報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「上京紀行」

2015-04-18 22:05:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月19日08:00.天候:晴 長野県某所 マリアの屋敷・ダイニングルーム 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 一緒に朝食を取るユタとマリア。
「どうですか?体の具合は?」
「今はいい」
「そうですか。これから長旅になるので、心配だったんです」
「色々と準備はしたし、もう大丈夫。ゴメンね。心配かけて」
「いえ……」
「それで、どうするの?」
「藤谷専務に話したら、旭川空港で合流してくれるそうです。羽田まで電車とバスで行きます」
「うん、分かった。駅までは送りの車を出してもらうよ」
「助かります。イリーナ先生、まだ見つかりませんね」
「他の師匠達の話によると、『肉体としては存在しない』とか『どこかに封印されている』とかネガティブの話ばっかりだ」
「つまり、先生自ら姿を隠したことは無いと……」
「そういうことになるかな」
 ユタは難しい顔をした。
「師匠に想定外のことが起きた。しかし想定外のことが起きると想定して、魔界の宿屋に色々と残して行ったんだと思う」
「はい。だいぶ“魔の者”について分かってきた気がします」
 関知はしない7つの大罪の悪魔だが、“魔の者”にとっては面倒な相手ではあるらしく、契約すれば近づいてこないらしい。
 イリーナも嫉妬の悪魔、レヴィアタンと契約しているはずだが、契約相手が死亡したらそれが抹消されてしまい、それは悪魔にとっても痛手のはずだ。
 マリアは何度もレヴィアタンとの連絡を試みたが、応答は無かった。
 しょうがないので、他の悪魔に問い合わせたが、こちらも音沙汰なし。
 エルフェゴールに至っては、
「七福神もそうだが、俺達も実は7人寄せ集めなのよ。意外と不干渉だったりするんだぜ」
 と言い出す始末だった。

[同日10:14.JR白馬駅 ユタ&マリア]

 車で駅まで送ってもらったが、その間、モンスター達に遭遇することは無かった。
 もちろん油断はできないが、人の多い所に来れば、“魔の者”もそうおいそれと手出しはできないと思われる。

〔「10時14分発、普通列車の松本行きの到着です」〕

 2両編成の電車が入線してきた。
 ワンマン運転である。
 E127系と呼ばれる形式だ。
 無人駅なら前の車両しかドアが開かないが、白馬駅のような有人駅なら全部のドアが開く。

〔お近くのドアボタンを押してお乗りください。松本行き、ワンマンカーです〕

 2人は電車に乗り込むと、空いているボックスシートに向かい合わせに座った。
 停車時間は僅かで、すぐに電車はインバータの唸り声を上げて発車した。
 旧型車両ばかりが目立つ魔界高速電鉄では聞けないモーター音が、人間界にいることを感じさせてくれる。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は大糸線上り、信濃大町、穂高方面、各駅停車の松本行きワンマンカーです。これから先、飯森、神城、南神城、簗場の順に各駅に止まります。……次は、飯森です〕

 ユタ的にはマリアと密着できるロングシートの方が良かったが、向かい合うのも悪くはないかなと思った。
「あ、ちょっとトイレ行ってきます」
「うん」
 ユタが車内にあるトイレに行くと、待ち構えたかのように、頭の中に話し掛ける者がいた。
 かつて契約していた悪魔エルフェゴールである。
「よう。何とか情報が分かったぜ。レヴィアの野郎、やっと連絡寄越しやがった」
(で、師匠はどこだ?)
「オマエ達の予想通りだよ。これからオマエ達が向かう所に捕えられている」
(やっぱり、そうか……)
「レヴィアも役に立たねぇヤツだ。その点オレと契約すれば、全てが上手く行く」
(それはいいから、師匠は無事なんだろうな?)
「あいつも一応分かってるみたいだ。『人質は無事だからこそ意味がある』」
(そうか。その割には連中、何も言ってこないな)
「言わなくても、オマエさん達から来るからだろう」
(レヴィアタンは動かないのか?)
「ダメだな。あの飛行機の中から救い出すのに、かなり力を使ったみたいだ。オマエ達が行くしか無さそうだぜ」
(だろうな)
 と、トイレのドアが開いてユタが出て来た。
「ちっ。もうちょっとゆっくり入ってろってんだ。おい、そいつの飲み物の中に下剤仕込んでやれ」
(アホか!)
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない。ユウタは夢の中に悪魔が出て来ることはないか?」
「あー……じゃあ、あれがそうなのかな」
「ん?」
「いわゆる黒ギャルみたいなお姉さんが出てくるんですけど……」
「えーと……羊の角みたいなのは生えてなかった?」
「あ!ありましたね」
「うん。色欲の悪魔アスモデウスだ。変なのに化けてるな……」
「そうなんですか」
「まあ、私の頭に話し掛けてくるエルフェゴールはタキシード姿の男だけどね」
「へえ……」

