[現地時間4月5日11:00.魔界アルカディア王国首都アルカディアシティ13番街駅付近 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]
イリーナが送ってきた鍵は、魔界におけるイリーナの拠点の物だった。
ユタとマリアは準備を整えた後、屋敷の地下にある魔界の入口から魔界へ向かった。
「恐怖の17番街駅は復旧してるんでしょうかね?」
「17番街に行くとは限らないわ」
「えっ?」
「この魔界の穴は不安定なものだから、どこに出るかは運次第よ」
「ええっ!マジっすか!?」
因みに今は真っ暗な中を歩いている。
「魔王城に出ちゃって、いきなり侵入者扱いされたりして?」
「私達はルーシー女王や安倍首相と面識があるんだから大丈夫だろう」
「それもそうですね」
しばらく歩くと、トンネルの出口のように明るくなってきた。
「さあ、どこへ出るかな?」
ユタ達は光の中に入って行った。
その先には鉄製のドアがあり、ぐっと重い内開きのドアを開けると、そこは薄暗かった。
「? トンネルか?」
「トンネル?」
所々に明かりはあるが、まるでそこは地下鉄のトンネルのような……地下鉄?
すると、向かって左側から明かりが迫ってきた。
プァーン!(電車の警笛の音)
「わあっ!?」
轟音を立てて、黄色一色の電車がユタ達の真横を通過して行った。
「魔界高速電鉄だ!」
「ち、地下鉄のトンネルに出口ができるなんて……危険過ぎますよ!」
日本の地下鉄なら線路内人立ち入りで緊急停車でもするところだろうが、警笛は鳴らすが減速もしないで通過していく所が外国の地下鉄っぽい。
電車は大昔の地下鉄銀座線のようであるが。
[同日11:30.アルカディアシティ13番街駅 ユタ&マリア]
「13番街ってのは、治安の悪い街だったんですね」
「そのようだ」
薄暗いホームで電車を待つ。
ユタがボヤくように言ったのは、あの後2人は作業員用通路を通って地上に出たのだが、そこがスラム街で、いきなり魔族の愚連隊とエンカウントしてしまったことだ。
マリアの魔法と人形の使役により、蹴散らすことに成功したが。
その後、駅に着くまでにも何回かエンカウントした。
「RPGらしく、奴らから金品は頂いた」
しれっと言うマリア。
「いいんですかね?てか、この小説RPGモノではなかった思いますが……」
「エレーナよりはマシだよ。あいつ、現金どころか、本当に身ぐるみ剥ぐから。で、挙句の果てには、『シケた野郎だ。これっぽっちしか持ってやがらねぇ』なんて言う始末だから」
「さすがは、強欲の悪魔を憑依させることが内定しているだけあります」
(ユウタは……色欲の悪魔か。この草食系に色欲の悪魔が取り憑いたら、面白ろ……怖いことになりそうだ)
マリアはそう思った。
駅によって接近放送が鳴ったり鳴らなかったりするらしい。
13番街駅では何の接近放送も無く、電車が入線してきた。
しかしこの魔界高速電鉄、高架線もそうだが、地下線も運行車両は節操無い。
さっきは昔の地下鉄銀座線みたいなものが通過していったが、今度は……どこかの国の古い電車がやってきた。
「旧ソ連系のヤツだと思う」
ユタがしげしげと電車を見ていたので、マリアはそう言った。
「そうなんですか?」
「そこにロシア語が書いてある」
「あっ……」
電車に乗り込む。
空いている黒い座席の上に、隣り合って座った。
電車はやや乱暴にドアが閉まるタイプで、挟まれたらケガしそうだ。
乗客は人間よりも魔族が多く、ユタ達は魔族の乗客からの視線を浴びていた。
駅の外は治安が悪かったが、駅や電車内で襲われることは無いのは、保安員の巡回や警乗があるからだろう。
マリアは緑のブレザーを着ていたが、胸ポケットのワッペンの所に特徴的な模様が描かれていた。
口では説明しにくいデザインだが……。
「魔法使いだ」
「魔法使いか……」
魔族の乗客達がヒソヒソと噂していることから、分かる者には分かるのだろう。
それとマリアは、魔法使いの杖も持っているので。
頭の部分に特徴的なデザインがあしらわれていて、それを緑のスカートの上に置いていた(足に挟んでいた)。
