[5月17日10:00.天候:晴 仙台市宮城野区・夢メッセみやぎ 井辺翔太、結月ゆかり、Lily、未夢]
多くの新技術が取り入れられたロボット博覧会のような会場。
昨日は主に「造形美」がメインのイベントだった為、ゆかり達もその代表たるボーカロイドとしてミニライブを行った。
今日は主に「機能美」がメインのイベント。
だから展示されているロボット達は、いかにもメカっぽいのばかりであったが……。
「ちょっと、プロデューサー!私達、コンパニオンの仕事で来たんだよね!?」
バドガールの衣装を着たLilyが井辺に詰め寄る。
衣装自体は悪くない。
イベントコンパニオンのユニフォームとして、バドスーツはベタなものである。
MEIKOの、普段の赤を基調とした衣装もバドスーツをコンセプトにしたものだ。
Lilyが詰め寄っている理由は、別に衣装が気に入らないからではない。
「Lily、やめよう」
同じ衣装を着た未夢がLilyを制止する。
「会場の隅っこに、『展示』って何なの!?」
「す、すいません。急に、会場の構成が変わってしまいまして……」
「ボーカロイドは展示される為にいるんじゃないの!歌って踊る為に存在してるんだからね!?その仕事を稼ぐ為にグラビアの仕事をしたり、バラエティに出るのはしょうがないよ。だけど、あれはちょっと違うんじゃないの?」
「何も、人形のようにずっと立ったまま喋らずに……というわけではありません。会場の入口で、お客様をご案内する……という意味で、コンパニオンの仕事としては成り立っているかと……」
「……!」
Lilyは『展示品』扱いされるのが気に入らないようだ。
「わ、私はやります。やらせてください」
「私もです」
ゆかりが言うと、未夢も同調した。
「ゆかりはいいよ。アンタはボイスロイドとしての用途もあるんだから。私はボーカロイドとしての用途しか無いから」
今ではミク達もだいぶ音声ソフトウェアが更新されて、滑らかに喋っているが、製造当初はエミリー以上に『ロボット喋り』であった。
そこでメーカーによっては、普段の語りにおいても力を入れている所がある。
ゆかりの製造に、だいぶ肝を入れた企業もその1つだ。
歌の仕事だけでなく、喋る仕事も入るようにと……。
あいにくと、この会場での放送係の仕事は取れなかったが。
「Lilyさん、お願いします。今度こそは、ちゃんと歌の仕事を取ってきますから」
「……劇場に戻りたい」
Lilyはボソッと呟くと、渋々といった感じで、ゆかりと未夢に挟まれる形で、展示位置に向かっていった。
メカっぽさが目立つロボット達が展示されている中、自分達もその1つとされたことが気に食わない様子だ。
[同日同時刻 仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館 シンディ]
記念館の内外の警戒に当たるシンディ。
記念館に通じる一本道には大学が手配した警備会社の他、
(こんな奴らが役に立つのかしら?)
シンディの周りには、警備ロボットが何機も巡回している。
まだ財団があった頃、その事務所の警備に当たっていた機で、“スターウォーズ”のR2-D2がモデルということもあり、メカっぽさの中にもコミカルな動きが再現されている。
基本的には人間の言葉は喋らず、他の仲間機やシンディとは様々な音程からなる電子音による機械語で会話している。
シンディをロボット警備隊長として認識しており、シンディが近づいてくると、特徴のあるアームで“敬礼”してきた。
で、コミカルな動きをするのは、何もR2-D2だけではない。
C-3POみたいなヤツもいる。
こいつは喋るのだが、
「こらっ!何をサボってるの!!」
シンディの目を盗んで充電していたりしているので注意してやると、
「ピェッ!?さ、サボッてません!ちょっと、トイレ休憩を……!」
「人間か、キサマわ!」
フザけた態度を取ることがあり、シンディが後ろから羽交い絞めにしてチョークスリーパーをかます場面もあった。
「いいねぇ!1枚!」
それを待ち構えている科学雑誌の記者に撮影されたりと……。
「わ、私達じゃなくて、姉さんの特集をしてくださいよ」
シンディは慌てて記者に言った。
恥ずかしそうに、ドンとC-3POを突き飛ばすと、
「……きょ、キョーレツです……」
壁にめり込むC-3PO……のようなもの。
R2-D2のようなものが機械語で律儀に報告してくるので、シンディは、
「あんた達もここにいないで、ロボット・フェスタの方に行けば良かったのにね」
と、苦笑いした。
[同日同場所 記念館地下・研究室 平賀太一以下研究者数名……と、敷島孝夫]
(俺はどうせオマケだよ→↑)
「どうしました、敷島さん?」
「い、いえっ!何でもありません!」
平賀の質問に慌ててカメラを構え直す敷島。
平賀はカメラの方に向かって説明した。