 松本駅までは1時間半以上掛かる。
 信濃大町から先は意外と駅間距離もそんなに長くないのだが、それでも停車駅は多い。
 マリアもまたトイレに立ったりしたが、
「……で、さっきの続きだ」
 また、エルフェゴールが話し掛けてきた。
「何のどの続きだ?てか、トイレにまでついて来るなよ」
「まあまあ。……あのな、オマエの祖父さん、生きてるぜ」
「えっ?」
「もっとも、本当は死んでいるのに“魔の者”に憑かれて、半分生きてる状態?なだけだ。だから、これから再会するにしても、敵だと思った方がいい。まあ、本州内で会うことはないだろうがな」
「そんなこと……」

[同日11:49.JR松本駅 ユタ、マリア、エレーナ・マーロン]

〔まもなく終点、松本です。次の松本駅では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 電車が長野県でも屈指のターミナル駅に接近する。
 思えばマリアの屋敷も4回ほど移転している。
 最初は飯田線の沿線にあった。
 その後、白馬村だったり長野市内だったりと繰り返し、いま再び白馬村に戻っている。
 長野県から出たことはない。
 その理由は明らかではないが、魔界の穴が管理できる場所がたまたま県内に収集していただけであろう。
 私鉄のアルピコ交通上高地線も発車するホームがある6番線に到着すると、意外な人物と再開した。
「さすが日本の電車は時間通りね」
「エレーナ!」
「こんにちは。何かありましたか?」
 ホウキで飛ぶのを得意とするが、さすがに今は持っていなかった。
「これ、うちの先生から」
 エレーナが色々とアイテムを渡してきた。
「いい気味だと思ってないのか?」
 受け取りながらマリアが言った。
「『さしものイリーナ達も逃げられなかったか』なんて言ってた。ライバルがいなくなったらなったで、寂しいみたいだよ」
「そうですか」
 ユタは笑みを浮かべた。
 主に妙薬を作るのを得意としていたポーリンなので、アイテムには薬系が多かった。
 中には指輪もいくつかある。
 薄緑とか水色とかあったが、どれもが紋様の掘られたものだ。
「インビジブルがある」
「そう」
「何ですか、それ?」
「その指輪をはめれば、一定時間姿を消すことができるヤツだね。敵に追われてる時、これを使って姿を隠してやり過ごすのに使ったりするよ」
「それ、劇場でも使いたかったですね」
「劇場?」
「いや、何でも無い。ありがたく頂くことにするよ。でも、どうせタダじゃないんだろう?」
「そうだね。でも、今お金をもらおうとは思わない。ティンダロスが飲み込んだ黒光石を譲ってくれればいいよ」
「黒光石?」
 ユタが首を傾げた。
「あの3つ首、そんなのを持っていたのか。倒せたらそうするよ」
「よろしく。それじゃ、頑張ってね」
「どうも」
 エレーナが立ち去る。
「使えるんだか使えないんだか分からないものばかりだ。インビジブルは使えるかも、だけど……」
「そうですね」
「それより、次の電車は?」
「ああ。あと1時間以上あるので、先に昼食でも食べましょう」
「何だ、そうか」
 取りあえず2人は移動することにした。
コメント (7)
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“大魔道師の弟子” 「第2ステージ」

2015-04-18 15:19:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月17日16:04.天候:曇 JR白馬駅前 稲生ユウタ&ダニエラ]

〔「16時25分発、……行き最終、発車します」〕

 最終バス発車1分前に乗車に成功した2人。
「結構ギリギリだったなぁ……」
 バスが駅前ロータリーを発車した。
 電車との接続時間がギリギリだったので、少しでも電車が遅延したらアウトである。
 日本の鉄道の定時運転率の高さには、改めて脱帽だ。
 ただもっとも、その前の電車でさえ、結構ギリギリだったのだが。
「こういう地方では、駅前より国道沿いの方が栄えてるのかねぇ……」
 ユタは1番後ろの席に座って、大きく息を吐いた。
 ユタが往路では手にしていなかった紙袋に注目するダニエラ。
「ああ、これ?マリアさんに買ってきたんだけど……」
 しっかり、贈答用の包装までされていた。
「“魔の者”との戦いが終わるまで、渡す余裕は無いかな……」

