[5月16日08:35.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線ホーム 井辺翔太、結月ゆかり、Lily、未夢]
〔「お待たせしました。22番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、22番、準備できましたらドア操作願います」〕
ドアが開いて、井辺達は8号車に乗り込んだ。
〔「ご案内致します。この電車は8時40分発、東北新幹線“はやぶさ”7号、新青森行きと秋田新幹線“こまち”7号、秋田行きです。全車両指定席で、自由席はございません。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください」〕
「ここですね」
「プロデューサーはどこに座るの?」
と、Lily。
「すぐ前の席です」
ボーカロイド達が3人席に座り、井辺は同じ3人席のすぐ前に座った。
「窓下に充電コンセントがありますので、使う場合は順番に回してください」
井辺は荷棚に荷物を置いた。
何故か小さいカバンの中から小箱のようなものを出して、それをテーブルの上に置く。
「それは何ですか?」
ゆかりが聞いた。
「皆さんの安全を守る、お守りですよ」
「えっ?」
「申し訳ありませんが、現地に着くまでは社長の指示で詳しいことは話せないのです。ですが、法に触れるものではないというのは断言できますよ」
「ふーん……」
「社長達はもう出発したかしら?」
「意外と出発が遅れてて、未だに新宿だったりしてね」
[同日同時刻 東京都新宿区・明治通り JRバス東北“仙台・新宿”3号車内 敷島孝夫&シンディ]
バスは2〜3分ほど遅れて新宿駅新南口(代々木)を発車した。
狭い構内を出て、やっぱり狭い公道に出て、ようやく明治通りに出た。
〔「皆様、おはようございます。本日もJRバス東北をご利用頂きまして、ありがとうございます。8時30分発、“仙台・新宿”3号、仙台行きです。……」〕
「……東北地方、南東北は雨だね」
シンディが言った。
「東京がこの曇じゃなぁ……。ツイてねぇ……」
「イベントは天候も関係あるからねぇ……」
「分かってるじゃないか」
「まあね。これでも、私も事務所の仲間に入れてもらってるから」
「その割にはPR動画、自分の撮り忘れてたけどな」
「悪かったね」
〔「……途中、羽生パーキングエリア、那須高原サービスエリア、国見サービスエリアでの休憩を予定致しております。仙台市内の停車箇所は、JR長町駅東口14時5分、終点の仙台駅東口には14時20分の到着予定です。……」〕
「未夢達はまだ東京駅だね」
「東北新幹線のダイヤは乱れてないだろ?それなら大丈夫」
「だといいけどね。あのプロデューサーに、アレは渡したの?」
「ああ。アリスの発明品だ。きっと上手く行く」
「ロボット・デコイ(*)を応用するなんてねぇ……」
*特殊信号や光を発して、テロ・ロボットをおびき寄せる兵器。一定時間発しておびき寄せた後、爆発してそれらを破壊する。但し、マルチタイプやボーカロイドなど、高い人工知能を持つロボットには効かない。
「おびき寄せて人工知能を破壊するくらいでいいのに、爆発したんじゃ意味無いような気がするんだが……」
「そこはさすがアリス博士ってとこ?」
「まあな……」
「姉さんのボディ交換の予定は、明日でいいのね?」
「そうだ。だから、再会したら思いっ切り抱き合うといい」
「うん」
[同日09:00.宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・電子工学科研究室 平賀太一]
「ん!?」
平賀は自分の研究室にやって来た時、設置していた警報機が鳴動していたことに気づいた。
急いで端末のキーボードを叩く。
「……キールか!?」
ID照合をしていてそれは未確認ではあったが、一瞬出て来た画像を見て、平賀は息を呑んだ。
警報機が鳴動してからの履歴を確認する。
「東北地方……福島県の方に移動している?……そこで消えたか」
平賀はすぐにこちらに道路と鉄路で向かっている敷島達に警報を送った。
[同日同時刻 同大学・南里志郎記念館 エミリー]
『世界のロボット研究の第一人者たる南里志郎先生の研究の軌跡を顕彰する』
と入口に書かれた建物の中、本来なら中央の円筒のケースの中に入るエミリーだが、今回は奥の展示室にいた。
「キール……」
朴訥な執事ロボットからテロ・ロボットに堕してしまったキールを憂う“メイド長”の姿があった。
[同日09:40.天候:曇 東北自動車道・羽生パーキングエリア 敷島孝夫&シンディ]
「そうだ!多分、キールが動いたということはそっちに行ったと思う。気をつけてくれ!」
最初の休憩箇所、埼玉県の最北端の町で、敷島は部下の井辺に指示を飛ばしていた。
「デコイは稼働しているか?……そうだ。デコイはそのままでいい」
シンディは敷島の近くで、護衛に当たる。
