報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「クロックタワー・ゴーストテール」

2015-04-22 20:01:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月19日23:50.ヤノフ城・時計台前 マリアンナ・スカーレット、ジョージ・セイカー(グルジ・ヤノフ)、アカネともう1人]

「むー!むー!」
 石台の上に仰向けに寝かされ、両手足は大の字状態にして縛られているマリア。
 口には猿ぐつわをされている。
 その石台を運んできたのは、今やすっかり中年女と化したアカネと黒いローブにフードを被った男だった。
「雷は止んだか……。正に、絶好の儀式日和だな」
 下界を見下ろすかのように城壁の上に立っていたのは、あの老紳士。
「ヤノフ様!件の小娘を連れて参りました!」
 アカネが恭しく老紳士に報告する。
 老紳士は振り返ると、深く被った山高帽のつばを押し上げた。
「アカネよ、言葉に気をつけろ。こう見えても、そのコは私の孫なのだからな」
「も、申し訳ありません!」
「汚い言葉はブログの中だけにしておけよ」
 フードの男はニヤッと笑った。
「うるさいね!正体がバレそうになってるくせに、いい気になってんじゃないよ、バーズ!」
「2人とも静まれい!」
「ははっ!」
「まもなく日付が変わる。日付の変わる0時を以って、儀式を始める。これにより、私は愛するマリアンナと1つになれるだけでなく、真の魔王となり、ウェルギリウス(大魔王バァル)に代わって、魔界の統治者となるのだ!」
「崇高な計画でございます!」
「日蓮宗門の弱小宗派にはしてやられましたが、勝利は我々の手に……といった所ですかな」
「では準備を始める!アカネ!」
「ははっ!」
 アカネはマリアの足元に回ると、スカートを捲り上げ、下着を毟り取った。
「くっ……!」
 屈辱に顔を歪ませるマリア。
「むっ?この小娘……」
 アカネは何かに気づいた。
 そして、あろうことかマリアの性器を広げようとした。
「や、やめ……!!」
 いくら相手が中年女性とはいえ、さすがに見られていいものでもない。
 マリアは縛られている中で、抵抗した。
「ええい!おとなしくするんだよ!……ったく!意外と剛毛ね!!」

 ブチブチブチブチッ!(マリアの陰毛を引っこ抜くアカネ)

「痛い!痛いッ!!」
「何をしている、アカネ?」
 アカネの行為に不審な顔をする老紳士改めヤノフ。
「……やはり!これは……!大変です、ヤノフ様!こいつ、処女膜がありません!既に子宮の奥まで穢れているもようです!」
「何だとォ!?バカな!私のかわいい孫が、貞操を守らぬ不純な娘であるはずがない!アカネ!この期に及んで、まだ若い娘に嫉妬するか!」
「ですが、本当なのです!……おい!正直に言うんだよ!」
 アカネはマリアの金色の髪を掴み、頭を引き上げた。
「何人の男とヤったんだい!?ああっ!?」
「また始まった。アカネの若い娘いびり」
 バーズはニヤッと笑って肩を竦めた。
「……覚えてない。10代の時、集団でレイプされて……」
「何と……!」
「本当は自分で誘ったんだろ、ええっ!?」
「バカな……!わ、私の計画が……!!」
「このクソビッチ!ヤリ◯ン!不貞娘!!」(←そこまで言うか?……でも、例のブログ的には【お察しください】)
「アカネ、もういい」
「ですが、ヤノフ様!」
「計画を変更する。子宮ではなく、心臓を取り出すことにする!」
「心臓?ですが、それではお孫さんと1つになるという計画が……」
 バーズが意外だという反応をした。
「構わん。私も、貞操も守れぬ娘になど興味は無くなった。魔界の統治者への計画に統一する!」
「おおっ!」
「それなら心臓で可能でございます!されば、すぐに準備の方を!」
 アカネ、今度はマリアのブラウスを引き裂き、ブラジャーも引きちぎって胸を露わにさせる。
「まもなく0時を迎える!……ヨロヘー・バブヘー・ナーム・ミョーホー・レンゲー・キョー・イーエー・アーエー・アール・ワー……」
(よもや法華経が別の意味を持っているとは、どこの仏教関係者も知るまい)
 バーズは相変わらず口元を歪めたままだ。
(もう、これまでか……)
 マリアは死を覚悟した。
 いくら魔道師が不老不死と言われようが、さすがに魔の者が持つあのナイフに心臓を突き立てられれば死ぬだろう。
 そこへバーズが近づいて来た。
「最期に何か言い残すことがあれば、私が聞いておこう」
「……師匠はどこ?」
「ああ、そうだな。それも知らずに死ぬのも哀れ過ぎるか」
「バーズ、余計なことするんじゃないよ」
 アカネが眉を潜める。
「いいから、少しは哀れみを掛けてやれよ。ヤノフ様は詠唱でお忙しいからな。……キミの師匠はヤノフ様の手により、石化してこの城のどこかに置いてある。誰かが見つけてくれるといいんだがな」
「くそっ……」
「儀式の準備は整った!我こそ真の魔王たらんや!!」
 ヤノフは青白く光るナイフを振り上げた。
「!!!」
 マリアは目に涙を浮かべながら、ギュッと目を閉じる。
 楽しそうな顔を浮かべるアカネ、冷やかな目で見つめるバーズ。