[同日16:45.屋敷最寄りのバス停→屋敷への私道 ユタ&ダニエラ]

「さすがにこのくらいになると、まだ外は明るいね。雪も無いし……」
 バスを降りて、屋敷に向かって歩く2人。
 昼過ぎまで降っていた雨も、今は止んでいる。
 ただ、天気予報によると、また明日降り出すそうだ。
 道は舗装されていない砂利道。
 公道部分が見えなくなると、夜間や真冬なら遭難の恐れがある。
 そんな場所で、突然ダニエラが持っていた銃火器の入ったケースを開けた。
「えっ!?」
 取り出したのはマシンガン。
「ギャアアッ!」
「ええーっ!?」
 茂みの向こうからモンスターが現れた。
 爬虫類系の人型モンスターである。
 ダニエラは躊躇わず、そのモンスターに向かってマシンガンを連射した。
 威力は大きいのだろうが、ユタがイメージするマシンガンのそれよりは連射速度が遅い。
「シャアアアッ!」
「!」
 最初に現れた一匹はマシンガンで仕留めると、次に現れた数匹はショットガンに切り替え、それで頭部を撃ち抜き、確実に仕留めていった。
「ブボッ……!」
 ダニエラに胸を撃ち抜かれたモンスターは、血反吐を吐いて絶命した。
(“バイオハザード”のハンターに似てるなぁ……)
 ダニエラはきちんとマリアの言い付け通り、ユタの護衛に当たっているらしく、ユタの前を先導するかのように進んだ。
 幾度となく現れるモンスター達。
 爬虫類や両生類系のモンスターの他、ゾンビ犬みたいなものも現れた。
 主にダニエラが使用していた銃はマシンガンとショットガン。
 見ると、他にハンドガンとライフルもあったようだが、それは使わなかった。
 屋敷の真ん前までは。
「一体、何だっていきなりこんなモンスター達が?マリアさんは大丈夫なんでしょうか……?」
 ユタは不安そうに言った。
 屋敷の中にいる分には安全なはずだが……。

 ズダーン!

「キャウンッ!」
 またもやモンスター犬を撃ち抜くダニエラ。
 モンスターと言えども、犬がダメージを受けた際の鳴き声は似たようなものか。
「マリアさんの屋敷までは、もう少しだ。あと、ちょっとで……」
 だが、夜の中そうは甘くなかった。
「アオオオオン!!」
「ん!?」
 屋敷の屋根の上から飛び降りてきたのは、3つ首の大型犬モンスター。
「ケルベロスだぁ!?」
 ユタが飛び上がって驚いたが、ダニエラは手持ちの武器をアサルトライフルに切り替えた。
 このケルベロスがさっきのモンスター軍団のボスだろうか。
 ダニエラがすぐに発砲する。
「あっ!?」
 そのケルベロスは弾を避けた!
「ガアアアッ!」
 避けてダニエラに跳び掛かって来る。
 ダニエラは地面に転がった。
 ユタはダニエラが落とした武器ケースの中からハンドガンを拾う。
 モンスター軍団の目的はユタのようだ。
 ユタはケルベロスに向かって3回発砲したが、当たったのは1発だけ。
 残りの2発は素早い動きで交わされた。
 3つ首もある大型犬なのに、動きは素早い。
 素早いが無駄があるせいか、まだ運動が苦手なユタでも何とか避けられるほど。
 ダニエラが険しい顔をして、しかし無言で屋敷の方を指さした。
 ユタは全速力で邸内に逃げ込めということか。
「しょ、しょうがない!」
 ユタはダメ押しの一発をケルベロスに発砲した。
 3つ首のうちの向かって左側の頭の右目に命中する。
「あとは頼みましたよ!」
 ケルベロスが怯んだ隙に、ユタは建物に向かって走り出した。
 因みにダニエラがユタをそうさせたのには、もう1つ理由がある。

 バァーン!!

