報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔の者の影」

2015-04-16 19:29:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月16日11:30.天候:曇 場所:長野県某所 マリアの屋敷 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「何か、久しぶりに帰ってきたって感じですね」
「ああ」
 屋敷に戻ると、留守番をしていた人形達が出迎えた。
「ユウタ君、少し休んでから調査しよう」
「はい。マリアさんは休んでてくださいよ。僕がやっておきますから」
「ユウタ君……凄いね」
「こういう調査みたいなのは好きなんで」
「なるほど……。多分今、留守番の人形達が昼食を作っているところだろうから、私はいつもの部屋で休んでる」
「はい。僕は1度、自分の部屋に戻ります」
 ユタは階段を上って、自分の部屋に向かった。

 スマホを充電しながら、ユタは藤谷春人に電話を掛けた。
「あ、もしもし。稲生ですけど……」
{「おー、稲生君か。どうした?」}
「実は藤谷班長……すいません、専務が手掛けてる北海道のテーマパークについて聞きたいことがあるんですが……」
{「ははっ(笑)、どう呼んでくれてもいいよ。答えられるものとそうでないものがあるけど?」}
「テーマパークの目玉という古城についてなんです」
{「おー、やっぱ目玉は先に作っとかないとな。その方が注目が集まる」}
「てことは、もうできたんですか?」
{「8割、9割方な。いやあ、さすが『リアル・ダンジョン』なだけあって、色んな謎解きやら仕掛けがあって大変だったよ。はっはっはー(笑)」}
「そのお城を今、見せてもらうことはできますか!?」
{「えっ?どうしたんだい、いきなり?」}
「もしかしたら、イリーナ先生がそこに行ってるかもしれないんです!」
{「そうなのか?しかし、大変なことになったなぁ……」}
「ええ。飛行機が丸ごと行方不明になるなんて……」
{「いや、というか、墜落したぞ?」}
「は!?」
{「今、テレビで大騒ぎだって。知らないの?」}
「……しばらく魔界に行ってて、今帰ってきたばかりなんで」
{「ちょっと治安の悪い国へ行く海外旅行みたいだなー。まあ、それはキミ達だからか。俺だったら、シリアかソマリアに行くみたいなもんか」}
「それより墜落したって、どういうことですか?」
{「今、情報番組でやってるよ。テレビ点けてみな」}
「!」

 ユタの部屋にはテレビは無い。
 スマホでワンセグを見ることはできるが、今電話中なのでそれもムリ。
 そこでリビングへ向かった。
「どうしたの?」
 ユタが切羽詰った顔で飛び込んできたものだから、マリアは驚いた。
 ソファに横になっていたのだが、上半身を起こしたくらいだ。
「あ、あの……」
 ユタは言う前にテレビを点けた。

〔「……今朝7時頃、長野県の信州まつもと空港に正体不明の航空機が突然接近・墜落した事故で、当局は墜落した事故機が行方不明になっていたグレートブリテン航空513便と見て……」〕

「!!!」
 上半身だけ起こしていたマリアが、ソファから転げ落ちそうになった。

〔「この事故で信州まつもと空港は、終日閉鎖が決定しており、当日離発着の航空機は全て欠航が決定しております。尚、当局では何故1週間以上も行方不明だった航空機が突然日本国内の上空に現れたかについて調査を開始しており……」〕

{「これ、どう見ても魔法使いとかが関係してないか?」}
「……してると思います」
「…………」

〔「……事故機は長期間に渡って行方不明、また墜落時の衝撃の激しさから乗員・乗客の生存は絶望的と見られておりますが、懸命の消火活動並びに救助活動が行われております」〕

「信州まつもと空港なら、マリアさんの屋敷から1番近い空港なので、ちょっと行ってみようかと思います」
{「……元気を出すんだよ。件の城の見学は……まあ、俺が何とかしてみるから」}
「よろしくお願いします」