周囲をザッとスキャンした所、週末で賑わうパーキングの利用者達にロボットが紛れ込んでいることはなかった。
しかし、だからといって安心はできない。
人間のテロリストもちゃんと存在するからだ。
敷島が電話を切ってトイレに行き、その後でまたバスに戻った。
ドアの横には手にハンマーを持った運転手がいて、ケータイでどこかとやり取りをしていた。
恐らくタイヤなどを点検している際に、営業所かどこから電話が掛かって来たのだろう。
9時50分にバスは羽生パーキングエリアを発車する。
道路情報では、ちょこちょこ小さな渋滞は発生しているようだが、事故による大渋滞や通行止めは今のところ発生していなかった。
「は?!」
敷島は窓下のコンセントを使ってスマホを充電していたのだが、ふとモニタを見るとメールが着信していた。
〔「お客様にお知らせ致します。先ほど入りました情報によりますと、東北新幹線は郡山駅で発生しました停電の影響により、上下線で運転を見合わせております。他の在来線への影響は、今の所ありません。新しい情報が入りましたら、またお知らせ致します」〕
「……やられたか」
敷島は舌打ちをして頭をかいた。
「……つっても、停電だけで済ませる辺りがタカが知れててかわいいねぇ……。外国だったら、列車ごと吹っ飛ぶよ」
シンディは肩を竦めた。
運転手がやり取りしていたのはこれのことだったか。
バスの運行に影響は出ないだろうに、こんな案内放送をするのは、駅での乗り換え客がいるだろうと想定してのことだろう。
そこはさすがJR繋がりと言える。
「で、どうするの?」
「停電をどのようにやったかだ。恐らくそれがテロによるものなら、すぐに復旧するようなレベルではないだろうけどな」
「すぐに復旧したらテロとは言わない。せいぜい、嫌がらせね」
「シンディ、お前ならどうする?もし前期型のお前だったら?」
「停電なんて中途半端なことしないで、列車ごと吹っ飛ばすって」
「停電させて運行を止めろと命令されたら?」
「うーん……。変電所を襲撃するかな」
「それか!」
「でも、誰がやったのよ?アタシなら変電所を襲撃するけど、皆がそうとは限らないじゃない?」
「エミリーならどうするかな?」
「うーん……姉さんも似たようなことすると思うけどねぇ……」
バスは順調、しかし新幹線は停電で混乱が発生している。
テロリストからの揺さぶりに襲われた井辺達の安否は……取りあえず無事とのこと。
だが、安心してはいられない。
早いとこ復旧して運転再開してもらわなくては、彼女らがイベントに出ることができなくなる。
せっかくの仕事がパーになるのだ。
敷島の次の一手や如何に?
〔「お待たせしました。22番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、22番、準備できましたらドア操作願います」〕
ドアが開いて、井辺達は8号車に乗り込んだ。
〔「ご案内致します。この電車は8時40分発、東北新幹線“はやぶさ”7号、新青森行きと秋田新幹線“こまち”7号、秋田行きです。全車両指定席で、自由席はございません。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください」〕
「ここですね」
「プロデューサーはどこに座るの?」
と、Lily。
「すぐ前の席です」
ボーカロイド達が3人席に座り、井辺は同じ3人席のすぐ前に座った。
「窓下に充電コンセントがありますので、使う場合は順番に回してください」
井辺は荷棚に荷物を置いた。
何故か小さいカバンの中から小箱のようなものを出して、それをテーブルの上に置く。
「それは何ですか?」
ゆかりが聞いた。
「皆さんの安全を守る、お守りですよ」
「えっ?」
「申し訳ありませんが、現地に着くまでは社長の指示で詳しいことは話せないのです。ですが、法に触れるものではないというのは断言できますよ」
「ふーん……」
「社長達はもう出発したかしら?」
「意外と出発が遅れてて、未だに新宿だったりしてね」
[同日同時刻 東京都新宿区・明治通り JRバス東北“仙台・新宿”3号車内 敷島孝夫&シンディ]
バスは2〜3分ほど遅れて新宿駅新南口(代々木)を発車した。
狭い構内を出て、やっぱり狭い公道に出て、ようやく明治通りに出た。
〔「皆様、おはようございます。本日もJRバス東北をご利用頂きまして、ありがとうございます。8時30分発、“仙台・新宿”3号、仙台行きです。……」〕
「……東北地方、南東北は雨だね」
シンディが言った。
「東京がこの曇じゃなぁ……。ツイてねぇ……」
「イベントは天候も関係あるからねぇ……」
「分かってるじゃないか」
「まあね。これでも、私も事務所の仲間に入れてもらってるから」
「その割にはPR動画、自分の撮り忘れてたけどな」
「悪かったね」
〔「……途中、羽生パーキングエリア、那須高原サービスエリア、国見サービスエリアでの休憩を予定致しております。仙台市内の停車箇所は、JR長町駅東口14時5分、終点の仙台駅東口には14時20分の到着予定です。……」〕