「んっ!?」
 頭上から銃声が聞こえてきた。
 それがケルベロスの中央の頭部に命中する。
 見上げると、2階の窓からクラリスがライフルで狙撃していた。
 ユタを追う為にケルベロスが開けた所に出たため、そこを待ち構えていたクラリスが発砲した形だ。
「ああっ、逃げた!?」
 ケルベロスは流血しながらも、屋敷の横を流れる川に飛び込んで逃げた。
「ひえー……。ついこの前まではサーベルとスピアだったのに、今ではショットガンやライフルかぁ……!」

[同日18:00.マリアの屋敷 ダイニングルーム ユタ&マリア]

「どうやら“魔の者”の揺さぶりらしい」
 一緒に夕食を取る2人の魔道師見習。
 マリアもまた他の人形達の察知により、リビングから私室に避難させられていた。
「私がここに閉じ籠もっているので、モンスター達を派遣し、あぶり出そうとしたのかもしれない」
「ええ〜?」
「そこへユウタが戻ってきたので、これ幸いと思ったのかもね」
 “魔の者”の狙いメインはマリアだが、その次はユタと考えてるので、臨機応変に順番が前後してもいいかと思ったのか。
「ダニエラを付けといて良かったよ」
「全くです。そのダニエラは……」
「エントランスでリシーツァと張ってる。クラリスも戦闘力はあるけど、メインの仕事をさせたい」
 本来、人間形態においてはメイドをやるのがマリアの人形達。
 ダニエラとリシーツァは新しく作った人形だが、メイドというよりは護衛役の方がメインとのこと。
「最初に現れたトカゲみたいなのがハンターα、赤と黒のゴリラみたいなのがハンターβ、カエルみたいなのがハンターγですか」
「名前は聞いたことが無いが、まあユウタの付けた名前で呼ぼう。魔界にいた連中だけども、あんな狂暴的なことから、アルカディアシティからは追い出された連中だね。犬型のモンスターもそうだ」
「最後のケルベロスみたいなのは?」
「まあ、確かにケルベロスなんだろうけど、師匠が前に“ティンダロス”って呼んでたな……」
「ティンダロス?」
「生息している場所がケルベロスとは違うから……とか何とか言ってたような……」
「ふーん……?」
「犬型だから人間の言葉は喋れないが、狡賢いし、素早い。ただ、それが仇となることがあるので、そこを突けば勝てる……らしい」
「じゃあ、ダニエラ達はそこを突いたのでしょうか?」
「多分……。ただ、逃げられたところを見ると、完全にやったとは思えない」
「うへー……。じゃあまた襲ってくるってことですか……」
「この屋敷にいる間は大丈夫。所詮はモンスターだ。入って来ることはできない。だからこそ、“魔の者”が揺さぶりを掛けて来たんだろう」
「なるほど……」
 ユタはローストビーフを口に運んだ。
 そして、向かいに座るマリアの頭を見る。
(何かこだわりがあるんだろうか。あのカチューシャ……)
「それで、今日はどこへ行ってたの?」
「ああ。航空券は電話で予約できたから、あとは直接空港へ行けばいいんですが、羽田まで電車とバスで行く必要があるんで、取りあえず電車のキップだけ先に買ってきました」
「そうか」
「松本空港から千歳まで行く便があったのに、あんなことになって残念です……」
「師匠からの何かのメッセージかと思ったけども、もしかしたら、ただの“魔の者”の嫌がらせかもしれないな」
「だとすると、やっぱり北海道に移築中のあの城に、真相が隠されていそうですね」
「うん」
「出発は明後日ですけど、いいですか?」
「いいよ。何だかんだ言って、私の誕生日の前日には現地入りできるってわけだ」
「あー、なるほど」
 ということは、“魔の者”もそこを狙ってくる可能性は大というわけである。
コメント (2)
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“大魔道師の弟子” 「再出発の準備」

2015-04-18 01:00:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月17日10:00.天候:雨 長野県某所 マリアの屋敷 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 そこそこ強い雨が降る長野県山中。
 この日の調査は休み。
 何故なら……。
「……えっ?松本空港は閉鎖中ですか?……事故の影響で再開のメドが立たないですって?」
 ユタは旅行会社に電話をしていた。
 次なる行き先が分かった以上、そこまでのアクセスを確保する為である。
 信州まつもと空港から北海道への便があるのだが、肝心の空港が閉鎖されていては元も子も無かった。
「そ、それじゃ、長野県から北海道へ行くには……?名古屋空港かセントレア?……あとは、羽田か新潟からですか?うーん……。その中で、旭川空港へ行くには……羽田からが便利ですか。……まあ、確かに便数は多いですよねぇ……。分かりました。それじゃ、羽田から旭川へ行く便で、大人2人空いてる1番早い便をお願いします。……はい」
 何とか予約できた。
 その後、今度は藤谷に電話する。
「もしもし。藤谷専務ですか?稲生ですけど、そちらに到着する時間が分かりました。旭川空港の……」
{「分かった。ちょうど今日から、件のJV事務所で打合せを行うところなんだ。数日は滞在することになるから、その時に見学許可を取り付けるよ」}
「ありがとうございます」
{「旭川空港だな?車で行くから、そこで合流しよう」}
「分かりました。よろしくお願いします」
 そこで電話を切る。
「あとは……」
 ユタは席を立って、自分の部屋を出た。
 向かった先は、マリアが邸内にいる時はいつも常駐しているリビングルーム。