[同日14:00.同県・信州まつもと空港 ユタ&マリア]

 昼食を取り終わったユタ達は、お抱え運転手の車で件の空港に向かった。
 当然ながらターミナルは閉鎖され、対応に当たる関係者やマスコミ、利用客などでごったがえしていた。
 テレビで改めて乗客名簿の記載内容が公表されたが、やはりそこにはイリーナの名前があった。
 空港の外からも灰や残骸と化した飛行機が見えたが、テレビで言う通り、とても生存者がいるとは思えなかった。
「あれくらいで師匠が死ぬとは思えない。恐らく師匠は直前で脱出しているか、もしくは実際に飛行機に乗らなかったりして無事だと思う」
 マリアはそう言った。
 しかし眉を潜めているので、それでも一抹の不安はあるのだろう。
 埒が明かないので、屋敷に戻ることにした。
 その車中で、
「ただの飛行機事故なら、とっくに師匠が私達の前に現れているか何かしてると思う。……まあ、持ち前の予知能力とかで、そもそも乗らないだろうけどね。それが無いのはそういう理由があるか、そうしなければならない理由があるんだと思う」
「そうですねぇ……。“魔の者”と関係があるんでしょうか?」
「分からない」
「移築中の城については、藤谷班長が動いてくれてます。何とか、僕達が調査できるようにと」
「そうか」

[同日15:30.マリアの屋敷 ユタ、マリア、エレーナ・マーロン]

「! エレーナ!?」
「魔界から戻ってたんなら教えなさいよ。オマケにまた2人でデートに行っちゃって」
「デートじゃない!」
「す、すいません。てか、それより、大変なんです。イリーナ先生の飛行機が……」
「うちの先生は、全然気にしてないけどね」
 エレーナは腕組みをしながら答えた。
「こっちの調査で分かったことがあるよ。後で謝礼はもらうからね、たっぷり」
「はいはい。とにかく、中に入ってくれ」

 リビングに入る3人。
「それで、分かったこととは?」
「まず“魔の者”について。私達と関わる“7つの大罪の悪魔”も関知しない連中だね。私もだいぶ苦労したクチだけど、あいつら15歳くらいになる魔道師の才能のある少年少女に揺さぶりを掛けるみたいだよ」
「揺さぶりですか?」
 ユタは目を丸くした。
「そう。最近流行りの方法は、周囲の人間を操って、対象者をイジメぬいて自殺させる方法だってさ。アンタ達も覚えがあるでしょう?」
「う……」
「な、なるほど」
「! エレーナ、お前もか?」
「私はタイミングが来る前に避難したからね。『13歳になったら独り旅に出て修行しろ』ってムチャブリ&ハードルがん上げ話、実は15歳になって“魔の者”に襲われる前に高飛びしろってのが真相らしいよ?」
「高飛びって、犯罪者じゃあるまいし……」
「オマエだけ要領良く高飛びしたわけか」
 マリアは忌々しそうに言った。
「まあ、私はアンタみたいにノロマで不器用じゃないから。事前の下調べくらいお手の物よ。……ま、あまり自慢しすぎてボロが出るのもアレだから、少しだけ白状するけどね」
 そう言ってエレーナは立ち上がると、突然上を脱ぎ始めた。
「こ、こら!男の前で脱ぐな!」
「ぼ、僕、今出ますから!」
「大丈夫大丈夫。……私が高飛びした先はアメリカのロサンゼルスとニューヨーク。……まあ、そこも安全な場所じゃないもんでねぇ……」
 エレーナの背中には色々な傷痕ができていた。
「いやあ、マフィアにマシンガンぶっ放された時は死ぬかと思った」
「どこの誰と戦ってたんだ、オマエは!?」
「ポーリン先生と協力して、“魔の者”に取り憑かれたマフィアのボスが潜む50階建てのビルごとブッ潰してやったけど……。ま、今となっちゃいい思い出よ」
「舞台女優の亡霊の方が、まだ易しい方だったんですかね?」
「さあ……」
「とにかく、“魔の者”が今度日本で暴れようとしている。狙いはマリアンナ、あんたよ」
「くそっ……!」
「その次はユタ君になるかしら?」
「マジですか!?」
「だから、マリアンナが狙われている間にそいつを倒せば、結構いい睨みになるんじゃないの?あいつらだって、自分の命は惜しいわけだからね」
「分かった。他に分かったことは?」