 魔道師達の惨敗で、魔の者達の勝利なのか……。

「…………」
「…………」
「……むっ?」
「……ヤノフ……様?」
 だが、ヤノフはナイフを振り落そうとはしない。
 不審な顔になるアカネに対し、バーズがその理由にいち早く気づいた。
「鐘が鳴らない!」
「どういうことだ!?なぜ鐘が鳴らん!?」
 アカネ達が文字盤を見上げた。
「や、ヤノフ様!?と、時計が止まっています!」
「何だとォ!?」
「11時59分で止まったか。都合良く故障したわけではないようですな。と、なると……」
「この不貞娘の仲間の仕業かぁぁぁぁぁぁッ!!」
(ヒドい言われよう……)

[4月20日00:02.ヤノフ城・大ホール 稲生ユウタ&藤谷春人]

 大時計の振り子の横にある制御室。
 そこで藤谷は時計を23時59分59秒で停止する細工を施した。
「どうだ!?せめて大時計を止めてやったぜ!ざまぁみろだ!なあ?稲生君?」
「……そんなことしたって、もうマリアさんは……。ううう……」
「諦めるな!せめて障魔を退治してから男泣きするんだ!いいな!?」
「倒せるものならな……!」
「おう!法華講ナメんじゃねぇぞ……って、あらまっ!?」
 いつの間にか大ホールに憤怒の形相をしたヤノフと、後からアカネとバーズの姿が現れた。
「私の邪魔をしおって……!許さんぞ!」
「つったって、俺達ゃここの時計止めただけだぜ?……あ?」
「だから、それがヤノフ様の野望を阻止してしまったことになったんだ。……何も知らずにやったのか、もしかして?」
 バーズは最後、呆れた顔をした。
「えっ!?マジで効果あったの!?ぃやった!万歳!さすが仏法の功徳だぜ!なぁ?稲生君!?」
「え、ええ……。マリアさんとイリーナ先生を返してくれ!」
「そうだ。ヤノフ様、ここは我々が始末しておきます。ヤノフ様は、あの魔道師達に直接鉄槌を下されては?その方が腹の虫も少しは収まられるかと……」
「む、むむ……。分かった。ではここはお前達に任せる」
 そう言うと、ヤノフは再び空間の中に姿を消した。
「あっ!ま、待てっ!」
「おっと!お前達の相手は、この私達だよ!ヤノフ様の計画を邪魔した罪、無間地獄行きだね!」
「あの爺さんは仏様だったのか?閉経オバサンよ?」
「へ、閉経……!?バーズ!アタシゃ、あのビビリデブをやるよ!邪魔するんじゃないよ!」

 中ボス戦の火ぶたが今、ここに切って落とされた!
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“大魔道師の弟子” 「あの鐘を止めるのはあなた」

2015-04-22 15:29:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月19日23:30.北海道・道央 ヤノフ城 稲生ユウタ&藤谷春人]

