[15:30.東京23区内 日蓮正宗・大化山正証寺 ユタ、威吹、藤谷]
お寺の駐車場に車を止める。
「はい、到着」
「ここですか……」
「都心の一等地だ。凄いだろ」
「これが現代の江戸……」
威吹はキョロキョロと辺りを見回し、鼻をフンフン鳴らした。
「悪い。江戸からは外れてるかも」
藤谷が頭をかいて言った。
「え?」
三門に回ると、1人の青年が立っていた。
「藤谷さん」
「おーう。御受誡者連れてきたぞ。御住職は?」
「もうちょっとで戻って来るかと……」
「ああ、うちの班員の田部井ってんだ。こいつは元学会員だよ」
「田部井です」
「稲生です。よろしくお願いします」
「稲生さん。歳は?」
「19歳です」
「若いな。キミなら、きっと僕より早く罪障消滅できますよ」
「本当ですか?」
「僕が学会辞めて宗門に来たの、22の時なんで。あ、今25なんですけどね」
「へえ……」
「ま、とにかく、御住職が戻って来られるまで、中で書類手続きを……」
「あ、はい」
と、その時だった。公道から轟音を立てて、赤いスポーツカーが飛び込んできた。
「む!?」
それは三門前に止まる。藤谷のベンツと同じ左ハンドルのその車から降りてきたのは、
「御住職、お帰りなさい」
「ああ、どうも……」
何故か深刻そうな顔をしている50がらみの住職。
「御住職、御受誡者を連れてきました。お願いします」
すると住職はユタ達の方を見て、ニコッと笑った。
「こんにちは。よく御決心されましたね」
「ど、どうも……」
「田部井さん、ここでいいですかね?」
そして今度は、田部井の方を向いた。
「あ、全然オッケーです。どうでした?」
「少々難しかったですね。感覚がだいぶ異なるので、ヒヤヒヤしましたよ。でも、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、どうもすいませんでした」
「では。どうぞ中へ」
そういうやり取りをすると、住職は境内へと入っていく。
「藤谷さん!」
「ん?」
ユタは何故か、藤谷にくって掛かった。
「浅井先生……いや、会長や学会員の言う通りじゃないですか!法華講員の金で、こんな遊び車を……!!」
「何言ってるんだ?稲生君は何か勘違いしてるぞ」
「え?」
「あ、それ、僕の車です」
と、田部井。
「御住職の車、修理中だから、田部井の車借りたんだよ」
「な、何だ……」
「普段の車がクラウンで、それからいきなりコレだろー?そりゃ、感覚が違うだろうな。右ハンと左ハンで相当違うだろうし」
「そ、そういうことでしたか」
ユタはホッとした。
[15:45. 日蓮正宗・正証寺本堂 稲生ユウタ、藤谷春人]
威吹は御受誡を見守るのも固辞した。ので、外で待っている。
(んおっ?)
合掌するユタの頭の上に、御本尊が乗せられる。
「今身より仏身に至るまで、【作者がセリフを忘れたので中略】保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし!」
本堂にいた法華講員一同が答える。
(えぇえ……!?)
ユタは驚いた。顕正会の入信勤行と全く違うからだ。
そして……。
「入信おめでとう。これからは過去世からの、そして顕正会で積んでしまった罪障を1日でも早く消滅させるよう、精進して参りましょう」
住職はにこやかな顔で、ユタと握手してきた。
「よろしくお願いします」
「では藤谷さん、あとはよろしくお願いします」
「お任せください」
(あれ……?)