「失礼します。マリアさん、具合どうですか?」
 ユタがリビングに入ると、マリアはソファに横になっていた。
「んー……ちょっとしんどい」
「ちょっと街の方まで出てきますので、マリアさんは休んでてください」
 どうやら生理不順とやらとのこと。
「そうか。一応、護衛を用意させるから、連れて行って」
「はあ……」
「この屋敷にいるうちは“魔の者”も手出しはできないが、外に出ると分からないから」
「分かりました」
「今日中に帰ってくるの?」
「ええ。何とか最終のバスで帰れるようにします。北海道に行く準備をしに行くんですよ」
 マリアは上半身を起こした。
「“魔の者”の目的は私の命。それでもここにいれば、手出しはできない。そしてリミットは、私の25歳の誕生日が来る何日か後だ。それまで、ここに籠城するという手もあるんだよ?」
 だが、そこでマリアはハッと気づいた。
「……ゴメン。私、なに言ってるんだろう。それで私は良くても、そしたら今度はユウタが狙われることになるのに……。何とか、私の段階で撃退しないとね」
「それに、イリーナ先生のことも心配です。あの手記には、僕達にどうこうしろとは書いてませんでした。先生をして、想定外の事が起きてるんだと思います」
「そうだな。私の人形を護衛に付けるから、気をつけて行ってきて」
「分かりました」
 頷きながら、ユタはマリアの頭部とソファの前に置かれているテーブルの上に注目していた。

[同日11:15.マリアの屋敷から最寄りのバス停 稲生ユウタ]

 山道の県道の横にポツンと立つバス停で、ユタは傘を差しながらバスを待っていた。
 バスは1日に数えるほどしか運行されていない。
 これから乗るバスをして、初便なくらいである。
 ユタの横には……ユタの身長165センチより高い身長を持つ人間形態の人形がいた。
 さすがにメイド服は目立つだろうに、そんなことはお構いなしにその格好で傘を差している。
 無表情であった。
 名前をダニエラと言い、薄紫色のロングで、前髪で右目が隠れている。
「お、バス来た」
 いつ廃止になってもおかしくない路線のせいか、乗り込んでみると乗客はいなかった。
 それでも街に近づけば、いくらか乗客も増えるのだが。
 1番後ろに座ると、バスは規則正しくワイパーを動かしながら山道を走り出した。
「あの……」
 ユタは隣に座るダニエラに話し掛けた。
 ダニエラは無表情でユタの方を向く。
「そのお荷物の中身は一体何でせう……?」
 ダニエラの膝の上には、小型の茶色のトランクが乗っかっていた。
 ユタがそれについて質問すると、ダニエラは冷笑に近い微笑を浮かべ、トランクの蓋を少し開けた。
 そこに入っていたのは、マシンガン。
 確認できたのはそれだけという意味で、大きさからして他にも入っていそうだった。
「しょ、職質されないようにしませんとね。ハハハハ……(乾笑)」

[同日12:00.JR白馬駅 ユタ&ダニエラ]

「航空券は直接空港のカウンターで予約番号を言って発券してもらえばいいけど、JRはもう直に駅買いだな……」
 駅前でバスを降りると、ユタ達は駅舎の中に入った。
 白馬駅は有人駅で“みどりの窓口”もある。
 そこで時刻表と照らし合わせて、キップを買い求めた。
(直接、白馬から新宿行きの“あずさ”に乗ったんじゃ間に合わないか。松本まで普通列車で行って、乗り換えだな……)
 何とかお目当ての特急の指定席特急券と、白馬から新宿までの乗車券を2人分購入した。
「あとは……。ん?そうだ。確かマリアさん、誕生日が近いんだったっけ」
 ユタはポンと手を叩いた。
「白馬じゃ……ちょっとな。もうすぐ電車が来るから、せめて信濃大町に行ってみよう。市なら、いい物があるかも……」
 ユタはそう思いついて、12時26分発、普通列車の松本行きの電車を狙ったのである。

 雨はまだ降り続いていたが、ユタの心は幾分晴れていた。
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