 敵が偶然に開けた壁の穴。
 その先は別の部屋に繋がっているようだ。
 行ってみると、そこは別の部屋、というよりはホールのようになっていた。
「ここがホールかな?」
 大きな城の割にはこぢんまりとしている。
 ユタが出た場所は2階吹き抜けの吹き抜け廊下部分。
 そこから下を覗いて見ると、大きな丸いテーブルや椅子がいくつか置かれていた。
 どうやらここはホールはホールでも、ダンスホールとかバンケットホールとか、そっちの方のようである。
 天井から吊るされた大きなシャンデリアが、オレンジ色の照明を灯している。
 ユタがそのホールまで下りて来ると、別のドアが開いた。
「!」
「おおっ、稲生君!無事だったか!」
 藤谷だった。
「班長!……大丈夫です。でも何だか、見たことも無い敵が……」
「ああ。やっぱり武器が必要みたいだ。俺達の装備は途中で見つけたんだが……」
 藤谷はユタが右手に持っている物に反応した。
「おおっ!ちょうどいい物持ってるじゃないか!それだ!それなら、武器を取り戻せるだろう!」
 ユタの持っているバール。
「そうなんですか?」
「こっちだ。一緒に来てくれ」
「は、はい!」
 ユタは藤谷の後ろをついて、さっき藤谷が入ってきたドアから出た。
 再び廊下になっているが、左斜め前に両開きのドアがある。
「この先ですか?」
「待て。この先に、奴らがいる。あの白いマネキンみたいなヤツだ。そのバールを貸してくれ。俺ならこれで直接戦えるかもしれん」
「は、はい」
「いいか?一気に行くぞ。はぐれるなよ」
「はい!」
 藤谷はドアを開けて、中に突入した。
「だぁりゃぁぁぁーっ!!」
「アー……!」
「ウー……!」
 その先は本棚が並んでいる。
 どうやら書庫か何かのようだ。
 本棚と本棚の狭い通路を、あの白い人型マネキンが2体やってきた。
 藤谷がバールでマネキンの頭を殴り付ける。
 人間なら、それで即死できるレベルだ。
 だが、マネキンはそれでは死なない。
 倒れるだけだ。
「いい!倒れたら、意外とこいつら起き上がるのに時間が掛かる!今のうちに先に進むぞ!」
「はい!」
 藤谷は隣の部屋のドアを開けた。
 そこも似たような造りになっていて、今度はマネキンが2体いた。
「アウウウ……!」
「わっ!?」
 ……いや、違う!3体だ!
 机の下から這い出てきて、ユタの足を掴んだ。
「は、班長!」
「ちょっと待ってろ!……てめっ、放せっ!」
 藤谷もマネキンに掴みかかられたので、急いで振り払った。
「アウウッ!」
 振り払われたマネキン、勢い余って本棚にぶつかる。
 と!弾みで本棚が倒れた。
「ギャアアッ!」
「ウウウッ!!」
 倒れて来た本棚の下敷きになる別の1体と、うつ伏せでユタを掴んでいる1体。
 ドミノ倒し式に本棚が倒れたものだから、いい攻撃オブジェクトになった。
 藤谷に振り払われた1体も向かってきたが、藤谷に頭をフルボッコにされ、やっと活動を停止した。
「よし、行こう!武器の在り処はそろそろだ」
「はい!……あっ、ちょっと待ってください!」
「何だ?」
 倒れた本棚から、気になる本が出て来た。
「確か、ここにある本も、元々城にあったものだって聞いたぜ」
「その割には、何でこんなものがあるんですか!?」
 ユタが拾ったのはセイカー氏の日記と、マリアが幼い頃に書いたと思われる絵日記があった。
「それは知らんよ。何か書いてあるのか?」
 ユタはまずセイカー氏の日記を開けてみた。

『マリアンナが25歳の誕生日を迎える4月20日が勝負だ。ヤノフ城の大時計が奏でる鐘の音が、私とマリアンナを1つにしてくれるだろう』

「何が1つだ。溺愛し過ぎだよ」
 藤谷は眉を潜めて言った。

『孫の清い子宮を取り出し、その血と卵子が重要となる。“魔の者”が望む物はまもなく揃う』

「うわ、エグ……!孫が男だったら、チ◯コぶった切るのか?」
「男の場合は心臓だそうです。それもエグいですけど」
「だったら、女も心臓でいいだろうよ。魔の考えるこたぁ分からん。そっちのかわいい絵日記はどうだ?」
 小さい孫娘が大好きなお祖父ちゃんに宛てて書いたと思われる、ごく普通の絵日記だった。
「マリアさんにも、こんな時代があったとは……。少し安心しました」
「そうか。……って、こんなことしてる場合じゃない。4月20日って、明日だぞ!?」
「あっ!」
「この爺さんのことだ。12時ぴったりにやるつもりじゃないか!?」
「うああっ!」