 いつの間にか外は雨が降り出していた。
 エレーナの情報提供は、夕方にまで及んだのである。
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“大魔道師の弟子” 「魔界高速電鉄3号線」

2015-04-16 15:23:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日付不明10:00.アルカディアシティ郊外の宿屋→グランドバレー駅 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 宿屋での調査が終了したと判断したユタ達は、1度人間界に戻ることにした。
 引き払う準備の後で辻馬車(馬車形式のタクシー)を呼ぶと、それで来た道を引き返す。
 来る時には気に留めなかった魔界高速電鉄の駅だが、霧の中から現れた看板に書かれた駅名はあまり個性的ではない。
 どこの地下鉄でも珍しくはないのだが、郊外まで来ると地上に出るのはベタな法則か。
「グランドバレー……。直訳すると、『大谷地』か」
「は?」
 ユタの言葉に目を丸くするマリア。
 馬車を降りて駅構内に入るが、ローカル線の駅みたいに人の気配が少ない。
「えーと……僕達が乗ったのは……」
 実はこの駅、3号線の延伸部分らしい。
「来る度にここの地下鉄、路線図が変わってるからなぁ……」
 毎日、延伸工事や改修工事をしているからだろう。
 変わらないのは市街地部分と保守的な高架鉄道線部分くらいか。
 パタパタパタパタと発車票が表示を変える。
 そう、今や珍しいパタパタ(正式名称、反転フラッグ式)だ。
 系統番号を見ると、3Sとか3Lとか書かれている。
 3Sは『3号線の区間運転(Short Run)』のことで、3Lは『3号線の直通運転(Long Run)』という意味らしい。
 ただ、幸いなのはまだ地下鉄は各駅停車しか走っていないことだ。
 たまに、『2号線ブラックリンダ駅はコドモゴラン(何かのモンスターの名前?)の破壊活動による修理作業のため、全列車通過となります』とか、『1号線32番街駅はマリンスライムの大量発生により、停車致しません』とか書いてある。
 トークンというコインを買って、それを自動改札機のスロットルに入れて回す方式は昔のニューヨーク地下鉄と同じ。
 有人改札に座っている緑色の肌をした何かの魔族らしい駅員は、別にこちらを見ているわけでもなく……。
「3L電車に乗るといいみたいです」
 高架鉄道と見間違える高架部分にある1面2線のホーム。
 本数は地下鉄にしては少なく、20分おき。
 そもそも、延伸されたばかりの3号線まで乗り入れて来る電車自体が少ないようだ。
 明らかに日本の地下鉄と同じ感覚で乗ると、痛い目や泣きを見ること確実の地下鉄である。
 1番線に止まっていたのは3S電車。
 ドア横に掲げられた、明らかに手作り感満載の木製ボードには『3SG会館前』と書かれている。
「え?魔界にも創価学会の会館が???」
「違う。『3号線 市議会議員会館前』行きだと思う」
「うわっ、紛らわしい!」
 ユタ達がパスする電車は、大阪市地下鉄御堂筋線の開業当時の車両に似ていた。
 乗客は1両辺り、2〜3人しか乗っていないほど閑散としている。
「あっ、そうだ。ちょっと待っててください」
「?」
 ユタは再び改札口への階段を下りた。
「すいません。ちょっとあそこの売店で買い物してきていいですか?」
 有人改札口に座っている緑色の肌をした駅員に聞くと、駅員は、
「ウイ」
 と、フランス語で頷いた。
 フランス語は勉強していなかったユタだが、大学時代に教養でフランス語の『ウイ』が『はい』という意味だと知っていた。
 ユタが売店で買い求めようとしたのは新聞。
「うー……アルカディア・タイムス日本語版が無い」
 ユタに読めそうだったのは英語版。
 しょうがないので、これを買い求めた。
「どうもすいませんでしたー」
「ウイ、ウイ」
 ユタはまた駅員の前を通って、ホームへ上がった。