ユタは首を傾げた。
「藤谷班長」
「何だい?」
「御本尊様は?帰り際ですか?」
「何の話?」
「顕正会では、『学会や宗門では入信と同時に、御本尊を渡す。何という不敬だ』と言ってましたが……」
「ああ。うちのお寺、信心興盛にならないと下附しないから。……あ、所属寺院から御本尊様を貸与されることを『下附』って言うんだけどね。まあ、申告制なんだけど……。自分で御本尊様を命に代えても護持できるという自覚を持ったら、申請書を書いて提出するんだよ。うちはね。他のお寺では分からないよ」
「そうなんですか。その点は顕正会と同じですね」
「そう。因みにその状態のことを、『内得信仰』という」
「へえ……」
「さーさ。まずは、このお寺の概要について説明しようか。今日からここが、稲生君の菩提寺になるんだからね」
「あっ、そっかぁ……」
「宗門での勤行の仕方も覚えないとな。まずは今日、夕勤行に参加してみてちょうだい。今の御受誡の勤行のスピードより物凄く速いから」
「そうなんですか?」
「今のは埼京線各駅停車。勤行のスピードは、その隣を走る新幹線だよ」
「うそ?何それ、速い!……『なめこ』?」
「『なめこ』じゃないから!」
藤谷はガクッとなった。
「ま、とにかく、舌を噛まないように気をつけろよ。何しろ、元顕の最初の罪障消滅は、勤行の速いスピードについてこれず、舌を噛むことだっていうからな」
「それ、作者だけでは?」
続く
お寺の駐車場に車を止める。
「はい、到着」
「ここですか……」
「都心の一等地だ。凄いだろ」
「これが現代の江戸……」
威吹はキョロキョロと辺りを見回し、鼻をフンフン鳴らした。
「悪い。江戸からは外れてるかも」
藤谷が頭をかいて言った。
「え?」
三門に回ると、1人の青年が立っていた。
「藤谷さん」
「おーう。御受誡者連れてきたぞ。御住職は?」
「もうちょっとで戻って来るかと……」
「ああ、うちの班員の田部井ってんだ。こいつは元学会員だよ」
「田部井です」
「稲生です。よろしくお願いします」
「稲生さん。歳は?」
「19歳です」
「若いな。キミなら、きっと僕より早く罪障消滅できますよ」
「本当ですか?」
「僕が学会辞めて宗門に来たの、22の時なんで。あ、今25なんですけどね」
「へえ……」
「ま、とにかく、御住職が戻って来られるまで、中で書類手続きを……」
「あ、はい」
と、その時だった。公道から轟音を立てて、赤いスポーツカーが飛び込んできた。
「む!?」
それは三門前に止まる。藤谷のベンツと同じ左ハンドルのその車から降りてきたのは、
「御住職、お帰りなさい」
「ああ、どうも……」
何故か深刻そうな顔をしている50がらみの住職。
「御住職、御受誡者を連れてきました。お願いします」
すると住職はユタ達の方を見て、ニコッと笑った。
「こんにちは。よく御決心されましたね」
「ど、どうも……」
「田部井さん、ここでいいですかね?」
そして今度は、田部井の方を向いた。
「あ、全然オッケーです。どうでした?」
「少々難しかったですね。感覚がだいぶ異なるので、ヒヤヒヤしましたよ。でも、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、どうもすいませんでした」
「では。どうぞ中へ」
そういうやり取りをすると、住職は境内へと入っていく。
「藤谷さん!」
「ん?」
ユタは何故か、藤谷にくって掛かった。
「浅井先生……いや、会長や学会員の言う通りじゃないですか!法華講員の金で、こんな遊び車を……!!」
「何言ってるんだ?稲生君は何か勘違いしてるぞ」
「え?」
「あ、それ、僕の車です」
と、田部井。
「御住職の車、修理中だから、田部井の車借りたんだよ」
「な、何だ……」
「普段の車がクラウンで、それからいきなりコレだろー?そりゃ、感覚が違うだろうな。右ハンと左ハンで相当違うだろうし」
「そ、そういうことでしたか」
ユタはホッとした。
[15:45. 日蓮正宗・正証寺本堂 稲生ユウタ、藤谷春人]
威吹は御受誡を見守るのも固辞した。ので、外で待っている。
(んおっ?)
合掌するユタの頭の上に、御本尊が乗せられる。
「今身より仏身に至るまで、【作者がセリフを忘れたので中略】保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし!」
本堂にいた法華講員一同が答える。
(えぇえ……!?)
ユタは驚いた。顕正会の入信勤行と全く違うからだ。
そして……。
「入信おめでとう。これからは過去世からの、そして顕正会で積んでしまった罪障を1日でも早く消滅させるよう、精進して参りましょう」
住職はにこやかな顔で、ユタと握手してきた。
「よろしくお願いします」
「では藤谷さん、あとはよろしくお願いします」
「お任せください」
(あれ……?)
ユタは首を傾げた。
「藤谷班長」
「何だい?」
「御本尊様は?帰り際ですか?」
「何の話?」
「顕正会では、『学会や宗門では入信と同時に、御本尊を渡す。何という不敬だ』と言ってましたが……」
「ああ。うちのお寺、信心興盛にならないと下附しないから。……あ、所属寺院から御本尊様を貸与されることを『下附』って言うんだけどね。まあ、申告制なんだけど……。自分で御本尊様を命に代えても護持できるという自覚を持ったら、申請書を書いて提出するんだよ。うちはね。他のお寺では分からないよ」
「そうなんですか。その点は顕正会と同じですね」
「そう。因みにその状態のことを、『内得信仰』という」
「へえ……」
「さーさ。まずは、このお寺の概要について説明しようか。今日からここが、稲生君の菩提寺になるんだからね」
「あっ、そっかぁ……」
「宗門での勤行の仕方も覚えないとな。まずは今日、夕勤行に参加してみてちょうだい。今の御受誡の勤行のスピードより物凄く速いから」
「そうなんですか?」
「今のは埼京線各駅停車。勤行のスピードは、その隣を走る新幹線だよ」
「うそ?何それ、速い!……『なめこ』?」
「『なめこ』じゃないから!」
藤谷はガクッとなった。
「ま、とにかく、舌を噛まないように気をつけろよ。何しろ、元顕の最初の罪障消滅は、勤行の速いスピードについてこれず、舌を噛むことだっていうからな」
「それ、作者だけでは?」
続く