恐らく何かあった時、すぐ使えるようにする為だろう。
威吹やキノも椅子に座る時、刀を外してそれを足に挟んでいた。
「マリアさん、僕達はどこまで乗って行くんですか?」
「終点だ。2号線の終点は地上に出るから、それで分かる」
「そうですか」
[同日12:00.魔界高速電鉄2号線電車内 ユタ&マリア]
電車が進む度に乗客は減り、ついに終点の1つ手前の駅で、少なくともユタ達が乗っている先頭の車両においては誰もいなくなった。
乗降ドアが乱暴に閉まるように見えるのは、日本の電車のそれが閉まる直前に止まるか減速するのに対し、この旧ソ連製と思われるものはそのままのスピードで閉まるからである。
これは俗に『ギロチンドア』と呼ばれている。
実は旧・営団地下鉄の車両でも、似たような閉まり方をする電車があった。
今でも営団時代からの車両は運転されているが、だいぶ改良されたらしく、随分とおとなしい閉まり方をする。
「……何か新木場駅の手前みたい」
ユタがそう思ったのは地上に出る直前、サイレンみたいなのが聞こえたからである。
しかしここは新木場駅と違い、倉庫街ではない。
「何か、のどかな所に出ましたねぇ……」
因みに魔界高速電鉄地下鉄線では車内放送は無いので、車内の路線図や停車駅の看板を見て、今どこを走っているかを自分で確認しなくてはならない。
だからなのか、地下鉄線の電車は基本的に各駅停車のみの運転である。
キキィ………キキィ………。
プシュー、ガラガラ……。
「ここですか」
「ここだね」
アルカディアシティは“霧の都”であり、1年中霧に包まれている町である。
郊外まで来てもそれは例外ではないようだが、ユタは霧というより雲の中にいるような感覚を覚えた。
地下深くから一気に地上に出て来たせいだろうか。
「ここからどうやって行くんですか?」
1面2線のホームに降り立って、ユタが聞いた。
「タクシーに乗り換える」
「タクシー?でも、魔界には自動車交通は無いんじゃ……?」
ユタが首を傾げる。
駅の外に出ると、何台かの馬車が客待ちをしていた。
ご丁寧にも車の上には『TAXI』の表示がしてある。
「……辻馬車ですか」
「つまり、そういうこと」
マリアは大きく頷いた。
しかし、初乗りいくらの表示が無い。
料金交渉制か。
しかし、相場が分からない。
マリアは慣れた様子で、御者と何やら話を始める。
英語でも日本語でもなかったので、ユタには何を喋っているのか分からなかった。
「10でOKだって」
マリアが振り向いて右手の人差し指を1本立てた。
「それは円?……なワケないか。ドル?ユーロ?ペソ?バーツ?ルーブル?元?ウォン?」
「ゴッズ」
「……魔界オリジナルの通貨ですか」
「スラム街の愚連隊からせしめてきたカネがある」
「魔法使いは強いなぁ……ある意味」
「いいから、早く行こう」
ユタ達は馬車に乗り込んだ。
常春の国アルカディア。
その首都アルカディアシティのとある郊外。
ここでユタ達を待ち受けているものとは何なのだろうか。
(10ゴッズって高いんだろうか?安いんだろうか?)
(10でも高いな。師匠の名前出して、8くらいに値引いても良かったな……)
……少なくともこの時点で、見習魔道師達に緊迫感は無い。
イリーナが送ってきた鍵は、魔界におけるイリーナの拠点の物だった。
ユタとマリアは準備を整えた後、屋敷の地下にある魔界の入口から魔界へ向かった。
「恐怖の17番街駅は復旧してるんでしょうかね?」
「17番街に行くとは限らないわ」
「えっ?」
「この魔界の穴は不安定なものだから、どこに出るかは運次第よ」
「ええっ!マジっすか!?」
因みに今は真っ暗な中を歩いている。
「魔王城に出ちゃって、いきなり侵入者扱いされたりして?」
「私達はルーシー女王や安倍首相と面識があるんだから大丈夫だろう」
「それもそうですね」
しばらく歩くと、トンネルの出口のように明るくなってきた。
「さあ、どこへ出るかな?」
ユタ達は光の中に入って行った。
その先には鉄製のドアがあり、ぐっと重い内開きのドアを開けると、そこは薄暗かった。
「? トンネルか?」
「トンネル?」
所々に明かりはあるが、まるでそこは地下鉄のトンネルのような……地下鉄?