 ホームへ上がると、昔の御堂筋線電車が走り去って行くところだった。
 ホームのベンチに座っているマリアの所へ戻ると、
「フランス語を喋る駅員さんも珍しいですね。いや、実は新聞を買って来たんです」
「多分あれ、ゴブリンじゃないか。『ウイウイ』鳴き声出してなかった?」
「あれ、フランス語じゃなかったんですか!」
「ああ、多分……。で、ユウタ、新聞読んでたっけ?」
「今まで情報が無かったですから。日付自体も分かりませんでしたからね」
「あー……」
 時間は宿屋や駅の時計で分かるが……。
「4月16日って!随分長いこといたんですね!」
「だけど、年は跨いでいない。月すら変わっていないだけマシかもね」
「そういうもんですか」

 プァーン!(電車の警笛の音)

「おっ、入線時間は早いみたい」
 霧の向こうから電車の警笛が聞こえてきた。
 接近放送が鳴ったり鳴らなかったりと、駅によって違うが、ここは鳴らない所らしい。
 まあ、乗客も本数も少ないからか。
 市街地の駅は放送が鳴ることが多いところをみると……。
「おおっ?」
 入線してきた電車は、開業当時の横浜市営地下鉄に似ていた。
 1940年代から1960年代製の電車が多い中、グッと新しく見える。
 今の横浜市営地下鉄は8両編成だが、開業当時の6両編成になっていた。
 もともと魔界高速電鉄の地下鉄自体が6両編成で走ることが多いからだろう。
 ヘッドマークのようにして掲げられているのは3Lの表示。
 ここまで乗ってきた乗客がいるのかどうかすら分からないほどに閑散としていた。
 で、この車両の特徴としては、日本の地下鉄では珍しい、
「ここにしましょう」
 ボックスシートがあることだった。
 運転室直後にはそれがある。
 理由は分からないが、横浜市地下鉄は起点から終点までの乗車時間が長く、また車椅子スペースを設けたことによる着席定員の減少を避ける為ではないかと思う。
 マリアと向かい合って座り、発車時刻を待った。

[4月16日10:40.魔界高速電鉄3号線、直通電車車内 ユタ&マリア]

〔「10時40分発、2号線21番街経由、1号線直通、デビル・ピーターズバーグ行き、発車致します」〕

 珍しく車内放送がある。
 ここの地下鉄はワンマン運転なので、運転士が放送しているのだろうが。
 しかも日本語なので、地下鉄線には珍しい人間の、それも日本人運転士が乗務しているのだろうか。
 運転方法は変わらないみたいだが(停車中は運転室のドアを必ず開ける。ホーム監視は運転士の目視、だいたい自動運転など)。

 電車が走り出す。
 一瞬霧に包まれて外が見えなくなることがあるが、ほぼ自動運転の電車では運転に支障が無いのだろう。

〔「今日も魔界高速電鉄をご利用頂き、ありがとうございます。10時40分発、2号線21番街経由、1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行きです。1番街へは21番街で、お乗り換えください。尚、途中の5番街駅はスライム族の『最弱モンスターで悪いか!』抗議活動による駅占拠のため、ダークリン駅は成仏できなかった顕正会員の暴動活動による駅閉鎖のため、全列車通過となっております。次は53番街、53番街です」〕