「えー、今現在、エミリーの旧ボディのデータを全て抜き取り、別の媒体に移しております。データ移行が完了次第、新ボディの稼働に入ります。で、旧ボディとの違いは何といっても自重の差ですね。旧ボディより約50キロの軽量化に成功しました」
(それでも自重150か……。歩く人型兵器だな)
と、敷島は思った。
エミリーにはだいぶ助けられたが、上で警備に当たっている妹機にはさんざんっぱら死線を潜り抜けさせられた。
「……この、ウィル・ハマー社が開発した新型燃料電池。従来の物よりも大容量かつ軽量なので、これも軽量化に貢献していますね。実は既に妹機であるシンディに対し、実験的に使用していますが、なかなかの高性能です。ただ、“セクサロイド”モードを使用すると、極端にバッテリーが減る現象が見受けられました。これは欠陥なのか仕様なのか、じっくり見極める必要があります」
「平賀先生、マルチタイプの動力源はバッテリーのみのようですが、ちょっと機動力に不足感が否めません。スマホでも一日稼働するとかなり減ります。この問題は、どうクリアしたのですか?」
「権部先生、実は彼女らの装備に秘密が隠されています。この新型電池は、スマホのものとは若干違います。でも、そこは重要ではないんですね。それまでのリチウム電池よりも、容量が大きくなって軽量化しただけですから。で、彼女達が何故、銃火器が標準装備なのかといいますと、正にそれ自体が……」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「な、何だ!?」
「侵入警報です!敵がやはり来ましたか!」
「だとしたらシンディが応戦してるはずですが!」
敷島は急いで地上に向かおうとした。
「敷島さん!逆に危険です!ここにいた方がいい!」
平賀が叫ぶ。
「しかし!状況を把握しませんと!」
奈津子が通信機を手にする。
「シンディ!シンディ!聞こえる!?応答して……!」
{「ううッ……!くっ……!」}
通信機の向こうから、シンディの呻き声が聞こえてきた。
一体、何があったのか!?
多くの新技術が取り入れられたロボット博覧会のような会場。
昨日は主に「造形美」がメインのイベントだった為、ゆかり達もその代表たるボーカロイドとしてミニライブを行った。
今日は主に「機能美」がメインのイベント。
だから展示されているロボット達は、いかにもメカっぽいのばかりであったが……。
「ちょっと、プロデューサー!私達、コンパニオンの仕事で来たんだよね!?」
バドガールの衣装を着たLilyが井辺に詰め寄る。
衣装自体は悪くない。
イベントコンパニオンのユニフォームとして、バドスーツはベタなものである。
MEIKOの、普段の赤を基調とした衣装もバドスーツをコンセプトにしたものだ。
Lilyが詰め寄っている理由は、別に衣装が気に入らないからではない。
「Lily、やめよう」
同じ衣装を着た未夢がLilyを制止する。
「会場の隅っこに、『展示』って何なの!?」
「す、すいません。急に、会場の構成が変わってしまいまして……」
「ボーカロイドは展示される為にいるんじゃないの!歌って踊る為に存在してるんだからね!?その仕事を稼ぐ為にグラビアの仕事をしたり、バラエティに出るのはしょうがないよ。だけど、あれはちょっと違うんじゃないの?」
「何も、人形のようにずっと立ったまま喋らずに……というわけではありません。会場の入口で、お客様をご案内する……という意味で、コンパニオンの仕事としては成り立っているかと……」
「……!」
Lilyは『展示品』扱いされるのが気に入らないようだ。
「わ、私はやります。やらせてください」
「私もです」
ゆかりが言うと、未夢も同調した。
「ゆかりはいいよ。アンタはボイスロイドとしての用途もあるんだから。私はボーカロイドとしての用途しか無いから」
今ではミク達もだいぶ音声ソフトウェアが更新されて、滑らかに喋っているが、製造当初はエミリー以上に『ロボット喋り』であった。
そこでメーカーによっては、普段の語りにおいても力を入れている所がある。
ゆかりの製造に、だいぶ肝を入れた企業もその1つだ。
歌の仕事だけでなく、喋る仕事も入るようにと……。
あいにくと、この会場での放送係の仕事は取れなかったが。
「Lilyさん、お願いします。今度こそは、ちゃんと歌の仕事を取ってきますから」
「……劇場に戻りたい」
Lilyはボソッと呟くと、渋々といった感じで、ゆかりと未夢に挟まれる形で、展示位置に向かっていった。
メカっぽさが目立つロボット達が展示されている中、自分達もその1つとされたことが気に食わない様子だ。
[同日同時刻 仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館 シンディ]
記念館の内外の警戒に当たるシンディ。
記念館に通じる一本道には大学が手配した警備会社の他、
(こんな奴らが役に立つのかしら?)
