[4月21日12:30.旭川空港ターミナル 稲生ユウタ&藤谷春人]
ターミナル内のラーメン店で旭川ラーメンを食べるユタ達。
「先生達の具合はどうなんだ?」
「イリーナ先生は起きて会話できるくらいなんですが、マリアさんが全く起きなくて……」
「大丈夫なのか?病院とか行かなくてもいいのか?」
「……と、イリーナ先生は言ってますけど……」
「ふーむ……。ああ、そうだ」
「?」
「いや、いきなり飯に付き合わせといて何だけど、先に航空チケット買っといた方が良かったよな?」
「あー……」
「でさ、さっき羽田って言ってたけど、勘違いしてたわ」
「えっ?」
「松本行きが満席だったから羽田行きに乗るとかじゃなくて、キャンセル待ちするって話だったよな?」
「そうです」
「で、その話なんだけど、さっき親父に聞いたら、うちの社員が24日に長野に行くみたいなんだ。千歳から」
「えっ?」
「長野に新しいテーマパーク作るってんで、その現地調査に行く為なんだけど、どうも怪しい事業だ。都内の仕事を取ったことだし、あまり地方に出張らず、そこで仕事することにしたよ」
「長野にテーマパーク?何でしょう?」
「バブルランドって言って、バブルを味わえなかった30代以下を対象にしたテーマパークだよ。『あのバブルよ、もう1度』『嗚呼!2度と来ないあのバブル』がコンセプトで、是非ともバブルの疑似体験をしてもらうっていう何とも怪しげなものだ」
「た、確かに……。普通にビックサイト辺りで数日間のイベントで済みそうな内容ですね」
「だろォ?大学出たばかりのコでさえそう思うんだ。さすがに藤谷組も、手を出すのはやめたよ。ちょうど都内の超高層ビル建設の仕事が入ったし、そっちに集中することにするよ」
藤谷が出したのは東京都心に建てられるというビルのパンフレット。
もうテナントを募集しているらしい。
「発注元が、あの超大手の地所会社なら安心ですね」
「そういうことだ。うちもようやく怪しい仕事ばっかりしてないで、大手振ってデカい仕事ができるようになったってわけだ。仏法の冥益だぜ」
「素晴らしいですね」
「そこで、稲生君にはもう1つ、俺に功徳の現象を出してもらう」
「勧誡ならしませんよー」
「違う違う。稲生君にとっても、いい話だ。さっきの長野の話を出したのは、現地調査に行くうちの社員4人が24日に千歳から松本へ飛行機で行くってものだったが、中止にしたってことだ。つまり、航空チケットが余ってるんだよ」
「あ……!」
「4人分ものキャンセル料が勿体ないから、稲生君達で欲しかったら譲るよ。もちろん名義変更は、こっちでやっとく」
「いいですねぇ!」
「そうだろそうだろ?俺もこれでキャンセル料は1人分だけで済むってことだ。功徳だぜー」
「よろしくお願いします」
こういうことだったのかと、ユタは電話の内容を確信した。
[同日12:50.旭川空港→旭川市街地 ユタ&藤谷]
帰りもまたバスに乗った。
大柄な体の藤谷の隣に座ると、かなり窮屈だ。
自分が同年代と比べ、比較的小柄な体型であることを感謝した。
妖狐の威吹から、もっと肉を食べて体を大きくするよう言われた記憶がある。
「そういえば、威吹君は元気にしてるのか?この前、魔界に行ったそうだが、その時会わなかったのか?」
通路側に座る藤谷が聞いて来た。
体が大きいので、右足を通路に投げ出す形だ。
帰りのバスは元から観光用として設計された車種を使用しているが、座席の間隔は大して変わらない。
空港から市街地行きはほぼ満席だったので、2人もやむ無く窮屈に座っている次第だ。
「魔界には行ったんですけど、威吹に会うどころではなくて……」
「そうか」