「マジですか……。成仏できずに堕獄した人達って、魔界にいたのか……」
「そのようだ。ユウタ君、塔婆供養してあげたら?」
「い、いや、僕も辞めてるんで……」

〔「……魔界高速電車の円滑な運行のため、正法信徒様の御供養、御協力のほど、よろしくお願い致します」〕

 電車が地下トンネル内に入る。
 ここからずっと電車は地下を走ることになる。
「で、新聞に何か書いてあった?」
 向かい合って座るマリアが聞いて来た。
「いや……。例の飛行機行方不明事故なんですが、もし時空を超えて魔界に来ていたら、とっくに新聞記事になってるだろうなと思ったんですが、そうではないようです」
「そうか……。人間界に戻れば、何か動きがあったかもしれないね」
 やることは、再び人間界での情報収集だ。

 比較的新しい電車は地下トンネル内を突き進んだ。
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“大魔道師の弟子” 「アルカディア最後の日」

2015-04-16 02:25:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[アルカディアシティ郊外の宿屋1F・食堂 稲生ユウタ]

 誰もいないはずの食堂から、女の話し声や笑い声が聞こえる。
 ユタはアカネとの戦いを思い出し、ハンドガンを手に持った。
「……よしっ」
 息を整えて、悪のアジトへ突入する警察よろしく、勢い良く食堂に飛び込んだ。
「そそそ、そこまでだ!ぶ、武器を捨て……!」

 ザシャアァァァァァッ!

「ご、ごめんなさい……」
 威勢良く(?)飛び込んだはいいものの、喉元にサーベルの刃、スピアの切っ先を当てられて見事に撃沈したユタだった。
 そこにいたのは、マリアの人形達。
 厨房で何かを作っているようだ。
 ユタの方が武器を捨てると、メイド服を着た人形達も無表情のままユタから武器を放した。
「あ、あの……これって……?」
 ユタが疑問符を投げ掛けると、ミク人形がユタの背中を押した。
「え?え?え?」
 そして、ナイフやフォークの並べられたテーブルの前に座らされる。
 と、同時に、厨房からハク人形が料理を運んできた。
「あ……えーと……。これを僕に?」
 ユタが人形達に問うと、人形達は無表情で頷いた。
「あ、ありがとう……。あ、あれ?でも、僕のだけ?マリアさんのは……ん?」
 クラリスが別に用意していたのは、お粥というか雑炊というか……。
「そうか。マリアさん、具合が悪いから……か」
 クラリスはそれを持って、食堂を出て行った。
 マリアの所に持って行ったのだろう。
 と、同時に、食堂内にある柱時計がボーン♪と一打鳴った。
 見ると10時半。
 外は暗いので午前10時半ではなく、22時30分だろう。
 これでは夕食というより、夜食である。
 ボリュームは夕食であるが。
「いただきます」
 未だに食事前、御題目を唱える習慣が抜けない。
 そういえば、これの前に食事をしたのはいつだろうと、ユタは疑問に思った。
 何かもう色々なことがあって、食事をすることもすっかり忘れていた。
(おっと。食べたら、調査の続きをしないとな)
 それは忘れないようにした。

[23:00.同・宿屋内 ユタ]

 食事を終えたユタは、自分が寝かされていた1階の客室103号室に向かった。
 そこにあったユタの鞄を開けると、そこには確かに以前、藤谷からもらった資料があり、それには、かつて旧ロシア帝国時代の貴族の城のことが書かれており、そこの城主がヤノフ氏であったことが書かれていた。
 ヤノフ家は断絶し、旧ソ連崩壊後に独立した某国が管理していたが、東欧諸国にありがちな資金繰りの悪化に伴い、ほとんど管理は放棄されていた。
 そこへ日本の企業団からの移築の話である。
 そこの政府は快諾したらしい。
 で、今、着々と移築作業は進んでいるとのことだ。
「……偶然とは思えないな。ヤノフ家がどれくらいの力を持っていたか知らないけど、一貴族が何個も城を持っていたとは思えないし……。マリアさんに聞いてみよう」
 ユタは首を傾げながら2階のマリアの部屋に向かった。

[23:15.宿屋2F・129号室 ユタ&マリア]

「失礼しまーす。マリアさん、ちょっといいですかー」
 ノックをしたユタだったが、返事も聞かずに開けてしまった。
「!!!」
「あっ……!」
 ベッドの上には下着姿のマリアの姿があった。
 雪のように白い素肌が東欧出身者であることを物語っている。
 ……ではなくて!