シンディの周りには、警備ロボットが何機も巡回している。
まだ財団があった頃、その事務所の警備に当たっていた機で、“スターウォーズ”のR2-D2がモデルということもあり、メカっぽさの中にもコミカルな動きが再現されている。
基本的には人間の言葉は喋らず、他の仲間機やシンディとは様々な音程からなる電子音による機械語で会話している。
シンディをロボット警備隊長として認識しており、シンディが近づいてくると、特徴のあるアームで“敬礼”してきた。
で、コミカルな動きをするのは、何もR2-D2だけではない。
C-3POみたいなヤツもいる。
こいつは喋るのだが、
「こらっ!何をサボってるの!!」
シンディの目を盗んで充電していたりしているので注意してやると、
「ピェッ!?さ、サボッてません!ちょっと、トイレ休憩を……!」
「人間か、キサマわ!」
フザけた態度を取ることがあり、シンディが後ろから羽交い絞めにしてチョークスリーパーをかます場面もあった。
「いいねぇ!1枚!」
それを待ち構えている科学雑誌の記者に撮影されたりと……。
「わ、私達じゃなくて、姉さんの特集をしてくださいよ」
シンディは慌てて記者に言った。
恥ずかしそうに、ドンとC-3POを突き飛ばすと、
「……きょ、キョーレツです……」
壁にめり込むC-3PO……のようなもの。
R2-D2のようなものが機械語で律儀に報告してくるので、シンディは、
「あんた達もここにいないで、ロボット・フェスタの方に行けば良かったのにね」
と、苦笑いした。
[同日同場所 記念館地下・研究室 平賀太一以下研究者数名……と、敷島孝夫]
(俺はどうせオマケだよ→↑)
「どうしました、敷島さん?」
「い、いえっ!何でもありません!」
平賀の質問に慌ててカメラを構え直す敷島。
平賀はカメラの方に向かって説明した。
「えー、今現在、エミリーの旧ボディのデータを全て抜き取り、別の媒体に移しております。データ移行が完了次第、新ボディの稼働に入ります。で、旧ボディとの違いは何といっても自重の差ですね。旧ボディより約50キロの軽量化に成功しました」
(それでも自重150か……。歩く人型兵器だな)
と、敷島は思った。
エミリーにはだいぶ助けられたが、上で警備に当たっている妹機にはさんざんっぱら死線を潜り抜けさせられた。
「……この、ウィル・ハマー社が開発した新型燃料電池。従来の物よりも大容量かつ軽量なので、これも軽量化に貢献していますね。実は既に妹機であるシンディに対し、実験的に使用していますが、なかなかの高性能です。ただ、“セクサロイド”モードを使用すると、極端にバッテリーが減る現象が見受けられました。これは欠陥なのか仕様なのか、じっくり見極める必要があります」
「平賀先生、マルチタイプの動力源はバッテリーのみのようですが、ちょっと機動力に不足感が否めません。スマホでも一日稼働するとかなり減ります。この問題は、どうクリアしたのですか?」
「権部先生、実は彼女らの装備に秘密が隠されています。この新型電池は、スマホのものとは若干違います。でも、そこは重要ではないんですね。それまでのリチウム電池よりも、容量が大きくなって軽量化しただけですから。で、彼女達が何故、銃火器が標準装備なのかといいますと、正にそれ自体が……」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「な、何だ!?」
「侵入警報です!敵がやはり来ましたか!」
「だとしたらシンディが応戦してるはずですが!」
敷島は急いで地上に向かおうとした。
「敷島さん!逆に危険です!ここにいた方がいい!」
平賀が叫ぶ。
「しかし!状況を把握しませんと!」
奈津子が通信機を手にする。
「シンディ!シンディ!聞こえる!?応答して……!」
{「ううッ……!くっ……!」}
通信機の向こうから、シンディの呻き声が聞こえてきた。
一体、何があったのか!?