報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ステージクリア」

2015-04-13 21:56:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
(ユタの一人称)

 アルカディアシティという魔界の首都にある劇場。
 ここでまさか壮絶な戦いに巻き込まれるとは思いも寄らなかった。
「はあっ……!はあ……はぁっ……!」
 僕の横には肩で息をするマリアさんが座り込んでいる。
 魔力を相当消費したのだろう。
「…………」
 僕は僕でそんなマリアさんと、敵として立ちはだかった劇場専属の舞台女優の怨霊とを見比べた。
 怨霊はうつ伏せに倒れており、少なくとも今は動かなくなっている。
 そして、その怨霊アカネを冷たい目で見下ろすのは、マリアさんが使役しているフランス人形のミカエラとクラリス。
 僕は緑色のツインテールに赤い髪留めがそっくりなので、ミカエラを初音ミクと勝手に呼び、クラリスはクラリスで銀髪に近い髪をポニーテールにしていることから、弱音ハクと勝手に呼んでいるのだが、別にそれを咎められたことはない。
 その2人の人形、普段はサーベルやスピアを武器として装備しているのだが、今回は違った。
 アカネに殺された支配人の秘密の部屋から見つけたライフルとショットガン。
 今回はそれに装備を持ち替え、更にマリアさんがその弾に魔法を掛けてアカネに勝負を挑んだら……圧勝してしまった!
 エレベーターの中の苦戦は一体何だったのだろうと思うくらい。
「そ……壮絶な戦いだった……!」
「マリアさん……」
 冒頭で自分で言っておいて何だけど、やっぱりこれ、壮絶な戦いって言うのかなぁ……???
「お、おのれ……!」
「!」
「!?」
 魔法の銃弾の集中砲火を浴びたはずのアカネが起き上がった。
 すぐに弾をリロードする人形達。
 だが、
「あっ!?」
 アカネの姿が変わっていった。
 まるで体全体が張りぼてに覆われていて、それが剥がれ落ちるかのようだ。
 その姿は、おおよそ美魔女とは言い難い風体だった。
 支配人の話によると、アカネの享年は48歳のようだが、正に年相応のオバチャンといった感じだ。
「み……見たわね……!私の正体を……!!」
「だから何だ!ミカエラ、クラリス!」
 マリアさんが更に人形達に命令を与える。
 人形達は無表情で、それぞれの銃を構えた。
「正体が知られてしまっては、もうここにはいられないわっ!」
 最後に攻撃でもしてくるのかと思ったが、アカネは階段を全力で下りていった。
 体型に似合わず素早いのは、やはりもう人外だからだろうか。
「追って!ミカエラ!クラリス!」
 マリアさんの命令に従い、人形達は追い掛ける。
 だが、銃を構えながらでは、そんなに速く移動できない。
 ライフルを持ったクラリスが遠くから狙撃しようとしたが、アカネの動きが素早く、とても照準を合わせられない。
 僕もハンドガン片手に、アカネを追い掛けた。
 何だかんだいって、僕の方が人形達より速い。
 が、それでも追い付けなかった。
 ただ1つ分かったのは、アカネが裏口のドアを開けて出て行ったこと。
 あれ?てことはもう、僕達はこの劇場に閉じ込められなくなったってこと?
 その時、裏口脇の電話が鳴り出した。
 もう電話に出ても大丈夫だろう。
「はい、もしもし?」
{「あー、及川ですが……。どうやら、アカネに勝ったようですね。おめでとうございます」}
「いえ、そんな……。これでもう脱出できますね」
{「ええ。その前に1つ気になることがあるんですが……」}
「何ですか?」
{「そこの裏口から外に出ると、劇場の裏庭に出るんです。そこにもカメラがあって、今モニタを見ているんですが、何か落として行ったみたいなんです。回収してもらえますか?」}
「分かりました」
{「照明に反射してキラキラしているので、すぐに分かると思います」}
「はい」
 僕は電話を切った。
 そしてアカネが出て行ったドアを開ける。
 外はまだ夜だった。
 それにしても、久方ぶりの外の空気って感じ!
 夜風が気持ちいいよ!
 劇場に入った時は、まさかあんなことになるとは思わなかったけどね。
 警備員の及川さんが照明に反射してと言っていたから、多分灯具の近くだろう。
 文字通り、和風の灯籠の光が地面に当たる所にそれは落ちていた。
 拾ってみると、それは鍵。
 どこの鍵だろうと首を捻ってみたが、あの宿屋の鍵によく似ていた。
 何故そんなものをアカネが持っていたのかは不明だが、とにかくこれで頼まれ事は終わり。
 すぐに戻ろう。

(マリアの一人称)