 二間続きの書庫を抜けるとまた廊下があり、その曲がり角に鉄格子のドアがあった。
 まるで牢屋のドアのようだ。
「あれだ!」
 その鉄格子から先を覗くと、台の上に藤谷が持ち込んだ猟銃2丁とユタのハンドガン、そして見覚えのある杖が置かれていた。
「あれは……!マリアさんの杖!」
「……ってことは、あのコも囚われの身か!?ったく!とことん、こっちの分が悪いぜ!」
 藤谷はバールを使って鉄格子の間隔を広げると、その中に手を入れ、室内側のドアノブの鍵を回して開けた。
「よし!」
 それでドアを開けて中に入る。
「武器は取り戻したぜ。……で、その杖は間違い無いのか?」
「間違いありません。マリアさんの杖です」
「ちっ。どこに捕えられてるってんだ?さっきのゲストルームには、化け物の気配しか無かったぞ?」
「…………」
「なあ、稲生君。それこそ、稲生君の通力で何とかならんのか?」
「……って、言われても……。くっ……!」
 時計を見ると、23時45分になっていた。
「地下牢に行くにしても、時間が掛かる。もしそのセイカー氏とやらが変な儀式を行うとしたら、一体どこだ?」
 ユタはもう1度、セイカー氏の日記を見た。
「『……ヤノフ城の大時計が奏でる鐘の音が、私とマリアンナを1つにしてくれるだろう』……少なくとも、鐘の音が聞こえる場所ですね」
「ここじゃ聞こえないのか?」
「って、僕に聞かれても……」
「……分かった。じゃあ取りあえず、その大時計の場所に行ってみよう。大広間にあるはずだ」
「ここから近いんですか?」
「実は近い。だが、時間はギリギリかもしれない」
「……行くしかないです!行きましょう!」

[同日23:55.ヤノフ城・大ホール 稲生ユウタ&藤谷春人]

 藤谷は一応念の為ということで、父親の藤谷秋彦に連絡を取った。
 いざとなったら、脱出の手配をしてもらう為だ。
 大ホールに行くには、先ほどユタと合流したダイニングホールを通る必要がある。
 そこに行って見ると、3体のマネキンが待ち構えていた。
 そのうちの一体はテーブルの下から這い出てきた。
「くそっ!どっからでも現れやがって!」
 しかし銃を持っている藤谷にとっては、ザコ同然だ。
 至近距離からショットガンを放たれたマネキンは頭部を吹き飛ばされ、そのままバタッと倒れて動かなくなった。
 豪華な造りの観音扉。
 それを開けると、まずそこは風除室か何かになっているようだ。
 その奥にもう1つ同じドアがあり、それを開けた。
「あっ!」
 それはまるで魔王城のホールのようだった。
 3階くらいの大きな吹き抜けに、先ほどのダイニングがちゃっちく見えるほどに大きなシャンデリアがいくつも吊り下げられている。
 そしてユタが魔王城みたいだと思ったのは、壁際に大きな振り子があったからだ。
 魔王城にあったのも10メートル以上の高さがあったが、この城の時計も負けてはいない。
 だが、決定的に違ったのは、魔王城のは振り子の上にちゃんと文字盤があったのに、ここには無かったことだ。
「これじゃ、今何時だか分かりませんよ?」
「この城に入る前、屋上に時計台があったのを覚えてるか?……見てないか。札幌の時計台みたいに、文字盤だけが建物の上に突き出ているタイプなんだよ。要はヤノフ侯爵が、領民に今何時だかを告げるつもりで付けたらしい……ということになっている」
「へえ……って、ここも誰もいなさそうです!」
「……文字盤の所に行ってみるか?あの螺旋階段から行けそうだが……」
 この大ホール、吹き抜けの上に行くにはY型の階段ではなく、ホールのど真ん中にある螺旋階段を登る必要があるという。
「……ダメだ!時間が無い!」
 ユタは頭を抱えた。
「どうしよう!」
「時間を止める魔法とか使えんのか!?」
「イリーナ先生じゃないんですよ、僕は!」
「……くそっ!こうなったら!」
 藤谷は何を思ったのか、大時計の振り子の所へ走って行った。

