報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「カウントダウン」

2015-04-24 19:35:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月20日01:00.ヤノフ城・地下 藤谷春人&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「うう……すまないねぇ。いつもなら、こんな足手まといじゃないのにねぇ……」
 イリーナは藤谷に肩を貸してもらいながら言った。
「いいですよ。ここで先生を救出できなかったら、稲生君達の苦労が水の泡だ」
「水の泡ねぇ……」

 ザバザバザバザバ……

「ねえ?何か聞こえない?」
「え?ええ……そうっスね。何だろう……?」
「水の音?」
「水?」
 藤谷は階段室のドアを開けた。
「わっ!」
 開けると、中から水がザバーッと出て来た。
「な、何だ!?水が……!」
 階段の上から滝のように水が流れてきている。
 既に、地下牢の更に下にあるボイラー室などの類は水没してしまっているようだ。
「漏水でもしたのか!?」
「……このままだとマズいよ」
「ええ。せめて何とか地上まで上がりましょう。幸いここにはマネキンはいないみたいだ。一気に登るんで、おぶさってください!」
「ありがたいねー」
 その時だった。
 藤谷のケータイに着信があった。
「何だ?」
 電話に出ると、
{「私だ!」}
「親父!」
{「ヘリで迎えに来たぜ!何だか城が大変なことになってるみたいだぞ!」}
「ヘリで来たの!?……で、大変って、何だ?上空から何が見える?」
{「大時計が傾いて今にも倒れそうだ。しかも、現在進行形で城の壁やら塔やらが崩れてる!どうやら夜半前までの集中豪雨と、さっきの大地震のせいらしい!時間的猶予は無さそうだ。合流ポイントは城の東館屋上に設定する。急いでくれ!」}
「マジかよ!?屋上って……!俺達が1番遠いじゃねーかよ!」
 秋彦の電話を合図にするかのように壁にヒビが入り、そこから水が噴き出してきた。
「うう……すまないねぇ……。私のせいで、こんな貧乏くじ……」
「えーい!こうなったら、乗り掛かったバスだ!やるっきゃねぇ!」
「……乗り掛かった船でしょお……」

[同日同時刻 ヤノフ城・西館屋上 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「あっ、ヘリだ!あれがさっき電話で言ってた、藤谷地区長のヘリだな!よーし!」
 ユタは既に意識の無いマリアを背負い、東西間を繋ぐ渡り廊下を走った。
 だが、前方からマネキンの大群が現れる。
「くそっ!」
 ユタはマリアを下ろし、ハンドガンを出した。
「これでできるか……いや!やらないと!」
 ユタはハンドガンに弾を込めて、マネキン達に向けた。
 あいにくと攻撃オブジェクトとなる寸胴型がいない。
 いるのは人型と蟹人型(あの両手がでっかい蟹の鋏みたいになっているヤツ)だ。
「ふはははは!よくもナメくさったマネをしてくれたな!これで殺してやる!」
 マネキン達の後ろにはバーズの姿があった。
「ああっ!生きてたのか!」
「行けっ!行けっ!」
 マネキン達をけしかけるバーズ。
 ハンドガンで応戦するユタ。
 だが多勢に無勢な上、
「うわっ!弾が切れた!」
「これで終わりだな!この出来損ない者共は動きが遅いが、しかし確実に獲物を追い詰めて殺す!」
 ユタはマリアを担いで、後退した。
「あれ!?」
 しかし、先ほどの西館に出るドアが開かなくなってしまった。
 あちこち崩壊が始まっている城。
 衝撃でドアが歪んでしまったようだ。
「く、くそっ!こんな所で……」
「うう……!」
「マリアさん!?」
「ユ……ユ……タ……。この杖……」
「えっ?」
「この杖……で……。銃を……強く……」
「どうやってですか?」
「これを……向けて……『ヴァ・イ・キル・ト』と……」
「バイキルト!あの、攻撃力を高める呪文の!」
 ユタはマリアから杖を借りて、手持ちのハンドガンに向けた。
「え……?でも、詠唱する呪文って何でしたっけ?」
「…………」
 しかし、またマリアは意識を無くしたようだ。
「アー……!」
「ウー……!」
 マネキン達はすぐそこまで迫っている。
 時間が無い!
「しょうがない!この銃、強くなれ!『ヴァ・イ・キル・ト』!……南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 すると杖の先から光が現れ、それが銃に移った。
 ハンドガンは光に包まれ、それが消えた時、グレネードランチャーと化していた。
「いいっ!?本当にできたーっ!」
 ユタは飛び上がって驚いた。
 しかも、ちゃんと弾も込められている。
「アー!」
「ウーッ!」
「くっ……食らえーっ!!」
 ユタはグレネードランチャーを構えると、それで至近距離にいた2体を撃った。
 2体は手榴弾の直撃を食らって、完全に原型を失った。
 更に、遠くにいる何体もの個体に向かって撃つ。
「ちょw……んなバカな!ま、待て!お、俺は……!『同心の徒を謗るは重罪』を知らんのか!?」
 ユタ、夢中で聞いていない。
 しかも、退転者なので関係無い。
 てか、多重ハンネ使用の謗法関係成り済ましが言っていい言葉ではない。
「うぎゃあああああああっ!!」
 ユタから発せられたグレネードランチャーの攻撃を受け、バーズもまた今生から消えることとなった。
「……やっぱり!マネキン達は体が残っているのに(バラバラだけど)、バーズだけ跡形も無い!やっぱり、怨霊だったんだ!」
 と!渡り廊下の天井が崩れて来る。
「こんなことしてる場合じゃない!早く東館に逃げないと!」