 体がだるい。
 久しぶりに魔力を使い過ぎたみたいだ。
 体力には自信が無い上に、師匠が行方不明になってからというもの、ゆっくり休んでいないことも大きい。
 だがとにかく、これで敵はいなくなった。
 ユウタ君が追って行ったのが心配だが、彼も武器は持っているし、ミカエラ達に渡した銃弾と同じ物を装填しているはず。
 それに、彼はかなり逃げ足が速いようなので、上手くヤツの攻撃や追跡を交わすだろう。
 私は私で、やっておきたいことがあった。
 ステージで呪縛に囚われている、あの女の子を助けなくては……。
 相変わらず彼女はピアノを弾き続けていた。
 私は残りの力を振り絞ってステージに上がり、彼女の横でオルゴールを鳴らした。
「これ……!」
 彼女はオルゴールを見てハッと気づくと、その“蛍の光”を弾き始めた。
「蛍の光♪窓の雪♪……明けてぞ♪今朝は♪別れ行く♪」
 その曲を知っているのか、ミカエラが誰もいない観客席に向かって歌い出す。
 ところでこの“蛍の光”、4番まであるのをご存知だろうか。
 NHK紅白歌合戦では1番しか歌わないが、実は3番以降は左翼主義者なら眉を潜める内容なのである。
 それもミカエラに歌ってもらおう。
「筑紫の極み♪陸の奥♪海山遠く♪隔つとも♪その真心は♪隔て無く♪一つに尽くせ♪国の為♪」(3番)
「千島の奥も♪沖繩も♪八洲の内の♪護りなり♪至らん国に♪勲(いさお)しく♪努めよ我が兄(せ)♪恙(つつが)無く♪」(4番)

(三人称に戻る)

 ミカエラが歌い終わると、誰もいなかったはずの観客席から大きな拍手の渦が沸き起こった。
 ピアノから立ち上がった少女は観客席に向かって一例すると、マリアを見た。
「ありがとう……。ありがとう……魔道師のお姉さん……」
「いい演奏だった。勝手にステージに上がってゴメン。……1人で大丈夫か?」
「うん……」
 少女は満面の笑みを浮かべると、見る見るうちに体が透けて行き、スーッと消えていった。
 そして残った場所には、ある宝石のようなものが浮かんでいた。
 青み掛かったダイヤモンドのように見えなくもない。
 マリアはそれを取った。

 取ると……視界が白い光に包まれ、何も見えなくなった。
 そして、足に力が入らないような感覚を最後に、マリア達の姿は劇場から消えていたのである。
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“大魔道師の弟子” 「中ボス戦!」

2015-04-13 02:25:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[アルカデイアシティ劇場 展望エレベーター 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 警備室を出た魔道師見習の2人は、ラウンジへ上がれるエレベーターに向かった。
「これか!」
 ユタがボタンを押すと、ランプが点いてエレベーターが下りて来る音が聞こえた。
「動いた」
「よーし!これで、ラウンジまで直行です!」

 ドカーン!

「なに!?」
「???」
 上のフロアから、何か大きな音が聞こえた。
 しかしエレベーターには何の影響も無いのか、B1階に下りて来ると、普通にドアが開いた。
「……別に、エレベーターは何も無いようですが」
「…………」
 ユタはガラス張りのカゴの中を覗き込んでみて、異常が無いことを確認した。
 このエレベーターから聞こえたわけではないのか。
 2人は乗り込んだ。
「とにかく、これでラウンジへ……」
 ユタは4階のボタンを押した。
 エレベーターがゆっくりと上昇する。

〔「あー、2人とも。ちょっといいですか?」〕

「!?」
 非常ボタンの上のスピーカーから及川の声が聞こえた。
「何ですか?」
 ユタがそれに向かって応答する。

〔「さっきから監視カメラのモニタを見ているんですが、どのカメラにも今はアカネ嬢が映っていないんです」〕

「え?すると?」

〔「どこかの部屋に潜んでいるかもしれません。或いは、ダクトとかに潜んでいるか……。とにかく、死角からの攻撃に注意してください」〕

「分かりました」
 エレベーターは地下を抜け、ホールの中を抜けている。
 ステージの方を見ると、相変わらずあの女の子が泣きながらピアノを弾いていた。
 確かにアカネの姿は無い……。
 が!

 ガシャーン!!