 この時の藤谷の思い余った行動が、後に大きな事態を引き起こすことになる。
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“大魔道師の弟子” 「不鳴暁鐘」

2015-04-22 02:21:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月19日21:00.北海道・道央 ヤノフ城 マリアンナ・スカーレット]

「ううっ……!くっ……!」
 扉にしがみついて、必死な顔をするマリア。
 その視線の先には、大きな穴の開いた床があった。
 そこにユタと藤谷の姿は無い。
「ゆ……ユ……タ……」
 マリアも穴に落ちそうになったが、その先のドアノブにしがみついて転落を免れたのである。
 代償として、魔道師の杖を落としてしまったが。
 穴は深く、ぽっかりと開いた口の先は真っ暗で何も見えない。
 何とかドアを開けたその先で待ち受けていた者とは……。
「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!(大笑)」
「お、お前は……!?」

[同日時刻不明 ヤノフ城のどこか? 稲生ユウタ]

「う……」
 ユタはふと目が覚めた。
「う……ん……。ここは……?」
 辺りを見回すと、ユタはシックな部屋の中にいた。
 ダブルサイズのベッドがあり、そこに寝かされていた。
 照明は点いていないが、何故か古めかしいブラウン管テレビが点いている。
 音量は小さく、砂嵐状態であるが。
「!」
 そこへケータイの着信音が鳴った。
 どうやらケータイの電波は入るらしい。
 見ると、藤谷からだった。
「も、もしもし!?」
{「稲生君!?大丈夫か!?今どこだ!?」}
「無事です。ただ、場所まではどこだか……。古めかしいホテルの客室みたいな場所です」
{「俺も似たような場所にいる。恐らく城の中だろう。ゲストルームが並んでいる場所がある。多分俺達はここだ」}
「! 班長、武器がありません!」
 ユタが持っていたハンドガンが無くなっていた。
{「俺もだ。しっかり罠にハマっちまったようだぜ」}
「ど、どうしましょう?」
{「どうもこうもない。とにかく合流しよう」}
「は、はい!」
 ユタは電話を切った。
 そして、部屋から出ようとしたが、鍵が掛かっていた。
 どうやらユタ達が転落したのは事故ではなく、敵の罠で、ユタ達を今殺す気は無いが、しばらく閉じ込めておく算段なのだろう。
 ドアは電子ロックらしく、内鍵自体が無い。
 しかも、それを施錠・開錠する操作盤があると思われる所には鉄板がしてあった。
 プラスのネジ4本で四隅を固定しているだけのようなので、ドライバーさえあれば……。
 もう1つドアがあり、そこを開けるとバスルームになっていた。
 本当に細部まで再現されているようである。
「!?」
 洋式トイレの足元に、ちょうど良くプラスのドライバーが落ちていた。
 工事業者が落としたものだろうか。それとも……。
「と、取りあえず、これで……」
 ユタはドライバーを手に、客室に戻った。

 バッ!