「この前、手紙は来たんですけどね」
「ほお。確か、巫女さんと結婚したんだったな。名前は……何だったっけか?」
「さくらさんです。早く子供が欲しいと書いてました」
「狐の妖怪が人間の女とヤって、デキるのか?」
「確率は低いらしいですが、できるらしいですよ」
「ふーん……」
「あれ?そういえば班長は?雪女の……」
「ああ、いや!あいつはいいんだ!大石寺に連れて行けないから!」
「? 威吹もそうですよ。ギリギリ、バスターミナルまでは入れるくらいで」
「ま、まあな」
「栗原さん達はどうしてるんでしょう?」
「高校を卒業した後、実家とキノん家を往復してるみたいだ。キノが出世したもんだから、逆になかなか会えなくなったって言ってるよ」
「ありゃりゃ……。栗原さんは硬派だし、キノも一途キャラですから、お互い浮気の心配は無いでしょうが……」
「まあな。だが、キノはイケメンの癖に多少ヘンタイだろ?」
「ええ。おおかた、会えない間、寂しくないようにという理由で、栗原さんの使用済み下着でも要求しましたかね?」
「それならまだいい方だ」
藤谷はしたり顔で頷いた。
「え?」
「ここじゃ言えないくらいのものを要求して、栗原さんに木刀で引っ叩かれたらしい」
(何を要求したんだ???)
[同日13:35.JR旭川駅 ユタ&藤谷]
旭川駅前に到着するバス。
やはりここで降りる乗客は多かった。
藤谷はここで降りて、一旦電車で札幌に向かうという。
見送りの為(電車を見たいというのもあったが)、ユタもここでバスを降りた。
どうせホテルへはこの次のバス停が最寄り、つまりバス停1区間分の距離しか無く、歩いて行けるので問題無かった。
藤谷は指定席特急券を買った。
「ここは役員らしく、グリーン車で行ってやろうかと思ったんだが、普通車しか無いみたいだなー、稲生君?」
藤谷は笑いながら言った。
もちろんそれが半分冗談であることを見抜いたユタは苦笑いしながら、
「“スーパーカムイ”にグリーン車は無いですねぇ……」
と、答えた。
その指定席料金だって、本州と比べると安い。
「あ……」
「ん?」
「飛行機だけじゃなくて、指定席も買っておこうかなぁ……」
「おー、それはいいかもな」
藤谷は頷いた。
「交通費はセンセー持ちだろ?」
「多分……」
藤谷は乗車券と特急券で、ユタは入場券を買って改札内に入った。
高架化された旭川駅。
ホームに上がると、既に電車は入線していた。
「785系ですね」
「それはいい電車なのかい?」
「“スーパーカムイ”として走っている電車の中で、古い方です。今のうちに乗り納めしたいですね」
「ふーん……」
指定席車両は外から見れば、まるでグリーン車のようだ。
札幌から先は新千歳空港行きの快速“エアポート”号になるようで、その旨も表示してあった。
「それじゃ、航空券はホテルに送っとくわ」
「はい。お金はイリーナ先生から送ってもらいます」
「ああ、頼む」
藤谷を乗せた特急“スーパーカムイ”24号は、発車ベルや発車メロディの類も無く、放送と笛だけで発車していった。
電車を見送った後、再び改札口に向かう。
乗る電車こそ違えど、数日後にはユタ達も同じルートで藤谷の後を追うことになる。
自動改札口を出て“みどりの窓口”へ向かおうとしたユタだったが、
(まあ……“スーパーカムイ”は全部旭川始発だからいいか)
時刻表だけ見ると、さっきの藤谷が乗った新千歳空港直通の特急が他に何本も運転されている。
それに乗れば、ここから新千歳空港まで乗り換え無しで行ける。
まあ、札幌で進行方向が変わるのがネックであるが。
(取りあえず、ホテルに戻るか。もしかしたら、先生は起きてるかもしれない)