「わあっ!」
「な、何事ですか!?」
 突然カゴ内に衝撃が走り、エレベーターが止まった。
 ガラスが粉々に割れている。
「見ィつけたぁぁぁぁ……!!」
「げっ!?」
 長い髪をだらりと垂らし、逆さまになったアカネがイッた目でユタ達を見つめていた。
 手には血糊の付いた剣。
 それで、支配人を惨殺したのだろうか。
「ユウタ!撃て!危険だ!!」
 マリアが叫ぶと、
「は、はい!」
 ユタはハンドガンを出した。
「ちくしょう!ここじゃ狭くて、ミカエラしか出せない!」
 マリアは手持ちの人形、サーベルを持ったミカエラを出した。
 もう1人のクラリスはスピア派なので、ここで使うには不向きと判断した。
「てか……!」
 アカネはエレベーターの外から攻撃しているので、ミカエラが攻撃しようとすると、すぐにサーベルの届かない所へ引っ込んでしまう。
「ユウタのハンドガンだけが頼りだ。ミカエラはヤツの攻撃から守って!」
 マリアが命令を出すと、ミカエラはアカネの攻撃を弾いた。
「えいっ!」
 アカネが現れると同時に、ユタが発砲する。
 だが、それまで銃など触ったこともない素人が簡単に当てるはずもなく……。
「くそっ!当たれ!」
 アカネの攻撃はミカエラが防いでくれているが、こちらの攻撃も当たらないという、千日手のような状況が続く。
 しかもリロードしている時に、こちらに隙ができてしまうというのは不利だった。

 だが、さすがに勝負の動く時が現れた。
「うっ!?」
 ユタの弾が偶然、アカネの顔に命中したのである。
 人間なら即死ものだが、怨霊たるアカネはそれぐらいではビクともしない。
 ……はずだった。
「ぅきゃああああああッ!私の顔がぁぁぁぁっ!!」
 ガラスに映った自分の顔を見て、絶叫を上げるアカネ。
 弾の当たった所にはヒビが入っており、そこには白い肌ではない地肌が覗いていた。
「え……!?」
 アカネはガラスを突き破って、何処へと去ってしまった。
「か、勝ったのか?」
「気配が消えた?助かったの?」
 どうやらそのようで、エレベーターが再び動き出した。

〔「あー、2人とも、無事ですな?」〕

「及川さん」

〔「エレベーターの損傷が激しいので、ラウンジに着いたらそれは止めます。申し訳無いですが、帰りは階段ともう1つのエレベーターを使ってください」〕

「分かりました」
 エレベーターがラウンジに着く。
「やっと着いた……」
 ユタが鍵を捜索した場所とはやや離れた場所にあり、散乱した物に隠れてエレベーターが見えなかったのだ。
「確か、図面だとあの辺だ」
 ユタは関係者専用のドアを開けると、更にもう1つのドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。
「……開いた」
 ユタはドアを開けた。

 本当にどうやらここは、支配人の秘蔵コレクションルームらしい。
「いた!」
 その中に、あの女の子の遺体を剥製にしたものがあった。
「これを埋葬すれば、あのコも呪縛から解放されるでしょうか?」
「そう願いたいものだね」
 見た目は蝋人形のようにも見えたが、手触りが全然違う。
 マリアはミカエラとクラリスに命じて、女の子の剥製を外に運ばせた。
 その子は台座の上に立っていたのだが、そこから小箱が出て来た。
 それはオルゴール。
 開けてみると、それは……。
「“蛍の光”だ」
 更にメモ書きで曲名の羅列が書いてあった。
「……ユウタ君、どうやらあのコはショパンだけを弾くわけではなかったようだぞ」
「と、言いますと?」
「メドレーで弾くつもりだったらしい。途中で失敗したというのもあるが、実は最後の曲を忘れているか何かしているんじゃないだろうか?」
「そ、そうか!それで思い出す為に、最初から弾き直しているんですね!」
「このオルゴールをあのコに聴かせれば、思い出すだろう」
 そしてメドレーを弾き終えることで、やっと呪縛から解放されるか。
「よし!じゃあ早いとこ、これを持ってホールに……」
「ちょっと待って。まだ、他に使えるものがあったら持って行こう」
「ありますかね?」
「あるさ。あの壁に掛かっているものとかね」
 それを見たユタ、
「うーわっ!もはや剣と魔法のファンタジーじゃないし!」
 何か根も葉もない事を言い出した。
「別のがもう1つあるから、ミカエラとクラリスに持たせよう。あとは……」

 しばらくして……。
「それじゃ、階段で一旦3階に下りて、それからエレベーターで1階に下りるということで」
「そうしよう」
 秘密のコレクションルームを出て、階段へ向かうユタ達。
 しかし……。
「!?」
 その階段を怒気と殺気を放って上がって来る者がいた。
「アカネ……!」
「逃がさないよ……!」
 ユタに撃たれた部分だけは黒いマスクで覆っている。
 正に、女性版“オペラ座の怪人”みたいだ。
「ちっ。素直に行かせてくれる雰囲気じゃなさそうね」
 マリアはミカエラとクラリスを人間形態にした。

 大ボス戦の火ぶたが、今切って落とされようとしている。
コメント (3)
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