「!?」
 そこへクローゼットから、何かが出てきた。
「アー……」
「!?」
 それは人間と等身大の人形。
 全体的に白く、のっぺらぼうで、頭髪も無い。
 関節を軋ませる音がするものの、良く見たら右腕がトゲトゲの、鉄球を平べったくした形をしている。
 ユタの方を見ると、顔はのっぺらぼうだが、口だけはニヤけさせて近づいてきた。
 口には鋭い牙を生やしているものの、敵意があるようには……。
「って!敵だよな!?」
 マネキン人形のようなものは身長180センチくらいあり、ユタに近づくと、トゲトゲの右腕を振り上げて飛びかかって来た。
「わっ!」
 慌てて避けるユタ。
 マネキン人形は勢い余って、ブラウン管テレビの中に頭から突っ込んだ。
「!!!」
 感電して動かなくなるマネキン。
 しかしそれでもピクピクと動いているので、完全に倒せたわけではないらしい。
「い、今のうちに……!」
 ユタは手に入れたドライバーを使い、ネジを外した。
 そして操作盤を開けると、中のスイッチを“解”に切り替えた。
 案の定、鍵の開く音がした。
「ガアッ!」
 と、同時に昏倒から我に返ったマネキンがユタに襲い掛かってくる。
 ユタは慌てて部屋の外に出た。
 ドアを閉めると中からドアを叩く音がするが、開けて追い掛けてこようとはしない。
 右手は敵を攻撃するのに使えても、とても物を掴むことなどできそうにない。
 ではパッと見、普通の形状をしていると思われる左手で開ければ……と思うのだが、そもそもそんな知性すら無いのか?
 幸い廊下は、薄暗いながらも照明が点いていて、懐中電灯などは必要ではない。
 そこへまた藤谷から電話が掛かってきた。
{「もしもし?稲生君、部屋の外には出られたか?」}
「あ、はい。何とか……」
{「俺も何とか出られた。だが、変な敵がいるみたいだぜ」}
「あの白いマネキン人形みたいなヤツですか?」
{「ああ。確かにアトラクションの一環として、化け物を置く計画はあるが、それは今じゃない。間違い無く、キミ達が戦う“魔の者”とやらの手下っぽいぜ」}
「ええ……」
{「だが、武器が無ければどうにもならん。見つかるまで、何とか回避して進もう。幸い、奴らは動きが遅いみたいだ」}
「た、確かに……」
 今まさにユタの前に2体のマネキンがいたが、電話しながらでもサーッと行けば通り抜けることが可能だった。
 そして追っては来るのだが、藤谷の言うように動きは遅い。
 ヨタヨタモタモタ。
 まるで酔っ払いの千鳥足か、危なっかしい足取りの老人みたいだ。
 しかも動く時に関節の軋む音がするので、近くを歩いていれば気配が分かる。

 だが、敵はマネキンだけではなかった。
「ウウ……」
 後ろからジワジワ近付いて来るマネキン。
 丁字路を左に曲ろうとしたが、そこからも何かが近付いてきた。
 後ろからやってくるヤツが人型だとすれば、左からやってくるヤツは……寸胴型……とでもいうのか?
 材質の見た目は人型とそっくりだが、初見の寸胴型はちょっと違った。
 人1人入れるくらいの大きさの寸胴鍋に、手足を付けたようなもの。
 しかし、目や鼻、耳などの顔は全く無い。
 人型が口だけはあるのに、寸胴型はそれすら無いようである。
 動き方は人型とほぼ一緒。
 体のバランスが悪いせいか、やはりそれもヨタヨタと千鳥足状態である。
 それでも関節の軋み音がしないこともあってか、人型より若干動きは速い様だ。
「ううっ!」
 右は壁。
 真っ直ぐ行こうにも、自分の背丈ほどのバリケードが衝立のようにして置いてある。
 いちかばちか!
 ユタはバリケードの隙間から体を潜り込ませた。
 巨体の藤谷では入れなかっただろう。
 その先には鉄扉があったものの、案の定、施錠されていた。
 ドアの前に落ちているのは、1本のバール。
「これでこじ開けろと?それとも……」
 ユタは後ろを振り向いた。
 人形はもう丁字路に差し掛かっていた。
「このバールで殴打って、効くのかな?」
 と、その時、人型と寸胴型が出会い頭にぶつかった。
 そこで、ある現象が起きる。
「ええっ!?」
 寸胴型がその体を破裂させた。
 中には液体が詰まっていたらしく、人型はそれをまともに浴びた。
「ゥアア……ッ!」
 シュウシュウという音と煙を立てて、人型マネキンは溶け落ちてしまったのである。
「あっ!?」
 ユタは、幸いバリケードが守ってくれたのでその液体を浴びることはなかったが、そのバリケードも溶け出したところを見ると、強力な酸性の液体が詰まっていたようだ。
「……今後、寸胴型を見たら要注意だな」
 更にラッキーなことがあった。
 丁字路だったはずの壁が衝撃と強酸性液体で、大きな穴が開いた。
 それがどこかの空間と繋がっているらしく、明かりが見えた。
「せっかくだ。こっちへ行こう」
 ユタは液体を踏まないように注意しながら、壁の穴に入った。

 その先にあったものとは……?
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