すると、向かって左側から明かりが迫ってきた。
プァーン!(電車の警笛の音)
「わあっ!?」
轟音を立てて、黄色一色の電車がユタ達の真横を通過して行った。
「魔界高速電鉄だ!」
「ち、地下鉄のトンネルに出口ができるなんて……危険過ぎますよ!」
日本の地下鉄なら線路内人立ち入りで緊急停車でもするところだろうが、警笛は鳴らすが減速もしないで通過していく所が外国の地下鉄っぽい。
電車は大昔の地下鉄銀座線のようであるが。
[同日11:30.アルカディアシティ13番街駅 ユタ&マリア]
「13番街ってのは、治安の悪い街だったんですね」
「そのようだ」
薄暗いホームで電車を待つ。
ユタがボヤくように言ったのは、あの後2人は作業員用通路を通って地上に出たのだが、そこがスラム街で、いきなり魔族の愚連隊とエンカウントしてしまったことだ。
マリアの魔法と人形の使役により、蹴散らすことに成功したが。
その後、駅に着くまでにも何回かエンカウントした。
「RPGらしく、奴らから金品は頂いた」
しれっと言うマリア。
「いいんですかね?てか、この小説RPGモノではなかった思いますが……」
「エレーナよりはマシだよ。あいつ、現金どころか、本当に身ぐるみ剥ぐから。で、挙句の果てには、『シケた野郎だ。これっぽっちしか持ってやがらねぇ』なんて言う始末だから」
「さすがは、強欲の悪魔を憑依させることが内定しているだけあります」
(ユウタは……色欲の悪魔か。この草食系に色欲の悪魔が取り憑いたら、面白ろ……怖いことになりそうだ)
マリアはそう思った。
駅によって接近放送が鳴ったり鳴らなかったりするらしい。
13番街駅では何の接近放送も無く、電車が入線してきた。
しかしこの魔界高速電鉄、高架線もそうだが、地下線も運行車両は節操無い。
さっきは昔の地下鉄銀座線みたいなものが通過していったが、今度は……どこかの国の古い電車がやってきた。
「旧ソ連系のヤツだと思う」
ユタがしげしげと電車を見ていたので、マリアはそう言った。
「そうなんですか?」
「そこにロシア語が書いてある」
「あっ……」
電車に乗り込む。
空いている黒い座席の上に、隣り合って座った。
電車はやや乱暴にドアが閉まるタイプで、挟まれたらケガしそうだ。
乗客は人間よりも魔族が多く、ユタ達は魔族の乗客からの視線を浴びていた。
駅の外は治安が悪かったが、駅や電車内で襲われることは無いのは、保安員の巡回や警乗があるからだろう。
マリアは緑のブレザーを着ていたが、胸ポケットのワッペンの所に特徴的な模様が描かれていた。
口では説明しにくいデザインだが……。
「魔法使いだ」
「魔法使いか……」
魔族の乗客達がヒソヒソと噂していることから、分かる者には分かるのだろう。
それとマリアは、魔法使いの杖も持っているので。
頭の部分に特徴的なデザインがあしらわれていて、それを緑のスカートの上に置いていた(足に挟んでいた)。
恐らく何かあった時、すぐ使えるようにする為だろう。
威吹やキノも椅子に座る時、刀を外してそれを足に挟んでいた。
「マリアさん、僕達はどこまで乗って行くんですか?」
「終点だ。2号線の終点は地上に出るから、それで分かる」
「そうですか」
[同日12:00.魔界高速電鉄2号線電車内 ユタ&マリア]
電車が進む度に乗客は減り、ついに終点の1つ手前の駅で、少なくともユタ達が乗っている先頭の車両においては誰もいなくなった。
乗降ドアが乱暴に閉まるように見えるのは、日本の電車のそれが閉まる直前に止まるか減速するのに対し、この旧ソ連製と思われるものはそのままのスピードで閉まるからである。
これは俗に『ギロチンドア』と呼ばれている。
実は旧・営団地下鉄の車両でも、似たような閉まり方をする電車があった。
今でも営団時代からの車両は運転されているが、だいぶ改良されたらしく、随分とおとなしい閉まり方をする。
「……何か新木場駅の手前みたい」
ユタがそう思ったのは地上に出る直前、サイレンみたいなのが聞こえたからである。
しかしここは新木場駅と違い、倉庫街ではない。
「何か、のどかな所に出ましたねぇ……」
因みに魔界高速電鉄地下鉄線では車内放送は無いので、車内の路線図や停車駅の看板を見て、今どこを走っているかを自分で確認しなくてはならない。
だからなのか、地下鉄線の電車は基本的に各駅停車のみの運転である。
キキィ………キキィ………。
プシュー、ガラガラ……。
「ここですか」
「ここだね」
アルカディアシティは“霧の都”であり、1年中霧に包まれている町である。
郊外まで来てもそれは例外ではないようだが、ユタは霧というより雲の中にいるような感覚を覚えた。
地下深くから一気に地上に出て来たせいだろうか。
「ここからどうやって行くんですか?」
1面2線のホームに降り立って、ユタが聞いた。
「タクシーに乗り換える」
「タクシー?でも、魔界には自動車交通は無いんじゃ……?」
ユタが首を傾げる。
駅の外に出ると、何台かの馬車が客待ちをしていた。
ご丁寧にも車の上には『TAXI』の表示がしてある。
「……辻馬車ですか」
「つまり、そういうこと」
マリアは大きく頷いた。
しかし、初乗りいくらの表示が無い。
料金交渉制か。
しかし、相場が分からない。
マリアは慣れた様子で、御者と何やら話を始める。
英語でも日本語でもなかったので、ユタには何を喋っているのか分からなかった。
「10でOKだって」
マリアが振り向いて右手の人差し指を1本立てた。
「それは円?……なワケないか。ドル?ユーロ?ペソ?バーツ?ルーブル?元?ウォン?」
「ゴッズ」
「……魔界オリジナルの通貨ですか」
「スラム街の愚連隊からせしめてきたカネがある」
「魔法使いは強いなぁ……ある意味」
「いいから、早く行こう」
ユタ達は馬車に乗り込んだ。
常春の国アルカディア。
その首都アルカディアシティのとある郊外。
ここでユタ達を待ち受けているものとは何なのだろうか。
(10ゴッズって高いんだろうか?安いんだろうか?)
(10でも高いな。師匠の名前出して、8くらいに値引いても良かったな……)
……少なくともこの時点で、見習魔道師達に緊迫感は無い。