[同日01:15.ヤノフ城・東館屋上→ヤノフ城上空 ユタ、マリア、イリーナ、藤谷親子]

 渡り廊下から東館屋上に出たユタとマリア。
 階段をひたすら駆け上がってきた藤谷は、イリーナを背負っていた。
「班長!無事でしたか!」
「おう!イリーナ先生も無事だ!そっちはどうだ!?」
「はい!僕達も無事です!」
「みんな、早くヘリに乗れ!城が崩壊する!すぐに離陸するぞ!」
「よっしゃ!」
 4人はヘリに乗り込んだ。
 藤谷秋彦はすぐにヘリを離陸させる。
 離陸させてヤノフ城の上空まで来ると、城はそこでも聞こえるくらい大きな音を立てて崩壊していった。
「お、親父!地震って、そんなにデカかったのか!?」
「確かに震源地は旭川市内だが、それでも震度5強だぞ?」
「んなバカな!震度7の地震が2〜3回来ても大丈夫なはずだぞ!?」
「或いは、その前の集中豪雨のせいで地盤が緩んだせいなのか……。だから、あんな所に城を建てるのは反対だったんだ!」
「責任は誰が取るんだ?」
「…………」
「『障魔達のしわざです』なんて、誰も信用しねーぜ?」
「んなこと分かってる!」
「……っと!それより、稲生君達だ。親父、早いとこ病院に……!」
「おおっと!そうだったな」
「あのー……」
 そこへイリーナが声を掛けた。
「心配しなくていいですよ」
「何が?」
「聖水が入ってました」
 イリーナはローブの中から聖水の入った瓶を出した。
「これで体力と傷が一時的に回復するんです。4人で分ければ、何とかなるかと……」
「しかし……」
「まあ、センセがそう言うなら……って、俺も飲むんスか?」
「地下深い所から、城の屋上まで私を担いでくれたんだから、相当体にムリが掛かったはずよ。いくら柔道黒帯の体力自慢といってもね」
 イリーナはニヤッと笑った。
「……センセの言う通りにした方が良さそうだな」
「まあいい。取りあえず、旭川に向かう。うちの出張所の裏手の空地に着陸しよう。あそこ、ヘリポートも兼ねてるしな」
 秋彦は無線を取って連絡した。
「僕達……勝ったんだ……」
「ああ、そうだな。よく頑張った」
 春人はホッとするユタの肩を叩いた。

 ヘリは夜半前の雷雨が去った後の雲間から、時折現れる月の下を飛んで行った。
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“大魔道師の弟子” 「A great victory,a great collapse.」

2015-04-24 15:04:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月20日00:30.ヤノフ城・大時計前 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、グルジ・ヤノフ]

「でやあーっ!」
「うっ!……くそっ、近づけない!」
 ユタには何か作戦があるようだが、ヤノフの攻撃に隙が無く、なかなか接近できないでいた。
 そしてマリアもまたユタに援護できないでいた。
 魔力が残り少ないのもあるが、肌蹴させられた胸を隠す為に片手が塞がっているからである。
「困ってるみたいだな。ヒマだから、ちょっくら援護させてもらうぜい」
 マリアの頭の中に、怠惰の悪魔エルフェゴールが話し掛けてきた。
「お前1人に何ができる?」
「オレだけじゃなく、他にも来てるぜ」
「は?」
「特に、新しい契約先がピンチだってんで、“色欲”のヤツも一緒だ」
「チョリーッス!」
 黒ギャルみたいな風体している。
「よーし。それじゃ、憤怒のサタンも控えているし、この城揺り動かしてみるか」
「エルフェ、珍しくやる気出てんじゃん」
「“不労所得”の為の地ならしだよ」
「一体、何をする気だ?」
 マリアは恐ろしく嫌な予感がした。

