のものは傍系で、という感じで使い分けていたらしい。 ただ、その振り分けもかなり曖昧な感じで厳格なものではなかったようだ。
この Judson というレーベルはいくつかある傍系の中では最もジャズから遠い音楽を収録していたもので、聞いたことのないアーティストのレコードが
少しばかりリリースされているけど、その中でなぜかケニー・ドリューのアルバムが2枚残っている。 ハリー・ウォーレンやハロルド・アーレンの作った
スタンダードをウィルバー・ウェアとのデュオでカクテル・ピアノ・スタイルでさらっと弾き流していて、明らかにBGM目的で作られた内容だ。
50年代の主要レーベルでこういうジャズというスタイルを通してBGM風の音楽をレコードとして出していたのは実は珍しくて、時代を先取りしたような
感じがある。 当時の各レーベルはガチンコなジャズのレコードを作るのが当たり前で、こういうビジネスライクなレコードをリリースするというのは
近年のジャズ・ビジネスの匂いがして、リヴァーサイドの共同経営者だったビル・グラウアーの意向だったのかもしれない。 プレスティッジにも Moodsville
シリーズがあるけど、あれはラウンジ・ミュージックというのではなくもっとどっぷりとしたジャズになっていて、雰囲気は全然違う。 プレスティッジの
XXXXvilleシリーズは当時のアメリカのリスナーの特定のジャンルに特化したレコードが聴きたいというニーズを反映して作られたものという感じだが、
リヴァーサイドの場合はレーベル側から人々に生活スタイルを逆提案するようなところがあって、まるで現代のオシャレ系雑誌のそれを彷彿とさせる。
いずれにせよ、こういう傍系レーベルの運営には当時のアメリカ社会の人々の生活感が垣間見えるようなところがあって、なかなか興味深い。
そういうレーベルの意向を汲んでのことか、元々そういう資質があったのか、ケニー・ドリューは軽い音楽に徹した演奏に終始している。 これを聴いて
思い出すのは、80年代に日本のBaystateレーベルが作った "By Request" シリーズだ。 コアなジャズファンからは軽蔑されるああいう一連の仕事も
実はリスナーの間には常に一定のニーズがあり、初心者にジャズを紹介するという役割も果たしており、レコード会社のマーケティングは決して間違っては
いないだろうと思う。 実際のところ、ちゃんと聴いてみるとしっかりとした正統派のジャズになっていて、私は案外嫌いじゃない。
そんなわけで、このレコードの音楽には特にそれ以上話すべきところはない。 前置きが長くなり過ぎたけれど、本題はこのレコードの初版はどれ?
ということである。 写真のレーベルはいわゆるリヴァーサイドの "小レーベル" だけど、このレコードには "大レーベル" も存在するのだ。
で、どちらがオリジナルなの? というマニアな疑問が出てくる。
見かける頻度は大レーベルのほうが圧倒的に多く、もう処分して手許にはないから記憶は不確かだけど、大レーベルのランアウト部分にはパテント番号が
あったように思う。 家にある写真の小レーベルにはパテント番号がなく、手書きで RLP 12 813 と書かれたものが上から横線で消されて、L-3004 が
手書きで追記されている。 つまり、このレコードは当初は本流レーベルのRLP規格で出される予定だったが途中でJudsonからのリリースに変わった、
ということで、こういうのは割とよくある話である。
安いレコードなので一時期大小両方を持っていて、聴き比べたら小レーベルのほうがピアノが生音に近い感じだったので大レーベルのほうは処分した。
もちろん聴き比べてみて初めて気が付く程度の差でしかないレベルだったけれど、果たしてどちらが初出なのだろう。 そもそも、リヴァーサイド本体の
青大レーベルと青小レーベルの件だって、あのタイトルは青大がオリジナル、このタイトルは青小がオリジナル、という今の定説の根拠が私にはイマイチ
よくわからない。 昔からそう言われているから「ふーん、そうなのか」という程度の理解でしかないのだ。 また、ユニオンの廃盤セールリストにはよく
「PAT番号あり」という記載があるけど、パテント番号はオリジナルの根拠にはならないだろう。 あれも何の意図で記載しているのかよくわからない。
プレスティッジも難しいけれど、リヴァーサイドもいろいろと難しい。