ユタはそう考え、宿泊先のホテルに向かった。
ターミナル内のラーメン店で旭川ラーメンを食べるユタ達。
「先生達の具合はどうなんだ?」
「イリーナ先生は起きて会話できるくらいなんですが、マリアさんが全く起きなくて……」
「大丈夫なのか?病院とか行かなくてもいいのか?」
「……と、イリーナ先生は言ってますけど……」
「ふーむ……。ああ、そうだ」
「?」
「いや、いきなり飯に付き合わせといて何だけど、先に航空チケット買っといた方が良かったよな?」
「あー……」
「でさ、さっき羽田って言ってたけど、勘違いしてたわ」
「えっ?」
「松本行きが満席だったから羽田行きに乗るとかじゃなくて、キャンセル待ちするって話だったよな?」
「そうです」
「で、その話なんだけど、さっき親父に聞いたら、うちの社員が24日に長野に行くみたいなんだ。千歳から」
「えっ?」
「長野に新しいテーマパーク作るってんで、その現地調査に行く為なんだけど、どうも怪しい事業だ。都内の仕事を取ったことだし、あまり地方に出張らず、そこで仕事することにしたよ」
「長野にテーマパーク?何でしょう?」
「バブルランドって言って、バブルを味わえなかった30代以下を対象にしたテーマパークだよ。『あのバブルよ、もう1度』『嗚呼!2度と来ないあのバブル』がコンセプトで、是非ともバブルの疑似体験をしてもらうっていう何とも怪しげなものだ」
「た、確かに……。普通にビックサイト辺りで数日間のイベントで済みそうな内容ですね」
「だろォ?大学出たばかりのコでさえそう思うんだ。さすがに藤谷組も、手を出すのはやめたよ。ちょうど都内の超高層ビル建設の仕事が入ったし、そっちに集中することにするよ」
藤谷が出したのは東京都心に建てられるというビルのパンフレット。
もうテナントを募集しているらしい。
「発注元が、あの超大手の地所会社なら安心ですね」
「そういうことだ。うちもようやく怪しい仕事ばっかりしてないで、大手振ってデカい仕事ができるようになったってわけだ。仏法の冥益だぜ」
「素晴らしいですね」
「そこで、稲生君にはもう1つ、俺に功徳の現象を出してもらう」
「勧誡ならしませんよー」
「違う違う。稲生君にとっても、いい話だ。さっきの長野の話を出したのは、現地調査に行くうちの社員4人が24日に千歳から松本へ飛行機で行くってものだったが、中止にしたってことだ。つまり、航空チケットが余ってるんだよ」
「あ……!」
「4人分ものキャンセル料が勿体ないから、稲生君達で欲しかったら譲るよ。もちろん名義変更は、こっちでやっとく」
「いいですねぇ!」
「そうだろそうだろ?俺もこれでキャンセル料は1人分だけで済むってことだ。功徳だぜー」
「よろしくお願いします」
こういうことだったのかと、ユタは電話の内容を確信した。
[同日12:50.旭川空港→旭川市街地 ユタ&藤谷]
帰りもまたバスに乗った。
大柄な体の藤谷の隣に座ると、かなり窮屈だ。
自分が同年代と比べ、比較的小柄な体型であることを感謝した。
妖狐の威吹から、もっと肉を食べて体を大きくするよう言われた記憶がある。
「そういえば、威吹君は元気にしてるのか?この前、魔界に行ったそうだが、その時会わなかったのか?」
通路側に座る藤谷が聞いて来た。
体が大きいので、右足を通路に投げ出す形だ。
帰りのバスは元から観光用として設計された車種を使用しているが、座席の間隔は大して変わらない。
空港から市街地行きはほぼ満席だったので、2人もやむ無く窮屈に座っている次第だ。
「魔界には行ったんですけど、威吹に会うどころではなくて……」
「そうか」
「この前、手紙は来たんですけどね」