「未夢達はまだ東京駅だね」
「東北新幹線のダイヤは乱れてないだろ?それなら大丈夫」
「だといいけどね。あのプロデューサーに、アレは渡したの?」
「ああ。アリスの発明品だ。きっと上手く行く」
「ロボット・デコイ(*)を応用するなんてねぇ……」
*特殊信号や光を発して、テロ・ロボットをおびき寄せる兵器。一定時間発しておびき寄せた後、爆発してそれらを破壊する。但し、マルチタイプやボーカロイドなど、高い人工知能を持つロボットには効かない。
「おびき寄せて人工知能を破壊するくらいでいいのに、爆発したんじゃ意味無いような気がするんだが……」
「そこはさすがアリス博士ってとこ?」
「まあな……」
「姉さんのボディ交換の予定は、明日でいいのね?」
「そうだ。だから、再会したら思いっ切り抱き合うといい」
「うん」
[同日09:00.宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・電子工学科研究室 平賀太一]
「ん!?」
平賀は自分の研究室にやって来た時、設置していた警報機が鳴動していたことに気づいた。
急いで端末のキーボードを叩く。
「……キールか!?」
ID照合をしていてそれは未確認ではあったが、一瞬出て来た画像を見て、平賀は息を呑んだ。
警報機が鳴動してからの履歴を確認する。
「東北地方……福島県の方に移動している?……そこで消えたか」
平賀はすぐにこちらに道路と鉄路で向かっている敷島達に警報を送った。
[同日同時刻 同大学・南里志郎記念館 エミリー]
『世界のロボット研究の第一人者たる南里志郎先生の研究の軌跡を顕彰する』
と入口に書かれた建物の中、本来なら中央の円筒のケースの中に入るエミリーだが、今回は奥の展示室にいた。
「キール……」
朴訥な執事ロボットからテロ・ロボットに堕してしまったキールを憂う“メイド長”の姿があった。
[同日09:40.天候:曇 東北自動車道・羽生パーキングエリア 敷島孝夫&シンディ]
「そうだ!多分、キールが動いたということはそっちに行ったと思う。気をつけてくれ!」
最初の休憩箇所、埼玉県の最北端の町で、敷島は部下の井辺に指示を飛ばしていた。
「デコイは稼働しているか?……そうだ。デコイはそのままでいい」
シンディは敷島の近くで、護衛に当たる。
周囲をザッとスキャンした所、週末で賑わうパーキングの利用者達にロボットが紛れ込んでいることはなかった。
しかし、だからといって安心はできない。
人間のテロリストもちゃんと存在するからだ。
敷島が電話を切ってトイレに行き、その後でまたバスに戻った。
ドアの横には手にハンマーを持った運転手がいて、ケータイでどこかとやり取りをしていた。
恐らくタイヤなどを点検している際に、営業所かどこから電話が掛かって来たのだろう。
9時50分にバスは羽生パーキングエリアを発車する。
道路情報では、ちょこちょこ小さな渋滞は発生しているようだが、事故による大渋滞や通行止めは今のところ発生していなかった。
「は?!」
敷島は窓下のコンセントを使ってスマホを充電していたのだが、ふとモニタを見るとメールが着信していた。
〔「お客様にお知らせ致します。先ほど入りました情報によりますと、東北新幹線は郡山駅で発生しました停電の影響により、上下線で運転を見合わせております。他の在来線への影響は、今の所ありません。新しい情報が入りましたら、またお知らせ致します」〕
「……やられたか」
敷島は舌打ちをして頭をかいた。
「……つっても、停電だけで済ませる辺りがタカが知れててかわいいねぇ……。外国だったら、列車ごと吹っ飛ぶよ」
シンディは肩を竦めた。
運転手がやり取りしていたのはこれのことだったか。
バスの運行に影響は出ないだろうに、こんな案内放送をするのは、駅での乗り換え客がいるだろうと想定してのことだろう。
そこはさすがJR繋がりと言える。
「で、どうするの?」
「停電をどのようにやったかだ。恐らくそれがテロによるものなら、すぐに復旧するようなレベルではないだろうけどな」
「すぐに復旧したらテロとは言わない。せいぜい、嫌がらせね」
「シンディ、お前ならどうする?もし前期型のお前だったら?」
「停電なんて中途半端なことしないで、列車ごと吹っ飛ばすって」
「停電させて運行を止めろと命令されたら?」
「うーん……。変電所を襲撃するかな」
「それか!」
「でも、誰がやったのよ?アタシなら変電所を襲撃するけど、皆がそうとは限らないじゃない?」
「エミリーならどうするかな?」
「うーん……姉さんも似たようなことすると思うけどねぇ……」
バスは順調、しかし新幹線は停電で混乱が発生している。
テロリストからの揺さぶりに襲われた井辺達の安否は……取りあえず無事とのこと。
だが、安心してはいられない。
早いとこ復旧して運転再開してもらわなくては、彼女らがイベントに出ることができなくなる。
せっかくの仕事がパーになるのだ。
敷島の次の一手や如何に?