 ビュッ♪ビュッ♪ビュッ♪
〔地震が来ます。ご注意ください。地震が来ます。ご注意ください〕

「ええっ!?」
 ユタのスマホに内臓されている緊急地震速報が鳴り出した。

 ビュッ♪ビュッ♪ビュッ♪
〔地震が来ます。10秒前〕

「バカめが!どこを見ている!」
 緊急地震速報が鳴っていても、ヤノフはお構いなしに攻撃してくる。

 ズシン!という縦揺れが城を襲った。
 そして、ゴゴゴゴという地鳴りと共に大きな揺れがやってくる。
「むお!?この揺れは……!」
 地震に不慣れなせいか、動揺するヨーロッパ人達。
 それに対し、地震国たる日本で生まれ育ったユタは比較的落ち着いて、動きの止まったヤノフに接近した。
「えいっ!」
 ユタは隠し持っていた聖水の瓶をヤノフに投げつける。
 瓶は1つだけではなかったのだ。
「マリアさん、最後の1回!」
「!!!」
 マリアは薄れ行く意識を何とか繋ぎ止めると、もう1度杖から衝撃を発した。

 瓶が割れて、中身が再びヤノフに振り掛かる。
「うぉぉっ!目が……目がぁぁぁッ!見えん!何も見えん!!」
 どうやら聖水が目に入ったらしく、失明したらしい。
 闇雲に剣を振るうヤノフだが、突然崩れ出した床に足を取られ、バランスを崩した。
「でぇーい!!」
 ユタはそのヤノフに体当たり!
 ヤノフは城壁から下に転落した。
 崖っぷちに建つ城。
 そこから足を踏み外したヤノフは、真っ逆さまに100メートルはあろうかという崖下に落ちて行った。

[同日同時刻 ヤノフ城・地下 藤谷春人]

 再びヘッドランプを点けて、真っ暗な地下道を進む藤谷。
 途中で緊急地震速報が鳴ったが、地下にいたせいか、屋上のユタ達ほど強い揺れは感じなかったようである。
「震度5強だぁ?脅かしやがって……。こちとら、東日本大震災を経験しとるんじゃい!」
 地下にもマネキンが配置されていたが、こちらはまた違うタイプだった。
 人型がもう一回り大きくなり、右手だけでなく左手も変化したようなタイプ。
 鉄球を平べったくしたようなものではなく、蟹の鋏を大きくしたようなタイプだ。
 それまでの人型より足が長いせいか、その分、若干足が速いように見える。
 しかし手が不自然に長くて大きく、その分重いせいか、結局そんなに速く移動できないようである。
 もう1つは、右手がボウガンみたいに変化したタイプ。
 身長はそんなに高くないが、本当にボウガンみたいになっているらしく、何を飛ばしてくるのか分からないが、とにかく固い物を飛ばして攻撃してきた。
 で、近づくとそのボウガンみたいな手で殴り付けてこようとする。
 身長が低い割に大股で移動するせいか、こいつもまた最初の人型より若干移動速度が速いように見えた。
 しかし、ショットガンとライフルを装備し、元々が戦闘力もある藤谷には敵ではないようで、ボウガン型が殴り付けてくるのをしっかり回避し、掴んで投げ飛ばした。
「悪いな。柔道黒帯なんだ」
 ボウガン型は床に叩き付けられ、昏倒した。

 そして、何とか鉄格子の並ぶ一角に辿り着く。
「イリーナ先生!救助隊の者でやんす!いたら返事してくだせぇ!」
「……あいよ。アタシゃ生きてるよー」
「おおっ!?都合良く1番最初の牢屋で!……石化していたと聞いてましたが?」
「うーん……。どうやら誰かがラスボスを退治してくれたみたいだねぇ……。まあ、誰だかは想像つくけど……」
「さすがは稲生君!やってくれたか!あとはセンセを救出するだけだ!」
「この牢屋、鍵掛かってるよ」
「心配無いっス!ちょっと離れててくだせぇ!」
 藤谷は途中で拾って来た油圧カッターで、牢屋の鉄格子を切り落とした。
「さっ、センセ!今のうちに!」
「うーん……」
 ズルズルと這い出るイリーナ。
「センセ?どうしました?」
「ゴメン……。魔力を吸い取られたか何かして、動けなひ……。立てない……」
「マジっすか!?」
 藤谷はイリーナの前にしゃがんだ。
「背負って行くっス!」
「……持つべき者は仲間だねぃ……」
 藤谷はイリーナを背負って、地下牢を脱出した。
 しかし、
「アー……!」
「ウウ……!」
 倒し切れていなかったり、新たにやってきたマネキン達が立ち塞がる。
「ちょっと、センセ!すいません!」
 その度に藤谷はイリーナを下ろして、応戦しなければならなかった。
「えーと……藤谷さんだっけ?ハンドガンでも戦えるかい?」
「大丈夫っスけど?」
「それなら……。えいっ!」
 イリーナは藤谷のショットガンをハンドガンに変化させた。
「肩貸してくれるなら、アタシはそれでも頑張って歩く。それなら片手が開くから、ハンドガンならそれで撃てるでしょう?」
「た、確かに!」
 藤谷はイリーナに肩を貸すと、それで歩き始めた。
 歩みはゆっくりだが、それでも時折現れるマネキンに対してすぐ応戦できるし、リロードも自動でできるタイプなので、残った右手だけで十分だった。
 だが、猶予ならない事態が城内に残るメンバーを襲う。
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