「ほお。確か、巫女さんと結婚したんだったな。名前は……何だったっけか?」
「さくらさんです。早く子供が欲しいと書いてました」
「狐の妖怪が人間の女とヤって、デキるのか?」
「確率は低いらしいですが、できるらしいですよ」
「ふーん……」
「あれ?そういえば班長は?雪女の……」
「ああ、いや!あいつはいいんだ!大石寺に連れて行けないから!」
「? 威吹もそうですよ。ギリギリ、バスターミナルまでは入れるくらいで」
「ま、まあな」
「栗原さん達はどうしてるんでしょう?」
「高校を卒業した後、実家とキノん家を往復してるみたいだ。キノが出世したもんだから、逆になかなか会えなくなったって言ってるよ」
「ありゃりゃ……。栗原さんは硬派だし、キノも一途キャラですから、お互い浮気の心配は無いでしょうが……」
「まあな。だが、キノはイケメンの癖に多少ヘンタイだろ?」
「ええ。おおかた、会えない間、寂しくないようにという理由で、栗原さんの使用済み下着でも要求しましたかね?」
「それならまだいい方だ」
藤谷はしたり顔で頷いた。
「え?」
「ここじゃ言えないくらいのものを要求して、栗原さんに木刀で引っ叩かれたらしい」
(何を要求したんだ???)
[同日13:35.JR旭川駅 ユタ&藤谷]
旭川駅前に到着するバス。
やはりここで降りる乗客は多かった。
藤谷はここで降りて、一旦電車で札幌に向かうという。
見送りの為(電車を見たいというのもあったが)、ユタもここでバスを降りた。
どうせホテルへはこの次のバス停が最寄り、つまりバス停1区間分の距離しか無く、歩いて行けるので問題無かった。
藤谷は指定席特急券を買った。
「ここは役員らしく、グリーン車で行ってやろうかと思ったんだが、普通車しか無いみたいだなー、稲生君?」
藤谷は笑いながら言った。
もちろんそれが半分冗談であることを見抜いたユタは苦笑いしながら、
「“スーパーカムイ”にグリーン車は無いですねぇ……」
と、答えた。
その指定席料金だって、本州と比べると安い。
「あ……」
「ん?」
「飛行機だけじゃなくて、指定席も買っておこうかなぁ……」
「おー、それはいいかもな」
藤谷は頷いた。
「交通費はセンセー持ちだろ?」
「多分……」
藤谷は乗車券と特急券で、ユタは入場券を買って改札内に入った。
高架化された旭川駅。
ホームに上がると、既に電車は入線していた。
「785系ですね」
「それはいい電車なのかい?」
「“スーパーカムイ”として走っている電車の中で、古い方です。今のうちに乗り納めしたいですね」
「ふーん……」
指定席車両は外から見れば、まるでグリーン車のようだ。
札幌から先は新千歳空港行きの快速“エアポート”号になるようで、その旨も表示してあった。
「それじゃ、航空券はホテルに送っとくわ」
「はい。お金はイリーナ先生から送ってもらいます」
「ああ、頼む」
藤谷を乗せた特急“スーパーカムイ”24号は、発車ベルや発車メロディの類も無く、放送と笛だけで発車していった。
電車を見送った後、再び改札口に向かう。
乗る電車こそ違えど、数日後にはユタ達も同じルートで藤谷の後を追うことになる。
自動改札口を出て“みどりの窓口”へ向かおうとしたユタだったが、
(まあ……“スーパーカムイ”は全部旭川始発だからいいか)
時刻表だけ見ると、さっきの藤谷が乗った新千歳空港直通の特急が他に何本も運転されている。
それに乗れば、ここから新千歳空港まで乗り換え無しで行ける。
まあ、札幌で進行方向が変わるのがネックであるが。
(取りあえず、ホテルに戻るか。もしかしたら、先生は起きてるかもしれない)
ユタはそう考え、宿泊先のホテルに向かった。