 バシッ!バシッ!バシッ!(着付けと護衛をしていたミクとハクに即行リンチを食らう)

「わあっ!ごめんなさーい!!」
 ユタが部屋の外に出て、階段を転げ落ちるようにして下りるまで、後ろから人形達の攻撃は続いたという。
 取りあえず、今日の調査……というか、探索はこれで終わりということになった。
 何とか部屋に飛び込んで内側から鍵を掛けると、もう人形達が追ってくることは無かった。
(しょうがない。明日の朝にしよう)

 ユタを追い出して戻って来た人形達。
 既にその時、マリアはバスローブに着替えていた。
「別に……ユウタ君ならいいのに」
 マリアがそう言うと、クラリスはフルフルを首を横に振った。
「え?欲情して襲い掛かってきたらどうするのかって?……ユウタ君なら大丈夫だと思うけど……。まあいいや。もう寝るね」
 マリアがそう言うと、人形達は室内を消灯し、ミカエラは室内、クラリスは室外の警備に当たったのである。

[日付不明08:00.宿屋2F・129号室 マリアンナ・スカーレット]

「ん……?」
 カーテン越しに朝日の差し込む室内。
(今日は悪夢を見なかったなー。ユウタと一緒だと、あまり夢を見ない……)
 欠伸をしなから起き上がると、昨日の体調不良は完全にというわけではないが改善されていた。
 ミカエラが着替えの服を持って来る。
「ありがとう」
 顔を洗って着替えながら、
「ユウタは起きた?」
 と聞くと、ミカエラはこくんと頷いた。
「……そう。じゃあ、私も下に行く」

[同日08:30.宿屋1F・食堂 ユタ&マリア]

「おはようございます。具合、どうですか?」
「昨日よりはだいぶいい。悪かったね」
「いえ、良かったです」
 ユタと向かい合って、クラリスが用意した朝食を食べ始める。
「そうだ。昨夜、私に何か用があったんじゃなかったの?」
「あ、はい。実は昨日、あの部屋を調査していて、色々分かったことがあったので……」
「食べたら詳しく聞かせて」
「分かりました」

[同日09:00.宿屋1F・エントランス・ホール]

「……というわけで、セイカー氏とヤノフ城が気になるわけです」
「お祖父ちゃんが?……確かに、私が人間を辞めてから会っていない。だけど、私が死んだことになってるのは知ってると思うけど?」
「日記にも、そのことが書かれていましたよ。だいぶ悔しい思いをしたようです」
「……何を今さら。寄宿制ハイスクールに入れておいて、1度も会いに来なかったくせに」
 マリアは侮蔑するように言った。
「セイカー氏はまだ生きてるんですか?」
「……?どうなんだろう?魔道師としてずっとやってたし、私はもう人間としては『死んだ』ことになってるから、考えもしなかったけど」
「一応、僕が調査したのはここまでです。多分、ここでの探索はそれが限界なんだと思います」
「結局、師匠の足取りについては謎のまま……か」
「まあ、少し真相に近づいたかもですけど」
「それで、どうする?」
「人間界の方では、何か動きがあったかもしれません。行方不明になった飛行機のこととか……」
「うん……。1度、私の家に戻った方がいいか」
「……と、思います」

 2人は宿屋を引き払う準備を始めた。
 今のところ、まだ敵の存在は明らかになっていない。
コメント (3)
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